ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~ 作:Mr.凸凹
「では、お互いに死力を尽くして戦え……始めろ!」
コカビエルが開始の合図を言い放った瞬間に、俺は瞬動術のバックステップでヴァーリから距離を取りつつ、詠唱破棄の魔法を解き放った。
「
魔力と堕天使の光力を混ぜて込めた光属性の魔法の矢がヴァーリへと降り注いでいく。
「へぇ~面白いね、綾人の魔法……でも、君の本来の戦法とちょっと違うんじゃないのかい?」
ヴァーリは涼しげな顔をしながら魔法の矢を、俺に近づきながら危なげなく避けていく。
やっぱり予想通りにこの程度じゃあ牽制にもならないか。
俺の基本戦法は相手の攻撃を捌いたり、右腕の下膊に装備されている
だが、ヴァーリの攻撃は極力受ける訳にはいかない。
ヴァーリに触れてしまえば、
俺は次の手を打つために手を伸ばしながら詠唱破棄の魔法を解き放った。
「
炎を消せる程の強風を放ち、ヴァーリの足を強制的に止めて更にヴァーリを中心にトレーニングルームに張られた結界の縁をギリギリに回りながら呪文を唱える時間を稼ぐ。
そして最も得意とする呪文を魔力をしっかりと練って始動キーから一言一句逃さずに詠唱していく。
「ハイティ・マイティ・ウェンディ!
呪文が完成するとヴァーリを中心に強力な旋風と堕天使の光力を込めた稲妻が発生して飲み込んだ。
俺は警戒を解かずに見えなくなったヴァーリの居た場所を注視している。
「……今のは中々効いたよ、綾人」
旋風と堕天使の光力を込めた稲妻の嵐が消え去ると、口から血を流しながら服が焦げ落ちて肌が露出して所々が焦げているヴァーリが佇んでいた。
若干だがヴァーリの足が震えている。
さすがに悪魔と人間の
「さてと……ここまで痛めつけられたから、もう出し惜しみは無しだ。良いよな、アルビオン?」
『本気か、ヴァーリ? 未だ目覚めたばかりで碌に制御しきれていないんだぞ。下手をすれば自滅しかねんぞ?』
にやりと笑ったヴァーリの言葉にアルビオンは淡々とまるで言い聞かせる様に語っている。
「
『……分かった。お前は歴代最高の白龍皇だ。信じよう、ヴァーリ。未だに目覚めきれていない淵龍王の小僧に負けるはずがないからな』
会話が終わるとヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら俺を一瞥した。
俺はその笑顔に悪寒が走り無意識に一歩引いてしまった。
「さあ、いくぞ綾人……
『Vanishing Dragon Immature Divide!!』
俺の眼の前で絶望が具現化した。
ヴァーリは白銀の全身鎧に包まれた
「なん……だとっ……!!? 既に
俺はあまりの絶望感に打ち拉がれ掛かって思わず棒立ちになってしまいそうになった。
「まあ、最近至ったばかりでまだまだ未完成だけどね」
ヴァーリは肩を竦めながらもどこか自慢気だった。
生まれ変わった時から
一応愚鈍なりに一生懸命に修行に打ち込んで心技体を鍛えてきたつもりだ。
だが、覚悟や想いが足りないのか
ヴァーリは俺と同年代だが、俺より早く
しかも俺より早く
くそ!! これが真の天才と言う奴か!!
所詮凡才は敵わないと言う事か!!
「どうした? 隙だらけだぞ。初めて他人に
一瞬の嫉妬混じりの思考に埋没している間にヴァーリに間合いを詰められていた。
俺は半ば無意識に打ち込まれる攻撃を
『absorb!』
防御した攻撃を自動的に吸収無効化してヴァーリの力を奪った。
だが俺の力量不足で、防御だけでは攻撃に込められた分の力しか奪えず、根刮ぎ奪う事は今の段階では出来ない。
「ふむ……さすがだ、綾人。まさか、不意打ち気味の手加減抜きの攻撃を防がれるとは思ってもみなかった。だが、俺に触れたな。奪われた力を返してもらおうか」
『Divide! Divide! Divide!』
一瞬にして奪い去った力以上に俺の力を複数回半減させられて奪われた。
俺は足の力が抜けて立っていられなくなって、片膝を付きながら項垂れかかった。
だが未だに闘志は燻り消えていない。
「なんだ、もう降参か? 期待はず……」
「
打ち込んだ魔法を込めた拳は
「力を殆ど奪われて置いてこの
声色に喜びの感情を込めながら連打を浴びせてくるヴァーリ。
俺は動きの鈍い身体に鞭打って、攻撃を捌いたり
『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』
「やるな、綾人! だが、直ぐに返してもらおう!」
『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』
お互いに一歩も引かず攻防を重ねていく。
ヴァーリが俺に対して攻撃を止めて逃げに転じていないから今は綱渡り状態だが何とか均衡を保っている。
だが俺の吸収無効化より、ヴァーリの半減の方が奪う力が強く、その天秤もやがては傾いてしまうだろう。
暫く続いた一進一退の攻防もヴァーリに軍配が上がり、俺は荒い息を吐きながら床に手を付いて動けなくなりつつある。
「何だ……もうへばったのかい、綾人? こっちは
俺を見下ろしながらどこか不貞腐れた声色のヴァーリ。
「仕方ない……君が火事場の糞力を出せる様にあの下級堕天使を殺してみせようか? なら、君も怒りで奮い立つだろう?」
ヴァーリは結界越しにミッテルトちゃんを一瞥して、丸で気軽に買い物でも行くかの様に訊ねてきた。
「ほぉ~それは余興しては面白いな。これで折角の
コカビエルが張っていた結界を解除してミッテルトちゃんに手を伸ばしていく。
「ひっ、ひぃ!!? いっ、いやっすよ!! だっ、誰か助けてっ!!」
ミッテルトちゃんは腰を抜かしてしまって這う様に後ずさっていっている。
「ふっ、巫山戯るな!! 俺の大切なミッテルトちゃんに指一本も触れるんじゃねぇ~!!」
俺は有らん限りの力を振り絞り、震える足を奮い立たせてミッテルトちゃんを守る様に心の底から叫んだ。
『これは……綾人! 新たな能力が使用可能だ!』
『Dragon Absorption!!』
俺の想いに応えて
丸かった
これでやっと俺が前世で考えていた能力の一つが開放された訳だ。
『
ミッテルトちゃんを守る様に球状のエネルギーシールドが包み込んだ。
「何だ、これは?」
コカビエルが手を伸ばすと紫電が走った。
「ふん……生意気にも俺の手を傷つけるか。ならばこれでどうだ!!?」
コカビエルは光の槍を具現化してエネルギーシールドに叩きつけた。
『absorb!』
エネルギーシールドは光の槍を吸収して更に強固な守りとなった。
「ちっ!! それなら、更に力を込めて……」
「何をしている、コカビエル?」
コカビエルの更なる暴挙を止める様に廊下の奥から声が掛かった。
「アザゼルか……いや何、綾人とヴァーリの模擬戦の見届け人をしているのさ」
どこか面白くなさそうにアザゼルさんに答えるコカビエル。
「なら、ミッテルトは関係ないな? ほら、さっさと続きを始めさせろ。俺も見学させてもらうからな」
アザゼルさんはミッテルトちゃんを庇う様に立ち塞がっている。
「ああ……分かった」
コカビエルは一瞬悔しそうに顔を歪ませてから結界を張り直した。
「……って、あれは
ヴァーリの姿に気が付いたアザゼルさんは真面目な表情を崩して、丸で玩具を与えられた子供の様な表情を浮かべて燥いでいる。
俺は安堵のため息を吐きながら
新たな能力に覚醒したとはいえ、アザゼルさんが来なければミッテルトちゃんは殺されていたかもしれない。
耐え難い怒りを感じる。
ヴァーリやコカビエルに対してではない。
自分自身の呆れる程の馬鹿さ加減に腹が立つ。
自分の力量不足を言い訳にして、何処かで無意識に諦めていた自分に気が付いて嫌気が差した。
この世界は最早唯の小説に書かれた世界じゃない。
俺は一読者ではなくここの生きる一人の登場人物として過ごしている。
俺の想いや行動自体で変えられる事は少ないだろうが皆無ではない。
力が要る!! 大切な者を守れる力が要る!!
それも今直ぐに!!
ここで力を示しておかないと絶対に後悔する!!
「ナラカ……」
『どうした、綾人?』
俺の言葉に何かを感じ取ったのか、ナラカが緊張した声色で聞き返してきた。
「俺が未だ
『まさか、綾人!!?』
俺の考えに思い至ったのか驚愕の声を上がるナラカ。
「ああ、そのまさかさ……俺の右腕一本くれてやる!! だから力を寄越せ!! 俺に大切な者を守れる力をくれ!!」
『……本当に後悔しないんだな、綾人?』
俺の想いの深さを探る様に尋ねてくるナラカ。
「ああ……それで俺の大切な者が守れる力が手に入るなら安いもんだ」
俺は怒りで眉間に寄っていた皺を解き解す様に微かに微笑んだ。
「……待たせたな、ヴァーリ。第二ラウンドと洒落込もうか!!
俺は
『Abyss Dragon Multiplication Assimilate!!』
俺の全身を深淵の闇の如き漆黒の鎧が包み込んでいく。
そのフォルムは龍だけでなく全てを飲み込む深淵の底を思い浮かばせる程真っ暗だが、何故だか不思議と恐怖の感情は一切浮かばない。
一応
俺の考えていた亜種化の真の能力は未だに開放されていないだろうが今はこれで十分だ。
これで戦術の幅が広がった。
今までが防御の際に攻撃を吸収無効化して力を奪うだけだったが、この
それに吸収率が眼に見えて上がった様だ。
まあ、吸収限界値を超えると漏れ出してダメージを負うから見極めないといけない。
吸収限界値は俺の力量次第で上がるからまだまだ修行が必要だ。
「あはははは♪ 良いよ! 良いよ、綾人!! さすがは二天龍に匹敵する
ヴァーリは狂った様に笑いながら間合いを詰めて攻撃を繰り出してくる。
俺は敢えて避けずに受けながら、こちらも攻撃していく。
『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』
『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』
ヴァーリもこちらの攻撃を捌きながら半減を行いつつ攻撃を繰り出していく。
第二ラウンドは恰も泥仕合の様になっていった。
暫くお互いの
『Burst』
『Burst』
やっぱり
まあ、
これでお互いに自分の持てる力のみで勝負する必要が出てきた。
「良いね。楽しいね、綾人!! さあ、もっと君の事を感じさせてくれ!!」
「ふん……この
お互いに攻撃を捌きながら殴り合っていく俺とヴァーリ。
だが技量は殆ど横這いでどちらも決定力に欠けていた。
俺は呪文を唱えて発動する事が出来れば一発形勢有利に持ち込めるのだが、ヴァーリはそんな隙は見せてくれない。
冷静になれ、姫島 綾人。
蜘蛛の糸程の勝機を引き寄せる為に焦りは禁物だ。
一つの油断が敗北へと繋がっていく。
俺は身体は熱く、しかし思考は水の様に冷静に保った。
だが、均衡はふとした瞬間に崩れてしまう。
敢えてヴァーリの蹴りを防御して、その力を利用して間合いを離した瞬間に俺は無性に鼻がむずむずして嚔を我慢出来ずに盛大に解き放った。
しかも、無意識に魔力を込めて嚔をした。
「ふぇっくしょん!!」
途端に風花武装解除が込められた突風が巻き起こった。
「きゃあっ!!?」
ヴァーリが乙女チックな悲鳴を上げながら、既にボロボロになっていた衣服が消し飛んで真っ裸になった。
俺の眼にはしっかりとヴァーリの裸体が焼き付いた。
アレ? ない? 付いてない? ナニがって、ナニがだよ。
えっ!!? うっ、嘘ぉ~!!? もっ、もしかしてヴァーリって女の子なのっ!!?
混乱していた俺の視線がヴァーリに股間に吸い込まれるかの様に注がれている隙に、若干頬を染めて目尻に涙を溜めながらもちっとも隠そうともしないヴァーリの回し蹴りが炸裂した。
俺は膨らみかけの胸と無毛の白板で芸術的な程美しいヴァーリの裸体をガン見して頭に血が昇っており、そこに強烈な一撃を喰らって為す術なく意識を刈り取られていた。
「ぐふっ!!? ……ごっ、ごめん……ヴァーリ」
俺は気を失う寸前に見たヴァーリの表情を見て、無意識に搾り出す様に謝罪の言葉を口にした。
もう意識を保てない。
何だろう、このえも言われぬ美しい芸術品を観賞かの様な気持ちは……
あっ、駄目だ。堕ちる。
俺は眠る様に意識を閉ざしていった。
意識が堕ちていく瞬間、脳裏に浮かび上がったのは先程眼に焼き付けたヴァーリの白く美しい裸体だった。