Dies irae ーcredo quia absurdumー 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
また、前世の考え方を引き継いでるのも全く正反対の考えをしていたり様々です。最も関連はきちんとつけますが。
時空管理局本局遺失物管理部機動六課。
前線メンバーから後衛メンバーまでが若手のエリート候補、あるいはエリートで固められた試験的に設立された一年間限定の部隊。隊長格三人がオーバーSランク、副隊長ランクもそれぞれニアSという破格の戦力を保有した部隊で、目的は古代遺失物、通称ロストロギア関連事件への機動性を重視した部隊であるらしい。最も異常な戦力保有と主要メンバーがほぼ全員若手と言う事で一部からは良く思われていないとか。
そしてそのトップ、
彼女こそが、今カイトの目の前にいる人物だ。
「久しぶりやなぁ、カイト」
「ええ、まあ。そうっすね。はやてさん」
「この前あったのはいつやったけ?」
「正月で地球に集まった時以来じゃないすか? どっかのだれかがウチの兄貴に酒飲ませて逆レイプ狙った人とかいましたけど」
「あれは主犯はすずかちゃんや。ウチはすずかちゃんをアリサちゃんで止めようとしとっただけや。……まぁ、いろいろあってフェイトちゃんとかに止められた訳やけど」
「そのいろいろが問題ありなんでしょうよ……」
茶の短髪を揺らしながらにっこりとほほ笑み、カイトは息を吐き出す。相も変わらずこの女性は腹黒い。素の表情でとんでもないことをやり出すのだ。知り合ったのは大体五年前だがどうにも掴めない。
「んで、カイトも今日から機動六課の一員なわけやけど……まずはその格好どうにからんか?」
「は?」
言われ、カイトは自分の格好を見直す。先週いきなり言われ、超特急で寸法し仕上げた陸士部隊の制服だ。茶色というかクリーム色のこれは正直ダサいと思う。まぁ、それでも着ないわけにはいかないので一応着ているが、少し着崩している。
「まぁ、チェーンとかネックレスはまあウチらからしたらトレードマークみたいなとこはあるからええけど、ネクタイくらいして第二ボタンもちゃんと止めぇ」
「パス、うっとうしい」
「……まぁ、ええわ。言ってどうにかあるとは思わんしな。じゃあ、真面目な話しや」
「はいはい」
「カイトの立場はロストロギア――――レリックに関してのアドバイザーとしてここに来てもらった訳やけど……大丈夫か? アドバイスとかできるん?」
「まぁ、なんとかなりますよ。第一レリックなんて魔力の塊なわけなんだから大してアドバイストとかいらないっすよ」
「またぶっちゃけたことを……、まぁ、カイトが来るって聞いた時点でそうだろうと思ってたからええけど。んじゃ、次。カイトの武装の話しや」
「魔力式の拳銃二丁手配しときましたけど、なにか?」
「なにかやないやろ。なんでこんな半分質量兵器みたいなの使うんや、デバイスじゃあかんのか?」
「まぁ、正直使い難いので。弾でりゃ十分すよ。あと一応手榴弾とかも持ってますし」
「なぁ、非殺傷指定って知ってるか?」
「あのどれだけ痛めつけても相手は死なない素敵使用すか」
「ものは言いようやなぁ」
はやてが遠い目をしていた。
正直な話し、カイトも通常の魔導が使えないわけではない。カイトやユーノを含め、僅か数人がある術式を宿しているが、それと魔導の使用とはあまり関係ない。むしろ使い方によっては通常の魔導の威力をはね上げることもできる。
だが。
カイトの
「ま、とにかく。俺は武器変える気ないんでよろしく」
「あ、そ。じゃあ次や」
「まだあるんすか……」
「もうこれで最後やから。カイトの六課内の立ち位置やけど、とりあえず出撃時は遊撃でええな? それ以外は……そういや書類整理とかできるん?」
「教えてもらえれば大体できますよ」
「ならそれで。んーならもうええか」
「さいですか。なら、俺は」
「まあ、待ち」
話が終わったようなのでカイトが部屋をでようとしたら止められる。
あまり良い予感はしない。
「こっからが本題や」
「今の話しはなんだったんすか」
「だからさっきのは真面目な話や。ええか? ――――ユーノくんは最近どうや?」
「ああ、やっぱその話しかよ………」
これで本人が本気だから困る。間違いなくこの人はカイトの知り合いの中でもトチ狂ってる。
まぁ単純に言ってこの八神はやてはカイトの義兄であるユーノ・スクライアに惚れている。もっともそれは彼女だけでなく他の彼女の幼馴染たちもそうなのだが。その中でもはやてはかなりオープンだった。
さらに言えば、
「バレンタインデーの時はチョコにこっそりウチの髪とか混ぜた訳やけど結局あれはどうなったん? ホワイトデーには普通にクッキー返されて反応確認できんかったし」
「そりゃあ俺とギンガで棄てましたから。なんか嫌なオーラ漂ってたし」
「なんてことを。ウチの愛をなんだと思ってるんや」
「はやてさんこそ常識なんだと思ってるんすか」
「正直、チョコに髪とか血とか普通やと思うんやけど」
「そんな常識ドブにでも棄てちまえ」
●
「やれやれ、相変わらずあの電波タヌキは……」
ようやく部隊長室から出たカイトはタバコを口に咥えながら嘆息する。あれの相手はかなり疲れる。火を点けながら時計を見ればすでに昼時だ。食堂に迎えば誰かいるはずだ。知り合いも少なくないので退屈はしないだろう。
「てか、知り合いばっかだな」
隊長3人が幼馴染で副隊長は部隊長の私兵扱いでさらにはフォワードの新人二人も隊長の一人の子供のようなものだ。仲良し部隊と言われてもしょうがないだろう。いろいろ不安事項が多い部隊だ。というより多すぎる。
よくもまぁこんな部隊が設立できたものだ。
はやての頑張りも勿論あるのだろう。彼女の情熱もある。
それはなんとも素晴らしいことだと思う。
だが、思わずにはいられないのだ。
「……くそったれ」
自分の思考に吐き捨てる。気持ち悪い、吐き気がする。
その思考そのものにも、それを考えた自分にも。
タバコの煙を肺に送り込む。体質上、ニコチン等の有害物質は彼には効かない。それでも自分に毒を入れるように吸う。
「食堂に酒はあるのか……?」
アルコールの類も体に影響はないがそれでも気晴らしにはなる。無かった時はどうしようか考えていたら食堂に到着。
結構広い。
少し見渡せば見知った顔が何人かいた。
●
「よ、ひさしぶり。エリキャロ、お姉さまがた」
突然現れた男にティアナは目を見開く。
彼女か機動六課に配属されてもう二週間ほどたち、ある程度のメンバーとは顔見知りになったつもりだったがその男を見たのは初めてだった。自分より一つか二つは上だろうか。針金を束ねたような痩せて引き絞られた体。ノーネクタイで第二ボタンまで開けられて着崩された陸士制服。なにより目立つのは、染色方法が皆目見当つかない白と黒の斑の髪形。気だるげな、それでいて鋭い瞳。
まず間違いなく初対面だった。こんな柄の悪い奴一度見たら中々忘れられないだろう。
だが、他は違ったらしい。
「カイトくん!」
「あれ、そうか。今日だったね、カイトが来るの」
「なつかしいな、おい」
「カイトさん!」
「う……カイトさん」
なのははいきなりの登場に驚き、フェイトはなにやら納得し、ヴィータは懐かしそうに笑い、エリオは思わず立ち上がるほど喜び、キャロは僅かに身を引いた。
「よぉ、俺も混ぜてくんね?」
「あ、こっちどうぞ!」
「おお、悪いなエリオ」
何時にないハイテンションでエリオがカイトとかいう男に席を促す。自分とスバル、エリオ、キャロと座っていたのだが。隣の机にはなのはやフェイト、ヴィータだ。
「もうはやてちゃんには会ってきたの?」
「ええ、まぁ。相も変わらず訳のわからん話をしてくれましたよ、兄貴絡みの」
「ああ……それはなんというか」
彼の部隊長への物言いに隊長たちは怒るでもなく苦笑していた。かなりの仲がいいようだった。
「あ、エリオ。この馬鹿デカイパスタ……って分け合ってるのか。えっと、俺ももらってもいいか?」
「え、ええ。構わないけど……」
戸惑いながらもティアナは答えスバルも小さく頷く。
「悪いね。ああ、俺、カイト・S・クォルトリーズな。今日からここに配属になったからよろしく頼むぜ」
「ティアナ・ランスターよ、ヨロシク」
「……スバル・ナカジマです」
「ああ、そうか。お前らがね、ギンガから聞いてるぜ。将来有望な妹と妹の親友がいるって」
「別に親友ってわけじゃ……ってギンガさんと知り合いなの?」
「ああ、まあな。ついでに言えば、お前ら以外の大体の六課の面子とは知り合いだよ、な?」
「はい! カイトさんとは結構小さい時から遊んでもらったり、色々教えてもらったりしてました」
「私も……その、少し遊んでもらったり……」
エリオとキャロの反応が実に対照的だった。エリオは今までに見たことが無いくらい輝き、キャロはカイトから距離を置こうとしている。嫌悪などではなくて純粋に苦手の様子だ。確かにこのチンピラまがいのオーラは女の子には近づきにくいだろう。
「カイトは実際に出撃したら遊撃になるからね、次の出撃までにちゃんと仲良くしといてね」
「あ、はい。……あんた、戦えるんだ」
「おうよ。ま、結構強いぜ?」
「ふうん……ランクもさぞかし高いんでしょうね」
言ってからしまったと思った。完全に嫌味と嫉妬の言葉でしかない。自分でも情けなくなるような言葉だ。
だが、
「いや、俺魔導師ランク持ってないから。魔法も基本的なのしか使えねぇよ、念話とか」
「はぁ? それ、まじ?」
「ホントだよ。カイト魔導師ランク試験受けてないからね」
「ついでに、魔法もほとんど使わないしよ」
「ま、どうも性に合わなくてな。それに魔法使えなくてもほかにもやりようなんていくらでもあるしよ」
その言葉は少なからずティアナにとっては衝撃だった。魔導師というものにとって魔導師ランクはもっとも解りやすい強さの目安だ。いや、それ以上に管理局は魔導師ランクを最も重視している。二十歳にもなっていないはやてが部隊長をやっているのがその証拠だ。なのに目の前の男はそれがなんでもないことのように言う。
その言葉を、意味はティアナの胸に意外なほど沈んでいった。
だから。
だから、気付かなかった。
隣にいたスバルが、それまで普通に喋っていたスバルが黙ったことに。いつもの活発な雰囲気がなりを成りをひそめていたことに。
その瞳に映ったのは決して正の感情は無く、負のベクトルだった。
そのことには一人を除いて気付かなかった。
唯一人、向けられた張本人であるカイトだけはその視線に気付いていて、しかし、まったく頓着しなかった。
『ああ、俺こいつ嫌いだわ』
『うん、私この人ダメだ』
それが――――カイト・S・クォルトリーズとスバル・ナカジマのお互いのどうしようもない、しかしある意味においては当然の第一印象だった。
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