【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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4話

 

 

 

 

 

あの趙雲との私闘の後、追ってくる兵士を振り切って堂々と宿に入る徐晃。

 

「あ、おかえりなさい。ご無事そうで何より」

 

まだ寝る時間ではないのか、宿の主が帰って来た徐晃に対してほっとしたような顔でそう投げかけた

 

「何かあったのですか?」

「ええ、何でも人を斬ったという人間がこの辺りで出没して今大変な騒ぎになっておりますよ」

「何と…物騒な世の中ですね」

 

全くです。と店主が思案顔で徐晃の言葉に相槌を打つ。

そうして徐晃は今日借りた部屋へと移動して扉を開け、布団に身を預けた。

 

「あー…趙子龍かぁ……また会えるかな」

 

天井を見つめながら、まるで恋する乙女のようにそう呟く。

今まで会った人間の中で最も強い美女。槍使いで戦闘の熟練も力も速さも全て徐晃が満足するに足りる実力であった。

世にまだこれほどの人間が存在するとはと、徐晃はもっとくまなくこの国内を旅してそういった手合いと戦いたいと思った。

 

「あの感じだと、後ちょっとで、もっと強くなりそうだし…ふふ、面白くなってきた」

 

そうして瞳を閉じて、外の喧騒を子守唄にしながら浅い眠りについてくのであった。

 

 

 

朝になり、朝ごはんを外で軽く食べに行った。

先日の夜みたいに兵士はうようよと巡回していなかったが、それでも昨日よりは目に付く。

それでも徐晃は見つからない、何故なら…現在徐晃は変装をしているからだ。

 

と言っても、あの夜の中で顔なんてみえることは殆ど無理なはず、よって髪型さへ変えれば大丈夫だろうと判断した。

第一、人を殺していないのだからそこまで問題視するなんてことはないとたかを括っていたからだが。

因みに白いリボンでツインテールに仕上げてある。

 

食堂を見つけて、店内に入る。昨日の酒場みたいにいらっしゃいませという出迎えは残念ながら無かった。

店内は結構すいており、客も疎らだ。テーブル席に座り

 

「目玉焼きとご飯と汁をお願いします」

「はーい」

 

客が食べ終わった食器を提げている女性に注文した。かなりフランクに返されたが、徐晃は全く気にしない。

そうして幾許か時が過ぎ

 

「お待たせー」

 

お盆の上にご飯と目玉焼き、肉汁が出てきた。ボリュームは朝には丁度いいくらいだ。

テーブルにそれらを並べられて、早速食べ始める。

行儀良く、されど早く食事が進み、ほんの少しの時間で全て食べきる。

 

最後に水を飲んで、料金をテーブルの上に置き席を立った。

 

徐晃の朝ごはんを食べる速度は速い。この三品であれば現代風に言うと10分以内に全て食す。

別段急いでいるというわけではないが、何故か速く食べて朝の時間をゆっくり過ごしたいと思ってしまうからだ。

ただ、ゆっくりするといっても賊を討伐する以外は殆どあてがない。よって朝ごはんこそゆっくり食べるべきだが…何故か速いのだ。

 

「…予定の時間まで2刻以上あるなぁ」

 

外へ出て、そうぼやっと愚痴る。しかしこういった生活習慣が身にしみているので中々治す事も出来ないし、傍から見るとかなり規則正しい生活だ。

 

(河へ行こう)

 

昨日の騒動で体を拭いていないことに、今になって思い出し、布を雑貨店にて買い、外れの森の中にある川で身を清めようと歩を進めた。

 

「はぁー…気持ちいい」

 

着衣を全て脱ぎ、一応木々で死角になっているであろう川の流れが緩やかな所で徐晃は濡れた布で体を拭いていく。

宿にお風呂はついていない。この時代、風呂はかなり贅沢な代物なのだ。上質な宿や、それなりの民家なら普通に設置されているが…それでも毎日は入れない。

だからこうやって濡れた布で体を拭くのは当然の嗜みである。それも毎日。そこの感覚は女性と全く変わらない。

 

ただ

 

「おい!居たぞ!」

「へへ…良い体だ、はやくやっちまおうぜ」

 

川の真ん中で体を清めている途中、後ろからがさがさっと草木を掻き分ける音が複数なる。

 

「くく、昨日の借りを返しに来たぜぇ」

 

徐晃が半目で後ろを振り返ると、見覚えがある顔。そう、昨日腕を切り飛ばし殺しそこなった大男である。

 

「…何の用?忙しいんだけど」

 

心底面倒くさそうに問いかける。すでに布は股間のほうに巻きつけてあるが、うっすらと隠してある部分が透けていて逆にけしからん状況になっている。

 

「は!…やっぱいいなぁおい。昨日は俺一人だったが、今日は…15人ほど連れてきたぜ」

 

下卑た笑みを裸体を惜しげもなく晒している徐晃へ向ける。既に他の人間が徐晃の武器と、衣服を男達の後ろへと放り投げている。

全員剣を装備して嘲笑っている

 

「てめぇは武器が無い。そして多勢に無勢だ。昨日の借りはてめぇを回しまくってかえさせてもらうぜ」

「おい、早くしろよ!早くぶちこみてぇぜ!」

 

と、下世話な会話をしている。

 

既に徐晃の中のスイッチは切り替わっていた。

 

「…ふふ、いいよ。全員相手になってあげる」

 

そうして徐晃は裸体のまま男達の方へと歩を進める。

 

「へ、流石にこの状況では従うほか無い」

 

その言葉のなかで徐晃は片腕が無い男の手前まで来て、頭部を掴む

 

「へ?」

 

そして万力の力で片腕だけで大男の顔面を地面に叩きつけた。

 

「ぎゃあ!」

 

その言葉とほぼ同時に徐晃の右足が大男の顔を……叩き潰した。

 

肉と骨がひしゃげる音と何かが一気に破裂する音が森を木霊した。

断末魔は無い。大男の体が数回激しく痙攣して…動かなくなった。

 

ここまでほんの数秒足らず。

 

漸く状況を把握した男達は

 

「てめぇ!殺すぞ!」

「いや、手足切り取って犯し殺してやろうぜ!」

 

血気盛んに徐晃に殺到するが、大男が持っていた武器を既に手にしており、気を纏わせて強化し、男達が持っている得物ごと遠目から見ても霞むような剣閃で切り刻んでいく

 

「ぎゃあああ!」

「いてぇえええよおおおお!」

 

断末魔と

 

「逃げろ!にげろー!」

 

逃げることを促す声。どれもこれもが徐晃にとって聞き飽きた台詞だ

しかし、殺すことの快感は何度味わっても飽きることは無い。

 

「ふふ」

 

口元に笑みを浮かばせながら一瞬で男達を切り刻んでいった。

 

 

……そう、徐晃はあまり羞恥心が無い。

いや、あるにはあるが、ああいう手合いの場合はどうせ殺すのだから関係ないと割り切れるくらいの羞恥心しか持ち合わせていないのだ。

これが一般大衆の前であれば普通に局部や胸の頭頂部は必死に隠そうとするのは女性としては当たり前の反応であるし当然徐晃もそうする。

 

「はぁー…さて、全員流そうっと」

 

そうして切り刻んだ死体を全て川へと流し、血に汚れた体を全て綺麗にし、血に濡れた布を川に流して投げ飛ばされた着物を

土ぼこりを払って着込む。さらに投げられた刀を腰に差し、白いリボンでツインテールにして川を後にした。

 

夥しい量の血を残して

 

 

 

 

 

 

 

「おう、点検も終わったし、若干傷ついたところも補修が完了したぜ」

「ありがとうございました。約束のお金です」

「毎度!」

 

約束の時間が来て、鍛冶師の家へ訪問し二振りの刀を受け取った。

 

「所で、人を斬った人間が辺りをうろついているってぇ話…まさか」

「ああ、私です。何か賊と同じ様なことを言ってきたのでつい」

「ついって…まぁいい。兎に角警備は…って普通にココまで来てるし、その髪型だし、大丈夫なのか」

「大丈夫です」

 

鍛冶師の親父は徐晃の髪型を改めてみて、自分の中で納得する。

ここまで普通に歩いてきていたのか、髪にも服にも土汚れはついていない。

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

5年もの付き合いなのか、若干情が沸いてしまっている鍛冶師の親父はそう徐晃に投げかけた。

 

「ん~…とりあえず、ほとぼりが冷めるまでここらには戻らない感じです」

「そうかい。ま、ほどほどにな」

「ふふ、善処します」

 

そうして徐晃は鍛冶師の親父に一礼をして外へ出た。

 

現在の季節は春で、旅をするには最適の季節である。各地は暖かくなり、野草も食せる物が生えてくる時期。

といっても、徐晃の場合は賊から殺して奪うのであまり関係ないが。

 

「うん!二振りあると落着くなぁ」

 

とんとんと柄を軽く叩き、感触を確かめる。

借りていた刀より刃渡りも重量も全て上である。だが、その重さが今は心地が良い。

5年も腰に携えていればすっかり馴染んでしまった得物は、これから先も徐晃から離れることは無いであろう。

 

そうして門番に普通に挨拶を行って、江陵を出る。

 

荒野には清涼とした風が吹いており、気持ちが良い。

気分が軽くなり、徐晃の足取りは軽く、そそくさと門から離れていった。

決してばれるかもと不安になったからではないという事を追記しておく。

 

 

 

 

「さて、どっち方面に行こうかな」

 

江陵を出て5里ほどになり、背にはすでの小さくなった江陵がある。

平坦な地面をさがして、徐に腰に刺してある一振りの刀を立たせ…手を離す。

そうして物理法則にしたがって地面へと倒れた刀。それをみて徐晃が一言

 

「北か」

 

丁度、切っ先が北のほうへ向いていた。

そう、徐晃はどちらの方角へいこうか迷ったときや、目的が特に無い時はこうやって神頼みを行って行く先を決める。

 

せっかくだから司隷へと向かおうかと気持ちを改めて、ゆっくりと歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるところのとある宿

その一室に三人の美少女が円陣を組みながらうんうんと頭を悩ませていた。

 

「うー…新しい歌詞が思いつかないよー」

 

そう零したのは髪の色が淡いピンク色をしており、露出度は徐晃より高い衣服を纏っている。

体つきは女性の理想に近い体系で顔も相まって10人が10人美人と答えるだろう。

 

「ねえさん。ぶーたれないで、新しいの考えないと」

「私も考えるから頑張って!」

 

紫色の髪と眼鏡を掛けた女性と、サイドポニーをしている女性が桃色の髪の女性を励ます。

 

「むむ…むー…やっぱり思いつかないよーちぃちゃん、れんほーちゃん」

「頑張って天和ねえさん」

 

ぶーたれている桃色の髪の女性…天和という人物に対して、紫色の髪の女性…人和とサイドポニーの女性、地和。

 

彼女達はいわゆる旅芸人という奴である。各地を転々として人々に芸を…歌を提供しているのだが、実はなかなか多くならない。

その事には今は不安がある。この先ずっとこのままでは寂しい。もっと目立ちたいというのは芸人としての自然な欲求だろう。

 

「うー…う?お、おおお!」

「何?どうしたの?」

 

うーうーと唸っていた天和からなにやら奇声らしいものが発しられて眼鏡をくいっと掛けなおしながら尋ねる

 

「思いついたの!いい?ここから……」

「なるほど」

「あーそれ可愛い!」

 

そうして三人が輪になってあれが良いこれが良いと歌詞を作り上げていく。

……そして2年後。この三人が中心となる大きな事件が起きることはまだ、誰も知るすべは…無い。

 

 

時代は動いていく。誰が望もうと誰が望まないとも…時代は動いていくのだ。

 

 

 




誤字脱字等御座いましたら、ご一報ください。

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