ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~   作:Mr.凸凹

17 / 20
お待たせいたしました。

オイラの拙い二次SSを心待ちにしてくれる人が一人でも居たら嬉しいです。

更新が滞り気味でしたが、鎌鼬さん作の『せーはいせんそー』にオリ主である姫島 綾人がキャスター枠で出演する事になって、再び重い筆を走らせてみました。

どうぞ、お収め下さいませ。


第14話

 

 

 

 

 

「……以上が堕天使下部組織、通称教会の最新の動向です。今回の教会の標的(ターゲット)の細かい補足は別途に用意した書類を参照して下さい」

 

 会議室にて普段から掛けている眼鏡のブリッジを人差し指で軽く押し上げて若干のズレを直しながら、持っていた書類から目を離して眼の前に座っている二人へと目線を向ける。

 

 俺の説明を受けてリアスさんとソーナさんが書類に眼を通して黙読している。

 その表情はどちらも真面目一辺倒に見える。

 

 だが僅かに眉が顰められており、その胸中を察するに余り有るね。

 何せ駒王学園始まって以来の問題児(トラブル・メーカー)とも言えるイッセーちゃんの詳しいプロフィールが載されているんだよね。

 さすがに二人共今は未だ直接の被害(セクハラ)を受けた事は無い様だけれど、イッセーちゃんの赤裸々なおっぱいに掛ける情熱を知っているんだから、この反応は致し方ないよね。

 

「綾人くん……」

「はい。何でしょうか、ソーナさん?」

 

 ソーナさんは冷静沈着な表情の仮面を被りながら俺の眼を確かめる様に覗き込んできている。

 まあ、若干被りきれてなくて額に一筋の汗が流れているのはご愛嬌かな?

 

「この教会の動向の信憑性は如何程でしょうか?」

「そうですね……教会に潜入しているミッテルトちゃん(我が愛しき下僕)だけでなく多方面からの情報を加味した結果、この件の兵藤 一誠の宿していると思われる神器(セイクリッド・ギア)神の子を見張る者(グリゴリ)が危険視しているのは間違いないようです」

「それって人間社会規模でしか機能しないものではなく、私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器(セイクリッド・ギア)を宿している可能性があるって事かしら?」

 

 リアスさんは興味深そうに書類のイッセーちゃんの写真を眺めながら訊ねてきた。

 

「ええ……しかも、彼女から感じられる波動は俺の神器(セイクリッド・ギア)に封印されている深淵龍(アビス・ドラゴン)のナラカと同種の系統の様ですね」

「それって、龍が封じ込められた神器(セイクリッド・ギア)って事よね? しかも、並みの神器(セイクリッド・ギア)ではないとすれば……」

 

 リアスさんは書類から目を離して俺の表情を読み取る様に見詰めてきている。

 その瞳には期待が溢れかえっている。

 

「ええ……確証はないですが、可能性はゼロではないですよね」

 

 俺は肩を竦めながら苦笑を浮かべている。

 さすがに神滅具(ロンギヌス)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の事は今はまだ確定情報としては教えられないよね。

 まあ、原作知識で知っているけれど、この時点で俺が確信しているのは普通に考えたらおかしい事だからね。

 

 それにしても、イッセーちゃんは俺や白音ちゃんと共に功夫を鍛えていく内に徐々に覚醒してきている様で僅かに龍氣が宿り始めている。

 今はまだ微々たるもので余程注意深く感じ取ろうとしないと認識出来ないレベルではあるが、原作よりも成長しているのは確かである。

 

「それは是非とも眷属に欲しいわね!」

 

 リアスさんは興奮した様子で嬉しそうに燥いでいる。

 

「落ち着きなさい、リアス……縦しんば上級の神器(セイクリッド・ギア)を宿していたら転生悪魔にするのは簡単ではないですし、何より本人が望まなければ駄目ですよ」

「わっ、分かってるわよ!」

 

 ソーナさんに窘められてばつが悪そうに眼を逸らしているリアスさん。

 

「では教会は暫く泳がせておいて、襲われたところを助けて契約を結ぶといった感じの方向で進めても構いませんか? 彼女が保護を求めれば、多少強引でしょうけれど大義名分も成り立つでしょうしね」

 

 俺は落とし所として自分の考えを忌憚なく述べた。

 契約と言う形を取るもののイッセーちゃんにも悪い話ではないだろう。

 彼女の性格や趣味嗜好を鑑みるに転生悪魔になる事への抵抗は高くないだろうしね。

 まあ、波乱万丈の生を歩む事には違いないけれど、若い身空で死んでしまうよりは良いだろう。

 対価に見合う将来は約束されるだろうしね。

 

「……若干の不安要素は感じられますが、私としては依存ありません」

「私としても依存はないわ」

 

 チラチラと窺う様にソーナさんを見ているリアスさん。

 

「はぁ……今回はリアスに譲ります」

 

 ソーナさんはため息を吐きながら眼鏡を外してレンズを磨いている。

 

「ありがとう、ソーナ♪」

 

 リアスさんは表情を一変させて満面の笑みを浮かべている。

 

「さてと……綾人くん。この後、お時間ありますか? よろしければ、一局お相手願えますか?」

 

 今までの冷静沈着な上級悪魔としての仮面を取り去って年相応の少女の様な笑みを浮かべながら訊ねてくるソーナさん。

 

「ええ、喜んで……胸をお借りします」

 

 俺はソーナさんに微笑み返しながら承諾した。

 最初の頃はソーナさんは俺にチェスを手取り足取り教えていくスタンスを取っていたが、亀の歩みだが徐々にチェスを通して戦略眼を鍛えられていく俺に敬意を表してくれて今では全力で相手をしてくれる。

 俺も大分鍛えられたがソーナさんもチェスの腕前を上げていっているので中々勝てなかったが、なんとか喰らいついっていって、チェスの戦績は今や10戦中3~4勝を程取れるようになったけれどね。

 

 さあ、とびっきりの遊戯を始めよう。

 これは厳密には遊びであって遊びではない。

 だが遊び心を忘れてしまってはいけない。

 今は賭けるのはお互いに己の矜持(プライド)のみである。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、旧校舎を望む校庭の一角で功夫を重ねている。

 千里の道も一歩からと言うし、殆ど才能に恵まれていない凡骨な俺は日々の積み重ねが重要である。

 

 白音ちゃんとイッセーちゃんと並んで八極拳の型をなぞる様に演舞を行う。

 これが地味に見えて結構キツいのである。

 

 俺は寸分違わず己の身体の動きを把握して流れる様に行える様になるのに少なくない年月を費やしたものである。

 

 その点、白音ちゃんやイッセーちゃんの才能は俺を凌駕している。

 特に最近のイッセーちゃんは眼を見張るものがある。

 その事に対して何も思わないと言えば嘘になるが、腐ていてもしょうがない。

 俺も魔法拳士の端くれとして譲れないものがあるから常に前を向いて精進を重ねていく。

 

 ゆっくりとだが確実に型を行っていくと心地良い疲労感が全身を満たしていく。

 やはり()()()()に組み込んでいる魔力負荷や龍氣負荷が齎す効果は、少なからず俺の能力向上に一役買ってくれている。

 愚鈍な今の俺では徐々に膨れ上がっていく自身の魔力や龍氣に耐え切れずに自滅の恐れがあるからね。

 亀の歩みでも制御力を向上させる必要がある。

 まあ、制御力も確かに徐々に上がっているけれども、それに伴い魔力や龍氣も少しずつ上昇していっているから、正に鼬ごっこなんだけれどね。

 転生特典の限界無しの鍛えれば鍛えるほど強く成長していく心技体も、制御力が追いつかなければ宝の持ち腐れになるから我武者羅に鍛えている。

 

 

 

 

 

「お疲れ様……白音ちゃん、イッセーちゃん」

 

 一通り型の実演を終えて、俺は微笑みながら白音ちゃんとイッセーちゃんにスポーツタオルと俺謹製の特性ドリンクを手渡す。

 

「ありがとうございます、兄さま」

「ありがと、綾人きゅん♪」

 

 白音ちゃんとイッセーちゃんは滴る汗を拭きつつ、特性ドリンクの入ったカップのストローに口をつける。

 因みに少々独特の苦味があるが飲みなれると癖になる味わいの特性ドリンクの配合は秘密である。

 

 えっ? 中身の話を聞きたいの?

 本当に? 後悔しない?

 世の中には知らない方が幸せな事もあるよ?

 

「ご馳走様です、兄さま」

「ぷふぁ~♪ 元気が漲るぅ~!」

 

 俺が謎の電波を受信している内に、態と微温く保っていた特性ドリンクが見る間に空になった様である。

 静かに微笑みかけてくる白音ちゃんとは裏腹に、イッセーちゃんは何処かオヤジ臭い感じがする様子である。

 まあ、それが嫌味ではなく似合っているので嫌悪感は抱かないけれどね。

 寧ろギャップ萌えって言えなくもないのかな?

 

 

 

 

 

 

「あっ!!? そうだ! 綾人きゅん、今度の日曜日の鍛錬は休んでも構わないかな?」 

 

 クールダウンを兼ねているストレッチで身体を解しているとイッセーちゃんが思い出したかの様に訊ねてきた。

 

「鍛錬を一日休むと取り戻すのに三日も掛かって、その分時間を無駄にするんだけれど……」

 

 俺は態とジト目になりながらイッセーちゃんを見詰めている。

 

「うっ!!? そっ、それは……そう! 最低限の自己鍛錬するから、大丈夫だよ!」

 

 額に冷や汗を流しながら苦し紛れの言い訳をするイッセーちゃん。

 

「ふぅ……その代わり理由を教えてよ。それで俺を納得させられれば……まあ、構わないよ」

 

 俺は腕を組みながら片目を閉じて聞く体勢になった。

 

 まあ、十中八九の確率でレイナーレ絡みだろうね。

 先日接触したとの報告があったからね。

 

「実は……今度の日曜日に知り合った女の子と遊びに行くんだぁ~♪ その娘、お胸様が素晴らしくて……♥」

 

 その胸のサイズを思い出したのか、卑猥な手付きでエアおっぱいを揉む様に指を動かしているイッセーちゃん。

 

「最低です……」

 

 白音ちゃんはそのイッセーちゃんの様子を見て、無意識に自分の胸の大きさを確かめる様に覆いながら、さらりと毒を吐いている。

 そして、ちらりと俺の様子を伺う様に目線を向けてきている。

 

 安心して、白音ちゃん。

 現世の俺は胸の大きさにそんなにこだわりがないからね。

 前世では確かにちっぱいの方が好きだったけれど、現世で姉ちゃんの成長したお胸様を味わってからは、お胸様に貴賎なしって思っているからね。

 

 俺とのアイコンタクトで俺の性癖を改めて認識し直した白音ちゃんは機嫌が直った様である。

 

「ふむ……まあ、それなら構わないよ。俺にイッセーちゃんのプライベートの行動を制限する権限はないからね」

 

 俺は肩を竦めながら答えた。

 

 俺はイッセーちゃんの拳法の師匠とは言えるけれども彼氏じゃないからね。

 まあ、彼氏でも束縛する気はないけれどね。

 

 それに俺はどちらかと言うと束縛される方だからね。

 姉ちゃん然り、白音ちゃん然り、女性に手綱(主導権)を握られてしまっている。

 それが嫌と言う訳ではなくて、逆に快感を得られるまでに身も心も調教されてしまっている俺は、もう前世の頃のある意味において汚れを知らなかった頃に戻れないだろうしね。

 

「ありがとう、綾人きゅん♥」

 

 俺が再び、思考の海へとダイブしていると、イッセーちゃんは嬉しそうに俺を抱きしめにきた。

 俺は逃げるタイミングを失ってされるがままである。

 

 しかも、身長差で俺の顔はイッセーちゃんの胸に挟まれている状態である。

 姉ちゃんに比べたら小振りだけれどそこそこあるボリュームのある感触と女の子特有の甘い匂いに、思わず身体の一部が元気になってしまう。

 

 その後は大変だった。

 嫉妬した白音ちゃんに戦車(ルーク)の怪力で思い切り背中を抓られたり、イッセーちゃんには股間に張ったテントがバレて逆セクハラされそうになったりした。

 幸いにも股間のテントの件は白音ちゃんにはバレなかった様である。

 

 もしバレていたら、姉ちゃんに影響されてSの気質に目覚めつつある白音ちゃんにお仕置きと称して()()をされるか想像するだけで……ごくり……はっ!!?

 なっ、何でもないよ!

 べっ、別に足コキとか望んでないよ!

 本当だよっ!!

 

 嘘です。しっかりと脳裏の片隅で望んでしまいました。

 俺はすっかりとドMな気質に堕ちていると、改まって実感し直したよ。

 まあ、ボッチで素人童貞だった前世よりもある意味において幸せだから問題ないよね?

 誰かそうだと言ってよ!!

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 今日はイッセーちゃんが楽しみにしていた件の日曜日である。

 

 本来なら今回の案件は我が主であるリアスさんが出張るのが一番なのだろうけれど、下手に介入すると堕天使と悪魔の戦争の引き金を引きかねない事案だから俺一人行動しているのである。

 影に見え隠れしているコカビエルさんの存在は厄介である。

 彼は先ず間違えなくこの世界でも戦争を望んでいるみたいだしね。

 

 それにもしも、コカビエルさんの息が掛かった者と戦闘になったとしても、俺一人だけならば何とかなるだろうしね。

 今のところグレモリー眷属並びにシトリー眷属の中の最高戦力は俺だしね。

 

 それに政治的に考えても俺が一番妥当だと言えるからね。

 俺はアザゼルさんとは非公式にだけれど、フランクな関係を継続している。

 未だにアザゼルさんは丸で親戚の小父さんの様な態度で俺に接してくれているのである。

 それは堕天使の混血児(ハーフ)から転生悪魔になった俺でも、何とか堕天使の総督のアザゼルさんに顔が利く状態を維持している事を意味している。

 

 まあ、いち転生悪魔な俺に政治的に頼るのはナンセンスな事かもしれないけれど、背に腹は変えられないからね。

 

 一応、イッセーちゃんには用心として俺謹製のお守りを渡しているから心配はいらないと思うけれどね。

 でも、何かあったら後悔してもしきれない。

 

 世界には歴史の修正力が働いていて殆ど原作通りに事が運ぶ可能性が大きいのである。

 変えられる事は多くはないが、望む結果を得るためには努力を惜しんでられない。

 

 俺は己の持てる全ての技法や能力を駆使してイッセーちゃんを影から見守っている。

 イッセーちゃんは服装は臍出しの短めのタンクトップの上に革ジャンを羽織っていて、下はスカートではなくパンツルックである。

 髪型は普段とは違ってポニーテールにしており、バンダナで纏めている様である。

 

 イッセーちゃんは何処かそわそわした様子で頻りに時計を確認していた。

 丸で初デートに繰り出した男の子の様で微笑ましい感じである。

 

 俺はその様子を具に観察している。

 普段の制服姿も良いけれど、滅多に見る機会のない私服なイッセーちゃんの姿は眼の保養になる。

 イッセーちゃんは本当に黙っていれば美人さんなのである。

 

 えっ!!?

 なっ、なんだとっ!!?

 誰がストーカーだってぇえぇえ~!!?

 はっ!!?

 どこからか電波を受信して、思わず取り乱しそうになってしまった。

 

 落ち着け、姫島 綾人。

 一応、万が一バレても直ぐに俺とは気付かれない様に変装しているけれど、見つからないに越した事はない。

 

 俺の姿は簡単に髪型をオールバックにしたり、服装を普段好んで着ているカジュアルウェアからパンクロックファションへと変更している。

 こんな格好は俺の好みから随分と掛け離れているけれど、休日に普段の格好で一人で行動していたら大概年上のお姉さん達に声を掛けられるからね。

 少しでも近寄り難い服装と雰囲気にしておかないとね。

 

 所謂ところの逆ナンパだけなら未だいいけれどね。

 下手をすると逆援交までする羽目になりそうになるからね。

 実際に以前に姉ちゃんと逸れた際には、如何にもお水系なお姉さんに声を掛けられて、そのまま色町に連れ込まれそうになった事もあった。

 その時は姉ちゃんが駆けつけてくれて、やんわりとだが棘がある言い回しでそのお姉さんを追い払ってくれたから事なき得たんだよね。

 

 まあ、代わりに姉ちゃんに種が尽きるまで搾り取られたんだけれどね。

 途中でゴムが尽きた時はどうしようかと思ったものだったね。

 さすがに学生の身分で子供を授かったら拙いからね。

 仕方ないから姉ちゃんの胸で扱いてもらったりして行為を続けたものだった。

 これが白音ちゃんも交じるならば、仙術で仮に受精しても着床しない様にコントロール出来るそうだから、何時も生で遠慮なくしているんだけれどね。

 

 えっ!!? 姉ちゃんとは血が繋がっている実の姉弟なのに性交は禁忌だって?

 そんなの今更だよね。

 転生悪魔になった俺達に現代日本の社会常識は通用しないのである。

 まあ、この際建前は今更どうでもいいけれどね。

 俺と姉ちゃんはお互いに深く強く依存しあっていて、どちらか一方でも欠けたら生きていけないだろうしね。

 もう純粋に姉弟をしていた頃には戻れそうにないよね。

 

 後それに、姉ちゃんが未だに踏ん切りがつかなくて父さんとの仲を修復しきれていないから、俺と父さんとは微妙な関係なままである。

 堕天使の中には俺や姉ちゃんを裏切り者呼ばわりする者達が少なからず存在しているから、余計に父さんとの関係修復は難しいものとなっているからね。

 まあ、俺と姉ちゃんが男女の関係に堕ちているから、今更どの面下げて父さんに会えばいいのか俺自身躊躇っているところもあるから、こっちからは歩み寄りにくいんだけれどね。

 姉ちゃんとの関係は今更後悔はしないけれど、やっぱり少しばかり俺の心の片隅で罪悪感を感じている証拠だろうね。

 

 っと、いけない。

 思考が大分ズレてしまっていたね。

 今はイッセーちゃんを見守る事に集中しないとね。

 

 

 

 

 

 

 暫くイッセーちゃんの様子を伺っていると、一人の女の子が現れた。

 写真でしか見たことはないけれども、間違えなくレイナーレの様である。

 彼女はにこやかそうに笑みを浮かべているが、俺の眼には巣に絡め取った獲物を舌舐りをしながら捕食しようしている様にも感じ取られる。

 

 しかし、彼女は少しばかり自意識過剰気味なんだろうな。

 隠すことなく堕天使の気配を漂わせている。

 俺ならこんな馬鹿な部下はいらない。

 まあ、さすがにアザゼルさんも部下の行動の全てに眼を光らせている訳じゃないだろうから、レイナーレの行動の一部始終を知っている訳じゃないだろうしね。

 

 この駒王町は四大魔王様の一角のサーゼクス様の妹君である、我が主でグレモリー家次期当主のリアス・グレモリーが日本に滞在する際に与えられた領土である。

 しかも原作ではどうだったかは知らないけれども、この世界では日本神話勢力にも非公式にだがリアスさんの領土として駒王町は認められている。

 以前は相互不干渉が暗黙の了解だった様だが、今代の淵龍王を宿している俺を切っ掛けに色々と事態が動いている様である。

 そこで中級の堕天使が問題を起こせば、アザゼルさんの望む和平から遠のくって理解出来ないんだろうか?

 まあ、アザゼルさんも今のところは大々的に和平を訴えていないから、レイナーレは知らないんだろうけれどね。

 でもそれは怠慢であると言える。

 知らなかったでは済まされない。

 自らのエゴでアザゼルさんやシェムハザさんに憧れに似た敬愛を向けている以上、彼らの意にそぐわない行動は避けるべきである。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんとレイナーレは仲良く連れ立っており、その様子は会ったばかりの友達というよりも初々しい百合ップルの様な空気を醸し出している。

 レイナーレはイッセーちゃんに絡みつく様に寄り添っているし、イッセーちゃんも然りげ無くレイナーレの腰に手を回して丸で抱き寄せる様にしている。

 まあ、イッセーちゃんの緩みきった表情は乙女としてはどうなんだろうと思うけれど、そこは見ない振りをしておくのが友達としての最大の譲歩かな。

 

 そうなのだ。

 今のところ俺とイッセーちゃんの関係は師弟関係を除くと、友達止まりであると言える。

 まあ、イッセーちゃんからは恋愛感情混じりの好意を向けられてはいるけれどね。

 今のところ応える事なくはぐらかしているからね。

 

 心の片隅では、イッセーちゃんのその想いに答える事で、彼女をこちらの事情に巻き込む事を躊躇っていたのかもしれない。

 今回の事案は謂わば、契機と捉える事出来るだろう。

 無自覚に躊躇っていた俺の決心をある意味において付けさせるのには十分である。

 もうイッセーちゃんは、三大勢力や他の勢力からの干渉を避けられないだろう。

 

 出来れば原作通りに俺と同じくリアス・グレモリー眷属になってくれると嬉しいけれども、万が一イッセーちゃんが拒否したら彼女の意思を尊重しよう。

 リアスさんやソーナさんには転生悪魔に勧誘すると言っていたのに随分身勝手な発想と言えるけれども、イッセーちゃんは最早小説の主人公ではなくて同じ世界に生きている者である。

 俺の思い通りにならないからと言って、癇癪を起こすのは出来ないのである。

 

 もしも、レイナーレが純粋にイッセーちゃんの好意に応えるならば、それはそれで構わないと思っている。

 その時は納得し難いが祝福しようとさえ思っている。

 だけれど、レイナーレにその気はないだろう。

 

 俺の友達のイッセーちゃんを害するならば容赦はしない。

 だがまあ、今回は追い払えれば、それで良しとしておくべきだろう。

 

 これは俺のエゴだが、来るアーシアちゃんとの繋ぎの役割をしてもらう必要があるからね。

 手を拱いていたら、アーシアちゃんはディオドラ・アスタロトの眷属の転生悪魔にされて、身も心も犯されてしまうだろう。

 それだけは絶対に許容出来ない。

 

 イッセーちゃんやアーシアちゃんの意思を尊重すると言ってるのに矛盾するかもしれないけれど、利用出来る物は有効活用させてもらっても罰は当たらないよね?

 

 俺はある意味において強欲なのかもしれない。

 俺の手の届く範囲でも構わないから、俺の愛する者達が幸せになって欲しいと願っているのである。

 勿論、手が届かないからと諦めたりしないけれどね。

 

 そこには当人達の意思は関係なく、あるのは俺の押し付けがましい善意とも言えないエゴが存在する。

 例え俺の行動によって嫌われても構わない。

 愛する者達が幸せならば、それでいい。

 まあ、出来れば好かれていたいが、贅沢は言ってられない。

 

 俺は万能の神様ではない。

 それに例え神様でも万能とは言えないだろう。

 事実において聖書の神は亡くなっている。

 そう、この世に完全なモノなど存在しない。

 

 だから履き違えるな、姫島 綾人。

 己一人の力で世界を望む様に変えようなんて、ただの妄言である。

 

 仲間達と力を合わせる事が重要である事を、常に頭の片隅に置いておけ。

 俺は独りじゃない。

 頼もしい仲間に恵まれている。

 

 だが、その幸せを享受するだけでなく日々努力を重ねて精進すべきである。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんを見守りつつ、自分のエゴを再確認していると何時の間にか夕暮れどきの公園に辿り着いていた。

 

 ここからは一層気を引き締める必要がある。

 気配を殺しつつ、レイナーレとイッセーちゃんの一挙一動に眼を凝らす。

 

「今日は楽しかったね」

 

 イッセーちゃんから離れて噴水をバックに微笑むレイナーレ。

 

 その顔は確かに満面の笑みとも言えるが、眼がちっとも笑っていない。

 どちらかと言うとその眼には侮蔑とも取れる感情が見て取れる。

 

 やっぱり神器(セイクリッド・ギア)を宿していると言っても、今のところはただの人間であるイッセーちゃんを見下しているんだろうね。

 

「ねぇ、イッセーちゃん?」

「何かな、夕麻ちゃん」

 

 一見すると甘酸っぱい空気にも見えなくはないけれど、微かに漏れ出してる殺気で台無しである。

 

 本当にレイナーレは三流役者だよね。

 殺気は殺す瞬間にだけ発する様にしないと格上相手では通用しない。

 

「私たちの記念すべき初デートって事でひとつ、私のお願いを聞いてくれる?」

 

 イッセーちゃんは生唾を呑み込みながら、期待に胸を膨らませていることだろう。

 

「なっ、何かな、おっ、お願いって」

 

 丸で童貞の少年の様な反応のイッセーちゃんに対して、レイナーレは笑みを深めている。

 そしてはっきりとイッセーちゃんに向かって宣言するかの様に静かに言い放つレイナーレ。

 

「死んでくれないかな」

 

 突然の期待外れでいて物騒なお願いに、イッセーちゃんの思考は停止しているみたいである。

 

「……? それって……あれ、ゴメンね。もう一度言ってもらってもいいかな? なんか、あたしの耳が変になったみたい……」

 

 聞き間違えだと思って縋る様に聞き返しているイッセーちゃん。

 

「死んでくれないかな」

 

 はっきりと笑顔を浮かべながら言ったレイナーレ。

 

 固まっているイッセーちゃんの眼の前でレイナーレは自身の正体を現す様に堕天使の羽を展開した。

 

 焦るな!

 まだ踏み込むタイミングじゃない!

 

 俺は飛び出しそうになるのを、ぐっと堪えて様子を伺い続ける。

 

 後で思い出しても、この時は集中しすぎて周りに気を配れていないのは失策だった。

 そう、この二人を付けていたのは俺だけじゃなかったのである。

 

 

 

 

 




家のTSイッセーちゃんの一人称に迷っていましたが、結局のところイメージ元の『絶対可憐チルドレン」の『赤石 薫』と一緒の『あたし』にしました。

ご意見ご感想、並びに批評や評価をお待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。