Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Mors Certa


第三十七章 始まりは密やかに

 双方向から迫る白黄の雷撃と蒼の砲撃。それぞれが形成位階として十分に高められている一撃。規模はともかく恐るべきはその深度。単純な破壊行為ならば通常の魔導士でもそれほど変わらない規模の攻撃を行うことは可能だ。それでも、エリオとスバルの一撃には霊的な性質を内包していた。それを受ければティアナの腐敗の弾丸を受けた戦闘機人三人が受ければ致命的な一撃だった。

 それら二つに挟撃されながら、 

 

「アクセス――『空の殲滅者(スローターアームズ)』」

 

 呟き、同時に欠損を回復させたヘッドギアの少女――セッテが手にしていた二枚刃が双撃をぶち抜いた。

 

「なーー!?」

 

「……!」

 

 それらを放った二人が目を見開く中、それ自体が独自に動く双刃は迫る一撃を破砕し、しかし止まることなく三人を繋ぐ召喚鎖を砕く。そしてそれだけで止まることはなく、

 

「アクセス! 『破壊する突撃者(ブレイクランナー)』!」

 

「アクセス――『守護する滑空者(エアリルレイヴ)』!」 

 

 残りの二人――ノーヴェとウェンディも欠損を全回復させ全身から魔力を溢れ出す。ほぼ全壊していたライディングボードも完全な形で修復される。それまで以上の魔力を保有し、そして各々の固有スキルを発揮し発揮しながら瞬発する。

 

「行くっスよォーー!」

 

 ライディングボードを構え魔力弾を放つ。数は十七。桜色で輝くそれらはそれまでよりも遥かに複雑怪奇な軌道を描いてティアナたち四人に飛来する。

 

「く、そ……!」

 

 毒づきながらも、クロスミラージュを構え引き金を引く。直前に無理にかつてから力を引き出して消耗が激しい。それでも己を叱咤する。ティアナが放った弾丸は流石というべきかウェンディの魔力弾を打ち抜き、

 

「遅いっすねー」

 

 目前にライディングボードに立ち乗りしたウェンディが出現した。

 

「っ!」

 

 ボードが回転する。ティアナの認識を超える超速度で鉄の塊、いやそれ以上の強度を持つ何かが振るわれればそれはまさしく必殺に等しい。とっさにクロスミラージュを交叉させ、瞬間的に可能な限りの魔力を用いて障壁を張る、が、

 

「あ、がああああああ!」

 

 元々防御力の低いティアナには防げなかった。障壁が破砕され十字に交差した腕ごと衝撃が突き抜け体が吹き飛ぶ。

 

「砕けろぉ!」

 

「っ!?」

 

 ノーヴェの蹴撃、それまでと動きは変わらずしかし隔絶した威力を誇っている。それをスバルは受けず回避した。勘と言える行為だった。スバルの場合、無自覚とはいえ形成位階に準ずる強度を保有する以上は尋常ならざる防御力ではない。むしろその頑強さにおいては六課内でもトップだ。

 その彼女がなによりも回避を選択した。

 そしてそれは正しかった。

 飛び退いたスバルの背後にあった瓦礫、

 

 それらが完全に粉砕された。

 

「な、あ……!?」

 

 風と衝撃波の塊が直径数メートル程度の風穴が瓦礫の群れに空ける。只の蹴りに見えた。スバルが避けたのはあくまでも勘に過ぎない。魔力は上がっていたが、それでもここまでの威力をもたらすということは、

 

「インヒューレントスキル……!」

 

「お前だって持っているだろうが!」

 

「っ……!」

 

 持っている。持っているが、それはこれまでほとんど使ったことがないスバルの禁忌。仲間内ではティアナにしか言っていないこと。実際には隊長陣は知っているがそれでもまず口にしない。ISというものは確かにレアスキルに近いものではあるが、それでもスバルのそれは剣呑すぎる。仮に今のスバルがそれを使えばアレ(・・)と相まって文字通りの一撃必殺になる。

 それを手にかけるにはスバルには何もかも足りなかった。意志も覚悟も渇望も。

 彼の求道(・・・・)は遥か彼方。

 何も定めることができぬ彼女には使えない。使ってはならないとスバルの理性が無意識に鍵をかける。

 だがしかし、ならばどうすればいいのか。今の三人は間違いなく自分たちよりは強い。ティアナは消耗が激しく、エリオもセッテ相手にジリ貧。キャロを前に出すわけにもいかない。

 ならば、そう。体の中に活路見出せる可能性を持つスバルがどうにかするしかないのではないか。それを使ったら、この三人程度(・・・・)なら一瞬で終わらせるほどの力が。スバルにはあるのだ。使うか、使わないか。その選択肢はないに等しい。今のこの状況では使わなければ死ぬ。殺される。

 スバル・ナカジマの生が終わってしまう。

 

「私、は……」

 

 気づけば言葉がこぼれていた。自分がどうしてそんなことを強く思うのかも理解できず、しかし口は動き、

 

「こんな所で終われない……!」

 

 スバルの瞳が金色に輝き、足元にテンプレートテンプレートが生じ、

 

 背後、地上本部が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 吹き飛んだというのは正確ではなかった。こんな巨大な建造物が一気に吹き飛ぶなんてことは早々ない。だから、実際に起きたのはもっと小規模。

 

 今スバルたちがいた所から誰かが対角線上にビルをぶち抜いてきたというだけ。

 

 誰か、なんていうのは言うまでもない。こんなことができるのはこの場には一人きりだ。

 土煙の中から足音があった。それはゆっくりとした足取りで間隔が短いことはかなり小さいということ。

 

「いよぉ、そっちはどうだ?」

 

 気軽気に現れたのはやはりヴィータだ。グラーフアイゼンを肩に背負う彼女は不自然なほどに無傷。土煙で汚れた様子もまったくない。

 周囲を軽く見まわして、

 

「結構大変そうだなおい」

 

「チンク姉はどうした!?」

 

「それにトーレ姉さまは」

 

「あぁ、もう潰した(・・・・・)

 

 ことも何気にそう言った。

 

「テメェエエエエエエエエエエ!!」

 

「――!」

 

 それにノーヴェは激しくセッテは静かに激怒する。互いに目前にいたスバルとエリオを意識には外してヴィータへと迫る。ノーヴェの足元から一本のラインが生じる。それは爆発的な加速でヴィータへと駆け、

 

「っおおおおおおらああああああああああああああ!!」

 

 それをレールにしてノーヴェは突進する。速い。ぎゅるぎゅる(・・・・・・)というエンジン音が響きヴィータに迫る。同時にセッテも無言で双刃を飛ばす。指運にて駆動する一対のブーメランの速度はそれまでの比ではない。二枚刃が螺旋を描きながらノーヴェを追うように飛翔する。

 直撃すれば相応の威力を生む一撃は、

 

「あん?」

 

 直撃し、

 

「があああああああああ!?」

 

「――!?」

 

 ノーヴェの絶叫とセッテの驚愕。いや、驚愕は二人だけではなく見ているだけの他の者たちも同じだ。

 

「あ、が、ぐっ……!」

 

 蹴りを叩き込み、確かに直撃した。先ほどは瓦礫の群れを根こそぎ吹き飛ばした一撃だった。

 

 それが接触の瞬間、膝下まで拉げてぶっ潰れた(・・・・・)。セッテの双刃も同じ結末を迎えていた。寧ろ振りぬいたから膝下までで済んだノーヴェより、完全に粉砕されている分被害は大きい。

 

「今アタシに触るとそう(・・)なるんだよ」

 

「な、に……」

 

「創造、って言ってたなあいつは。発動すると人間大の異界になれるとかなんとか……。まぁ、とりあえず」

 

 一度区切り、グラーフアイゼンを振りかぶる。

 

「潰されたくなかったら、投降しろ。今のアタシは非殺傷指定で気絶、なんて細かいことできないからな」

 

 求道型の創造位階、『殴殺せし守護戦鎚』。その能力は自分の体を殴殺という概念の塊にすることだ。海鳴でも、先のチンクやトーレの攻撃も彼女に触れた瞬間に潰された。攻防一体であり、触れれば問答無用で発動する。だからこそ手加減が難しい。

 下手をすれば簡単に殺せる。

 

「別にあっちの二人も死んでねぇ。つか逃げられた」

 

「え」

 

 思わずティアナが呆けた声を出した。

 

「ヴィータ副隊長?」

 

「あ、いや。ほんと潰したんだぜ? 八割くらい殺してたらいきなり消えてなぁ。普通にアタシとアイゼンのサーチからも引っかからねぇし。幻惑系の仲間でもいるのかよ。まぁそこら辺は尋問なりなんなりするから、とっととお縄に着け。ほら、そっちのもちゃんと逃がすなよ、っと」

 

 言葉と共にヴィータが三人に向けてバインドを張る。むろんそれも創造位階での魔道行使であるが為に、

 

「動けば、ぐしゃっ(・・・・)だぜ」

 

「くそっ……!」

 

「これは……詰んだっすねぇ」

 

 ノーヴェは毒づき、ウェンディは冷や汗を流す。セッテは無表情のままに動かない。

 

「ほら、お前ら立てよ。中のはやてたちもシグナムが先導して、もうすぐ下来るらしい。スバルとアタシがこいつらの連行で、他ははやてや一緒についてきたお偉いさん方の先導頼むぞ」

 

 ぎこちないながらも、ティアナたちが頷いたのを確認してから、右手を耳に当てて六課にロングアーチに念話を繋げようとして、

 

 繋がるよりも前にロングアーチ側から緊急通信が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上本部最上部のさらに上の無人のヘリポート。ヘリコプター自体も眼下で行われるテロ行為への対処や上層部にいた局員たちの避難に全てが使われていた。

 その屋上の外周部、フェンスすらない所にはカイトはいた。例によってタバコを加えながら足を中空に投げ出して、直下の戦闘を眺めていた。

 

「ったく、あいつどうにも危なっかしいなぁ」

 

 それから視線を動かし、向けた先は遥か遠く海沿いにある六課隊舎だ。その現状に一瞥し沈み始めた太陽に視線を移しながら、

 

「やれやれ、面倒なことしれくれるなぁ」

 

「俺の知ったことではない」

 

 いつの間に背後にナハトがいた。黒髪黒目、頬に刺青を刻んだ彼はカイトの背後十数メートルの場所に立っていた。

 それに驚くことはなく、しかしやはり面倒そうに髪をくしゃくしゃと掻いて立ち上がる。同時に双刃銃を形成して両手に握る。向かい合ったナハトもすでにデスサイスと鎖を手にしていた。臨戦態勢、というにべきだろうが、しかし二人はあまりにも自然体過ぎた。当然ながらそれ相応の魔力や殺気、殺意はある。常人がいれば卒倒するレベルである。

 それでも、

 

「なぁおい、アンタさぁ。今のこの世界どう思うよ」

 

「さて、な。俺はこんな体に繋ぎ止めれらている現状から脱したいだけだ。そのためには貴様と戦うのが一番早い」

 

「そうかい」

 

 場違いにも空を見上げて、

 

「くそったれ……デジャヴるなぁ(・・・・・・・)

 

 そして灰色狼と罪悪の王の宴が幕を開ける。

 




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