Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Holocaust

*1よりSol lucet omnibus
*2よりLetzte Bataillon

*3よりEinherjar Rubedo



第二十四章 認められないから

 滅却の炎弾が形成される。その数は先ほどまでの活動位階の比では無く百にも届いておりながらその性質は薄まる事はない。

 

「降り注げ――炎星」

 

 それはまさしく流星群。廃都市群を焦がし尽くす星々はシュテルの激情を受け、一つ余さずなのはへと降り注ぐ。

 

「ッ……!」

 

『Protection.E.X』

 

 眼前を埋め尽くす流星群にもはや言葉もでない。全力で防がなければ死ぬ。

 排出したカートリッジは四。通常ならば必殺の技以外には使用をためらわせる数だが、なのはも、そしてレイジングハートでさえ迷わずに障壁を展開する。

 だが、

 

「それで?」

 

 滅却の流星群、その一発目から高町なのはの全力の障壁を破壊した。

 

「きゃああああああああああああああああああああぁぁッーー!!」

  

『Jacket Burst』

 

 咄嗟にレイジングハートはバリアジャケットをパージして爆発させ、即席の障壁とするも焼け石に水だ。

 蹂躙する。

 爆煙が廃都市群を、なのはを。

 滅却の炎弾はそれ自体が超高温の炎の塊だ。物理的な現象ではなく魔術的な概念の炎だ。主命を受けているから、死ぬ寸前までに威力を留めるが、

 

「ああ……これは手加減を誤りましたか」

 

 爆煙と土煙りが晴れる。

 そして見えたのは、炭化した建物の残骸と、

 

「…………ッ、あ、あ……」

 

 全身の重度の火傷を負ったなのは。バリアジャケットは見るも無残であり、レイジングハートも半壊状態。コアにも酷い損害を被っている。

 

「っあ……!」

 

 痙攣し、息を吸い吐くだけでも激痛が彼女にはある。明らかに死ぬ一歩手前だ。

 

「くっ……!」

 

 それでも、なんとかレイジングハートの遺された生命維持機能、なのは自身の本能で魔力を全身に通し、最低限の治癒を行う。

 それを確認し、

 

「ああ、なら、ある程度回復するまで待ちましょうか。この程度で終わられても困ります」

 

 その姿には蹂躙を為したことの疲労らしきものは欠片もなく、事実今の炎の流星群はシュテルにとってはなんの消耗はない。その姿に、なのはは絶望以外覚えれない。全力の砲撃も全開の障壁も、何もかも通じなかった。

 

「……な、……で……?」

 

「なんで? 私があなたを蹂躙している理由ですか? 言ったでしょう、あなたが何も知らなければ、それは……彼の慕情を無為に返すものであり、その愛を踏みにじる行為だ。それは許さない。だから。それ以上の理由は必要ですか?」

 

「あ、くぅ……ぅ!」

 

「ええ。あなた達にはわかりませんよ。この身は彼のモノ。器も魂も、欠片も断片も例外はない。私たちはそういう風に生み出されたのですから(・・・・・・・・・・・・)

 

「っ……、?」

 

 そういう風に生み出された?

 おかしい、はやてがユーノから聞いた話では、自分たちのクローンであるシュテルたちが行き場もなく彷徨っていた所を保護したのではなかったのか。

 

「あぁ、だから理屈ではないんですよ。本来ならば、少しずつ痛めつけ、かつての記憶を取り戻しさせ、回帰を促すべきなのでしょう。今のあなたがかつての貴女を継承できるように。ですが――」

 

 掠れた目で、胡乱な視界で、距離があるにも関わらず、何故か彼女の顔を見ることができた。その顔は見憶えがある。

 誰かに恋している顔、誰かを求めている瞳、愛している人の為になりたいという祈り。

 

「あ、あ、あ……」

 

 なんて真摯に、切なく、激しいのか。その思いは。見れば分る。分ってしまうのだ。

 自分も同じだから。

 

 ――いや、自分よりも強い思いを、明確に感じた。

 

 あるいは狂気にすらなってしまうほどの愛。

 

「それができない、どうしても許せない。例え創られ、仕込まれた感情だとしてもこの胸に宿る想いは真実だと信じているから。彼は優しいから、どうしようもなく馬鹿だから」

 

 そう、彼は馬鹿だ。そして誰よりも優しい。

 十年前自分とであったのも彼の責任感故にだ。彼自身に過失はなく、偶然でしかなかったのに、責任もないのに、彼は地球に来た。そして傷ついて、消耗して、高町なのはと出逢った。

 

 そして――全てが始まったのだ。

 

「彼も、灰色狼(ガウス)も、自死の苦悩も、あの狂獣の少年も、皆男は馬鹿です。男の戦場に女はいらない、後ろに控えていろ。影で戦闘解説している男は死ねばいい。どれこれも、口をそろえて言う。馬鹿馬鹿しい。あぁ、これが彼らなりの矜持だということはわかっていますよ。でも、だからこそ、私は思うんですよ」

 

 一度、目を伏せ、言う。それは彼女だけの想いでは無く、黒円卓に所属する彼女たち全員が共有する想い。

 

「――男の影で護られているだけで、何もしない女だって死んでも構わないでしょう?」

 

 その苛烈すぎる主張は、どうしようもなくなのはの胸に刺さった。

 護られているだけ、何もしない。

 そうだ、自分は彼に何をした?

 魔法の力を貰った。折れた翼を取り戻してもらった。

 十年間、自分の背中を支え続けてくれた。職場の都合で離れても、離れた所から力を貸してくれた。

 彼がいなければ、今の自分はあり得ない。

  

 なのに――

 

「そう、あなたは、あなた達は護られているだけだ。包みこむ翡翠の愛のまどろみながら、ただ都合のいい夢を見ているだけ。なにをしているのですか」

 

 だから、

 

「これが最後です、目を覚ましなさい」

 

 そして、シュテルが呼ぶその咒は、

 

「****・******」

 

 

 

 

 

*1

 

 

 

 

「――――あ、あ」

 

 ■■■■・■■■■■■    

 それはなんだ。今度こそ、本当に理解できない。言語すら自分の知っているモノではない。

 だから理解できるはずがない。この世界の言語ではないのだ、高町なのはに理解できるはずもない。

 だから、そう。

 

 魔女への鉄槌(・・・・・・)なんていう魔名を知るはずが無いのだ。

 

「いや、いや、いや……!」

 

 自分の中から何かが湧き上がる。いや、何かが自分の魂を塗りつぶしてくる。いやだ、怖い。自分が消えていく。十九年間積み上げてきた己が塗り替えらる。

 

「いやだ、だめだよ……!」

 

 言葉では否定しつつも、胸の中から湧き上がる感情がある。

 

「ッーーーー!」

 

 それにはどうしようもなく覚えがあり、だからこそ、否定できない。

 掘り返されるように過去の記憶がフラッシュバックする。

 

「ああああああああああ――――」

 

 かつて高町なのはの父は、生死の境目を彷徨った。ボディーガードという物騒な仕事だったから、大けがは覚悟の上だっただろう。それでも、ちょうどなのはの幼少期、日常生活も危ぶまれるほどの重傷を負い、長期間入院していた。

 一家の大黒柱が欠け、高町家に大きな負担が掛ったのいうまでもない。当時、喫茶店の経営が軌道に乗り出し、母は勿論兄と姉もその手伝い、それが無くてもアルバイトや父の見舞いに追われる日々。

 そんな中でなのはは何もできなかった。

 幼かったから、できることがなかったのだ。できることは、温もりのない家で家族の遅い帰りを待つことと、頑張っている家族に負担を掛けないようないい子(・・・)でいるだけだった。

 そんな幼少期だったから、公園が嫌いだった。

 気分転換で公園に行けば、日が沈む頃には迎えに来た母親と駆け寄る子供を見ることになる。寂しさで一人ブランコをこぎながら泣いていたことは一度や二度ではない。

 

 場面は移り変わる。

 幼き日のフェイトの落とされた。決闘中に割りこまれフェイトを救えなかった。プレシアが死んでしまった。ヴィータに落とされた。レイジングハートを破壊寸前にまでされた。闇の書の闇は壊せても、リインフォースは救えなかった。

 何もかも、届かなかった。

 

 また変わる。

 それは雪の風景。掠れた視界の中、泣き叫ぶヴィータ。お腹はやたら熱く、身体から力が抜けていく感覚、手のひらにはぬかるんだ感触。

 十一歳の時、無理が祟って未確認の敵にまたもや落とされた。

 もう二度と、空を飛べないと言われた。

 

「――――」

 

 そう、それが始まりだった。

 歩くことさえままならない自分。二度と飛べないと言われた自分。

 そんな自分はあろうことか、

 

 未だ翼を持つ仲間たちに嫉妬した。

 

 天に輝く星々に、大地を這う地星が届かぬとわかっていても手を伸ばすかのように。

 醜く、浅ましい、みっともない。

 それがわかっていても願わずにはいられなかった。

 怖かった、さみしかった、苦しかった。

 

「そう、だ……」 

 

 そう、それだけだったのだ。

 でも、自分は手を伸ばすだけではなにもできない。

 

「怖かったんだ、置いていかれるのが。嫌だったんだ、抜かされるのが」

 

 だから、だから、だから――――!

 その言葉は回帰の祝詞。高町なのはではなく■■■■・■■■■■■■■として――――泣き叫ぶ。

 

『――――**********』

 

 

 

 

*2

 

 

 

『***************』

 

 どこにも行かないで、置いていかないで、私はとても遅いから。駆け抜けるあなたに追いつけない

 ああ、だから待って。一人にしないで。あなたと並べる未来の形を。那由多の果てまで祈っているから 。

 それが限りなく無であろうとも、可能性だけは捨てたくないから。

 

『********** ************』

 

 私は地べたを這いずりまわる。空を見て、空だけを見て、あの高みに届きたいと、恋焦がれて病んでいく。

 他の物は何もいらない。あれが欲しい、あれが欲しい。ああ、だけど悲しい、届かない。  

 だから祈ろう。私という存在の全てを賭けて、あの星に届く手が欲しい。

 

『*********** ********* ***********』

  

 皆私を残して逝ってしまう。誰も私を顧みない。寂しい、寂しい、私はいつも一人きりで 泣いて震えて沈んでいく。

 仲間が欲しい、手を取り合いたい。皆と一緒に、あなたと一緒に、一人にしないで、忘れないで。

 ねえ、だから横並びになりましょう。私のところに降りてきて。私があなたを引きずり下ろす。

 愛するあなた。みな残らず、私の愛に巻き込まれたまま泥に沈んで、お願いだから。

 

『***********』

   

 それは、なにもかもに置いていかれた哀れな女の妄執。

 消え去ったはずの劣等感が、座を、時を、世界を超え、復活する。

 

『****』

 

 他人の足を引っ張りたい。

 

『**** ***** *******』

 

 ■■■■の全身の火傷が一瞬で修復されていく。先ほどまでとは比べ物にならないほどの魔力があふれ出て、滅却の波動を逸らしていく。

 同時に■■■■の足元から影が生まれる。自ら動き、形を変えるそれこそが今の彼女の力の源泉にして核。自ら動きまわり、シュテルへと高速で延びる。それはまさしく多頭竜の鎌首。うごめきながらシュテルを絡め取り、

 

 彼女の動きが停止する。

 

「私歩くの遅いんだよーー!」

 

 その影は不動縛の影。触れたら最後動く事は叶わなずに足を引かれるのみだ。

 

「追いつけないなら、止めてやろうって、そう思ったんだよ! 文句ある……!?」

 

 涙交じりの■■■■叫びと共に不動縛の戒めが強まる。常人ならば絞めつけの強さのみでに圧死しているだろうし、影に触れているビルも崩壊寸前だ。

 だが、

 

「――――ああ、文句あるに決まっているでしょう」

 

 言葉と共に、シュテルは滅却の覇道を放ちながら不動縛の尽くを粉砕した。

 

「え――――」

 

「別に他人の渇望にケチをつけるつもりはありません。そこに善悪の区別はなく、あるのは願いの強度のみ。故、他人が否定できるような祈りはよっぽどの下衆の極みでないかぎりできません」

 

 ですが、

 

「勘違いしないでください、それはあなた(・・・)自身の祈りではない。ええ、もういいですよ、泣くのが好きなのでしょう? ならば永遠にそうしていなさい」

 

 そして、怒りと共に。*3

 

『貴方は憩い、穏やかな安らぎ、貴方は憧れ、そして憧れを静めるもの』

Du bist die Ruh,der Friede mild,die Sehnsucht du,und was sie stillt.

 

 シュテル自身の渇望が解放されていく。

 

『私はすべての喜びと痛みに満ちて、ここ、私の目と心を住処として捧げよう』

 Ich weihe dir voll Lust und Schmerz. zur Wohnung hier mein Aug und Herz.

 

『私のところにおいでください、貴方の後ろの扉は全て閉めて』

Kehr ein bei mir,und schließe du. still hinter dir die Pforten zu.

 

『他の痛みをこの胸から締め出してください。この心を貴方の喜びでいっぱいにしてください』

Treib andern Schmerz aus dieser Brust. Voll sei dies Herz von deiner Lust.

 

『この目の住処を照らすのは貴方の輝きだけなのだ、おお、住処に輝きを満たしてください』

 Dies Augenzelt,von deinem Glanz  allein erhellt,o füll es ganz.

 

『あなたが愛ゆえに愛するのなら、おお私を愛してください!』

 Liebst du um Liebe,O ja mich liebe!

 

『永劫の愛を、私も貴方を永劫に愛しますから!』

 Liebe mich immer,Dich lieb’ ich immer,immerdar!

 

『――――創造』

  Briah

 

『――――滅却幻想・災厄の杖』

 Muspellzheimr Lævateinn

 

 

 ここに聖槍十三騎士団第九位、大隊長紅蓮の赤騎士(ルベド)『星光の殲滅者』シュテル・ザ・デストラクター、滅却の覇道が完成した。

 

 




というわけでクレアブ版、公開ラブレター。原作でクールなキャラをこういう激情家にするのが好きです。
今回シュテル編だったので、次話はレヴィ。



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