Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Noli me Tangere

*よりUnus Mundus

*2よりThrud Walkure


第二十二章 伸ばしたその腕は

「スターズ1、ライトニング1、どちらも高ペースでガジェットⅡ型を破壊していきます! スターズ2も海上にてリインフォース曹長と合流し交戦を開始しました!」

 

「ただし、ガジェットも次々に増援が! 発生源を検索中ですが、未だ不明! 解析急ぎます!」

 

「ファワードメンバー四名、地下水路からクラナガン廃都市群に移動しながらガジェットを順次破壊、問題ないようです!」

 

 慌ただしい報告が上がるのは、機動六課本部指令室だ。オペレーターのシャーリーやアルト、ルキノを中心として上がる方向は部隊長であるはやてへと伝えられていた。

 

「今のところは順調やな」

 

「はい」

 

 はやて、そして彼女の副官であるグリフィスは全体の報告をまとめながら思考を巡らす。はやてが言ったように、今のところは想定外の事態は起きていない。精々ガジェットが多いくらいだ。それでも海上にでたなのは、フェイト、ヴィータ、リインの隊長陣は破竹の勢いでガジェットを落としているし、かなりの距離を移動したが問題は無い。むしろ周囲の被害を気にしなくていい分好都合だ。

 このまま上手く行ってくれればいいと切実に思う。

 

 だが、しかし。

 

 現実とは得てしてそう簡単には行かないもだ。

 情報をまとめていたシャーリーから驚愕の息が漏れる。

 

「っ! 航空反応増大! 倍、二倍……いえ、先ほどまでの五倍以上です!」

 

「なに!」

 

「これは……!」

 

 はやての目が細まる。

 即座に再測定されるが、全てが実機反応があり、現場のなのは達も目視可能だ。

 恐らくは、増加した分は幻影、だろう。そしてそれは陽動だろう。本命は地下かヘリ。

 ならば――、

 

「……グリフィス君」

 

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっすがはやてちゃん、事務仕事で腕は衰えていないわね」

 

「ははは……俺なんかは笑うしかねえすっけど」

 

 ホロウインドウの映像を見て少女を護送中のヘリの中でのシャマルは得意げに笑い、パイロットのヴァイスは半目で苦笑するしかない。

 空中に投影された画面の中に移るのは高空域において、長距離空間攻撃を放つ騎士甲冑姿の八神はやて。

 彼女のデバイスであるシュベルトクロイツと足元に複数のベルカ式の三角形魔法陣が浮かび、それらを支点して白の砲撃が放たれる。

 ベルカ式広範囲空間攻撃魔法『銀月の尾羽(フレスヴェルグ)』。

 その白の閃光が空域に存在するガジェットを破壊していく。

 実機も幻影機もまとめて潰しているのだから関係ない。

 長い付き合いのシャマルはともかく、ヴァイスからすれば笑うしかない。

 

「はは……さすがは」

 

 笑える事にSSランクは伊達では無い。

 さらに笑えるのはこれでも、リミッター掛けられていてまだ先があるということだ。

 

 そして、ヴァイスが乾いた笑いを浮かべた、その瞬間だった。

 

『Emergency!』

 

「は?」

 

 ヘリ操作補助のためにナビ機能に特化させていたストームレイダーから叫びのような報告。緊急事態(エマージェンシー)。即座に周囲のマップを確認したのと同時に、

 

「なっ……!」

 

 ヘリの真横から魔導の極光が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動中の護送ヘリ。その砲撃に対して反応することは全く出来なかった。当然だ。遠距離から放たれ、砲撃主とその補佐により魔力隠蔽をされていた以上ヘリパイロットのヴァイスも中にいたシャマルも気付けなかった。

 ロングアーチでさえ発射後にしか気付けなかった。

 なのはもフェイトも二重の隠蔽により反応が遅れる。

 故にそれの撃墜は必然だった。当たればヴァイスもシャマルも命を落とすだろうが砲撃の威力を考えれば無理もない。そしてヴァイスとシャマルが落命するということは機動六課は移動手段と回復役というサポートを失い、さらには大切な友人や家族を失うという現実に向かわされる。しかし、これはそういうものであり。寧ろ、管理局側が善を名乗る以上窮地に陥るのは当然と言えよう。

 

 善とは劣勢においてこそ輝く存在なのだから。

 

 そしてなにより。

 この世界はそういう風(・・・・・)に出来ているのだ。

 

 “こんなはずじゃなかった(・・・・・・・・・・・)”。

 

 そう思わずにはいられないように出来ているのだ。

 

 だからヘリの撃墜は必然だ。

 もしかしたら、或いは高町なのはやフェイト・T・ハラオウン達隊長陣が間にあったという場合や、またもっと別の誰かが間にあったという場合もあっただろう。

 それでも。

 それでもこの世界ではそれはない。もしここで二人が落命すれば、この先の闘いはより壮絶になる。より凄惨に、より派手に、より劇的に。より華々しい物語となるであろう。

 

 そういう風に物語が進むのがこの世界の法則だ。

 

 故に。

 それに抗えるのは、この宇宙規模のと同等の魂を持つ存在か、或いはその加護を強く受けたもの以外には為し得ない。

 

『――星たちは見下ろしている 静かな夜に

   Die Sterne schau'n in stiller Nacht』

 

 

 

 

 

*2

 

 

 

 

『どうして貴方は孤独に私たちを見上げるのですか? 

 Was blickst du einsam zu uns auf?

 

 この巡る世界の動きを覗き見でもしようというのですか?

 Willst spah'n der rollenden Welten Lauf?』

 

 その詩は突如として響いた。

 奇襲の砲撃がヘリに突き刺さる直前。その刹那より始まり、時間を無視するように続く。

 

『貴方たち星よ、ああ、貴方たちは分からないのか  この娘の不安な苦しみが?

 Ihr Sternlein,ach! versteht ihr nicht Der Tochter bangen Kummer?

 

  その誠実な瞳が曇ることのないように   おお、どうか彼女に安らかな眠りを与えてあげて

 Das nicht das treu'ste Auge bricht, O schenkt ihm susen Schlummer,』

 

 発生源は――だれにも分らなかった。直接間接、肉眼ウインドウ越しを問わずに詠い手を教えるようなことはない。決して大きな声ではない、だがしかし何故か耳に届くのだ。

 

『貴方たち星が私は大好きです          けれど母の愛こそが一番明るい星なのです Ihr Sternlein all',hab' euch so gern! Doch Mutterlieb' ist der schonste Stern.』

 

 そして――

 

『――創造

   Briah

    

    銀河静寂・光輝変生

 Die Sterne schau'n in stiller Nacht 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 それは刹那だった。いや、より正確に言えば刹那ですらない。

 ヘリへと砲撃が突き刺さる直前。響く詩が始まったのと変わらなぬ空白。一メートル程度。砲撃の速度を考えればそれこそ刹那あればヘリへと突きささる。そうすればシャマルとヴァイス、そして保護した女の子は死ぬであろう。

 

「――させません」

 

 その空白、一刹那あれば埋まる空間に突如として彼女(・・)は現れた。個人の感覚、ヘリ、機動六課、地上部隊のありとあらゆる検索機能でも観測できなかった。時間を無視した詠唱が完了したのと同時に既に彼女はいた。

 

「破ァァッ!!」

 

 気合裂帛。 

 空中にて放たれる拳が砲撃と激突し、

 

「……!」

 

 ぶち抜いた。

 背後のヘリには欠片の傷もない。

 ヘリを守りきった彼女は拳撃の反動で機体を蹴り、ヘリ天井へと飛び乗る。

 移動中であり強く風が吹き付ける高所でありながら、まったく意に介さず紫の長髪(・・・・)をたなびかせている。

 黒緑の地球ドイツ帝国SS軍服、左腕の白のリボルバーナックルと同色のローラーブレード。

 その緑の双眸で真っ直ぐと砲撃を行った彼女たち(・・・・)を見つめながら、

 

「我が君より命を受け此処に推参、聖槍十三騎士団黒円卓第十一位『繋がれぬ誓い』ギンガ・ナカジマ」

 

 己の()をこれ以上ないと誇るように名乗った。

 

「――何も欠けさせはしません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギンガはまず、ローラーブレードのつま先でヘリの屋根をコツコツと蹴り、

 

「シャマル先生、危ないんでとりあえず六課まで送ります」

 

「え、ぎ、ギンガ!? な、なんで……」

 

 慌てたシャマルの声が聞こえたが、無視して左手をヘリに押しつけ、

 

「ブリッツキャリバー、機動六課ヘリポート」

 

『All right』

 

 応えた瞬間――周囲の景色は変わっていた。

 都市の上空ではなく、機動六課のヘリポートだ。

 

「え、え、え?」

 

「はぁ!?」

 

 足元からかなり戸惑った声がしたが、

 

 構わず即座に跳んだ(・・・)

 

 視界は代わり、先ほどの中空だ。足場にしていたヘリが無くなったから落ちるしかないが、

 

「見えてるわよ」

 

 永劫破壊(エイヴィヒカイト)の使途としての超感覚。獣染みたカイトのソレには劣るとはいえ、それでもこの廃都市群一帯が知覚範囲内だ。 

  

 故にギンガは跳ぶ。

 

 行き先は――

 

「え、ちょ」

 

「マジ!?」

 

「マジよ」

 

 先ほどの中空より数キロ離れたビルの屋上。

 そこにいた二人の少女。メガネとケープをはおった少女と長大狙撃砲を担いだローブ姿の少女。それぞれ首にⅣとⅩの刻印。

 タイムラグ無しで現れたギンガはすでに右拳を振りかぶった体勢だ。 

 

「疾ッ!」

 

 叩きこむ。

 

「が、ハァ、あ!」

 

 鳩尾にヒットし、Ⅹの少女の口から血の塊が吐き出され、

 

「――」

 

「……え?」

 

 着弾したその瞬間と同時、またもギンガは跳び、左のハイキックを数メートル距離があったⅣの少女にぶち込んだ。

 

「きゃああああ!?」

 

 右の腕どころか肋骨も粉砕した感触を得ながら、そのままⅩの少女へと蹴り飛ばし、二人が重なった瞬間に、

 

 再びギンガの姿が時間差無しで飛ぶ。刹那もタイムラグは生じずに現れたのは重なった二人の正面。腰だめに左の拳を構え、

 

「破ァッ!!」

 

 音速の十数倍の一撃をぶち込む。

 最早殴り飛ばされた二人に悲鳴を上げる余裕もない。確実に致命となる一撃を諸に入れられて途中いくつもビルを突き破りながらそのまま地面へと墜落していく。

 

「……意外とよく飛ぶわね」

 

 呟きながら、撃墜させた二人の気配を探る。途中で激突したせいで倒壊していくビルや濛々と立ち上る土煙りが邪魔だが、すぐに見つけて、

 

「と」

 

 跳ぶ。身体自体の動きはないが跳躍を意識したその瞬間には眼下にボロボロになった二人の少女がいた。廃都市故に周囲に人の気配は無く、老朽化が激しい道路を砕きながらめり込んでいる。一キロとは言わずとも数百メートルは飛んだだろうか。

 その距離を、ギンガは一瞬ならぬ零舜で移動していた。

 

 『銀河静寂・光輝変生』、その能力は知覚範囲内の零秒空間移動。

 

 彼女の感覚で把握している範囲ならば、移動するのに文字通り時間はいらない。零舜を持って空間を跳ぶ。さらに聖遺物でありデバイスでもあるブリッツキャリバーに予め所定の箇所や地図を入力しておけば、把握が曖昧でも跳べる。

 自分だけでなく触れているものの移動させることも可能だ。

 

「自分の手が届く範囲を救いたいとか思ってたら、予想以上に手が伸びてね」

 

 聞こえているかどうかもわからないが、言う。

 この二人もまた、この歌劇の演者なのだろうから。

    

「まぁ、私は前座にすぎないけど、やることはやらせてもらうし、一応管理局員だから捕まえないわけにはいかないのよ、悪く思わないでね」

 

 苦笑し、両手を腰に当てて空を仰ぎ、

 

「じゃ、こっちは大丈夫だから。そっちもがんばりなさい。本命さんたち?」

 

 

 

 

 




名前:銀河静寂・光輝変生
 Die Sterne schau'n in stiller Nacht
位階:創造
発現:求道
原典:『星たちは見下ろしている 静かな夜に』
渇望:『手の届く限りを救いたい』
前世:無し
能力:知覚範囲内の零時間空間跳躍。ギンガの五感で感知している範囲内ならば文字通り時間を掛けずに空間を跳ぶ。平面上の移動では無く座標上の跳躍なので障害物等に跳躍を邪魔される事は無い。自前の感覚だけでなく、聖遺物でありデバイスであるブリッツキャリバーに所定の箇所や地図情報などを登録しておけば知覚範囲外でも跳躍可能。
 また自分だけでなく手で触れている物の座標移動も可能である。
 前世を持たず、かつての縁を持たなかったからこそ、彼女にとって大事だったのは家族や友達といった自分のごく近い周囲の絆。だからそれだけは何があっても救いたいと言う渇望から生じている。
詠唱:
『――星たちは見下ろしている 静かな夜に
   Die Sterne schau'n in stiller Nacht
 どうして貴方は孤独に私たちを見上げるのですか?
 Was blickst du einsam zu uns auf?
 この巡る世界の動きを覗き見でもしようというのですか?
 Willst spah'n der rollenden Welten Lauf?』
 貴方たち星よ、ああ、貴方たちは分からないのか
 Ihr Sternlein,ach! versteht ihr nicht
 この娘の不安な苦しみが?
 Der Tochter bangen Kummer?
 その誠実な瞳が曇ることのないように
 Das nicht das treu'ste Auge bricht,
 おお どうか彼女に安らかな眠りを与えてあげて
 O schenkt ihm susen Schlummer,
 貴方たち星が私は大好きです
 Ihr Sternlein all',hab' euch so gern!
 けれど母の愛こそが一番明るい星なのです
 Doch Mutterlieb' ist der schonste Stern.
 ――創造
   Briah   
    銀河静寂・光輝変生
 Die Sterne schau'n in stiller Nacht 』

 詠唱の外国語版は原典が明確な場合のみ、できるだけ載せていきます。

原作は投げ捨ててから玉に拾ってみるのがポリシーなんで結構飛ばしました。
というか黒いの書きたくない。柳之助はアイツ嫌い。
ユーノくんだけでいいの!
この物語はで中二SSであるまえにDiesSSである前にユーノ君ハーレムSSでございます。

とまぁインフレを開始。
タブン次話がヤバい

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