ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~   作:Mr.凸凹

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【第一章】 旧校舎のディアボロス
第13話


 

 

 

 

 

 駒王学園高等部の生活も大分馴染んできた今日この頃。

 高等部に入学してから幾月か過ぎて、俺は二年生へと進級していた。

 後輩として白音ちゃんとギャスパーちゃんが入学してきたのがつい最近の様に感じられる。

 そして、相も変わらず今日も専ら一番の悩みの種と言える人物と第一種戦闘配置とも言える遭遇をしていた。

 

「はぁ~……何時も言っているけれど()()でも同意を得ない接触はセクハラだよ」

 

 俺に制服の首根っこを掴まれて猫の様にぶら下げられている一人の女生徒。

 彼女の下心塗れの行為は風紀委員の一員の俺としては見逃せない要注意人物の一人である。

 黙っていれば美少女と言える程の容貌の彼女は、若干困った表情を浮かべながらも嬉しそうに表情を崩したまま手をわきわきと卑猥に動かしている。

 その表情は丸でセクハラオヤジの様だ。

 口元には涎も垂れている。

 

「だってそこにおっぱいがあるんだよ! お胸様信者としては是非とも触って感触を確かめないとっ!」

 

 俺に掴まれたまま力説する人物の名は兵藤 一誠と言う。

 見紛う事のないスカートを身に付けているのだが、別段に女装癖のある残念さんではない。

 少しくせっ毛のある天然パーマな髪型がキュートなチャームポイントな紛れもなく女生徒なのだ。

 そうなのだ。原作主人公まで女性(TS)化しているのだ。

 本当に神様は俺にどうして欲しいのだろうか?

 最初に出会った時には軽く絶望したものだったが、今となってはコレが普通となった。

 幾ら適応能力が一般人よりも若干高いとは言えども慣れって怖いよね。

 

「安心して、綾人きゅん! 君の雄っぱいは別腹で逝けるからっ!」

 

 サムズアップした手と反対側の手で俺の胸を弄るイッセーちゃん。

 

「っ!!? やめなさい!」

 

 俺はイッセーちゃんを利き腕で猫掴みしたまま、空いた反対側の手で彼女の脳天にチョップを振り下ろした。

 

「うぎゃっ!!?」

 

 しまったっ!!?

 

 咄嗟の事に反射的に手を出してしまった。

 一応は無意識に若干だが手加減出来ていた様だが、さすがに転生悪魔である戦車(ルーク)の怪力で小突かれたイッセーちゃんは白目を剥いて気絶してしまった様である。

 チョップの勢いで俺の手から落ちて地面に横たわるイッセーちゃんのスカートが捲れ上がって下着が見えそうで見えないラインを形成していた。

 その存在を余す事なく主張しているニーソックスとスカートが生み出している絶対領域が眩しい。

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら、その細くも鍛え上げられた太股に魅入ってしまった。

 実際にはニーソックスに覆われていてその程好く引き締まった太股は窺い知る事が出来ないが、その事が逆に俺の妄想力(リビドー)を激しく掻き立ててくる。

 

 イッセーちゃんは何時しか見様見真似で俺の功夫を真似る様になっていった。

 最初は才能は殆ど感じられなかったが直向きに努力する姿に心惹かれた俺は正式に彼女に手解きをする様になった。

 まあ、修行と言うよりかは師匠である俺や同じ弟子である白音ちゃんに事ある毎に手合わせと言う名のセクハラをカマしてきて、ぶっ飛ばされて身体で覚えていっている節も見受けられるけれどね。

 それに伴いイッセーちゃんの肢体は程よく筋肉がついてきていて一種のアスリート体型と呼べる様な感じになっている。

 筋肉の上にうっすらと脂肪が乗っていて実に魅力的である。

 今ではその努力も実って大分様になってきている。

 

 さすがに一年以上鍛え続けていていれば、それなりに成果は出るのは当たり前である。

 俺と同じく愚直に、だが煩悩塗れで鍛えているイッセーちゃんは、ある時を境にその成果を亀の歩みではなくて、丸で水を得た魚の様に凄い勢いで吸収していった。

 これが元原作主人公の特権だと言うのだろうか。

 世界の後押しを受けて成長していくイッセーちゃんには、凡骨な俺は嫉妬を禁じえない事も多々ある。

 だがイッセーちゃんの真の魅了の前にはそんなものは霞んでしまうだろう。

 男女どころか、下手すると種族間の差異すら気にすることなく笑顔で接していくだろう。

 それは本当に凄い事である。

 まあ、表面上は躊躇うだろうけれどね。

 だが、心の奥底では差別と言う名の偏見はしないだろう。

 

 イッセーちゃんは俺と出会ったから、事ある毎に俺に構ってくる。

 一年生の始業式の日に同じクラスになった事が運の尽きとも言える程に、甘えたがりの子犬の様に俺に纏わり付いてくる。

 傍から見るとそこには一目惚れの感情が垣間見えていたらしい。

 まあ、そこには純真な気持ちの他に、下心が見え隠れしているから油断出来ないんだけれどね。

 事ある毎に俺の胸板に手を伸ばしてくるからね。

 本当に胸が心底好きな様である。

 

 ヴァーリはその点、無意識に俺の尻に手を伸ばして触ってくる。

 まあ、その事に気がついて頬を染めながら誤魔化す様に捲し立ててきて、そのまま手合わせという名の照れ隠しが炸裂するんだよね。

 下手すると羞恥心からか手加減を忘れて周りが焦土と化す時も間々にある。

 うん、ツンデレ乙。

 

 今代の二天龍の宿主はどちらも原作と掛け離れて女性(TS)化しているけれど、根っこの性癖までは変化してはいないらしい。

 正に魂に根付いている業とも言えるだろうね。

 

 俺は逆セクハラに慣れたくはなかったけれど、日常茶飯事なぐらいカマされているからね。

 それくらいで嫌ったりはしない。

 まあ、不快なものを若干感じる事はあるけれどね。

 

 隙を見せると暗がりに連れ込まれて逆レ○プされるよりはマシだよね。

 嫌がる素振りを見せても、姉ちゃんや白音ちゃんは許してくれないからね。

 何度、俺の意思を伴わない絶頂を迎えさせられたかは分からない。

 でも、心の底では喜んでいる自分に気がついて自己嫌悪に陥る事は多々ある。

 いや、まあ、気持い事には間違えはないんだよね。

 

 俺は頭を振って湧き上がった煩悩を追い出した。

 俺は深呼吸をしてからイッセーちゃんを保健室へと運ぶためにお姫様抱っこをした。

 その際、イッセーちゃんから香る乙女の甘い香りに無意識に鼻を鳴らしてしまった。

 

 落ち着け、俺。平常心だ、平常心を心掛けるんだ。

 

 俺はポーカーフェースをしながら自身に言い聞かせる様に、丸で念仏を唱える様に繰り返した。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんを保健室に運ぶ際に黄色い悲鳴に混じって殺気とも呼べそうな勢いの嫉妬の視線が突き刺さってきた。

 

 その視線の先に眼を向けると、松田と元浜が悔しそうに手を握り締めながら俺を睨んでいた。

 

 松田と元浜は美少女とも呼べるイッセーちゃんの赤裸々な性癖に共感して男女の壁を乗り越えた友情を育んでいる様である。

 松田と元浜が度重なる犯罪行為と呼べる覗きやセクハラ紛いの発言を行って停学処分を受けているものの、その友情に罅が入ることなく変わらず続いているらしい。

 イッセーちゃんは全く気にしていない様子だが、多くの女生徒達から丸で塵芥を見る様かの眼で見られている松田と元浜と行動する事で、イッセーちゃん自身にもその嫌疑の眼は若干向けられている。

 松田と元浜も根はそんなに悪い奴等じゃないのは確かではあるが、少しは周りからの評価も鑑みて欲しいところである。

 まあ、イッセーちゃん自身もセクハラを止めはしないから、苦笑を禁じえないけれどね。

 まあ、入学当初の頃に比べると女生徒へのセクハラは無意識に許される範囲のレベルを見極めて若干だが大人しくはなっている様ではある。

 その分セクハラの矛先が俺に向いているのは気のせいだと思いたい。

 

 松田と元浜はもう一度問題を起こせば即退学処分も検討されている。

 原作では事勿れ主義と認識阻害の結界の影響で殆どお咎めなしな状態だったからね。

 後は原作主人公であるイッセーちゃんと行動していて、何らかの恩恵が働いていたかもしれない。

 だが、この世界のイッセーちゃんは原作と違って女の子である。

 

 その上に、ここは俺が転生して今を生きている似て非なる平行世界である。

 幾ら何でも犯罪行為を行った者を処分しない訳にはいかない。

 俺は風紀委員の一員として厳格に対処していった。

 まあ、恨まれて当然とは思わないものの、憎しみを向けられるのは仕方ない事である。

 

 松田と元浜も悔い改めて行動すれば良いのに、今は我慢に我慢を重ねている状態の様である。

 まあ、エロは三大欲求の一つだから抑えるのは難しいかもしれないが、理性で自制出来れば表に出す事はないだろうにね。

 何時しか我慢が限界に達して爆発しないか心配ではある。

 

 俺は松田と元浜の視線を無視する様にその前を通り過ぎていった。

 その際、隠すことのない舌打ちが俺の耳を打った。

 

 出来れば松田と元浜にも青春をエンジョイして欲しいのだけれど難しいのだろうか?

 俺は落胆のため息を飲み込みながら歩き去っていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 駒王町の場末にある一見寂れた外見の喫茶店。

 だがここはその外見とは裏腹に隠れた名店ではある。

 一般人からの人気の少ない薄暗い店内では、俺の様な分けありの者達が密会するには丁度いい雰囲気ではある。

 ここの初老のオーナーは引退したとは言えども、元々は三大勢力の一角に関わっていた人物であるとの事である。

 確かに、眼光といい、風貌といい、歴戦の戦士の凄みを感じられる。

 まあ、付き合いが短いと寡黙で理解しにくい人物なのだが、常連ともなれば表面上はぶっきらぼうでもオーナーのその心内は暖かい事は明白に理解出来るものである。

 自ずとこの店は俺のお気に入りの店となっていった。

 

 その店内の更に奥まった一番目立たない客席で俺は一人で珈琲を啜っていた。

 

 うん、相変わらずこの店の珈琲は絶品である。

 この店は紅茶も美味しいが、俺には飲みなれた姉ちゃんが入れてくれるものの方が好きではある。

 

 カップの中身が殆どなくなる頃、待ち人がやってきた。

 

「お待たせしたっす。久しぶりっす、綾人♪」

 

 そこには出会った頃から外見が全く変わっていないミッテルトちゃんが佇んでいた。

 

 まあ、下級堕天使から昇格して中級堕天使となったので見た目に反して感じられる力は上昇しているけれどね。

 

 その頬は僅かに赤みを帯びており、瞳は若干潤んでいた。

 

「やあ、ミッテルトちゃん。立ち話もなんだし、座ってよ」

 

 促すとミッテルトちゃんは俺に抱き着くように隣に座った。

 

 今まではヴァーリと手合わせする度に、お付としてヴァーリと共に行動していたミッテルトちゃんとも出会えていた。

 だが最近はミッテルトちゃんはアザゼルさんと俺の密談の結果、とあるグループへとダブルスパイとして潜入してもらっている。

 そのグループとは『教会』と呼ばれていて神の子を見張る者(グリゴリ)の下部組織にあたる。

 中級堕天使のレイナーレをトップとしている正式な教会に認められないと言う意味での非合法の悪魔祓い(エクソシスト)の組織である。

 堕天使がトップとして君臨しており、教会を追われたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)が集う集団を、天界陣営の影響下にある教会が認める事は天地がひっくり返っても有り得ないけれどね。

 

 それに、この『教会』には戦争馬鹿と言える幹部であるコカビエルさんの息が掛かった人物が潜り込んでいる可能性がある。

 まあ、目星は付いてはいるけれど確定情報が不足している為に、態々ミッテルトちゃんに潜入捜査をお願いしている訳である。

 放って置けば三大勢力全体を巻き込んだ戦争の火種になる可能性があるからね。

 

 

 

 

 

「はふぅ~♪ 久し振りにアヤトミンを補給できて幸せっすよ♪」

 

 ミッテルトちゃんは蕩けそうな笑みを浮かべながらご機嫌である。

 

 因みにアヤトミンとは主に俺を構成している主成分だそうだ。

 ミッテルトちゃんを始め、俺に懸想している女性は、アヤトミンが欠乏すると動悸息切れが激しくなるそうだ。

 

 特に姉ちゃんはその症状が顕著であるという事だ。

 お陰で事ある毎に姉弟のスキンシップを超えた男女の睦事に晒されている。

 いや、嫌じゃないんだけれどね。

 寧ろバッチ来いな精神状態になっている今の自分自身を見たら、前世の頃の俺は落胆するだろうか?

 

 さてと、話が逸れしまったけれど本題に入ろう。

 

「それじゃ、近況を報告してもらおうかな? 我が愛しき下僕よ」

 

 俺は真面目な表情を浮かべながらミッテルトちゃんを促した。

 

「はいっす、愛しき我が主様(マイ・マスター)……」

 

 ミッテルトちゃんは俺の肩から頭を上げながら腕から離れて、若干距離を開けて姿勢を正した。

 そして恭しく臣下の礼を取った。

 

 俺とミッテルトちゃんは非公式ながらも使い魔の契約と似て非なる主従の契約を交わしている。

 まあ、その際にたっぷりと精も根もを搾り取られたのはご愛嬌かな。

 どうあっても俺はする方ではなくされる方なのには泣けてくるけれどね。

 

 俺は今や四大魔王の一角であるサーゼクス様の妹君であるリアスさんの下僕の転生悪魔である。

 俺も元々は堕天使の血を引く混血(ハーフ)だが、おいそれと今現在は敵対勢力の堕天使と表立って本契約を結ぶ事は御法度であって難しい事である。

 まあ、抜け穴があるからこそ、非公式とは言えども契約を交わしているんだけれどね。

 

「先ずは、こちらをご覧下さいっす」

 

 ミッテルトちゃんは一枚の書類を手渡してきた。

 

 俺は余す事なくその書類に目を通した。

 そこにはイッセーちゃんのプロフィールが記載されていた。

 

「レイナーレはその娘……どうやら、神器(セイクリッド・ギア)を宿しているみたいっすけれど、障害となる前に始末する気みたいっすよ」

 

 ミッテルトちゃんは肩を竦めながら呆れている様子である。

 

「でも、その娘って……確か、綾人の知り合いっすよね? 助けるんっすか?」

 

 若干の不機嫌さを隠そうともせずに訊ねてくる、ミッテルトちゃん。

 どうやら乙女の本能でイッセーちゃんが俺に懸想している事に気が付いている様である。

 

「彼女に死なれると寝覚めが悪いからね……それに彼女なら我が姫君(リアスさん)の下僕に相応しいだろうからね」

 

 俺は苦笑しながらも尤もらしい言い訳紛いの事を口にした。

 実際には俺は原作に関わりなくイッセーちゃんの事を気に入っている。

 度重なるセクハラには疲弊しているものの、それを打ち消すものを感じているのだ。

 まあ、心の底ではメリットとデメリットを無意識に勘定している自分に気がついていて、若干罪の意識に苛まれてもいるけれどね。

 

「まあ、予防策は施しているから心配ないとは思うけれど……それとなくミッテルトちゃんも阻止の方向で動いてくれるかな?」

 

 俺は命令としてではなく、お願いとしてミッテルトちゃんに語りかけた。

 

「綾人のお願いじゃ無碍に出来ないっすね……報酬は奮発してもらうっすよ♪」

 

 ウィンクをを一つして微笑みながら頷くミッテルトちゃんは魅力的である。

 俺は思い掛けず見惚れて固まってしまった。

 

 そんな俺に妖艶さと無邪気さが入り混じった笑みを浮かべながら擦り寄ってくるミッテルトちゃん。

 

「綾人。この後、少し時間をうちにくれるっすよね? 休憩していこうっすよ♥」

 

 俺にはその提案を断れる程の理性は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 逢魔が時。

 ミッテルトちゃんに種が尽きる程に絞りたられた俺は、腰を叩いて栄養ドリンクを飲み干しながら一人で歓楽街を歩いている。

 まあ、別にミッテルトちゃんはダブルスパイだから俺と居るところを堕天使達に見つかっても問題はないけれど、さすがにミッテルトちゃんとこんな時間に歓楽街で連れ立っているところを学園の関係者に目撃されると風紀を取り締まる立場としては拙いからね。

 

 歓楽街の路地裏に足を踏み入れた際に、ふと気が付くと周りに人気がなくなっていた。

 代わりに絶望的な力の差を感じさせられる気配が漂っていた。

 その気配には闘気も殺気も微塵に混じっていなかったが、滲み出てきている隔絶的な力の差が否応無しに感じられて無意識に俺は人払いの結界を張りながら臨戦態勢を取った。

 俺は淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)を展開して、魔力を練り上げながら精霊に働きかけて何時でも魔法を唱えられる準備を行っていった。

 額に嫌な冷や汗が流れて、喉がカラカラに乾いている。

 

「ナラカ……」

『そう緊張するな、綾人……彼の者にお前を害する気はなさそうだぞ』

 

 ナラカの台詞に肩の力を抜きつつ、ため息を一つ吐いた。

 それで俺の緊張感は霧散するまではいかないものの落ち着く事が出来た。

 

 意を決して気配のする方に眼を向けると、そこにはゴシックロリータ風のファッションに身を包んだ少女が無表情で俺を見詰めていた。

 その格好はところどころはだけていて、乳首なんか黒いテープでバッテンで隠されていた。

 一見痴女と見紛うその少女の姿はよく知っている。

 まあ、所詮は前世の記憶でしかなく、実際に目の当たりにしたのは初めてではある。

 

「我、見つけた。異世界の魂……凡骨なるも、全てを、飲み込む、深淵に、新たな能力を、生み出せし者……我と、グレードレッドに、届き得る存在」

 

 少女……いや、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)のオーフィスは無表情ながらもどこか嬉し気である。

 

「ナラカ。我に、力を、貸して……」

 

 俺の足元まで歩いてきて、瞳を覗き込む様に見上げてくるオーフィス。

 

「俺の名前は姫島 綾人だよ。ナラカじゃないよ」

 

 俺は未だに震えている手でオーフィスの髪を梳かす様に頭を撫でた。

 何故だかそうしないといけないような気がしたのである。

 

 オーフィスはきょとんとしながらも、身動ぎせずに受け入れている。

 

「アヤト……?」

「なにかな? オーフィス……」

 

 何時しか手の震えは止まって愛おしさが優っていた。

 オーフィスは表情が無い訳じゃない。

 ただ今まで表現する機会が少なかっただけだろう。

 

「これ、何? 我、今まで、感じた事の、ないもの……」

 

 オーフィスは自身から湧き出る感情に戸惑っている様子である。

 

「それは、嬉しいって事じゃないかな? オーフィスが手に入れたい静寂と似て非なるものだけれど、生きていく上で必要なものだよ」

 

 俺はしっかりとオーフィスの瞳を見返しながら微笑んだ。

 

「静寂、それは、我、求めるもの……この感情、我、必要とする?」

 

 オーフィスの瞳の奥は揺れ動いていた。

 

「ああ……必要なものだよ。オーフィス、俺と友達になろう!」

 

 俺は頭を撫でている手とは反対側を差し出して握手を求めた。

 

「友達? それ、何?」

 

 首を傾げながら訊ねてくるオーフィス。

 

「友達はね、時に助け合い、時にぶつかり合い、苦楽を共にする大切な者の事だよ……友達になるならお互いの名前を呼んで、握手したらいいさ」

 

 俺の差し出した手を見詰めながら思案している様子のオーフィス。

 

「握手。手を、握る事……こうで、良い?」

 

 恐る恐るといった感じで俺の手を握ってくるオーフィス。

 

「ああ……及第点だよ、オーフィス」

「うん、アヤト」

 

 瞳の奥底を揺らしながら、若干口元を曲げて嬉しそうなオーフィス。

 

 願わくば純粋無垢なオーフィスが心の底から笑える日が来る時が訪れる事を祈ろう。

 

 

 

 

 

 

「アヤト、グレードレッド、倒す。力を、貸して……」

 

 オーフィスは俺の膝の上に座りながら振り返って、瞳を覗き込んできている。

 

「俺の事を認めてくれるのは嬉しいけれど、それはまだ過大評価だよ」

 

 俺は頬を掻きながら苦笑を浮かべている。

 

「なら、何時に、なったら、力を、貸す?」

 

 オーフィスは真剣な眼差しで訊ねてきている。

 

「そうだな……オーフィスが俺の認める友達を百人作ったらかな?」

 

 俺は冗談めいて言った。

 

「分かった。我、頑張る」

 

 無表情ながらも何処か意を決した気配を漂わせているオーフィス。

 この焚付けが、吉と出るか、凶と出るか、今はまだ分からない、

 だが、オーフィスがその力を利用する為に近づいてくる奴等以外に交友関係を築ければ、自ずと良い方向に解決する気がする。

 

「我、帰る。また、会おう、アヤト」

 

 オーフィスは俺の膝から立ち上がって、振り返りながら俺に手を差し出した。

 

「ああ、またな。オーフィス……」

 

 俺は微笑みながらその手を握り返した。

 

 オーフィスは何処か名残惜しそうにしながらも手を離して去っていった。

 

 俺との回合はオーフィスに取ってどんな意味を持つのだろうか?

 

 オーフィスは未だしっかりと判明していないものの、世界を揺るがすテロ組織の禍の団(カオス・ブリゲード)神輿(トップ)である。

 そんな彼女が喜怒哀楽を理解して、静寂以外の何かを求めようとする事は楔となるだろう。

 

 俺は切っ掛けを与えただけでなく、今後も友達として成る可く関わっていこう。

 そうする事で世界はまた一つ優しくなれる可能性が生まれるだろう。

 

 さあ、これからが大変である。

 言うは易し、行うは難し、である。

 

 俺の存在を気に食わない奴等の妨害は苛烈を極めるだろう。

 だが、ただ手を拱いているだけでは始まらない。

 思う存分に抵抗させてもらおう。

 

 

 

 

 




執筆していく内に当初の予定より早くオーフィスたんと関わる事になりました。
このバタフライ効果が齎すものは、祝福か、はたまた、絶望かっ!!?
未だまだ判明していませんが、この事が物語を彩るアクセントになる事を祈ります。

ご意見ご感想、並びに批評や評価をお待ちしています。

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