Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Kriegsschagen

*1間Et in Arcadia ego

*2よりThrud Walkure


第二十五章 照らし輝く光

「ーーーー!!」

 

 廃都市群上空にて二つの閃光がぶつかり合っていた。

 高度は遥か高く、デバイスの補助や魔法無しでは通常の呼吸すらも困難なほど空気が薄い。 

 それでも、激突は終わらない。

 斬馬刀状に変形されたバルディッシュを振うフェイトと鎌状のバルニフィカスを振うレヴィ。互いにディテールの酷似したデバイスを遣い、顔立ちもそっくりでまるで鏡合わせようだ。

 互いに高速でぶつかり合い、弾かれ合うが、

 

「くっ……!」

 

「そいやぁー!」

 

 フェイトの顔に余裕はなく、レヴィは顔色は涼しい。

 合わされていると、フェイトは理解していた。限定解除をし、加速魔法を全開で使用しており、バルデイッシュも最終形態と言ってもいいザンバーフォームだ。フルドライブは未だ調整が不十分で使えない。

 つまりは今自分は最高速だ。

 にも関わらず、

 

「はっはー! 遅いぞオリジナルぅ!」

 

 レヴィは高笑いを上げながら、容易くフェイトの速度を超越する。

 どれだけ自分が加速魔法や飛行魔法を振りしぼり、効果を上げても、その次の瞬間に自分の僅か上の速度に至られる。もっと言えば、弾かれ合うのではなく、レヴィが激突に瞬間にフェイトを弾き、自分は追撃せずに離脱しているだけだ。だから弾かれ合っているように見えるし、速度も拮抗しているように見える。

 わからない。

 

「何が……」

 

「ん?」

 

「何が、目的だ……!」

 

 弾かれながらも、叫ぶ。悔しさを噛みしめながらも、できることをするしかない。

 

「目的かぁ……うーん、そうだなぁー……説明しなきゃだめ?」

 

「ふざ、っけるな!」

 

「おっと!」

 

 緊張感の無いレヴィにプラズマランサーを一発放つ。高速でぶつかり合う以上、下手に止まって魔法を使えば即座に落とされる。だから、一発が限界だ。それでも、そこそこの魔力の密度や速度はあるが、当り前のように避けられる。

 

「でもなー、悪いけどボクは難しい話は苦手なんだよ。そういうのはシュテルんや王様の役目だし」

 

 嘘を言っているようには見えない。というか、どう見ても嘘が得意な風には見えなかった。そういう所は自分と同じらしい。

 

「えっと、そうだな、なんていえば言いか……ん? いや、これは言ってもいいんだっけ」

 

 あーとかうーとか唸りながらも、速度は緩まないし、常にフェイトの先を行く。だがすぐに、結論に至り、

 

「うんやっぱ、止めておこう。怒られたら嫌だし。というわけでオリジナル―、ボクの目的は秘密でー!」

 

「だからっ、ふざけるなと言っている!」

 

 叫びと共に、力任せにバルディッシュを叩きつけるも、結果は変わらずレヴィに弾かれる。

 技術そのものでは決して圧倒的に劣っているわけではない、単純に膂力が違いすぎる。

 

「あはは……ふざけてないよ。真面目だって、ただ、ボク馬鹿だからさ。言葉では上手く言えないんだ」

 

 だから、

 

 「伝えよう、こっち(・・・)でね」

 

 瞬間魔力が跳ね上がり、雷光が弾ける。視界を埋めるが、気にしていられない。僅かでも目を逸らせば、即座に斬られると理解させられる。

 

「ボクはまぁ、シュテルんほど君たちに色々感情あるわけじゃないんだ。そりゃあ思うことは色々あるけど、それでも、シュテルんほど怒ってない。だから――――手加減頑張るから安心してね」

 

 レヴィの身体から覇気が溢れだす。物理的な圧力すら感じるほどの密度の戦意。殺意でも殺気でもない純粋な覇気がフェイトに叩きつけられ、全身が硬直する。

 そして、自分を取り戻したと気は何もかも遅かった。

 

『その剣は、ぼくの胸の中から現れないのか? この荒れ狂う心の思いが剣とはならないのか?』

 bricht mir hervor aus der Brust, was wütend das Herz noch hegt?

 

 レヴィの渇望を基にした祝詞が朗々と謳われる。

 

『剣よ、証人となれ!ひるまずに、お前をこの手にするのはボクだ! 』

Bezeug' es dies Schwert, das zaglos ich halte!

 

『かつてヴェルゼは言った。最大の危機に陥ったとき、 お前は剣を手に入れるだろうと。今こそその時だ! 』

 Wälse verhiess mir, in höchster Not fänd' ich es einst: ich fass' es nun!

 

『切っ先鋭い刃を見せよ! 鞘から姿を現すのだ!』

Zeig' deiner Schärfe schneidenden Zahn: heraus aus der Scheide zu mir!

 

『――――創造』

   Briah

 

『先駆幻想・迅雷の剣』

 Ginnugagap:Notung!

 

 聖槍十三騎士団第十位、大隊長狂乱の白騎士(アルベド)『雷刃の襲撃者』レヴィ・ザ・スラッシャーの求道がここに完成した。 

 

 

 

 

 

*1

 

 

 

 

 

「大事なのは事は渇望なんだ」

 

「――――」

 

 詠唱完了の瞬間、決してフェイトはレヴィから目を逸らしていなかった。爆発的に高まった魔力に謳われた詠唱に警戒しないわけがない。だから、何が起きても、反応できるように身構えていたが、

 

 自分の真後ろにレヴィはいた。

 

 何時の間に、という疑問は簡単だ。詠唱を完成させた直後。どうやって、飛翔してフェイトの背後に回った。それだけだ。これだけの単純な行為。

 ただ、それらをフェイトの認識を遥かに超える速度で行われたに過ぎない。音すら、ない。

 真後ろを取られ、下手に動けない。額から流れる冷たい汗が頬を伝い顎へと流れる。

 

「例えば『大事な人を救いたい』。例えば『唯一無二が欲しい』。例えば『好きな人のために咲き誇りたい』。例えば『惚れた馬鹿の為に燃え上がりたい』」

 

 真後ろから語られる言葉は驚くほど落ちついていた。

 語られるのは、誰かの願い。何故か、ギンガが、カイトが、すずかが、アリサが思い浮かぶ。

 

「こうあってほしい、こうありたい。そういうこと。餓えて、飽いて、心が祈り、願い、希う。外向きか内向きか、世界を変えたいのか、自分を変えたいのか。そういうベクトルの差はあっても、結局は一緒なんだよ。つまり――――現実を否定するほどの祈りだよ」

 

「現実を――――」

 

「そう。僕の場合は……『大切な人の道を切り開きたい』」

 

 道。

 その単語は、なぜかフェイトの胸に響いた。

 

「ね、オリジナル。君はなんだい?」

 

「わた、し、は……」

 

 口は動かなかった。

 私の、フェイト・T・ハラオウンの渇望とはなんだろう。現実を否定するほど一体なにを願っているというのか。

 

「はは……まぁ、いきなり言われても困るよね。だから考えて、思い出してよ」

 

 背後、わずかに苦笑した気配。

 だが、なにを思い出せというのか。それの答えは、

 

「*******」

 

 告げられた咒に隠されていた。

 

 

 

 

*1

 

 

 

 

 

「あ、あ、あ……!?」

 

 ソレを聞いた瞬間に、精神が無茶苦茶になった。脳みそを直接火かき棒で掻きまわされたかのような衝撃。

 前後不覚なるほどの精神ショック。空中で棒立ちになるが、

 

「ホラホラ、言ったでしょコッチで語るって」

 

 レヴィが刃を振う。

 それは先ほどまでのサイスフォームではなく、バルデイッシュのフルドライブであるライオットザンバーと呼ばれる片刃二刀だ。

 水色の雷が帯電している、振り向きざまの刃は音を超えて、フェイトへと振われる。

 

「っ!」

 

 精神が瓦壊しながらでも、迫る雷刃を避けなければならない。効果が大分薄れてきたが、それでもなんとか飛行魔法で回避する。落ちていると言ってもいい動きだった。

 それでも、奇跡的に回避した。だが、そんなものは二度も続かない。

 落ちたその先に、既にレヴィは回りこんでいた。

 

「そぉーい!」

 

 雷光の刃が奔る。両手が霞み、スパークが弾けた。

 

「っ、あ、あああああああ!」

 

 切り刻まれる。交叉は一瞬でも、叩き込まれた斬撃は百にも届く。一閃すらフェイトには反応できない。高レベルの防刃効果のあるバリアジャケットも意味はない。斬撃痕は細かいはそれだけ数は膨大だ。

 しかし、

 

「なん、で……!」

 

 斬撃は薄皮一枚のみを斬るだけで留まっていた。

 

「だから頑張って手加減してるだってー。思いっきりやったらオリジナル死んじゃうじゃんか」

 

 レヴィの言葉に悔しさで唇を噛みしめるが、言い返せない。最早天地ほどある実力差は明らかなのだ。

 

「ていうかさ、なにも思い出せない?」

 

「……」

 

 思い出せ。

 海鳴の時もそう言っていた。

 さっき脳髄に叩きこまれた理解不能な言語。言葉という概念そのものが自分の知っているものとは異なっているとしか思えない。

 

 それでも、とてつもなく重要な名前だというのを理解できる。

 

「――――え?」

 

 ちょっと待て。今おかしかった。自分の思考が明らかに不鮮明だった。

 

 ――何故名前だと思った(・・・・・・・・・)

 

  おかしい。レヴィが放った言葉はフェイトには理解できなかった。それは間違いない。言語体系所か発声の仕方さえ違うだろう。掛け値なしに理解不能であり、聞いているだけで不快感極まりない。

 そんな謎の音の羅列であるにも関わらず、フェイトはソレが名前だと理解していた。

 

「う、あ、あ……」

 

 なんだこれは、気持ち悪い。吐き気がする。知るはずの無いことを知っている。

 

「おーい、オリジナル大丈夫? んー……いまいちだなぁ、こういうと気どーすればいいんだっけ……ああ、そうか」

 

 混乱の境地の最中のフェイトに、レヴィは朗らかに言う。

 

「――――あんまりチンタラしてると君の周囲殺しちゃうよ?」

 

 

 

 

*2

 

 

 

 

「――――」

 

 刹那、今度こそフェイトの世界から音が消え去る。今度はなまじ理解できたから。

 その言葉が到底認められるものでは無かったから。

 今、殺すと言ったのか?

 フェイト・T・ハラオウンの周囲を?

 それはつまり。高町なのはを、八神はやてを、月村すずかを、アリサ・バニングスを、シグナムを、ヴィータを、ザフィーラを、エリオ・モンディアルを、キャロ・ル・ルシエを、スバル・ナカジマを、ティアナ・ランスターを、シャリオ・フィニーノを、クロノ・ハラオウンを、リンディ・ハラオウンを、エイミィ・ハラオウンを、アルフを、ユーノ・スクライアを?

 自分の周囲を殺すだと? 

 

「ふざ、ける、な」

 

「お?」

 

 しぼり出た声は自分でも驚くほど低い。

 そんなこと、認められない。

 

 かつて、彼女は母を見殺しにした。

 

 見殺し、というのは違ったかもしれない。少なくとも周囲はそう思っていないだろうし、公的な記録でもそうだ。

 それでもフェイトは自分が見殺しにしたと思っていた。

 あの時、もう少し自分が早ければ、瓦壊する足場から零れ落ちる母親に間に合えば。僅かでも延命できたかもしれない。姉の、オリジナルであるアリシアもちゃんと埋葬できたかもしれない。

 でも、現実には自分の手は届かなかった。

 

 どれだけ後悔したのか覚えていない。

 

 例えプレシア・テスタロッサが自分のことを人形としてか見てなくても、アリシア・テスタロッサの代替として生み出されただけだとしても。

 フェイト・テスタロッサにはプレシア・テスタロッサは母であり、家族だったのだ。プレシアと家庭教師のリニスと使い魔のアルフ。

 順番に欠けていって、もうアルフしかかつての家族はいなくなった。

 

 失ったモノは帰ってこない。

 

 そう誰かが言っていた。一度手放して、もう一度手に入るものに意味はない。

 でも、だからこそ、今を、受け継いできた刹那を生きなければならない。

 友達を作って、新しい家族も、好きな人も、死んでしまった大切な人の分まで生きていきたいのだ。

 でも、

 

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――――」

 

 大切な人が死ぬのはもううんざりだ。もう嫌だ、見たくない。

 

「私は――私は……!」

 

 死ねば苦しい、辛い、悲しい、泣きたくなる。

 死ねば死ぬほど。失えば失うほど。

 苦痛と悲痛と慟哭の死山血河。そんなの――――嫌だ。そんな道でどうしろというんだ。

 叫びと共に魂から渇望が溢れだし――――

 

『――*******』

   

 既知世界、先代黒円卓において最も美しく、鮮烈であった戦乙女が舞い降りる。

 

 

 

 

 

 

『********** ***********

 

 ***** *************

 

 ***************

 

 ********** ***********

 

 ****

 

 *** ******** *******』

 

 謳われた詠唱は瞬時に完成していた。

 フェイト自身、自分が何を言っているのかまったく理解していない。だがそれでも込められた祈りは知っていた(・・・・・)

 

 戦場を照らす閃光になりたい。

 

 なんて美しく、穢れのない祈り。鉄風雷火の三千世界、その中で血と死に酔う事が無いように。地獄の果てまで行軍したとしても騎士としての誇りを失わぬように。戦友たちの道を照らせる閃光になりたいのだ。

 

 その祈りを今、フェイト・T・ハラオウンは思い出していた――否、祈りの下に*****・*******は回帰していた。

 彼女の周囲に雷光が弾ける。

 身体が、腕が、足が、髪が、瞳が。全身至るところが雷光へと変生していく。

 魔力変換などという生易しいものではない。

 雷という自然現象、それも魔術的、概念的となったソレへの変生だ。ありとあらゆる物理法則から解放され、雷速という境地へと辿りついていた。

 

「――――私は死人でできた道なんか照らしたくない!」

 

 その言葉こそが彼女の騎士としての誓い。血で錆ついた大切な人の剣に再び輝きを取り戻せるように。

 獣の爪牙であるのにも関わらず獣に牙を剥いた戦乙女の宣誓だ。

 

 叫びと共に疾走する。手に握ったザンバーモードのバルデイッシュは持ち主から送られる膨大な魔力に自壊寸前だ。大剣という形状を保っているのは、単純に彼女の魂が自らの武器として剣の形を求めていたからにすぎない。

 今彼女は掛け値なしに次元世界最速だ。創造発同時のレヴィも、黒円卓の幻想たちも、他の何もかも。相手によって相対的に速度が変わるエリオやそもそもの存在が違う翡翠を例外とすれば、真に最速。そこまでの祈り。

 

「はああああああああああああああああああああーーーーッッ!!」

 

 戦乙女の雷速剣舞。英雄(エインフェリア)地獄(ヴァルハラ)へと誘う死の舞踏(トーテンタンツ)

 

「ああ……なるほど。これは確かに凄いや。綺麗だね」 

 

 雷速の刃は感嘆するレヴィへと叩き込まれ――、

 

「――――でもそれは君の渇望じゃない」

 

「――――」

 

 雷速を遥かに超える速度にて振われたレヴィの二刀がバルデッシュの刀身とフェイトの肩を切り裂いていた。

 

 

 




フェイトぼこぼこ回。
しかしこのレヴィアホの子に見えない……。

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