Dies irae ーcredo quia absurdumー 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
海鳴の教会、聖槍十三騎士団暫定地球本部。孤児院としての顔を持つ傍ら、魔人たちの巣窟として存在する神の家は、
「反省会をするわ」
真昼間からそう告げるアリサの前にはシュテル、ディアーチェが顔を青くして床に正座をし、隣でレヴィが胡坐をかいていた。テーブルではニヤニヤとした笑みを浮かべたすずかもいた。五人とも私服である。アリサはへそ出しの赤のシャツに白のジャケットに赤のミニスカート。すずかは黒のジャケットにジーンズ。シュテルは黒の半そでシャツの下に白の長そでのシャツを着て膝上までのスカート。レヴィは黒のブラウスにミニスカートswディアーチェは黒と紫のワンピースだった。
かつてユーノとはやてが語り合ったのと同じ部屋だ。実は防音仕様の部屋だからよっぽどの大きな音を立てなければ外の子供たちの迷惑をかけることは無い。アリサたちの聴力だと防音仕様は関係から、外の音も聞こえるが、そっちにも仲間はいるので問題ない。
問題なく反省できる。
正座を組むシュテルたちの前で椅子に座り、足を組むアリサが呟く。
「さて」
「っ!」
ビクゥッ、とシュテルとディアーチェが反応する。が、アリサの視線は二人ではなく、一人胡坐をかいて座っているレヴィへと向けられる。
「レヴィ」
「なんだー?」
冷や汗を流す二人とは対照的にいつも通り、能天気とさえ言っていい笑顔だ。立ち上がったアリサはレヴィの前に立ち、
「文句無し。頑張ったわね」
「おーありがとー!」
にこやかな笑顔と共にレヴィの頭を優しくなでる。一応現役中学三年生なのだが、子供みたいな少女である。
「じゃ、あっちですずかとお菓子でも食べてきなさい」
「チョコとかあるよー!」
「食べるー食べるー!」
すずかが掲げたバケットにはチョコだけでなくクッキーやビスケット、ポテトチップスのようなお菓子の類がたくさんあった。どれもがレヴィのが好物だ。立ち上がり、諸手を上げながら駆けていく。子供らしい、そしてだからこそほほえましい光景にアリサもうんうん、と頷きながら笑みを浮かべ、
「さて」
「っ!」
先ほどとまったく同じ様にアリサが声をかけ、シュテルたちが反応する。冷や汗は増えていた。
「さて……まずはディアーチェ」
「う、うむ」
名前を呼ばれたディアーチェがビシッと背筋を伸ばす。
「さること数日前ねぇ。アンタ達三人があの馬鹿から勅命受けてミッド行ったわけよね」
「そ、そうだな」
「それで、
「……うむ」
数日前のことだった。
今アリサの言った通り、黒円卓首領である彼からの勅命を以て、シュテル、レヴィ、ディアーチェの三騎士はミッドチルダへと赴き、なのはやフェイト、はやてと戦闘を行った。いや、戦闘などと言えるようなものではなかっただろう。彼女たち三人は聖遺物の使徒として、創造位階の三騎士としての力の一端を振った。勿論それは全力とは程遠い力であったが、それでも今の所ただの人間であるなのはたちを相手にするには十分すぎるどころか過剰過ぎる力だ。実際戦った三人は傷一つなかった。
「そ・れ・で? 成果は?」
「……えっと、その、それは、の?」
「はい正直に」
「――なにもできんかった」
「よろしい」
ディアーチェの場合。
最初は順調だった。はやてにダメージを少しずつ与え、
「しかけて、そこまでだったわけね」
「うむ……」
ダメージを与えて、八神はやてという存在にほころびを生じさせ、
なのに、伝えなかった。
「……我の不手際としか言いようがない」
感傷的になった。八神はやてが彼の愛を疑ったことを許せなかった。大局を見据えればあそこで感情のままに動くべきではなかったのだ。それでも、思わず逆上し創造を使い叩き潰した。
それはディアーチェとして、黒円卓の騎士としてはあるまじき失態だった。
「……ま、わかってるならいいわよ。感傷的という意味なら問題はシュテル、アンタの方だしね?」
「……はい」
シュテルが静かに答える。顔が青いのも冷や汗も消えたわけではないが、それでも視線から震えは消える。
「私も王と同様です。感情的になり、やりすぎました。彼の制止がなければ……殺していたかもしれません」
いや、殺気だけなら全開だった。ディアーチェ以上に感情に任せて魔導を振った。
回帰しかけた彼女に創造を使い、感情の赴くままに滅却の炎を放った。なのはの、いや
「ま、回帰させたって事考えれば役目は果たしたけどね。それでも限度がある」
「はい」
勿論。アリサたちは解ってる。
例え、どれだけ殺意と殺気を、全身と全霊を以ても彼女たちは死なない。死ぬことは出来ない。万に一つの奇跡が起こり、九死に一生を得て、起死回生を以て切りぬける。こういう風にできているのがこの世界だ。
それでも、心構えの問題だ。
どうせ死なないから好きにやってもいいなんて事はあってはならないし、赦される事は無い。だから足りなかったのなら反省して、自らを戒める必要がある。けじめ、といえば解りやすいだろう。
「反省してる?」
「うむ」
「はい」
「よし」
じゃあ、
「お茶にしましょうか」
●
「大変だねぇ、先輩役は」
「こら同い年。アンタも仕事しなさいよ」
「アリサちゃんは怒る役。私は甘やかす役。親友同士、役割分担、完璧ッ」
「私に汚れ役押し付けてるだけじゃないーー!」
「あははははは!」
「笑ってんじゃないわよ!」
アリサがすずかの胸倉を掴みながら前後に思いきり振るがすずかは笑みのままだった。今のアリサでも常人なら即ブラックアウトが起きてもおかしくないが、ここらへんは素の状態でも身体能力が矢鱈滅多らに高い夜の一族である所以である。
シュテル達には年長者として振る舞うが、すずかが相手ではむしろアリサはいじられる方だった。
「はぁ……王で在りながら情けない」
「ははっ、気にすんよ王様ー!」
「ええ、そうですよ王よ。むしろ失敗の罰を理由にして彼にお仕置きという名の耽美な時間を……」
「反省しろ!」
「あいたっ」
すずかから手を離したアリサがどこからともなく取りだしたハリセンでシュテルの頭を叩く。
魔導とか関係ないツッコミスキルであった。貴重であった。
先ほどの反省会の時のシリアスな空気はすでに霧散していた。けじめとして行ったもの、基本的には彼女たちは中がいいのだ。仲良しグループと言っても、ある意味では正しい。
「おや、反省会は終わったのか?」
「おつかれさまですー」
談話室の扉が開き、シスター服の女性と少女が入ってくる。
銀髪赤眼の女だった。アンダーフレームの黒のメガネに起伏に富んだ体型の女だ。
もう一人は金髪金眼の少女。女性ほどではないがディアーチェやシュテルよりも胸の膨らみは大きい。
女性はクッキーやビスケットの入った新しいバケットを抱えていた。かぐわしい香りがあり、焼き立てであることがうかがえる。少女はお盆にポットや人数分のカップが載っていた。
「おお、来たか」
「遅かったですね」
「いい匂いだー! 美味しそー」
「あぁ、もう涎拭きなさいよレヴィ」
「あはは、まぁ見ての通り終わってるから。お茶にしよう? ――アインス、ユーリ」
「ええ」
「はい!」
祝福の風――リインフォース・アインスと砕け得ぬ闇――ユーリ・エーべルヴァインの二人は笑みを浮かべて頷いた。
●
「これ、薔薇のお茶なんですよ。桃子さんに貰ったんで、淹れてみました」
「おぉ、これはいい香りだな。礼を言うぞユーリ」
「えへへ」
薔薇の香りを漂わるティーポットで人数分のカップにお茶を入れるユーリが褒められて頬を染めながらはにかむ。それでも当然視線は手元に。ここで零しては話にならないし、彼女自身そういうことがないわけではないと解っていた。少しドジな少女であったのだ。
そして芳しい香りを漂わせるのはアインスが抱えていたバケットの中のクッキーやビスケットだ。焼き立てのいい香りが残っており、手に取ればほのかに温かい。
「これもクロハネが作ったのー?」
「あぁそうだよ。お前たちが反省会すると言っていたからな。気分転換と思って、な」
「ありがとうございます、アインス」
「気にするな。料理と子供の世話以外やることがないのだからな」
レヴィが一人でほとんど食べてほぼ空になっていたスナック菓子のバケットの残りを自分が持ってきたのに加えて、バケットを重ねる。
アインスとユーリは主にこの教会兼孤児院で子供たちの世話が日々の役目だった。もっともユーリは普段はシュテルたちと共に学校に行っているし、シュテルたちやアリサにすずかもまた子供たちの世話をしている。それでも黒円卓としてミッドや管理外世界に赴くことの多い彼女達に対して、二人はここを動くことは無い。
戦闘行為は二人の役目ではないのだ。
だからこの二人は表向きは教会のシスター兼孤児院職員とシスター見習いとして海鳴の街に溶け込んでいた。アインスなどは忍や美由紀たちと仲がいい。すでに五年近い仲だ。勿論アインス自身が気を付けているが、忍も美由紀もまさかアインスが消滅したはずの八神はやての融合器であるなんて想像がつくはずもなく。普通に友人として接していた。外国人が多い海鳴ならではだし、彼女たちはここ数年海鳴に帰ってくるのは数えるほどしかなく、だから存在が知られるようなこともなかった。
ふと、すずかがドアへと視線を向けた。
「ん? なんか外……」
うるさくない? と彼女は口に出そうとして。
「だーかーら! なんでがそういうこというわけ!? ……えぇ、悪いわよ! というか気持ち悪い! ほんと、やめてよ? マジで? 嫌よ? 私あなたのこと弟なんて呼びたく…………ホントに? 大丈夫よね? ……ええならいいのよ。……あぁ、解ったから。スバルにはちゃんと連絡入れるから。……はいはい、じゃあね……」
入って来たのはギンガだった。彼女も私服で、シンプルな長そでのシャツにジーンズ。ギンガらしく活動的な格好だったが、
「ああ……」
かなりぐったりしていた。というより、精神的に疲れているように見えた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとユーリ……」
駆け寄ったユーリがギンガの手を取りなが空いていた椅子へと先導する。椅子に付いて、お茶を貰ってもその様子に変わりなく、机に突っ伏す。
「どうしたのだ、ギンガよ。なにやら騒がしかったようだが……」
「……それが、ね」
ギンガは伏せた顔を上げながら、他の者は彼女の言葉を待ち、一人電話の向こうの様子が完全に聞き取れていたすずかは苦笑し、
「どこぞのチンピラがウチの妹にフラグ立ててると言うか、惚れてる……っぽいんだけど……」
即座に全員が視線を逸らした。
「……義姉とか呼ばれたくない……」
ギンガ・ナカジマ。
実に切実な願いだった。
主人公の扱いが一番ひどいというか主人公ってだれだっけ(
感想評価おねがいします