Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第三章 変えられぬモノ

 

 

 

「おい」

 

「ん」

 

 訓練スペースから出て六課隊舎へと戻ろうとしていたカイトは声を掛けられる。未だに消えていないビル上空から飛行魔法で降りて来たのは訓練服姿の赤髪の少女、機動六課スターズ分隊副隊長のヴィータだ。

 

「おおっ、ヴィータ姐さんじゃないすか」

 

「なんでてめぇはあたしとシグナムは姐さんつけるんだよ」

 

「んー、キャラ的に?」

 

「なんだそれ」

 

 鉄槌型のデバイスグラーフアイゼンを肩に担ぐ彼女は言葉とは裏腹に纏う空気は鋭い。それでもカイトは相好を崩さす、笑みを浮かべたまま煙草を蒸かす。

 

「お前さ」

 

「なんすか」

 

「スバルのこと…………殺す気だったろ」

 

「…………」

 

 薄く笑み浮かべたカイトにヴィータから叩きつけられたのは確かに殺気だった。先ほどカイトとスバルがぶつけ合ったのにも劣らない濃度。

 

「やだやだ信用ないねぇ、そんなわけないじゃないすか。いくらなんでもあんなタイミングではやらないし、それにあの程度で死ぬようなタマじゃないっすよ」

 

「あたしは」

 

 カイトの笑い混じりの言葉には取り合わず、ヴィータは言葉を紡ぐ」

 

「あたしはお前のことを信用してるし信頼してる。それに六課の面子の中じゃ、お前ことは一番解ってるつもりだ」

 

「んな、俺にデレられても。そういうのは兄貴に……」

 

「だけどな、アイツらはあたしやなのはたちの生徒だ。まだまだひよっこだけどそれは私たちが強くする。だからいいか、カイト。アイツらの邪魔して見やがれ、――――潰すぞ」

 

 グラーフアイゼンがカイトに突きつけられる。彼我の距離は五メートル近くあるがそれでもカイトは自分が叩き潰されるイメージを一瞬思い浮かべさせられた。それほどまでに彼女の言葉には凄みがあったのだ。

 カイトは笑みを消し、髪をくしゃくしゃと髪をかく。

 

「……大丈夫っすよ、なんでそう考えるかね。兄貴の大事な大事な宝石のヴィータ姐さんたちに手はださないし、あいつらだって同じだ」

 

「うそこけ。言ったろ、私は結構お前のことわかってるんだよ。確かにお前はユーノの手前、あいつらには手はださないだろうな。でも、もし」

 

「……」

 

「もし、いつかその時(・・・)が来たらお前は」

 

「----だから心配し過ぎですって。んなことにはならない。もうちょっと信用してくださいよ」

 

「信頼してるからこそだ。こういうことはあたしの役目だからな。言っとかずにはいられないんだよ」

 

 ようやくヴィータから発せられる気配が緩む。グラーフアイゼンを肩に担ぎ直した。

 

「性分だ、許せ」

 

「はいはい。わかってますよ。……ほんと姐御気質というかなんというか」

 

「うっせ。じゃあ、あたしは行くからな。訓練にはなにも言わねぇけど、呼び出しくらったらちゃんと来いよ」

 

「はいはい」

 

 手を振りながら、跳び上がるヴィータを見送る。宙を飛んでいく背中を見送りながらも、

 

「――性分でも役割でも、自分だって兄貴の宝石だってことを忘れないでほしいんだけどなぁ」

 

 呟きは紫煙と共に空に溶けて消えた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、ございます、シャマル先生」

 

「はい、どういたしまして」

 

 機動六課医務室。模擬戦の後に運ばれたスバルはすぐに目を覚まし、今は医務官であるシャマルから治療を受けていた。スバルはベットに腰かけてシャマルは彼女と向かい合うように回転椅子に座っていた。

 

「傷そのものは大したことないけど、一応今日は安静にしててね」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

 人さし指を立てながら注意するシャマルに唯唯諾諾とスバルは頷く。やはりいつもの元気っぷりがない。スバルを運んできたティアナが様子がおかしいと気にしていたのは頷ける。普段ならば全身傷だらけにしても笑顔で我慢するような子なのだ。

 

「スバル、どうしたの? なんだか元気ないみたいだけど。なにか悩みがあったらシャマル先生に質問してくれてもいいのよ? メンタルケアも私の役目なんだから」

 

 無論それだけではない。仕事とか関係なく少女たちの力になりたいと思うのだ。

 

「えっと……あの」

 

 少し困ったようにスバルは視線を泳がす。

 

「その、あの人のことなんですけど」

 

「あの人って、カイトのことかしら?」

 

「はい」

 

「……カイトがどうかしたのかしら? 随分派手に模擬戦したらしいけど……」

 

 零距離で手榴弾を爆発させたのだ。魔力式であったとはいえスバルじゃなかったら大けがだったろう。

 

「その、どういう人なんですか?」

 

「どういう人って言われても……」

 

 言われて、カイトのことを思い出す。

 

「そうねぇ、無限書庫のユーノ・スクライア司書長ってわかる?」

 

「はい、名前と顔くらいなら」

 

「そう。まぁ、そのユーノくんの弟なのよ。義理のね。私たちとはそれ繋がりで知り合って。大体五年くらい前かしら、いきなりユーノ君が連れて来てね。最初は戸惑ったけどすぐに打ち解けて、今では皆の弟分みたいな感じかしら」

 

 といっても傍からみて姉弟に見えるのは、シグナムやヴィータくらいなのだが。なのはやフェイトたち相手だと友達というか先輩感覚に近い。カイトがいじってる時のほうが多いくらいだ。特にフェイトなんかは生来の気性からカイトの冗談によく騙されるし。

 

「んー、あとはそうね。普段なにしてるかは私もよく知らないのよ。二年くらい前から地球の高校に通ってたんだけど、去年いきなり中退しちゃったし」

 

「中退ですか?」

 

「そ、つまんないの一言でね。それからは私もあんまり良く知らないわね。たまにひょっこりご飯食べに来たりしてたわね」

 

 一年前からは八神家がミッドの自宅に揃った時はほぼ必ず顔を出していた。ついでにユーノも引っ張り出してくれたりするからいろいろ嬉しかったけど。いろいろひっかきまわしてくれたものだ。はやてがユーノを誘惑して、それにシグナムタがやきもちやいて、カイトがからかう。リインはその時によって変わるけどだれかの肩やひざの上。そんな皆を自分やザフィーラが見守っている。そんな風景。かけがえのない刹那。穏やかな、失くしたくない陽だまりだ。そこになのはやフェイトたちがいればもっと素晴らしいものになるだろう。

 

 そんな光景を思い出すたびに笑みが止まらなくなる。それでもスバルの手前、苦笑に留めながらも、

 

「ああ、ごめんさい。あとは……そうね、真面目なのよ」

 

「真面目、ですか」

 

「ええ、そう」

 

 目に見えてスバルが怪訝な顔した。確かに普段の様子を見れば考えられないことだろう。まだあってすぐのスバルなら納得できないのも無理は無い。

 

「多分、私たちの中では一番真面目ね。確かに普段の様子からはわからないと思うけど……きっとスバルにもわかるわ。ああ、見えてほんとは優しい子なのよ」

 

「……」

 

 やはりスバルの顔は晴れない。どうやら思ったよりも深い溝があるようだ。どうしてそんな深い溝があるかはわからないけどやっぱり仲良くしてほしいものだ。カイトもスバルも、シャマルからしたら子供みたいなものなのだから。

 

「まぁ、無理に仲良くしろなんて言わないわ。でもきっとあなたたちはなんだか仲良くなれる気がするのよ、だから大丈夫」

 

「……なんでそう思えるんですか?」

 

「ん? そうね……」

 

 人さし指を顎に当てて考える。なんでといわれてもホントになんとなくそんな気がするのだ。でも、あえて言うなら、

 

「女の、母の勘かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、そうよ。三日後からでいいわ。……ええ、まぁ危険性は無いようだから。そんなに急がなくても大丈夫よ。こちらでももう少し盗まれたロストロギア自体のことも調べておくから。そうしたらお願いね」

 

ミットチルダ、ベルカ自治区聖王教会の自室にてカリム・グラシアは八神はやてとの通信を切った。

 

「ふう」

 

機動六課に聖王教会からロストロギアの回収を依頼していたのだ。数日前に盗まれたロストロギア、それをロストロギア専門部隊ともいえる六課に頼むのはカリムとはやてが個人的な友人だとしても妥当なところだ。

だが、今回に限っては少し事情が異なる。

 

「話はつけといたわよ、ユーノ?」

 

「悪いね、助かるよ」

 

彼女が自分の執務机から顔を上げ、見据えた先。来客用のソファに数人の男女がいた。

カリムの声に答えたのはただ一人の男、ユーノ・スクライア。蜂蜜色の長髪、翡翠の瞳。見方によっては女性としか見えない彼。それでも、まるで巨大な大樹のような年齢に似合わぬ落ち着きと底知れぬ深さを醸し出している青年だった。

 

「ごめんね、カリム。無理言っちゃって」

 

「いいのよ、どうせ私も六課に頼もうと思ってたし。それに」

 

カリムは執務机の上のアタッシュケースに手を添え、

 

「―――こうしてそのロストロギアを持ってきてくれてるもの。私としては大助かりよ」

 

カリムの言葉ユーノは苦笑しながらも、

 

「お礼ならこっちの二人に。実際に犯人締め上げて回収したのはこの二人だからね」

 

ユーノが示したのは同じように座っていた二人の女性。金の短髪と紺の長髪の女性だ。揃いの黒緑の軍服姿。

 

「そうね、ありがとう。アリサさん、すずかさん」

 

「いいんですよ、別に」

 

「そうそう、気にしなくていいんですよ」

 

カリムのにこやかな笑みにアリサ・バニングスと月村すずかは気安い様子で答えた。

 

「ま、正直対した相手でもなかったし」

 

「そりゃ、二人からしたら大体の相手はそうだろうね」

 

ユーノの苦笑も無理はない。通常の犯罪者がこの二人に敵うわけがないのだ。

 

「でも一体どうするの、ユーノ。六課にありもしないロストロギアの回収を依頼させるだなんて」

 

「まあ、いろいろとね。そのうちわかると思うけど」

カリムの問いにユーノははぐらかすだけだ。それに横槍を入れたのはアリサだった。

 

「言っとくけど、私はまだ納得してないわよユーノ。あんたのやろうとしてることは」

 

「博打以外のなにものでもない、でしょ? わかってるさ。でも」

 

「必要なことなんだよね」

 

「そういうこと」

 

笑みを濃くしてユーノは立ち上がる。カリムの後ろ、窓の外の町並みを眺めながら言葉を続ける。

 

「確かに荒療治みたいものだ。だけど必要なことなんだよ。このままじゃなにも変わらない。次のステージに進む必要がある、アリサのように」

 

燃える炎のような彼女は気に食わなさそうに鼻を鳴らしていた。

 

「かつてを継承するのか。それともすずかのように」

 

闇に咲く花のような彼女は仕方なさそうに笑っていた。

 

「かつてから解脱するのか、どちらだっていい」

 

継承か解脱か。かつてを受け継ぐのか、かつてから解き放たれるのか。

 

既知(・・)黄昏(・・)が消えた以上かつての役者は舞台に上がれない。だからこそ新たな役が必要なのだ。

 

あるいはカリムのように全く新しい役割を担うのか。

 

なのはもフェイトもはやてもシグナムもヴィータもシャマルもザフィーラもスバルもティアナもエリオもキャロも。

選んで進まなければならないのだ。これから先を迎えるためには今のままでは足りないのだから。

 

「そして、だからこそ僕たちがいる」

 

そう、だからこそユーノ・スクライアがいるのだ。この新月の世界で輝く宝石たちを護るために。

 

「僕は総てを愛してるなんていえない。でもだからこそ僕は自らの宝石の総てを護りきろう。僕の愛は守護の慕情。愛しているから我が宝石の総てを護ろう」

 

この思いは誰にも汚させやしない。

黄金(・・)はもういない。だからこそユーノ・スクライアは自らの愛を貫くのだ。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第一位『与え知る者(ダンタリオン)』ユーノ・スクライアが告げる。開戦の時は近い

。この愛の欠片もない世界の悉くを破壊しつくそう。こんな世界よりも彼女たちのほうが、僕の宝石たちのほうが……君たちのほうが美しいに決まってる」

 

なんの躊躇もなく言い切るユーノに思わずアリサたちは赤面した。それでもユーノの言葉は止まらない。

 

「望むことは勝利のみだよ。このまま負けたままでいてたまるもんか。ーーーー勝利万歳(ジークハイル)

 

勝利万歳(ジークハイル)

勝利万歳(ジークハイル)

勝利万歳(ジークハイル)

 

「|我らに勝利を《ジークハイル・ヴィクトーリア」

 

 




誰がどの立ち位置かはまだ秘密ですよー。
あと出張編は結構改編。どシリアスにします。


感想評価等頂けると幸いでsu

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