ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~   作:Mr.凸凹

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第10話

 

 

 

 

 

 駒王町での生活に大分慣れ親しんできた今日この頃、リアスさんが新たな眷属である騎士(ナイト)の眷属を拾ってきた。

 そう文字通り拾ってきたのだ。

 フィーリングが大事とは言え、録に知らない者を気軽に眷属にするのは控えてほしい。

 まあ、引きが強くてハズレくじを引かないから問題はないと言えるのかな?

 

 

 

 

 

 俺の眼の前でベッドに横たわっている中性的な顔立ちの少女は俺と同年代の年頃の様だ。

 

 この娘は多分間違えなくイザイヤと呼ばれていた者だろう。

 

 うん、そうなのだ。木場きゅんもTS化している。

 ヴァーリに続いて木場きゅんまでとなると俺の原作知識が本当に役立つか甚だ疑問である。

 まあ、多分大まかな流れは変わらないだろうが、何故か釈然としない気持ちに襲われる。

 いや、まあ、この娘が悪いわけじゃないが、神様は俺にどうして欲しいのだろうか?

 

 イザイヤちゃんは荒い息をしており、辛い記憶を夢で追体験している様だ。

 俺は悪いと思ったが、リアスさんの指示もあってその夢の内容を魔法で覗き込んだ。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 夢の妖精(ニュンファ・ソムニー)女王メイヴよ(レーギーナ・メイヴ)扉を開けて(ポルターム・アペリエンス)夢へと(アド・セー・ノース)いざなえ(アリキアット)……」

 

 俺の意識はイザイヤちゃんの夢へと侵入してその内容を具に観察していく。

 

 

 

 

 

 神を信仰していた少年少女達。

 自分達の関わっている実験が何時しか神に選ばれて特別な存在になれるためのものだと教え込まれていたから、辛い事ばかりでも恐怖心は抱かなかった様だ。

 

 だがある日突然にその理が破られた。

 突如、彼女らは処分されることになった。

 一箇所に集められて、ガスが撒かれた。

 手が痺れていき、足も動かなくなり、全身の神経がズタズタに裂かれた様な激痛が全身を襲っている。

 涙や血と言ったあらゆる体液が身体から溢れ出して、ただただ苦しみが全身を支配している様だ。

 そして次第に意識も薄れていき、死に至っていく。

 彼女の目の前で苦楽を共に過ごしてきた同志達が何人ももがき苦しみながら死んでいった。

 

 俺はその様子を既に終わっている過去の記憶だと理解出来ていても、何も出来ない自分に歯軋りをしている。

 俺はこの事を原作知識で知っていた。

 既に起こった過去の記憶とは言えど、実際に目の当たりにすると己の無力さに苛まれる。

 全知全能と言えないちっぽけな俺では全てを救うなんてただの傲慢に過ぎない事を痛い程理解している。

 だが、せめて俺の手が届く範囲では救いの手を伸ばそうと改めて心に深く刻み込んだ。

 

 遂に彼女達の番となり部屋の中央に他の同志達共に集められている。

 防護服を着た研究者達が震えている彼女らにガスを散布をし始めた。

 彼女らは必死に息を止めているものの直ぐに限界が来て、微量のガスを吸い込んでいき、そして呼吸のために徐々に身体へと取り込まれていっている。

 途端に全身が痙攣を起こして、視線が定まらなくなっていっている。

 彼女が床に膝をついて身体中に走っている痛みを緩和させる様に手で摩っていると、一人の同志が激痛に耐えながらも研究者を突き飛ばした。

 扉を強引に開け放ち、中でも一番状態の軽かった彼女に向けてその同志は叫んだ。

 

「逃げて! あなただけでも!」

 

 彼女はその言葉を聞いて、直ぐ様立ち上がって部屋を脱出した。

 

 研究者達は彼女の突然行為に隙をつかれてしまって脱出を許してしまっている。

 恐らくは敬虔なる信者だった彼女達に対して研究者達は最後まで我々を信じて逃げる者などいないだろうと高をくくっていたのが幸いしたんだろう。

 わずかな隙をついて彼女は研究所からの脱出に成功した。

 

「待て!」

「逃がすな!」

 

 しかし、追っ手は彼女を執拗に追い回している。

 山の森で雪が降りしきる中、彼女はひたすら逃げ続けている。

 

 その表情は段々と復讐心に染まっていっている様に見えた。

 

 だが、死に必死に抗っているものの体力も意識も限界の底に来て、彼女は森の中で静かに倒れ込んだ。

 

 そこへ鮮やかな紅髪を持つ我が姫君()のリアス・グレモリーが現れた。

 彼女は顔を上げてその微笑みを虚ろな眼で見詰めている。

 

「あなたは何を望むの?」

 

 死にゆく彼女を抱き抱えながら問うリアスさん。

 

 そこで記憶()は途切れた。

 

 

 

 

 

 眼を開けるとベッドに横たわているイザイヤちゃんの姿が眼に入った。

 幾分か呼吸は安定しているものの全身から汗を流してぐったりとしている。

 魘されている内に寝返りを何度も打って掛け布団が捲れ上がってしまっている。

 不謹慎も彼女の艶姿に眼を奪われていた。

 すらりとした生足に思わず生唾を飲み込んだ。

 

 我ながら節操なしで困る。

 

 俺は頭を振って邪な気持ちを追い出した。

 そして彼女の記憶の報告にいくために部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「ご苦労様、綾人……それで彼女はやっぱり教会関係者かしら?」

 

 報告に訪れた俺に労いの言葉を掛けながら訊ねてくるリアスさん。

 

「はい、その様です。彼の地で行わていると噂されていた、聖剣エクスカリバーを人工的に使える様にする研究の被験者の一人でしょう。彼女を始め、多くの被験者達は因子が足らずに適応できなかったために、不良品の烙印を押し付けられて処分されていった様です」

 

 俺は感情を浮かべずに淡々と事実を報告した。

 

「そう……やっぱり、悪魔よりも人間の悪意こそがこの世で一番の邪悪だと思えるわね」

 

 リアスさんは俺の報告に眉を顰めながら溜息を吐いている。

 

「それと彼女の心の内には聖剣エクスカリバーに対する復讐心が渦巻いているでしょうね」

「それは仕方ないでしょうね。信じていた信仰に裏切られた上に殺されたのだから……」

 

 悲しげに眼を伏せているリアスさん。

 

《コンコンコン》

 

 暗くなった空気を払拭する様にノックが響きわたった。

 

「どうぞ、入ってきていいわよ」

 

 扉越しに声を掛けるリアスさん。

 一拍の時間の後に扉がゆっくりと開け放たれた。

 

「お話中お邪魔しますわ。彼女が眼を覚ましたようですわ」

 

 おっとりした口調で報告する姉ちゃん。

 その包み込む様な包容力は彼女にも果たして届くのだろうか?

 

「分かったわ……さあ、新たな眷属に挨拶しないとね」

 

 リアスさんは決意を新たに手を握り締めている。

 若干緊張で震えているのはご愛嬌か。

 

 

 

 

 

 

 リビングに行くと洗面器を持った白音ちゃんと大きめのワイシャツだけを身につけたイザイヤちゃんが佇んでいた。

 イザイヤちゃんの服装が変わっているのは、白音ちゃんが汗を拭いて着替えさせたからだろう。

 

「ご苦労さま、白音ちゃん」

 

 俺は白音ちゃんに近づいて後ろから抱き締める様に頭を撫でた。

 眼を細めて気持ち良さそうに受け入れている白音ちゃん。

 

 そんな俺達を警戒を顕にして睨んできているイザイヤちゃん。

 

「……ここはどこだ? なぜ、僕がこんなところにいる!? あんた達は誰だ!!?」

 

 イザイヤちゃんはテーブルに置かれていた鋏を手に取って、俺達に向けてきている。

 一応危険はないと思うがリアス・グレモリー眷属の戦車(ルーク)にして唯一の男として矢面に立って、彼女との話し合いの先陣を切る。

 

「ここは日本だよ。分かるかい? 極東の島国で八百万の神々が収めている世界でも有数の平和な国と言われているところさ」

「あなたが日本人に近い顔立ちをしていたから、ここに連れてきたの。ここは日本での私達の仮住まいよ」

 

 俺の言葉に続けて補足するリアスさん。

 

「さてと、先ずは自己紹介が必要だね……俺の名は姫島 綾人。お察しの通り悪魔だよ」

 

 俺は背に翼を展開させながら微笑んだ。

 そんな俺に訝しげな表情を浮かべているイザイヤちゃん。

 まあ、悪魔の羽に堕天使の羽と龍の羽があるから多少混乱しているんだろうけどね。

 

「この羽かい? まあ、俺は転生前は人間と堕天使の混血児(ハーフ)で今代の淵龍王だからね」

 

 俺の説明に更に眼を丸くしたイザイヤちゃん。

 まあ、教会で悪魔と堕天使は敵同士だと教育を受けていただろうから混乱する事も仕方ないよな。

 

「それでこの娘が塔城 白音ちゃんだよ。元猫魈の転生悪魔だよ」

「よろしくお願いします」

 

 俺の横に立って小さく頭を下げる白音ちゃん。

 彼女の猫耳と尻尾、そして悪魔の羽がが彼女の感情を表すかの様に揺れ動いている。

 

「それでこの黒髪が俺の姉ちゃんの姫島 朱乃だよ」

「うふふ♪ よろしくですわ」

 

 何時の間にか俺と白音ちゃんの肩に手を置いている姉ちゃんは悪魔と堕天使の一対の羽を展開している。

 色々あったが自らに流れる血の因縁は克服出来た様だ。

 まあ、三大勢力が敵対している最中で父さんとの仲直りは未だに難しくて、姉ちゃんも素直になりきれないところがあるみたいだけれどね。

 

「そして彼女が我らが姫君()の……」

「私はリアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主よ。そしてあなたも……」

 

 背に悪魔の羽を展開しながら微笑んでいるリアスさん。

 リアスさんがイザイヤちゃんの背に指差すと、俺達の悪魔のオーラに触発されてイザイヤちゃんの背中からも悪魔の羽が展開された。

 自分の背中から何かが飛び出した感覚に背後に眼を向けるイザイヤちゃん。

 その表情は驚愕に彩られていた。

 

「あなたは一度死んだの。だから、私が悪魔として転生させたのよ」

 

 眼を瞬かせて思案に耽ているイザイヤちゃんは言われた意味を理解するのに時間が掛かっている様だった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 イザイヤちゃんが眷属に加わって約一ヶ月が過ぎた。

 今日もリアスさんはイザイヤちゃんと一緒に食事をしようと部屋へと繁く足を運んでいたが不発に終わったようだ。

 

「はぁ~何時になったら心を開いてくれるのかしら?」

 

 溜息混じりに俯いているリアスさん。

 

「まあ、気長に行きましょう。こちらが心を開いて歩み寄っていけば自ずと解決すると思いますよ」

 

 俺も色々と手は尽くしている。

 少しでも彼女の敵愾心を晴らす手伝いをしたいものだ。

 でも俺ではイザイヤちゃんの戦闘スタイルとは違いすぎて、戦う術を教える事は出来ない。

 だが未だ信頼を勝ち取れていない現状でも心の闇を晴らすとはいかなくても逸らすぐらいはしてあげたいと根気よく話し掛けはしている。

 まあ、殆ど馬の耳に念仏状態なんだけれどね。

 

 今は白音ちゃんを膝に乗せながらのんびりと読書をしている。

 この癒しの至福の時も俺のやる気を促すためには必要な事だ。

 さすがにイザイヤちゃんに話しかけて全敗しているので心がささくれているからね。

 

 白音ちゃんは俺の膝の上で美味しそうに羊羹を口に運んでいる。

 

「綾人兄さま。はい、あ~ん♥」

 

 白音ちゃんは思い出したかの様に羊羹を俺の口元に差し出してくる。

 

「はむっ……うん、美味しいね」

 

 俺は白音ちゃんににっこりと微笑み返した。

 

「こっちはこっちで仲が良すぎるし……いいの、朱乃? あなたの愛しい綾人()が白音に盗られちゃうわよ?」

「大丈夫ですわ、リアス。私と綾人とは切っても切れない縁で結ばれていますもの……それに綾人を束縛して独り占めしよう物なら嫌われてしまいますし、私一人では綾人を満足させきる事は難しいですわ」

 

 最近は以前と比べて姉ちゃんの俺に対する独占欲が消えたのは、()()を経験したからなんだろうか?

 うん。色々と凄かったとだけ言っておこう。

 ナニがとは詳しくは聞かないで欲しい。

 まあ、俺は情けない事に受身一辺倒だった。

 それでも、一応肉体年齢的に思春期真っ盛りの男の子には色々と刺激が強すぎたよ。

 まあ、精神年齢はすでに汚っさんなんだけれどね。

 でも前世では殆ど経験しなかった事だから動揺もあって録に動けなかった。

 

 俺が乾いた笑みを浮かべべていると突如リビングの一角に魔法陣が浮かび上がった。

 このグレモリー家にの物に似て非なる紋様はサーゼクス様の眷属か。

 

 俺は膝から白音ちゃんを下ろして一応失礼の無い様に身成を整えた。

 俺に倣って白音ちゃんも髪や服装の乱れを整えている。

 

 魔法陣が消えると一人の侍が佇んでいた。

 成程、彼がサーゼクス様の唯一の騎士(ナイト)である沖田 総司か。

 

「お久しぶりです、姫。新たに騎士(ナイト)の眷属を得たとの事で参上しました」

 

 笑みを絶やさず佇んでいる沖田殿。

 その背中からは彼の実力が伺い知れる程のオーラが漂っている。

 

 俺が生唾をに飲み込んでいると、こちらを向いて値踏みする様な視線が一瞬感じられた。

 

 俺は気押される事なく手を差し出した。

 

「実際に眼に掛かるのは初めてですね、沖田殿。俺はリアス姫の戦車(ルーク)を務めている姫島 綾人です」

「同じく戦車(ルーク)の塔城 白音です」

 

 俺と白音ちゃんの握手に応えてくれる沖田殿。

 

「はい、よろしくお願いします。ご存知の通り、私がサーゼクス様の騎士(ナイト)の沖田 総司です」

 

 その手は力強くしなやかさを兼ね備えていて暖かだった。

 

「ふむ。今代の淵龍王が姫の眷属に加わったのは嬉しく思っていますよ」

「ありがとうございます、沖田殿。リアス姫の眷属の名に恥じない様に精進致します」

 

 俺はしっかりと瞳に意志を乗せて応えた。

 その眼を覗き込む様に見詰めて来ている沖田殿。

 

「あらあら♪ 男の人同士で見つめ合うなんて妬けますわ……初めまして、沖田様。私がリアスの女王(クィーン)の姫島 朱乃ですわ」

「よろしくお願いします」

 

 俺から手を離して姉ちゃんと向き合う沖田殿。

 その表情は相も変わらず笑顔だった。 

 

 

 

 

 

 俺達との挨拶もそこそこにリアスさんに連れられてイザイヤちゃんと面会した沖田殿は、彼女を心身共に鍛えるために連れて行った。

 そこは原作通りなのだが、やはり俺達では彼女の心を解きほぐす事まで出来なかったのは悔しい。

 願わくば彼女が心から笑える様になる事を祈ろう。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 イザイヤちゃんが沖田殿に鍛えられる様になってから、リアスさんは何度も彼女に面会しようと足を運んだ。

 だが会う事は叶わなかったようだ。

 面会を拒否されたと肩を竦めながら苦笑するリアスさんを慰めるのは何故か毎回とも俺の役割だった。

 

 今日はリアスさんと連れ立って俺はイザイヤちゃんの面会へと向かった。

 何度も面会を拒否されていて、今回も拒否されるかもしれないと弱気になっているリアスさんを元気づけながらやって来た。

 

 小屋には彼女の姿はなく、どうやら山中へと足を運んでいるようだ。

 

「どうします、リアスさん?」

「このまま帰るわけにはいかないわ。行きましょう、綾人」

 

 意を決して歩き出すリアスさん。

 俺も遅れず後を歩いていく。

 

 

 

 

 

 山中へと歩を進めていると微かな揺れと戦闘の気配が漂ってきた。

 

「っ!!? これはっ!!?」

「どうやら彼女が戦っているようですね。相手は気配から察するに沖田殿ではないでしょう」

 

 俺の言葉を聞き終わるより早く駆け出すリアスさん。

 

 やれやれ。慈愛深いグレモリーの姫君とは言え、少しは躊躇っても罰は当たらないでしょうにね。

 

 俺は苦笑しながらもリアスさんに遅れず、だが先走らない様に並んで駆けていった。

 

 暫くすると視界が開けると、イザイヤちゃんが地に伏していて虎の獣人に捕らえられ様としていた場面に出くわした。

 

「それ以上その子に近寄らないでちょうだい」

 

 リアスさんの静かだが森に響きわたる様な声は威厳の様なものに満ちていた。

 

「よくもその子を痛めつけてくれたわね。あなた、『はぐれ』ね? よくこの山に入ってこられたものだわ。無知って怖いものね」

 

 自分よりも何倍もの体格を有する者を相手にしてまったく動じない我が姫君()の豪胆さには頭が下がる思いだ。

 臣下としては苦言の一つも述べたいところだが、折角の展開に水を差すわけにもいかないだろう。

 俺に出来る事と言えば、あの獣人がこれ以上暴挙を働かない様に睨みを利かす事だ。

 

『……紅い髪、グレモリーか? ほう、ではこのガキはグレモリーの眷属ということになるな。おもしれぇ。グレモリー眷属のガキならさらに高値がつきそうだ』

 

 獣人の言い草に怒りのオーラで髪が揺れ動いているリアスさん。

 

 怒りは思考を鈍らせますよ。

 心は熱くとも思考は涼やかに水の如く清ましていないといけない。

 これは精神鍛錬の時間を増やす必要がありそうだね。

 

「高値? 私のかわいい眷属で売買をするつもりなの? 許せないわ。万死に値する!」

 

 リアスさんに同調する様に獣人を睨みつけているイザイヤちゃん。

 

「……僕が誰とか……売るとか、どうとか……それは今どうでもいい……ッ!」

 

 イザイヤちゃんは激痛に耐える様に笑ってる膝を奮い立たせて獣人に言い放った。

 彼女の感情に比例する様に魔力が徐々に高まっていっている。

 

「おまえなんかに負けていられないんだァァァァ---ッ! 僕は、生きるために強くなるんだァァァァ---ッッ!」

 

 イザイヤちゃんの絶叫と共に膨大な魔力の奔流が立ち上り周囲に広がっていく。

 俺はリアスさんを庇う様に移動した。

 

 次の瞬間、地面から多種多様な形状の剣が次々と出現している。

 魔剣創造(ソード・バース)に因る剣の花は炎や氷を纏って咲き乱れている。

 

 イザイヤちゃんは一振りの闇に支配されている魔剣を握った。

 そして、獣人に向けて一直線に駆け出した。

 途中で炎の魔剣を引き抜いて獣人に投げつけた。

 

『くっ!』

 

 虎の獣人はそれを勢い良く拳で弾いた。

 その隙に上空へと飛び上がったイザイヤちゃんは闇の魔剣を振り下ろそうとしていた。

 獣人はそれにも反応して魔剣をつかもうとするが、イザイヤちゃんは足の先に氷の魔剣を生み出していた。

 

 闇の魔剣を手で封じられたと同時に獣人の顔面に氷の魔剣が鋭く蹴り込まれた。

 居を突かれた獣人の左目に氷の魔剣が突き刺さっていく。

 

『ぬがぁぁあああああああああっ!』

 

 片目を魔剣で抉られて、獣人は盛大に叫んで激痛にもがいている。

 

「……パワーばかりじゃダメなんじゃないかな。『騎士(ナイト)』なら、剣を使うものなら、テクニックだと思うけどね」

 

 皮肉げな笑みを浮かべながら言い放つイザイヤちゃん。

 だが、どうやら体力を使い果たした様で録に動けそうもない。

 

 仕方ないな。お節介を焼きますか。

 

 そこでこちらを伺っている沖田殿も俺に期待している様だしね。

 

『もうてめぇなんぞどうでもいいぃぃぃっ! ぶっ殺し決定だぁぁぁっ!』

 

 獣人は両手の爪を鋭く伸ばしてイザイヤちゃんに振り下ろした。

 

矛盾の檻(パラドックス・ケージ)!』

 

 イザイヤちゃんを守る様に球状のエネルギーシールドが包み込んだ。

 

『absorb!』

 

 エネルギーシールドは獣人の攻撃を易々と防いだ。

 

『なっ、なんだぁ! これはっ!?』

 

 獣人は手に走った激痛に耐えられずに後ずさった。

 

『Abyss Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 俺はリスクもカウントもなく淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)を展開して身に纏った。

 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすように、龍も虎を狩るために全力を尽くそう。

 

「たかが『はぐれ』如きが俺の仲間を殺そうなどとは片腹痛いな……」

 

 おれはゆっくりと一歩一歩踏み締める様に獣人に歩み寄っていった。

 

「てめえの仕業かっ!? 舐めた真似しやが……っ!!? そっ、その羽と姿はっ!!? ……まっ、まさか!!? てめえが淵龍王かっ!!?」 

 

 眼に見えて怯えている獣人。

 

「ご明察通りさ……さてと、辞世の句は読めたかな?」

 

 俺がにっこりとほほ笑みかけながら訊ねると獣人は恐怖を紛らわすかの様に叫んだ。

 

「こっ、こんなガキが淵龍王だとっ!!? へっ!! 噂も大概に大げさだな!! こいつを殺せば一気に名が上がるっ!!」

 

 俺に向かって我武者羅に突進してくる獣人。

 

 俺は振り下ろされた欠けた爪を紙一重で避けて、獣人に乱打を打ち込んだ。

 

開放(エーミッタム)魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)光の1001矢(ルーキス)!! 桜華乱舞!!」

 

『ぷげらぁぁぁ!!?』

 

 光力の込められた魔法を宿した乱打に耐え切れず、獣人は全身を真っ黒に焦がして息絶えた。

 

『drain!』

 

 倒した相手に敬意を評してその血肉を因子に変換して吸収する。

 これで俺は更に力を身に付けていく代わりに徐々に肉体が変化していくだろう。

 一回毎では微量でも、回数を重ねる毎に俺は異形へと変化していくだろう。

 行き着く先は合成獣(キメラ)かもしれない。

 だが凡才の俺が守るための力を身に付ける代償だと思えば苦でもない。

 

 

 

 

 

 墓標を修理し終わって山道を歩いていく。

 あの戦闘の後で合流した沖田殿が思い出した様に訊ねた。

 

「ところで、姫。少女の名前は決まったのですか?」

「ええ、この子が気に入ってくれるといいのだけれど……」

 

 イザイヤちゃんを優しげに見つめるリアスさん。

 

「木場、祐美。かなり、フィーリングで考えてしまったのだけれど、どうかしら?」

 

 リアスさんの提案に笑みをこぼして頷くイザイヤ、じゃなかったね。

 これからは祐美ちゃんだよね。

 

「はい、十分にいい名前だと思います」

 

 祐美ちゃんの反応を見て微笑んでいるリアスさんと沖田殿。

 

「よろしく祐美ちゃん。グレモリー眷属として共に歩んでいこう」

 

 俺はにっこりと微笑みながら手を差し出した。

 

「うん。改めよろしく、綾人くん。さっきは助けてくれてありがとう」

 

 憑き物が落ちた様に微笑む祐美ちゃん。

 これで本当の意味での仲間になれた気がした。

 

 

 

 

 




アンケート結果、リアス眷属の男性陣はTS化させる事に決定しました。
これで綾人のハーレムが増大しそうです。

いや、まあ、TS化は嫌いどころか大好きなんですが、オイラに書き切れますかね?

よろしければご意見ご感想、批評や評価を募集しています。

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