ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~   作:Mr.凸凹

3 / 20
投稿が一年以上空いてしまい、大変申し訳ございません。

今回は唐突に思いついた番外編をお送り致します。

一応は【第一章】の旧校舎のディアボロスの時系列の番外編のつもりですが、季節的にヴァレンタインは合わないかもしれないのは大目に見て頂きたいです。

拙い内容で恐縮ですが、オイラから皆様へのささやかなヴァレンタインのプレゼントになってくれれば御の字ですね。

よろしければご意見やご感想を頂けたら幸いです。


DX (番外編)
『~ヴァレンタイン狂想曲~』


 

 

 

 

 

「さあ、今日は以前から告知していた持ち物検査を実施しますからね」

 

 雪もちらついている寒空の下で、俺は一人だけで裏門で風紀委員の仕事をこなしている。

 正門や通用門の方は明日菜さんを筆頭に、風紀委員所属の女傑とも言える方々が担当してくれているので心配していないんだよね。

 歴代の風紀委員な方々は凄まじいの一言だったけれど、今の世代の方々も中々侮れないんだよね。

 

 それにしても、何気に俺の制服は風紀委員会仕様の特注品で、白い詰襟学ランで目立つ事請け合いんだよね。

 何せ駒王学園史上初の男子風紀委員との事で、歴代の風紀委員長を初め数多くの先輩方のキモ入りなのは色んな意味で涙を禁じえないよね。

 

 当初の予定では半ズボン仕様だったのを、俺が断腸の思いで恥を捨てて潤んだ眼で上目遣いおねだりをして阻止したのは黒歴史に認定したいぐらいだよね。

 まあ、殆どの先輩方が鼻血を吹いて倒れ伏していたのはある意味において壮観だったかな。

 

 それ以降の活動では、油断していると逆セクハラ紛いのスキンシップが日常茶飯事になりうるのは勘弁願いたいんだけれどね。

 

 プライベートでも姉ちゃんや白音ちゃんとかに逆セクハラどころか、日常茶飯事的に逆レ〇プ紛いの睦言(スキンシップ)で疲弊しているから癒しが欲しいんだよね。

 

 イッセーちゃんはまだ直接的な睦言(スキンシップ)は皆無だけれれども、二人っきりになって油断していると人気のない暗がりへと引きずり込まれそうになるから注意が必要なんだよね。

 

 ミッテルトちゃんもダブルスパイをお願いしているから会う機会が少ない分、短い時間でも濃厚に睦言(スキンシップ)を求めてくるから肉体的にも精神的にもキツいんだよね。

 毎回種が尽きるかと思うぐらいに愚息が酷使されているのは勘弁願いたいよね。

 

 ヴァーリも普通の手合わせだけでなく、最近は照れ隠し(スキンシップ)の回数が多くなってきているしね。

 つまり、ヴァーリはそれだけ無意識に俺の尻をまさぐっているって事だからね。

 押し倒されるのも時間の問題かもしれないね。

 

 ああ、祐美ちゃんのお手製のケーキの試食をしながらゆっくりとお茶をしたり、ギャスパーちゃんとネットサーフィンしたりオンラインゲームに興じたいよ。

 

 はっ!!?

 ダメだっ!!?

 思考が無意識にアンチスパイラル陥りかけてたよっ!!?

 

 さあ、気持ちを切り替えて職務を全うするとしようかな。

 別に逃げてないからね?

 本当だからね?

 

 それにしても、さすがに俺は風紀委員会所属の唯一の男子なので、女生徒さん達は嫌がるかと思っていたらきちんと列を作って鞄の中身を自ら差し出して検めさせてくれるのはありがたいよね。

 しかも、全ての女生徒さんはお菓子……特にチョコレートやクッキー等を直接俺に手渡してきているしね。

 普段ならばそんなに目くじらを立てて没取するまではいかないが、今日は事前に告知していたので遠慮する事なく回収している。

 既に用意していた紙袋が1ダースを超えてきている量である。

 勿論忘れずに鞄の中身も確認させてもらっている。

 

 中には乙女な秘密なグッツとかもあったけれど、BLが題材の薄い本が出てきた時は赤面どころか顔色が消失してしまったのは仕方ないよね?

 うん、俺は()()も見なかったよ。

 本当だよ?

 登場キャラが毎朝鏡で見ている姿と瓜二つだったのは、気のせいだよね?

 

 

 

 

 

 

 しかし、普段なら殆どの女生徒さん達は正門を使用しているのに、今日に限って大半の人達が裏門から登校しているのだろうか?

 

 俺が疑問に首を傾げていると、最後に嫌と言う程見知った一人の女生徒さんが眼の前に佇んでいた。

 相変わらず黙っていれば掛け値なしの美少女の部類なのだが、その表情や瞳に宿っている隠しきれない()を感じさせる気配(オーラ)が台無しにしているよね。

 

 しかも、事ある毎に俺の思考を読んでいる節が見受けられるんだよね。

 俺はある意味単純(純粋)だから読みやすいとか何とかって言っていたしね。

 

 しかし、相変わらず神出鬼没な娘だよね。

 今も眼の前に現れるまで、一切の気配を感じ取る事が出来なかったよ。

 俺の感知能力は戦闘系に偏ってはいるものの、一般生徒さん程度ならば絶対に見逃す筈はないんだけれどね。

 

「お勤めご苦労さんです♪ どう? 職務に託つけてうら若い乙女の秘密を暴けて、さぞ嬉しいんじゃないの?」

 

 他の女生徒さん達と違って桐生は奇策……じゃなかった、気さくに俺に肩に手を置きながら話しかけてきている。

 

「本当に、お前ってば……」

 

 俺はため息混じりにさらなる追撃を避けた。

 油断しているとこのまま全身を余すことなくまさぐられる可能性があるからね。

 

「ああ~ん♪ いけずぅ~♪」

 

 桐生は態とらしく泣き真似をしながらも、その手は俺を求める様にわきわきと蠢いている。

 

「ほら、早く検査しないと遅刻するよ? さっさと、見せてよ」

 

 俺がため息混じりに手を差し出すと、桐生は悪戯を思いついた子猫の様に眼を輝かせた。

 

 ヤバいっ!!?

 コレは下手すると俺が社会的に抹殺されるぅ~!!?

 

 幸い裏門の付近に人気はないが、校舎の一角からは丸見えなので油断は出来ない。

 

 俺が慄いていると桐生は焦らす様にスカートをたくしあげていく。

 俺は眼を晒したり瞑ったりしたいが、今そんな事をしたら更に自身の首を絞める結果になると、本能が警告を発している。

 

 桐生の手がショーツが見えるか見えないかで動きが止まって、俺は安堵の溜息を吐いて緊張に凝り固まっていた四肢を脱力させながらも警戒を解かずに佇んでいる。

 

 ふと桐生の足を覆っているストッキングを吊っているアダルチックなガータベルトに眼に入った。

 そこには小さなラッピングされた箱が挟まっていた。

 

「はい♪ ヴァレンタインのチョコレートよ♪ ホワイトデーには三倍返しでよろしくね♥」

 

 ウィンクをしながら投げキスをして足早に校舎に向かっていく桐生の背中を、俺は乾いた笑みを浮かべながら見送るしか出来なかった。

 

《キンコーン、カンコーン♫》

 

 思い出した様に鳴り響いた予鈴のチャイムの音で我に帰った俺は、今更ながら山積みされているお菓子が俺へのヴァレンタインの贈り物と気付いて途方に暮れていた。

 中には本命とも取れる気合の入ったハート型のモノもあるんだよね。

 

 流石にコレは全部俺が食べないとダメだよね?

 程度の差はあれども女生徒さん達が俺にくれたモノだから、きちんと残さず食べないとバチが当たる気がするんだよね。

 

 毎日の修行でのカロリー消費で太りはしないだろうけれど、虫歯にならない様に気を付けないといけないよね。

 まあ、歯磨きは欠かさずしているし大丈夫だろうけれどね。

 

 キスする時に口臭のするのはエチケット(マナー)以前の問題だと姉ちゃんに嗜められているからね。

 

 うん、相変わらず俺は姉ちゃんを筆頭に女性陣の尻に敷かれているのは気にしない方向で行こう。

 今更どう足掻いても、魂魄にまで刻まれてしまったM気質(カルマ)はどうしようもないからね。

 円満かどうかはちょっぴり……いや、かなり疑問だけれど、どうせならば気持ち良く過ごせる時は色な意味で楽しまないと損だからね。

 いや、まあ、ある意味甘くてほろ苦い生き地獄には違いないけれどね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 お菓子を大量に抱えながら教室に辿り着いた時は一騒動どころじゃなかったんだけれどね。

 元浜と松田は嫉妬からか殴りかかろうとしてきたけれど、俺に体当たり気味に突進してきたイッセーちゃんに突き飛ばされていったのは思わず心の中で合掌してしまった。

 

 そのイッセーちゃんは口移しでチョコレートを渡そうとしてきたしね。

 俺は両手が塞がっていたので危うくクラスメートの眼の前で唇を奪われるところだったんだけれど、騒ぎを聞きつけた祐美ちゃんがやんわりとフォローしてくれて助かったんだよね。

 その際に祐美ちゃんが耳打ちしてきて、放課後にオカルト研究部の部室でガトーショコラをご馳走してくれるって事であった。

 直ぐに照れた表情を浮かべながら去っていってのは、普段のクールな表情と違って周囲から感嘆のため息が漏れていた程だったよ。

 

 これだけで今日はハッピーだよね♪

 祐美ちゃんのお手製のお菓子、しかも俺だけへのヴァレンタインのプレゼントだからね。

 ホワイトデーのお返しは何が良いのか、しっかりと熟考しないとダメだよね。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、今は昼休みなって逃げ場所を求める様に気が付いたら生徒会室へと足を運んできたんだよね。

 風紀委員会の執務室も今日のこの日は何時も以上に、ある意味飢えた女傑が居る魔窟となっていそうなので無意識に避けてきたのは仕方ないよね。

 

 普段の昼休みは大抵オカルト研究部の部室でお弁当を食べているけれど、今日は姉ちゃんや白音ちゃんが虎視眈々と待ち構えている気がしたので逃げてきたのはここだけの秘密だけれどね。

 まあ、放課後には祐美ちゃんとの約束もあるから絶対に顔を出さないといけないので、当面の時間稼ぎにしかならないだろうけれどね。

 

「すいません、真羅さん。突然お邪魔した上に紅茶までご馳走になってしまって……」

「いえ、お気になさらずに……」

 

 相変わらず真羅さんは俺と二人っきりだと眼を合わせようとしてくれないんだよね。

 話しかければ言葉数は少ないもののきちんと応えてくれるし、こうやってお茶も出してくれるから嫌われてはいないと思うんだけれどね。

 

 気不味い。

 俺はハート型のチョコレートを齧りながら、この微妙な空気に冷や汗が流れる心境になっているんだよね。

 

「あら? 綾人くん。来ていたんですか」

 

 俺がどうしようかと思案していると救いの女神ならぬ救いの悪魔がやって来た。

 

「ソーナさん、お邪魔しています」 

「座ったままで構いませんよ」

 

 俺が立ち上がって会釈しようとすると、ソーナさんはやんわりと押し留めてきた。

 

「椿姫、私にも紅茶をお願いします」

「分かりました、会長」

 

 真羅さんはどこかホッとした様な表情で紅茶の用意を始めた。

 

 やっぱり男子の俺と二人っきりだと緊張していたんだろうか?

 修行の弊害で発育が若干……いや、かなり遅れていると言えども俺も生物学的には紛うことなきなき牡だからね。

 しかも〇S(ショタ)の様な体躯でもしっかりと精通していて、複数の女性と関係を持っているんだから警戒されて当たり前だよね。

 

「それにしても凄いお菓子の量ですね。やっぱり綾人くんは人気がありますよね……ほら、唇にチョコレートが付いていますよ」

 

 ソーナさんは俺の唇をハンカチで拭いながら苦笑を浮かべている。

 

「ありがとうございます……」

 

 俺は気恥ずかしくなって思わず俯いてしまった。

 

 ハンカチから漂うソーナさんと一緒の匂いが、より一層俺の心を掻き乱している。

 

「これでは私からのチョコレートは迷惑でしょうか?」

 

 俺はソーナさんからの死刑宣告に近い台詞に反射的に引きつった笑みを浮かべてしまった。

 幸い俯いたままだったので、ソーナさんには悟られていないと思うんだけれどね。

 

 まさか助け舟は泥船だったってオチはさすがに予想出来なかったよね。

 

「いっ、いえ……ありがたく頂戴します」

 

 俺はにっこりと笑顔を浮かべながらチョコレートを受け取った。

 何気に『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』のレギュラー出演で培われた演技力が役に立ったよね。

 若干うっすらと額に流れる冷や汗は勘弁願いたいけれどね。

 

 真羅さんも気の毒そうな表情で俺を見守っている。

 思わず助けてと視線だけを向けると、すごい勢いで顔を逸らされてしまった。

 

「良かった……綾人くんには普段から公私に渡って色々とお世話になっていますから、感謝の気持ちを込めてみました。勿論、親愛の情もたっぷりと練り込んでますよ♪」

 

 ソーナさんの屈託のない笑みを見ていると心が洗われる様に感じられるが、受け取ったチョコレートから発せられている禍々しくもある気配は少しも揺るぎない。

 

 何でもそつなくこなす感じのソーナさんも、お菓子作りだけは壊滅的にポンコツなんだよね。

 しかもこの事を指摘しようにも、ソーナさん自身がショックを受けるだろうし、俺に対してでもセラフォール様が怒り狂う気がするんだよね。

 幾ら俺がセラフォール様のお気に入りランキングで上位と言えども、さすがに実の妹たるソーナさんを泣かせてただで済む筈がないんだよね。

 

 俺が思考の海にダイヴしている間も、ソーナさんは期待の眼を俺に向けてきている。

 

 はぁ……コレは覚悟を決めて食べるしかないよね。

 文字通り腹を括って食すとしますか。

 

「では、頂きます……」

 

 俺はチョコレートを一つ手に取って一気に口に放り込んだ。

 幸いトリフチョコレート風で一口サイズなので問題なく口内へと収まった。

 俺はチョコレートが口に入った瞬間、意を決して噛み付いた。

 

 ひぎぃっ!!?

 

 アクセントとなるクラッシュドナッツが口の中で弾ける様に暴れている。

 胃が凭れそうな程の脂肪分に感じられるクーベルチュール・チョコレートが舌を蹂躙している。

 咀嚼していって中のガナッシュに到達すると更なる刺激が脳天を突き抜けた。

 

「おっ、美味しいですぅ……」

 

 俺は油断すると気絶しそうな程の衝撃を表情に出さずに微笑んだ。

 背中には大量の脂汗が流れている上に、若干喉が震えて変に上擦った声になったのは無理もないんだけれどね。

 

「良かった……ちょっと、失敗したかもって心配だったんですよ」

 

 ソーナさんは屈託のない年相応の笑みを浮かべて喜んでいる。

 

 辛くもミッションコンプリートした俺は、直ぐ様他のチョコレートを頬張った。

 

 口に入れてから気が付いたが、コレは桐生からもらったチョコレートだよね。

 ウィスキーボンボンみたいで、チョコレートを噛み砕くと砂糖製の殻と独特などろりとしたリキュールが口一杯に広がったよ。

 

 味は洋酒系じゃなくて、日本酒系っぽいかな。

 

 喉を通る際にも感じた熱が、胃の中に入って直ぐに身体中がぽかぽかして来た気がするよね。

 毛穴と言うか汗腺が一気に広がった感じだね。

 汗臭さを抑えるために姉ちゃんに勧められて振りかけているコロンも、一気に台無しになりそうな勢いで吹き出してきたよ。

 

 アレ?

 転生してからは飲酒は殆どした事はなかったけれども、こんなにアルコールに耐性がなかったか疑問に感じる程の熱量だよね。

 多分、ソーナさんのチョコレートと反応してアルコールの効能が高まったのかな?

 

 疑問を浮かべながら首を傾げていたので、ソーナさんだけでなく真羅さんまで俺に潤んだ瞳を向けていた事に気付くのが遅れたんだよね。

 二人共、頬どころが顔全体が紅色をしていているし、息も何だか荒いみたいなんだよね。

 

 しかも、眼が危険な色を孕んだ熱を帯びている様に感じられるんだよね。

 

 そして、俺と眼が合うと二人共に揃ってチロリと舌舐りをした。

 

 二人から隠すことなく漂う、丸で発情期の牝の様な特有の色香の気配に嫌な予感が稲妻となって俺の背中を走り抜けた。

 

 この雰囲気は嫌って程に何度も体感しているよね。

 

 そうだ!

 何時も姉ちゃんや白音ちゃんに押し倒される前に感じ取っている気配と全く同じだっ!!

 

 ヤバいっ!!

 

 俺は本能的に習得中の技能を発動した。

 何度も失敗を繰り返しながら反復練習の様に回数を重ねていたお陰で、今回は割とスムーズに発動させる事が出来た。

 

 後ろで纏めて縛っている髪が解けて稲妻状に毛羽立った。

 

 それと殆ど同時に飛び掛ってきた二人の動きに、俺は自身の肉体を操作する事で超高速の初動を可能して避けていく。

 

 この技能は『HUNTER×HUNTER』の登場人物の一人である『キルア・ゾルディック』の『神速(カンムル)』を魔法技能的にアレンジした技能なんだけれどね。

 

 さすがに咄嗟の場合は闇の魔法(マギア・エレベア)の術式兵装を展開させる詠唱のタイムラグは、文字通り一分一秒を争う戦闘行為中は死活問題だか死ぬ気で習得中なんだよね。

 

 転生特典で『ネギ・スプリングフィールド』の魔法関連の知識は持ち合わせていても開発力の才能に乏しい愚鈍な俺ではまだまだ改良の余地あって、十全に扱い切るのは難航しているんだけれどね。

 

 こちらも不完全ながら習得中のマルチタスクを使用しながら、二人の動きをそれぞれ具に観察しながら、更に逃走ルートを幾つかピックアップしていく。

 最短の逃走ルートを選ぶと、甘美な地獄へと一気に堕とされる事請け合いだろうからね。

 

 未だに巧みにマルチタスクを使いこなせていないので偏頭痛が少ししている。

 

「どうして逃げるんですか? 私の愛を余す事なく受けて取って下さい」

「綾人きゅん……何時も恥ずかしくて眼を逸らしてごめんなさい……でも、嫌いじゃないのっ! 寧ろ大好きなのっ!」

 

 明らかに正気を失ったハイライトの消えかけた眼で俺への愛を語る生徒会長と副会長。

 漏れ出した魔力が陽炎の様に揺らめいている。

 

 コレが普段の二人からの愛の告白ならば、嬉しい悲鳴をあげていただろうね。 

 好意を向けられる事は嬉しいけれど、さすがにこの状況じゃ素直に喜べないよね。

 

 幾ら実の姉と爛れた性活を送っている俺でも、最低限の倫理観は持ち合わせているのである。

 こんな酩酊状態で致されたら、色んな意味で失敗(後悔)しそうだしね。

 

 幸い二人共に正気じゃないので、今のところ逃げ出せる可能性は高いよね。

 普段のソーナさんなら罠の可能性を捨てきれないけれど、今のソーナさんならそこまでの戦術眼は働いていないだろうしね。

 

 でもグズグズしていたら、逃げられる確率が一気に低くなるだろうしね。

 今も秒単位でストックしている電力が消費されていて、何時神速(カンムル)擬きが解けてしまうか分からないんだよね。

 

「さあ、一緒にぽかぽかしましょう」

「綾人きゅん! 抱きしめさせてっ!」

 

 生徒会室の広さでは距離を取りづらくて、直ぐ様追いつかれてしまった。

 

 さすがに緊急事態とも言えなくはないけれども、風紀を司る者の一員として校内での魔法の使用は極力最小限に留めておかないとね。

 

 でも、この程度の魔法ならば始末書一枚で済みそうかな。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 大気よ 水よ(アーエール・エト・アクア) 白霧となれ(ファクティ・ネブラ) 彼の者等に(フィク・ソンヌム) 一時の安息を(ブレウェム) 眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)

 

 俺の魔法で生じた霧がソーナさんと真羅さんを包み込んだ。

 

 ほっと一息吐こうとした束の間、次の瞬間には霧が文字通り霧散してしまった。

 

「ちぃっ!! そうだったよね……」

 

 俺は自分の失態に思わず顔を顰めながら舌打ちした。

 

 ソーナさんは水の魔力を得意としているんだったよね。

 霧は水蒸気、つまりは水が形状変化したものだから無効化(レジスト)されてしまったようだね。

 

 ソーナさんは才能溢れる上級悪魔としては珍しく努力をするタイプだからね。

 リアスさんも俺の影響で努力する様になったけれど、俺と出会う前から血が滲む様な努力してきたソーナさん方がまだまだ一枚上手かな。

 

 ……って、感心している場合じゃないんだよねっ!

 

 さすがに完全には無効化(レジスト)しきれなかったみたいだから、今の内に逃げないと後で後悔する事になるよね。

 

 俺は窓を開ける手間を惜しんで、蹴破って生徒会室から脱兎の如く脱出した。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 人目を避けて来たのが裏目に出たのは、今更後悔しても後の祭りだろうね。

 まあ、俺を追いかけているメンバーの中に一般の女生徒さん達が混じっていないのは不幸中の幸いって言えるかな?

 

 俺は最早秘匿義務をほっぽり出して、持ちうる全ての技能を駆使して全力で逃走しているんだよね。

 

 振り向くのが怖いのできちんとは確認していないけれど、俺を追いかけているのは何時の間にか二人だけではないみたいなんだよね。

 しかも、時間が経つ毎に背後から感じられる気配が一人二人と増えて行っている上に、段々と狂気のレベルが上がってきている様なんだよね。

 まあ、狂気が上がっていくと反比例的に理性も吹き飛んでいっている様で本能的に追いかけてきているみたいだから、俺は紙一重だけれど未だに捕まっていないんだけれどね。

 

 捕まったが最後、文字通り精も根も尽き果てるまで搾り取られるだろうからね。

 さすがに死にはしないと思いたいけれど、学園の風紀を司る者の一員である俺が校内で淫行を行なったとなれば大問題だからね。

 例え俺の方が被害者でも、そうなったら確実に社会的に死ねるよね。

 

 まあ、揉み消しは可能だろうけれど、俺の心情的にもソレは避けたいよね。

 徒でさえ、俺は堕天使の血を引く混血児(ハーフ)からの転生悪魔で、表立っては皆無とも言えるけれど裏では虎視眈々とグレモリー家やシトリー家、更にはサーゼクス・ルシファー様やセラフォルー・レヴィアタン様を蹴落とそうとチャンスを伺っている輩は少なくないからね。

 

 こんな事で迷惑を掛けるわけにはいかないんだよね。

 

 既に出しまっている周囲の被害については、まあ……うん、割り切るしかなさそうだけれどね。

 未だに死傷者が出ていないは、ギリギリのラインで追っ手の人達の理性が残っていると信じたいよね。

 

 ネギ・スプリングフィールドの魔力を転生特典でもらって、更に修行で鍛え抜いていてもさすがに魔力が底を尽きかけてきている。

 体力と気力もそろそろヤバそうなんだよね。

 

 それに何故だかナラカの反応もなくて、淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)は展開出来ていても十全にその機能が発揮出来ていないので、迫り来る魔法等の吸収無効化が上手く出来ていないのも文字通り痛手だよね。

 

 もうダメかと諦めかけていると、曲がり角を曲がった際に暗がりへと引き込まれてしまった。

 

 既に振り解けるだけの力も殆ど残っていない俺は眼を瞑って覚悟を決めた。

 直ぐ様、口が塞がれて相手の舌が俺の口内を蹂躙してくる。

 たどたどしくも情熱的な舌使いに、疲れきっていた俺はすっかりと腰が抜けてしまった。

 

 暫くしてから離れた顔を見ると、見慣れた一人の女生徒さんが耳まで真っ赤になって佇んでした。

 

「……どっ、どうですか、綾人くん? 私の異能(スキル)で効果は消え……きれてないですね」

 

 明日菜さんは自身の唇をなぞりながら、頬を朱色に染めながら潤んだ瞳で困った様に苦笑していた。

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら、その姿に見惚れてしまっていた。

 

「幸い効果が薄れて皆さん正気に戻りかけている様子なので、今の内に隠れてしまいましょう」

 

 俺は手を引かれるまま、明日菜さんに導かれていった。

 

 この時、俺にしっかりとした思考力が残っていたらこの後の出来事はなかったのかも知れない。

 俺は疲労困憊な上に憧れの一人でもある現風紀委員長の明日菜さんからの接吻で、思考力が蕩けて皆無だったのは言い訳にもならないかも知れないけれど、弁明の余地は残されていると信じたい心境に陥ったんだよね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「少し埃っぽいですが、どうぞ寛いでね」

 

 無造作に飾られている古今東西の武具が見守る中で、俺は勧められるまま畳の上に敷かれた座布団に胡座をかいて座った。

 

 対する明日菜さんはきちんと正座しながら緑茶を啜っている。

 

 俺も五月蝿い程に鼓動している自身の心臓を落ち着ける為に湯呑を傾けた。

 口に広がる仄かな苦味が、俺の高ぶっている精神を落ち着かせてくれる気がする。

 

 ここには始めて入ったが、確か口伝でのみ語られている歴代の風紀委員長さん達の鍛錬場だろうね。

 

 俺がここに居る資格は、果たしてあるんだろうか?

 

 俺が自身の価値に疑問を抱いていると、明日菜さんが意を決した様に話しかけたきた。

 

「あっ、綾人くんっ!!」

「ひゃっ、ひゃい!!」

「…………」

「…………」

 

 明日菜さんは緊張した様子で二の句を継げない様子である。

 俺は背筋を正しながら次の言葉を待つことしか出来なかった。

 

「あはは♪ 女性経験が豊富な綾人くんでも、私と二人っきりでそんなに緊張してくれるなんて嬉しいかな?」

 

 そんな俺の様子に明日菜さんは吹き出した様に笑いながら、緊張が解きほぐれたみたいである。

 

 明日菜さんの表情は一見すると花も綻ぶ笑顔だけれど、俺は本能的に尻込みしていた。

 綺麗な花には棘があるって言うけれど、コレってもしかしなくても……

 

 一瞬の思考の隙に明日菜さんは俺を押し倒してきた。

 俺は抵抗することなくされるがままに組み敷かれている。

 

「綾人くん……」

「はい……」

 

 俺は何処か他人事の様に自分の置かれている状況を確認しながらも、これからの展開に期待に胸が高鳴っていた。

 

「摂取した魔法薬……いえ、()()は君の体質と幾つかの要素が折り重なった混沌とも言える状態で、私の異能(スキル)でも簡単に解呪出来なくなっています。今は一時的に効果が薄まっていますが、時間が経つと元通りになるでしょうね」

 

 俺の耳元で囁く様に紡がれている明日菜さんの声色は、俺を更なる深淵へと堕としていく様に感じられる。

 

「はむ……♪ くちゅくちゅ……♥」

 

 再び重ねられた唇は先程とは比べ物にならないぐらいの熱を帯びている様に感じられた。

 

 俺の舌は絡め取られてしまって息も絶え絶えになってしまい、完全に思考力まで奪われてしまった。

 

 その先の展開は詳しくは語る気は、今のところないよ。

 

 ただ、無造作に脱ぎ捨てられたお互いの制服や下着等と、畳の上に出来た赤い染みや部屋に充満している()()()()で察して欲しいとだけ言っておくけれどね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 疲労から何時の間にか寝転けていた俺の耳に明日菜さんの言葉が染み込む様に聞こえてきた。

 察するにスマフォ越しに誰かと通話しているみたいである。

 

「今回の件の弁明はありますか? 幾ら貴女が裏御三家の直系の血筋だと言っても、()()でもある貴女の立場を悪くするだけ……」

「----」

「えっ……? 私が綾人くんの楔に……?」

「----」

「理解出来ますが、納得は出来ませんね。そうなると貴女の気持ちは……」

「----」

「ごめんなさい……私も少し気が動転している様ですね……はい、では、また……今度はゆっくりと一緒にお茶でもしましょうね」

「----」

 

 通話が終わった明日菜さんは俺と眼が合うと、頬を朱色に染めながらも嬉しそうに微笑んできてくれた。

 

「起こしてしまいましたね。もう少し眠っていても構いませんよ?」

「どうせなら、膝枕をお願いしても良いですか?」

 

 俺の提案に明日菜さんは一瞬眼を丸くしたけれども、にっこりと微笑んで膝の上に俺の頭をゆっくりと乗せて髪を梳く様に撫でてくれている。

 

「暫し安らいでね……起きたら色々と問題が山済みでしょうからね」

 

 俺は直ぐ様、微睡みへと堕ちていった。

 脳裏に姉ちゃんと白音ちゃんやリアスさん達への言い訳が掠めたが、今は眠気に誘われるままに堕ちていこう。

 

 現から夢へと堕ちる際に、何故だか()()を司る(モノ)だけでなく()()を司る(モノ)が出てきそうな予感がしたのは、俺の勘違いだと思いたいけれど強烈な存在感が否とは言わせてくれそうにないんだよね。

 

 コレは夢の中でも安らぐのは難しいかな?

 多分コレは肉体言語で言い訳しないと、下手すると無限ループな夢の狭間へと堕ちうるよね。

 

 件の龍達は俺との交流で人間臭さが垣間見れる様になってきたと言っても、己の感情を正しく理解して行動出来るまでは情操が育っていないだろうからね。

 まあ、乙女心は複雑怪奇なので、受身が主体の男の子な俺には本当の意味では理解出来ないだろうけれどね。

 

 さてと、俺は今回はどれだけ持ち堪える事が出来るだろうか?

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

一応、二次創作における原作キャラの魔改造的なモノを仄かに漂わせているのはご容赦願いたいです。

それと以前感想で頂いていたシトリー眷属の王と女王が綾人のヒロイン入りのフラグが建ちました。

序でに無限だけでなく夢幻もヒロイン化するかも知れませんが、予定は未定ですね。

その他、未だ登場していない原作キャラ(TS化含む)もヒロイン入りする予定ですので、楽しみにお待ち頂けたら幸いです。

※この番外編は次の話が書き終えましたら、プロローグの後にでも移動させる予定です。
 もしも、他の番外編も書く機会があったらそちらで纏めていった方が見やすいですよね。

それでは、皆様『ハッピーヴァレンタイン♥』




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。