【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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10話

 

「それじゃあ、訓練始めましょうか」

「「「「「は!!」」」」」

 

現在、訓練所には夏候惇隊と夏候淵隊の兵士がずらりと並んでおり、その光景は中々に壮観である。

兵士の装備は一式でそろっており、規律が取れて正しく生き物と表しても可笑しくはない。

そんな兵士達に満足するように頷く徐晃。…べつに満足はしていないが、普通に生活をしていたらこれほどの光景は余り目に出来ないであろうという気持ちも含んで頷いている。

 

何故この様な形になったかと言われれば、簡単に終わる

 

曹操が州牧へと昇進したからである。

 

先の大規模な賊退治。そして街の評価。それらを含めて漸く評価された結果、州牧という位に就いたのである。

その為、そういった儀礼の場に出なければならないので、曹操は夏候惇、夏候淵を連れて出かけていった。

因みに、荀彧と許緒は留守番である。

 

以前より夏候淵と夏候惇に調練の仕方を学び、何回か調練を行ってきた徐晃。その中で夏候惇とは何度か衝突したが、以前よりはマシといった仲になった。

読み書きも漸く全てできるようになり、たまに文官としての仕事も請け負っていて、割と忙しい一日を過ごしている。

ただ、客将という扱いなので内政の中枢などには携わっていない。

 

よって文官の仕事は本当に簡単なものである。

 

そして調練。これは既に徐晃一人で任される程度にまでの域に達した。

意外にも調練は計画をちゃんと練っており、どこか機械的ではあるがしっかりと全工程を問題なく終わらせる事が出来ているし

何より、最後の模擬戦闘で兵士達も実際に徐晃の強さを目の当たりにして羨望の目で見る兵士も中には居る位である。

 

此れには曹操も内心驚いた。

あの殺人快楽者の徐晃が兵士を殺さずにきちんと調練をしていたのだから。

最初荀彧から話を聞き、その後、どういった形で進めるかという話を徐晃と夏候淵で決め、その事を夏候淵が曹操に報告をした。

 

曹操はこの対応の早さに満足をした。が、実際に出来るかどうかまではいまいち信用していない。

だが、蓋を開けてみれば驚くほど兵士を匠に動かし、末端までちゃんと徐晃の言葉通り動いているさまである。

よって曹操が直々に徐晃へ調練を行うべしと命を課したのであった。

 

反発したのは夏候惇だけであったが、その夏候惇も今は認めている。

一度夏候惇が少数の兵士を率いて賊討伐する際に、調練の事をどうしようかと頭を悩ませていたときに、徐晃がタイミングよく調練を引きうけた。

賊討伐から帰ってみれば、錬度を落とさずまた、今までにない新鮮な空気を味わった為か、士気も高くまとまっていた。

 

それにより、夏候惇も徐晃の評価を改めたのだ。といっても、曹操に対する行為を改めない限り、友好関係は結べそうに無いとは思っているが。

 

「走りこみが終わったら、各自武器を構えて素振りを100回です」

「「「「「了解!」」」」」

 

走り込みを終えた兵士に、休み無く素振りをさせる。実践では一日が終わるか、相手を殲滅させない限り休みなど無い。

よって走り込みから素振りはノンストップで行わせるのが徐晃のやり方である。

 

兵士達はその事について全く問題は無いと思っている。

 

徐晃のやり方は夏候惇、夏候淵とは少し違うがそれでも理に適っている調練方法である。

そして徐晃の容姿も彼らの士気の高さに影響していた。大人と少女の狭間であるアンバランスな魅力が彼らを刺激している。

が、最も刺激している事は

 

「…おい、今日は黒だぞ」

「何!?…走り込みの最中か」

「ああ……かなりいいぜ」

「く!?俺も覗けば良かったっ!!」

 

訓練所には将が高い位置に昇りそこから指示を出す。徐晃は夏候惇、夏候淵より無防備なため、走り込みや素振りの前列、陣形を組んでいる最中は覗き放題であった。

無論徐晃は視線には気付いているし、それがどういった意味なのかも知っている。だが、気にしていない。

直接声を掛けられればスイッチが入ってしまうかもしれないが、視線程度であれば気にしないのだ。

 

それに徐晃はそういった欲求が中々抑えられないことも良く知っている。

徐晃自身殺人快楽者なのだから、適度な発散は重要だと思っている。そういった理由で徐晃は気にせずオープン…にはしていないが、覗き見る適度であれば問題ない。

だが、視線を送ったものの顔を確りと覚えているので模擬戦闘では彼らだけが他の人よりぼろぼろになっているのは気のせいではない。

 

 

「それじゃあ、100人組になって私と模擬戦闘しましょうか」

「「「「了解!!」」」」

 

そうして訓練所には人が飛び交う異常な光景が見れたとか。

因みに徐晃が使っているのは只の木刀。鉄製のものは兵士の装備を損壊させてしまい、夏候淵からストップ命令が入ったため木刀となった。

その事に兵士は安心し、気兼ねなく模擬戦闘を受けれるようになった。が、それでもたまに武器を損壊させるのは荀彧と夏候淵の小さな悩みの種であった。

 

 

約80組の大所帯を全てノックダウンさせた徐晃の息は全く上がっていない。

しかし、兵達は既にぼろぼろで隊を組むのがやっとの状況である。

 

日も既に落ち始めて夕焼けが美しい。

 

「それでは、これにて訓練を終わります。各自ゆっくり休むように」

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

 

そうして解散させる。

何度か殺人衝動に駆られたが、相手に殺意が無い為、そこまで興が乗らずにそのまま無事調練が終わったのだ。

衝動を抑えられるだけの理性を持てたのはやはり、あの時の戦場での空気を思い出したからである。

 

もし、あの時戦闘をせずに曹操軍の配下に加わっていたら恐らくこの結果は無い。

 

彼女は何時でもより甘美な快感を得たいと思っている。だからこそ、理性で抑えられたといえよう。

それに、曹操がさらに大きい戦場を用意すると言った言葉。曹操はそういったことで嘘は付かない。流石の徐晃もそれは理解している。

よってすこし我慢すればいい。そう言い聞かせて模擬戦闘、賊討伐で発散しているのだ。

 

 

「伝令!徐晃将軍!」

「どうしたの?」

 

訓練所で最後に兵士達が後片付けを忘れていないか、それらをチェックして自室へ戻ろうかと通路を歩いていたら、前方のほうから伝令兵が慌てて走ってくる。

そうして徐晃の前で簡易な礼を取った。

 

「は!1200人になる賊がここ陳留より13里東南にて発生。邑一つが甚大な被害を被ったそうで、至急王座の間へと荀彧様からのご指示です」

「わかりました。直ぐに向かうね」

「はは!!」

 

そうして伝令兵が走り去り、徐晃は微笑を零した。

 

「ふふ…丁度いい。軍も中々面白いかも」

 

欲求が溜まっているところで一気に発散する。これは劉備との旅で見つけた快楽を享受する方法の一つであった。

 

「…ま、荀彧が怒らないように速めに行こうかな」

 

そうして微笑を引っ込め、きりっと引き締めた表情で王座の間へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「皆集まったようね」

 

王座の間に武官、文官、そして荀彧、許緒、徐晃の姿が空の王座の前に並ぶように集合していた。

 

「今回は主君、曹猛徳様が不在の為、この荀文若が軍儀を進めさせていただきます」

 

ずらりと並んだ武官、文官を前に、空の玉座の傍で荀彧が今回の軍儀を進めると宣言した。

 

「さて、賊がこの陳留の13里東南に発生した件について早急に対応しなければならないわ。華琳様の手を煩わせるなんていう愚を犯さないためにもね」

 

勿論、この件については既に荀彧から曹操へと俊馬を出し、伝令を送っている。

 

「はい!私が兵を引き連れてその賊を退治しに行ってきます!!」

 

荀彧が今回のあらましを簡単に説明し、さてどうするかとなった時に許緒が元気良く手を挙げ、自身が賊を退治すると宣言した。

 

「…1200の賊に対して此方は用意できて700。兵士の編成、武器の準備でこれだけだわ。私は徐晃に兵を率いてもらいたいのだけれど」

 

そうして、ちらっと荀彧が徐晃を見る。その目は若干期待を孕んでいるが…

 

「…兵を率いたことが無い私より、許緒さんが兵を率いて殲滅したほうがよろしいかと」

 

徐晃は荀彧の言葉を否定するように言う。

徐晃の言っていることは尤もである。兵を率いたことの無い徐晃は兵の統率が取れないかも知れない。

そして、賊を目の前にして殺人の快楽に確実に身を任せるので、兵の統率は絶対に向かない。

 

統率するのであれば、一人ひとり判断できる兵士を育て上げて徐晃の下へつけるというのが理想だが、生憎曹操軍はそこまで余裕は無い。

 

「徐晃さんもこう言っていますし、桂花!ボクに任せて!」

「……そう…ね。分かったわ、今回の件。季衣に任せたわ」

「はい!!」

 

そうして軍儀は細かいところを詰めて、解散となった。

足早に出る文武官達と許緒。そして最後に残ったのは荀彧と徐晃であった。

 

「…どうせ監視して欲しいといった所かな」

「……はぁ。ほんと、頭だけは直ぐ回るわね。ええ、そうよ。季衣は見た感じ元気だけど、ここ最近の賊討伐では毎回出撃していた。だから疲れは確実に溜まっている」

 

そうして許緒が出て行った扉を見る。

徐晃は何故分かったのか。案外簡単な事である。ここ最近の賊討伐は許緒が中心となって討伐に回っていた。規模が500より多かったためである。

 

よって疲れが溜まっているのは予想ができた。そして何時もであれば許緒が手を上げれば曹操はそのまま許緒に命を下した。その事に荀彧は何も突っ込まない。何故ならまだ余裕が見て取れたから。

 

しかし今回は違った。

 

今回の討伐は徐晃が兵を引き連れて行って欲しい。本来であればありえない選択である。

何故なら彼女は殺人快楽者。指揮なんてできたものでは無いだろう。荀彧もその懸念があった。

しかしそれを差し引いても徐晃に行ってもらいたかったのだ。

 

だが、兵士を運用できる許緒に任せたのだ。

 

それは徐晃の言い分もあったが、荀彧は即座に代案を構築し、許可を出した。そう

 

「貴方には季衣が失敗しないかどうかを見て欲しいの。勿論、危なくなったら助けて欲しいわ」

 

許緒の援護。参軍で徐晃を付けなかったのは許緒のやる気を保つ為だ。

 

「お安い御用です。殺しができれば何でもいいですよ」

 

そうして徐晃は荀彧が見つめていた扉からゆったりと歩いて王座の間から退出した

 

「…分かってたなら代わってやればいいのに…」

 

そう若干不満をぽつりと零す荀彧が、扉に向けて視線を送り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…もうすぐ着きそうだね」

 

馬上で汗を拭う許緒。本来であればこのようなたったの13里の距離で疲れなど知るはずが無かった。

しかし、荀彧が指摘したとおり彼女の中では疲れが溜まっていたのだ。本人も自覚できなかったがじわりじわりと

 

「許緒将軍!報告いたします!盗賊の群れがここより4里いった所の穴倉に向かったとの情報が入りました!」

「よーっし!じゃあそこへ向けて全速前進だよ!」

「「「おお!!」」」

 

騎馬が700。すぐさま方向を定めて駆けて行った。

 

という光景を物陰に隠れて徐晃は見ていた。

 

「…許緒はやはり疲れているみたいだね」

 

そうポツリと零しながら、許緒隊が目指していった方向へ歩き出した。

 

 

「許緒将軍!賊は此方を迎撃する構えです!」

「うん!総員、陣を組んで!」

「「「は!!」」」

 

報告では1200であったが、許緒の目算ではそれより多かった。

それもそのはず、1200では無く、1300もの数が平野に無陣ながらも許緒隊を迎え撃つ構えである。

賊は数の利を利用して一気に押しつぶす心算である。

 

森にてゲリラ戦のような戦闘方法も取れなくは無いが、数や一人ひとりの力を省みると偶然ながらも賊がとった行動は正しい。

 

凡そ2倍の賊に対して許緒は突撃をするべく、蜂矢の陣を敷いた。

 

「皆ー!相手は平和を脅かす悪い奴ら!力を合わせてやっつけよう!!」

「「「「おおお!!!」」」

 

既に許緒の武勇は隊に伝わっており、その士気は数をものともしない。

兵士達も許緒と同じ、平和を憂うもの達なのだ。よって賊の行動は絶対に許せるものではない。

 

「総員!突撃ー!!」

「「「うおおおおお!!」」」

 

馬上戦闘は全員不可能。よって徒歩での突撃となる。

その統率は見事としか言いようが無く、陣の構成もばっちりである。兵士の士気も高い。

 

「てめぇら!相手は俺達よりすくねぇ!全員ぶっ殺せ!!!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

 

だが士気の高さなら相手も負けてはいない。許緒隊の数が圧倒的に少ないのはちらっと目視しただけではっきりと分かる。

更に先ほど村を襲撃し、女はその場で犯すことしか出来なかったが、食料などの補充は十分で、なおかつ迎え撃つということが出来ているためだ。

 

そして衝突。

 

攻撃力は圧倒的に許緒隊の方が高い。一気に食い破られる賊だが、動きを見せる。

蜂矢の陣で敵陣中へ突撃していった許緒隊を囲むように賊が動いていったのだ。無陣のままで、各個人思うが侭の動きだが、予めそういう予定だったというのが見て取れる。

しかし、許緒は気付かない。目の前の敵と疲れにより、大局を見通せないのだ。

 

許緒を先頭にしてどんどん食い破っていく許緒隊

 

「てやああああ!」

 

鉄球をぶんぶんと振り回し、中々なスプラッタな光景を見せ付けているが、それが逆に士気の上昇。相手の士気低下に繋がっている。

 

が…

 

「許緒将軍!後方より敵が!?」

「ええ!?…まさか、囲まれてる!?」

 

局地的には完全に押していたが、大局を見ていなかった許緒はここで自身のミスに漸く気付く。

 

「く…皆!持ちこたえて!一気に突破するよ!」

「「了解!!」」

 

そうして、一気に賊が出てきたほうへ…つまり、森の方面へと向かって陣を進める。

依然攻撃力は落ちていない許緒隊。この行動は正しい。包囲されたら何としても抜け出す必要がある。

幸い矢の陣を構えていたため突破力は曹操軍の中でも夏候惇に次ぐ力。

 

ぐいぐいと食い破りそうになったとき

 

「はっはー!頭の言うとおりだぜ!こっちに本当にきやがった!おい、お前ら!ありったけの矢をあいつらへぶち込め!!」

「「おおおお!!」」

 

森から150余りの人間が姿を現し、全員が矢を放つ。

 

「ぐわあ!」

「ぎゃああ!?」

 

その矢は許緒隊の先鋒に降り注いだ。

 

「ええ!伏兵!?」

 

許緒は驚く。報告以上の敵がいたから恐らく此れが全てだろうと判断し、賊達が出て行った森へ進軍し、兵士一人ひとりの力を生かしてのゲリラ戦に望もうとした。

包囲された時点で此方がかなり不利の為、障害物を通して押し返そうとしたのだ。間違っていない。

ただ、賊にも頭が回る奴は何人もいる。猪突猛進の許緒を絡め取るのは兵士崩れの人間でも可能な人物は可能である。

 

「く!弓を射る奴を早く倒さないと……!?」

 

自分の軍、相手の包囲、そして相手の伏兵。最後に、許緒自身の疲れ。

それらが相まって許緒の注意力が散漫になり…転倒した。

 

「きゃぁ!?」

 

すぐに体制を立て直そうとするが、現実は残酷である。

 

「へへ、お前が大将か。悪いが、死んでもらうぜ」

 

大男と言っても差し支えないような野蛮な男が、許緒を一刀両断すべく、その剣を振り下ろした。

 

「くぅ!?」

 

しかし、間一髪で許緒の武器、鉄球を繋ぐ鎖でその剣を受け止めるが、周りに居た賊の槍が許緒の体に殺到した。

 

許緒はそれらがゆっくり自身の体を貫こうとしているのが見て取れた。

 

「…華琳様、ごめんなさい。流流……」

 

覚悟を決めてゆっくりと目を瞑り、死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、それは曹操に直接言うべきだよ」

 

連続する金属音と、許緒を守るようにして立つ人物

 

「あ…」

 

呆然と見るその背中は許緒にとって畏怖の対象。

しかし、今は余りにも頼もしく見えた。

 

「ふふ、じゃあ死んで?」

 

その言葉と共に、許緒に殺到していた4人の賊が全員一息で両断された。

戦場に美しく花開いた真っ赤なバラ。いや、血の華。

 

「ぎゃああああああああ!?」

「あがあああ!?」

 

その次の瞬間には許緒の二歩外の周りにいた賊も真っ赤な大輪を一瞬だけ咲かせて地に伏していった。

 

場の空気が変わった。徐晃中心に一気に広がった凍えそうな覇気。

それを受けて許緒、許緒隊、賊の全ての人間が動きを止める。

その光景をにやりと口を弧にしながら徐晃は嘲笑い

 

「……ふふ、いい。やっぱりこの感触は最高だよ」

 

その言葉と共に、徐晃は許緒をそっちのけで回りに蔓延る賊をかたっぱしから切り殺していく。

許緒はその姿を呆然と見ながら、漸く正気を取り戻し、目に溜まっていた汗を拭いながら兵士に声を上げた

 

「総員!徐晃さんが援軍に来てくれました!このまま一気に畳み掛けろぉ!!」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

 

先ほどまでの瞳は無く、きりっと力強さを秘めた瞳で、今度こそ何も逃さないという意志をこめながら目の前に敵を殲滅して言った。

 

その中で徐晃は演舞を舞っているように、流麗で川のように戦場を流れ、真っ赤な大輪を咲かしていく。

血風を巻き起こすその光景は敵味方関係なく見る者全ての視線を奪った。

 

そう、徐晃が来て戦場の流れが一変したのだ。許緒隊ではなく、ましてや賊でもない。徐晃を中心として戦場の空気が流れているのだ。

 

「ふふ…」

 

一振りで敵の剣すらも切り裂き、二人を切り殺す。後ろからの槍は見えているかのごとくギリギリのところで体を回転させ、

その回転を利用して槍の先から、その槍を持っていた賊を両断する。

 

「ぎゃあああ!?」

 

聞こえる断末魔は徐晃の鼓膜を打って更に快楽を引き出させる。まるで麻薬。

圧倒的な強者の風格を見せつけながら、軽い足取りで賊を切り伏せていく。

 

正に一騎当千

 

正に一人軍隊

 

 

 

 

正に狂気無双

 

 

 

 

 

「く、くるなああああ!?」

「化け物めぇええ!」

 

逃げるもの、立ち向かうもの一切関係なく、徐晃が目に付いた賊をその無銘の刀二振りで敵を切り刻んでいった。

 

森にいた弓隊も徐晃を目掛けて矢を放つがそれすらも刀を振うだけで全て打ち落とされる。さらに

 

「やああああ!!」

 

許緒が既に距離を詰めて弓隊を尽く殲滅していった。

 

戦場は徐晃が来て一刻の半分もせずに、終局へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…徐晃さん」

「ん?どうしたの?」

 

賊をすべて殲滅し終わり、騎乗しながら陳留へ帰る途中、許緒がその隣に居る徐晃に話しかけた。

その顔はどことなく申し訳なさそうである。

 

「ありがとうございます!徐晃さんが来なかったら、ボク…」

「ああ、気にしなくていいよ。私は賊を殺せたし、それだけで満足だよ」

 

徐晃は確かに許緒の命を守った。それは荀彧に頼まれていたから。

そして、何となく徐晃も許緒が串刺しになるのが面白くなかったからである。

よって感謝をされることではないと徐晃は既に割り切っているし、何より周りの賊を殺してスイッチが入ったのか、許緒をそっちのけで楽しんでいたのだ。

 

「それでも、助けてくれたことには変わりありません!」

「ふふ、じゃあ素直にお礼を受け取っておくよ」

 

そうして、前を向く徐晃。しかし、許緒は

 

「あの!ボクの、ボクの真名を預かってもらえませんか?」

 

突然の事で徐晃は思わず許緒の方向へと目を向ける。

 

「……本気でいっているの?私みたいな快楽殺人鬼に」

「はい!だって、ボクの命の恩人だし、むしろ預かって欲しいです!」

 

徐晃にとって真名を交換するのは親以外では皆無であった。

村は人口が少なく、また同年代の子供も余り多くなかった。周りに居るのは大人が多かった。

そしてそれは徐晃が狩りを大人たちと一緒に行っていたからそれに拍車を掛けていた。

 

邑からでての8年間は他人との接触は必要最低限にまで留めていた。

あの鍛冶師のおじさんの名前も知らないのだ。

 

故に徐晃は驚いた。自身は殺人鬼。対する許緒は確かに人を殺したことがあるが、それでも自分とはかけ離れた信念をもつ尊い人物である。

じーっと見つめてくる許緒の視線に負けたのか、徐晃はため息をついた。

 

「はぁ…分かりました。……では、改めまして、私は姓は徐、名は晃。字は公明……真名は甘菜だよ」

「はい!ボクは姓は許、名は緒。字は仲康。真名は季衣だよ!宜しくね、甘菜!」

「…ええ、宜しく」

 

うっすらと笑みを浮かべる徐晃。その顔は夕暮れに照らされているのか、ほのかに赤い。

対する許緒も同じく表情は満面の笑みだが、ほほを赤く染めていた。

 

 

 

 




誤字脱字等御座いましたら、ご指摘などよろしくお願いします

……ちょっと強引だったかな。

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