Dies irae ーcredo quia absurdumー 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
あともう二話くらいは日常話かと。
バーベキューとかお風呂あるしね
第97管理外世界、地球。文化レベルB、魔法文化なし、次元移動手段なし。もっとも、魔法文化はなくともミッド郊外程度の科学力はあるが。魔法がないだけで、ミッドとそう変わらない。殆どの人間は魔力資質を持っていないが、たまに馬鹿げた資質を持っていたりする。……さらにいえば、魔法よりも特殊なスキル持ちもいるのだが。そんな世界に聖王教会から要請されて、機動六課が出張することになった世界である。
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転送ポートから地球に降り立ち、スバルたちが目にしたのは一面に広がり煌めく湖に緑生い茂る森。その向こうにはログハウス。
「へぇ……」
「ここが、なのはさん達の、故郷……」
「ああ、ミッドと変わらんだろ?」
「基本、文明レベルも魔法ないってだけでミッドと変わらないんですよ?」
「むしろ、サブカルに関してはこっちのほうが進んでるわな」
「と言うか、ここは具体的にはどこ? なんか、湖畔のコテージって感じだけどさ」
「現地の人の別荘だよ。なのはさんたちの幼なじみで魔法とかも知ってる人でな、捜査員待機場として貸し出してくれたりするんだよ。本人たちもけっこう使ってるし」
「なのはさんたちの幼なじみ……」
「いや、それはいいんだけどさ……あれ、どういうことな……?」
ティアナが恐る恐る口にしながら指を指したのは、
「ね、ねえ、フェイトちゃん。髪おかしくないよね?」
「う、うん。大丈夫だよ? それより私は? 寝癖残ってたりしない……?」
「大丈夫だよ……。ていうか、私肌荒れてないかな? なんかカサカサしているような」
「そんなことないよ……? あ、でも私も……」
なんだか、浮き足立ってお互いの姿を確認しあっていた。ちなみにリインは普通の子供サイズである。
「ああ、そりゃあ、夜にウチの兄貴が来るからだよ。恋する乙女としては、そこらへん気になってしょうがないんだろ。多分、はやてさんのほうも同じような光景が出てるぜ?」
「……あんたの兄ってなにもんよ」
「さてね。俺も知りたいよ」
カイト自身義理の兄であるユーノのことを全て把握していない。そんなの無理だろうし、したいとも思わない。
「なにそれ」
ティアナから半目を送られていたら、湖の向こうから車のエンジン音。此方に向かってくる。
「自動車? こっちの世界にもあるんだ」
「そりゃあるだろ、飛行機も船も電車だってあるさ。どんな田舎だと思ってたんだよ。つか、俺やエリオ、キャロにお姉さま方も一時期住んでたんだぜ?」
「え? あ、あはは……」
なんてティアナが笑っていたら、車が止まった。
降りてきたの金髪のショートカットの女性。快活そうな、炎のような女性だった。彼女は一度なのはたちの方へ行こうとし、彼女が自分の世界に入ってることに気づいたのかカイトたちの方へ来た。
「はあい! 久しぶり、元気かしら? エリオ、キャロ!?」
「久しぶりです、アリサさん!」
「はい、元気です」
「そう、いい子ね」
順番にエリオとキャロの頭を撫でて、視線をずらし
「んで……あなたたちがなのはたちの教え子? アリサ・バニングスよ。よろしく!」
「ティアナ・ランスターです、よろしくお願いします」
「スバル・ナカジマです、よろしくお願いしますっ!」
「うん、元気でよろしい……んで」
視線はさらにズレてカイトに当たる。
「アンタは、久しぶりってほどでもないかしら? というかホントに局員やってたのね。アンタみたいな不良の大将がやれるとは意外ね」
「なにを。ほら俺って、万能だから? やろうと思えばできちゃうんすよ」
「言ってなさい」
「てか、不良の大将……?」
「ああ、こいつ。高校中退してからは不良集めてチーム作ってたのよ。毎日何するのでもなくね」
「だーかーら。あれは勝手アホどもが集まってきただけだって。作ろうと思って出来たもんじゃねえっすよ」
カイトからすればあまり思い出したくないことだ。高校中退してからしばらくは地球にいたりミッドにいたりと不安定な暮らしだったが、地球にいる間はどういうわけか不良によく絡まれた。まぁ、元々目つきは悪いし、斑の髪も結構目立つ。よく絡まれて撃退してたらいつまにか頭になってたのだ。まぁ、パシリには困らなくなって便利といえば便利だったが。
「……でも、ほんとに高校中退だったんだ」
挽回めいた事を言うカイトにスバルがぼそりと呟いた。
「あ? なんかあんのか?」
「別に」
「……けっ」
「……ふん」
「ちょ、ちょっとあんたたち、やめさいよっ。人前で」
「ああ、いいのよ。気にしないから…………ふうん、なるほどね。納得と言えば納得かしら」
最後のほうはティアナたちには聞こえなかった。それでもカイトには聞こえたようで、
「……」
気にくわなさそうに煙草を咥えた。
「じゃあ私はアイツら起動させに行くから、あっちのコテージで着替えておきなさい。案内はカイトに任せるわ」
「……はいはい」
よし、と彼女は一つ頷き颯爽となのはたちに喝を入れに行った。
「なんか……カッコイい人ね」
「ま、あの人はちょくちょく無限書庫来てるしな。なのはさんたちみたいに直に兄貴と会えるのが数ヶ月置きってわけでもないからその分余裕あんだろ」
「ふうん……なのはさんたちも普通の女の人みたいね。……あ、今アリサさんにハリセンで叩かれた。どっから出したのよ」
「ツッコミスキルだな。お前も持ってないのか?」
「あるわけないでしょうが」
●
その後、リカバリーを果たしたなのはたちから任務の説明を受け、スターズは市街地の探索、ライトニングはサーチャーの設置。
はやてや副隊長たちは後から合流するらしい。カイトも探索だ。
海鳴主街区。銀髪のリインや青髪のスバル、オレンジ髪のティアナ。普通なら目立つが、日本人以外も多く住む町ゆえに割りかし珍しくない。それでも黒と白の斑模様の髪は目立つらしく、道行く人の視線をカイトに集まっていく。
「アンタ、目立ってるわね」
「そりゃあ、まぁ俺人気者だったし」
「悪目立ちの間違いじゃないの?」
「はぁ? んなわけねぇだろ。人気投票したら間違いなくトップよ、俺」
「どうだか……」
僅かの会話でも、二人の空気は険悪だ。目も合わせない。おまけにどういう対抗意識かお互いに前に出ようとしているのかやたら早歩きだ。
「ちょ、ちょっとティアナ? あの二人どうしたの? なんであんなに仲悪いのかな?」
「それが……私にも分んないですよ。どうも初対面から険悪で。そんな人を嫌うような奴じゃないんですけど……」
「カイトもそうなんだけど……」
「おかしいですよねぇー」
二人の背後で怪訝そうなティアナ、なのは、リイン。ティアナからすればスバルが、なのはとリインからすればカイトの態度は不可解だった。二人ともどちらかといえば人づきあいはうまいほうだ。
天真爛漫なスバルならいろいろ構わずに仲良くなれるし、カイトならうまい具合で線引きが出来るだろう。実際ティアナたちもそうやって仲良くなった。にも関わらず、あの二人はぶつかり合う。犬猿の仲という言葉がふさわしいだろう。
「どうにかならないかなぁ……。出動とかあってなにかあると困るしね」
「ですよねぇ」
そんな思いとは裏腹に、
「んだよ、アホ女。言いたいことあるならはっきり言ったらどうだ?」
「ふん、別にないよ。……ていうかアホ女とやめてくれない?」
「はぁ? アホにアホって言ってなにが悪いんだよ。見たぜ? あのランク昇格試験の映像。思わず腹抱えて笑っちまったよ、あれ。狙ってたのか」
「……別に関係ないでしょ」
「ああ、ないね。だからとりあえず、また後で笑っておくことにするわ」
「…………」
「なんだよ、だから言いたいことあるなら言えって」
「……うるさいよ。ほんとよくしゃべるね。少しは黙ってられないの?」
「性分なんでね。むっつりはからかいたくなるんだよ」
「……ふん」
「……かっ」
「…………あれだもんなぁ」
どうしてあんなにも仲が悪いのだろうか。いくらなんでも不自然だろう。まさか相性なんて言葉で片づけるわけにもいかない。曲がりなりにも管理局員としては感情よりも理性を優先しなければならない時がある。むしろそういうときの方が多いだろう。そういう時に相性がどうだとか言っている余裕はない。カイトは正式な管理局員では無いとはいえ、有事の際は問題だろう。
「どうにかしないとなぁ」
やはり部隊長としてはどうにかする必要がある。だが、どうすればいいのかが思いつかないのだ。スバルはともかくカイトに口で勝てるとは思えないし。どうすればいいのかなと悩む。
「……やっぱユーノくんに相談かなぁ」
脳裏に浮かぶのは幼馴染の顔。カイトの義兄だ。カイトを止めるのは彼しかいないだろう。それに最近あまりあっていなかったから、なるべく早く会いたいなぁと思う。この前あったのはもうホワイトデーだったか。やたらおいしいビスケットケーキを貰って女心が傷ついた。
「たしか夜はバーベキュー……」
そこで挽回しなければならないだろう。曲がりなりにも喫茶店の娘だ。食後のデザートでも作るべきか。普通の料理でははやてに敵わない事は明確だ。やはり勝負するならデザートだ。
「うん、頑張るの!」
拳を握りしめ、ガッツポーズ。
高町なのは。不屈のエースオブエースと言われていても十九歳の恋する乙女には変わりないのだ。そして、そんな彼女の横で、
「なんか……大丈夫かしら」
「あはは……大丈夫ですよ、多分」
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