胡蝶銀夢   作:てんぞー

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六匹目

「昼からチップスにコーラ!」

 

「不良って最高だぜ!!」

 

 ホテルのスイートはだらしのない空間と化していた。テレビには最新のゲーム機が接続されており、ベッドは横の方へと押しのけられており、持ち込んだソファとテーブルが部屋の中央へと引っ張られて、テレビが良く見える位置に移されていた。テーブルの上にはポテトチップスにコーラ、ピザ、いろんな菓子や出前のジャンクフードが置かれており、コーラをビール代わりに横に座る世果埜春祈代と乾杯してから一気にコーラを飲む。本当ならここでビールでも飲みたい所だが、経験上酔っぱらっていい事があったことがない。なのでここは素直にコーラで我慢する。

 

 約一名、大人が一人摩理とゲームを遊びながら片手でビールを飲んでいるが、アレは参考にしてはいけない大人の類なので、華麗にスルーしておく。ともあれ、コーラを飲んでポテトチップスを食べながら共に中央本部でやらかした事を自慢しあい、そして無事に逃げ出せた事を喜ぶ。

 

「見たかよあの”かっこう”の表情! 追いかけられないって解ってて悔しそうなあの表情! いやぁ、悪魔と言われる”かっこう”さんでも悔しそうな表情はするんですねぇ。笑いが止まらねぇ」

 

「おいおい、そんな事を言ったら俺なんかアイツを一回ぶっ飛ばしたんだぜ? お前はそこにいないから解らなかっただろうがよ、アイツをこう、こうな? こういう感じで掴んでな? ぶぉん! って音が出る感じに全力スイングで投げ飛ばしたもんよ! いやぁ、なんかクッソ偉そうな女もいたから燃やそうかと思ったけどそこで俺様の言葉に感銘を受けた”かっこう”が立ち上がって、覚醒みたいなスイッチがはいったんだよ。どうだよ、この悪役ムーヴメントは。お前には絶対出来ない事だろ」

 

 凶悪なスマイルを見せる世果埜春祈代に対してはぁ、と首を傾げながら言い返す。

 

「結局お前のやっている事って暴れるだけだろ! 俺なんか正面からチェックを突破して潜入してやったぜ? お前できんの? セキュリティーに引っかからず通れるの? ん? 捕まんなきゃ中央本部の中にハルキヨちゃんはいれないでちゅもんねー! それと比べて俺は超頭脳派だよ! セキュリティー突破して情報室で情報を抜いて、その上でノーマークで武器庫を放火したもんな! どっちの方が遥かにクールでかっこいいかはこれで決まったもんよ!」

 

 言い返し、お互いコーラを飲む手を止め、にらみ合い、

 

「はぁ? 俺の方がかっけぇし」

 

「いやいや、絶対俺だって」

 

 もう一度動きを停止させる。そのまま数秒睨みあってから視線をテレビへ、レースゲームを遊んでいる”傭兵”と摩理へと向け、その後ろへと回り込む。摩理を持ち上げて肩車をし、コントローラーを奪うのと、世果埜春祈代が”傭兵”を持ち上げて投げ捨て、コントローラーを強奪するのは同時だった。”傭兵”のぬわー、という断末魔を無視しながらレースゲームのメニューへと戻り、そこからルール設定の部分から取り決めを始める。

 

「シリーズで総合得点の高い奴の方が正義な」

 

「異論なし」

 

 決まったところで一番難易度の高いシリーズを選び、キャラクター選択メニューで容赦なくお互いに裏コマンドを入力して隠しキャラを解放する。そうやってキャラやレースマシンの選択をしつつ、ゲームの準備を進めながら話を続ける。

 

「んで結局どうだったんだよハルキヨ。ただ意味もなく中央本部で暴れたわけじゃないんだろ? 俺は割とお前に便乗して遊びに行っただけなんだけど」

 

「そこらへんお前ほんと性質が悪いよな―――まぁ、中々得るもんはあったと思うぜ。最初は”ハンター”がめんどくせぇ事になってると思ったけど、これが人物がどんな感じだったのかを追いかけはじめると意外と面白れぇ。情報が増える度に最終的な楽しみが増えるってのはゲームとあんまし変わらねぇところだな」

 

 レースゲームが開始される。”傭兵”がのそのそと復帰しながらチップスに手を伸ばし、それを食べながらレースを見始める。相変わらず怠惰なおっさんだと思う―――のは自分が特に仕事を与えていないのが理由だからだ。もう少し仕事を与えれば何かしら働けるのだろうが、現状ボディガード以外には全く役立てていない。

 

 まぁ、そんな関係もいいのではないだろうか。人生楽な方がいいに決まっている。

 

 自分から苦しい事を望むのはマゾかキチガイぐらいだ。

 

「とりあえず噂の”かっこう”が予想よりも面白い奴だってのは解った。あとはそうだな……意外とめんどくさい話だってのも解ったな。まぁ……意外と特環の連中も連中であのモルフォチョウには振り回されている、様な感じはしたぜ。まあ、俺の目的は”ハンター”と戦う事だからとっととお前が復活させてくれれば楽なんだが―――」

 

「そんな楽をさせるわけがねぇだろ。俺だって楽が出来ないってのに。なぁ、摩理ちゃん」

 

 肩車している摩理からの返事はない。欠落者なのだから当たり前だ。しかしそれでも寂しく思う事がある。命令しない限りは動く事も無ければ、言葉を発する事がない。偶に、本当は声を失てしまったのではないか、と思う時もある。だから寂しいという気持ちはそれとなく強い。だからこそこうやって、なるべく一緒に摩理といるのだが。

 

「今すぐ元の摩理に戻せるんだったら戻したいさ。俺だって摩理ちゃんに会いたいぜ。告白の返事を聞かせて欲しいわ。ロリコンにしてくれた責任をとってもらいたいさ。だけどさ、良く考えてみろよ。摩理の意識の本体とも言えるモルフォチョウは親友にくっついてるんだぜ? そのすぐそばには”かっこう”がいるし、そのバックには青播磨島の様な出来事を一切躊躇なく行える中央本部があるんだぜ」

 

 めんどくさい、と思う。

 

「モルフォチョウをパクって意識を摩理の体に戻すのはそう難しくはねぇさ。だけどその結果亜梨子に何かあったらどうするんだよ―――摩理の友達に何かがあったら悲しむのは摩理だぜ? 戻ってきたのに親友が欠落者になってしまいました、とか救いようのないビターエンドは嫌だぜ、おい、ちょっと待てゴール前での足止めは反則だろぉ!」

 

「感動的な話だな―――だけど勝負は勝負なんだ、残念だったなぁ! 話の方に集中している奴が悪いんだよばぁか!」

 

「ぐわぁ! 貴様ァ! クソ、死んだじゃねぇか!」

 

 二レース目、ゴール直前で世果埜春祈代の放った妨害のせいでスピンしてしまい、そのままコースから外れて観客席へと突撃してしまった。その結果、観客がミンチになる事態が発生し、操縦者も鉄パイプが喉を貫通する酷い現場となってしまった。このレーサーは死んでしまったから残りのレースでは使えないなぁ、と冷静に判断しながら次のレーサーを選ぶ。

 

「次のレーサーはもっと上手くやってくれるでしょう。隠しコマンド、っと……。良し、複製完了。これで死んだ奴と全く同じ能力と姿のクローンで勝負ができる」

 

「おじさん、そのゲームさっきまで遊んでたけどそういゲームだっけそれ」

 

 あまり知られていないがこういうエグイ所がまた面白いのだ。

 

「つーかよ、お前は最終的に何を狙ってんだ……あっあっあっ、あー! おい、今のなんだそれ! スピンさせたかと思ったそのまま体当たりして進むとかなんだよそれ! おい、ズリィぞそれ! 俺にもやり方を教えろよ!」

 

「クラッシュなんたらって奴だよ!! 俺の目的としちゃあ最終的に摩理ちゃんを幸せにする事だけに尽きるわ。だけど……こう……色々とあるだろ? 塵芥共に関しては正直どうでもいいけど、最終的に亜梨子ちゃんの安全も確保しておかないと摩理ちゃんが幸せになれないしね? その仮定で中央本部っつーか”不死”のクソ野郎を何とかしないと摩理ちゃんまた無茶しそうだからね? そこらへんを何とかしつつ摩理ちゃん蘇らせないとまたこんな感じの生活に逆戻りだからな」

 

「そう言う割には割と満たされてるよね」

 

 ”傭兵”の言葉に黙って二人でゲームに打ち込む。”傭兵”も黙ったッポテトチップスを食べるパリパリ、という音を室内にゲーム音と共に響かせる。そのままゲームに視線を向けて数秒後、あぁそうだよ、と声を大きくする。

 

「割と満たされている日々を送っているよ!! 中身がないとはいえ見た目は好きな子だし!! 一日中一緒にいられるし! 物理的な意味で俺がいないと生きていけないところは胸がキュンとするし! いいだろ! 何時でも好きな時に文句言われずに手を繋いだりできるんだぞ! 好きな時にお風呂に入れてあげれるんだぞ! これ本人に対してはオフレコな! 多分殺されるわ!!」

 

「そっこでバラす。今度亜梨子に会ったらそっこでバラすわ」

 

「殺すっきゃない、この馬鹿を」

 

 カーブで世果埜春祈代のマシンに体当たりし、そのままコースから外して燃料タンクに衝突させる。大爆発をこしながら世果埜春祈代と後続のマシンがドンドンと爆散しながら燃え上がり、一瞬で会場が火の海に包まれる。燃え上がっている会場を背景に、一位でゴールを決めながら額の汗をぬぐい、

 

「いい仕事をしたぜ……」

 

「リアルファイトを辞さない」

 

「もう勝負ついてるから」

 

「まだワンレース残ってるんだよ! オラ!」

 

 次のレースが開始される。意外と、というよりは見た目通り負けず嫌いを発揮する世果埜春祈代の姿に苦笑しながらゲームを続ける。こうやって、頭を空っぽにして馬鹿をするのも大分久しぶりになるなぁ、と思う。なんだかんだで”傭兵”と二人だった頃は考える事はあった。これからどうすべきか、何処でかき乱すべきか、等。それを世果埜春祈代が勝手にやってくれている為、考える必要がなくなり、同時に同年代の遊び相手もできた―――虫憑きになる前の様に。

 

 ”傭兵”も”傭兵”で割と遊び相手になってくれはするが、それでもやっぱり年齢が違う。あの男はなんだかんだで”大人”なのだ。部分的に対応に大人っぽさが見えるし、完全に頭を空っぽにする事が出来ない。

 

 ―――世果埜春祈代と遊んで、割と久しぶりにただの馬鹿に戻れた気がする。

 

「……やっぱ、こうやって遊んでいるのが一番楽しいよなぁー」

 

「そりゃそうだろ。もっと考えるのを止めてみたらどうなんだよ。きっとそりゃあもっと楽しいぜ? お前ってなんだかんだ表面は馬鹿やっててもキャラ作ってるタイプだろうし。アレだ、”もっと衝動的に生きろ”って奴だよ。俺は衝動でしか生きてないけどな」

 

「超羨ましい……まぁ、切迫した願いを持っているか持ってないか、その差って所かね」

 

「んだな。ま、俺はお前と違って余裕たっぷりだからな―――アテが外れたところで多少イラつきはするけど、それで終わりって訳じゃねぇ、その違いだろ」

 

 後ろで”傭兵”が青春、等と言っているが、此方は年齢的には本来は高校生なのだから、青春していて当たり前だ。寧ろ今、ここで、青春を楽しんでいるのだ。そして摩理もその青春の輪っかの中に入れてあげたい。それは何よりも思っている事だ。

 

 外で走る事ができなかった彼女に、日の当たる舞台を。

 

 その為には”不死”も”大食い”も”浸父”も邪魔だ。アリア・ヴァレィは恩情として腹パンだけで済ませてやる。次見つけたら腹パンしておこう。

 

 最終レースは割と真面目な勝負だった。お中で互いに妨害をいれるも、結局はクラッシュに発展する様な事はなく、僅差でNPCに足を引っ張り合った結果一位を奪われる。そして総合得点で同率一位になったところで争うのも馬鹿馬鹿しくなり、コントローラーを放り出し、

 

 そして世果埜春祈代が話しかけてくる。

 

「結局、”ハンター”に関する事は教えてくれないんだよな」

 

「あぁ、多少は手伝ってあげても答えを教える様な事は出来ない。そうやって動き回ってくれる事に意味があるからな

 

「だけど何もしてくれないわけじゃないんだろ? 結局は”ハンター”を起こして統合する為に何かめんどくせぇ事をするんだろ? だったら手伝え。面白い事を思いついたから、お前がいれば多分成功するぞ」

 

 世果埜春祈代は笑みを浮かべる。最初は接触してきただけなのに、何故かもう既にマブダチの様な感じで話しているよなぁ、なんてことを思いつつ耳を傾ける。

 

「―――モルフォチョウに”ハンター”の意識が眠ってるんだろ? なら一発起こしてみようぜ」




 マブダチになるDQN共

 次の舞台は船の上だってよ。割とサクサク進みます

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