Dies irae ーcredo quia absurdumー 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
腹筋崩壊するような話を描きたかったはずなんですが、気づけば全身かゆくなってますわ
「…………ああ」
フェイト・T・ハラオウンは困っていた。形のいい顎に手を添え、金髪を揺らしながらせわしなく六課のロビー内を右往左往する。
「…………ううん」
数メートルごとに右に行ったり、左に行ったりとせわしないことこの上ない。クールビューティーで人気がある彼女の面影は欠片もなかった。
「…………はぁ」
思うのは、一日休暇で街に出たエリオとキャロのこと。
訓練も順調に進み、第二段階、つまりはポジション毎の役割をメインにした訓練内容を一通り終えたのは今朝のこと。各デバイスのセカンドモードの訓練は明日からということで、今日一日、新人たち四人は休暇になったのだ。
スバルとティアナは二人でウインドウショッピングとアイス巡り。
エリオとキャロは――デートである。
「……むむむ」
デート、なんて羨ましい言葉か。前にユーノとデートしたのは果たして何時のことだったか。基本彼とは無限書庫での捜査資料の受け渡しが基本で、それ以外だと食堂くらいしか縁がない。まぁだからいちいち資料を手渡しで貰いに行ってるわけだけど。手間が掛るとか言われるが、そこは『閃光』の面目躍如、移動速度には自信がある。
いや、それはまた別の話で。
「大丈夫かなぁ、二人」
なにせデートだ。二人はまだ幼い。十歳にもなったばかりだ。なにかやらかしたりしないだろうか。心配せずにはいられない。
「くぅ、こんなことなら後を着ければ……今なら、間に合う」
二人が出発したのは少し前だし、自分のスピードなら間に合うはず。幸いにして今日の雑務はほとんど終了している。陸士部隊への出向やシグナムが行ってくれたから問題はない。
「ハッ! いや、待てよ……! これは……ユーノを連れて来て、家族風味のお出かけと言う事にすれば……?」
今、その瞬間、フェイトの脳裏には閃光の如くいくつものヴィジョンがよぎっていた。
おしゃれをした自分、隣で自分と腕を組むユーノ。微笑みあう二人。隣には子供のようなエリオとキャロ。まさしく仲のいい親子にしか見えない。
素晴らしい、自分でもびっくりの頭の冴えだ。
「……ゴクリ」
前、そして左右を見渡す。何人かと目が合い、
「ひぃ!」
露骨の逸らされたが気にしない。恋する乙女はそんなことに構ってられる余裕はないのだ。
これで勝つる。
苦節十年。恋のライバル多く、さらにはフラグを増やさないように時には共同戦線はったり、出し抜こうしたり、ガチでバトルしたり、わざと負けて彼の看病も狙ったりといろいろしてきたが。
今日、ここでこの長き戦いに終止符を打つ。
「そうと決まればさっそくユーノに連絡を、っと。バルディッシュ」
『……Y,Yes,sir』
なんだかいつもよりバルディッシュの反応が遅いが気にしない。
意気揚々とユーノのプライベート回線に通信を掛け、聞きたい声を耳にすることを願い、
『――はい、こちらユーノ・スクライア。現在所要により通信に出られません。御用の方は伝言をどうぞ』
「……」
聞きたかった声は聞けたが、
「録音じゃあ意味ないよぉ!!!」
春終わりだと言うのに、冷たい風がフェイトに吹き付けた。
●
「あれ、なんか今フェイトさんの声聞こえなかった?」
「え? なにも聞こえなかったけど」
「そっか……、気のせいだったかなぁ」
隣でエリオが首を傾げていたが、キャロには確かになにも聞こえなかった。
六課を出で、まだそれほど時間が立っていないとはいえ、既にモノレールに乗っていて数キロは離れている。いくらなんでも、そんな距離を離れれば六課に残るフェイトの声は聞こえないだろう。念のために、ケリュケイオン確認するも、通信がはない。
やっぱり気のせいだったのだろう。
「ま、いいや。そうだ」
「?」
「シャーリーさんとカイトさんから今日の行動計画貰ってきてるんだけど、どっち見る?」
「……とりあえず、シャーリーさんので」
「オーケー」
恐る恐る言ったら、苦笑された。
少し、む、と思うも、
「サードアヴェニューの市街地で散歩、ウインドウショッピング、会話を楽しんで。食事は雰囲気が良くて、なるべく会話が弾む場所で……」
「……なんだか、難しそうだね?」
「そ、そうだね」
エリオと二人で苦笑する。残念ながら、シャーリーの言う事は難しくて、良くわからない。
「じゃあ、カイトさんのは、っと……」
ストラーダの待機形態である腕時計を操作していたエリオの動きが止まる。
「どうしたの?」
「あ、いや」
「?」
エリオがいきなり挙動不審になる。またなにか変な事でも書いてあったのかと思い、覗き込めば、
『自分のお姫様のエスコートくらい自分で考えろ』
「…………」
「…………」
いや、これは行動計画どころかアドバイスですらないだろう。
というかお姫様って。
そういうことを素で言うからカイトは苦手なのだ。普通に恥ずかしい。
なのに、
「じゃあ……」
エリオは頬を赤くし、頬を掻きながらも、
「今日はよろしくお願いします、お姫様」
差し伸ばされた手を思わず凝視する。
「………」
カッと、頬が熱くなるのを自覚する。同時、なんだか悔しさも。
ホテルアグスタの一件以降、キャロの相棒の少年は随分変わった。
たくましくなったというか、精悍になったというか。よくわからないけど、なんだか、大きく見える。訓練も連携などを除けば、ほとんどがカイトとの殺し合い寸前の模擬戦だ。毎日血まみれで、何故か勝手に治るとはいえ心配でしかたがない。
止めてほしいのが正直なキャロの気持ち。
最初の方はフェイトたちも止めていたけどカイトのごり押しと、シグナムやヴィータが意外にも任せようという意見だった。
それに、エリオ自身もその気だったし。
本当に心配のし甲斐がない。オマケに腹が立ったのは、そんな自分に対しカイトが、妬くなとか言ってきたことで。とりあえず、渾身のパンチ喰らわせたけどダメージ無さげでさらにムカついた。
だからカイトは嫌いだ。
カイトは嫌いだけど、
「……」
今照れながら、手を差し出して続けているエリオは嫌いじゃない。 だから、
「……よろしくおねがいします王子様」
頬の熱さを感じながらも精一杯の言葉を返し、その手を握りしめた。
●
「あんた、さ。本当のところどうなのよ」
「ふぁ? ふぁにふぁ?」
ティアナの問いに、スバルは口の周りにアイスをベタベタに付けて反応した。
「……まあいいから、まず先に食べなさい」
「ん」
溜息を吐きながら、アイスを食べ直し始めたスバルから視線を外す。見渡し、視界に入るのはミッドの繁華街。久々の休暇でウインドウショッピングだ。ここ最近は訓練付けだったが、ティアナも十代の女の子。おしゃれとか買い物は好きだ。なのはの地獄の如きしごきから解放されているのは素晴らしい。
ビバ休日。
ビバ休暇。
ビバ買い物。
壊れるのと、壊れないのとのギリギリのラインを見極めているから性質が悪い。
だから影で悪魔とか冥王とか言われているんだあの人。
まぁ、こんなことを口が裂けても言えないけど。言ったらオハナシ間違いない。砲撃の雨が降る。
「んで、ティア。どうしたの?」
スバルがアイスを食べ終わったようで、こちらの顔を覗き込んでくる。それを押しのけつつも、
「だからさ、ホントのところどう思ってんの?」
「……? 誰を?」
「カイト」
「は?」
「いやだから、カイトのこと、本当の所はどう思ってのかしらって。好きなの?」
「……」
きっちり、五秒停止して。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「ちょっ、うっさいスバル!」
「あ、ごめ……って、そうじゃなくて! なんで、そうなんの!?」
「いやだって、あんたたち仲良さそうだし」
「はぁあ!? 全然ッ! 止めてよねティア、なんであんなチンピラと! あり得ない! 絶対あり得ない! アレとアタシがそういう関係とか絶対、絶対あり得ないぃ!」
「あ、あ、そう……」
「もう! ほら行くよティア、次のアイス!」
随分とまあらしくもなくお冠だった。
珍しいなぁ、と思う。というより、らしくないというべきか。
彼女とも結構な長い付き合いになるけど、ここまで露骨に他人を嫌うとは珍しい。基本的に社交的なはずなのだけど。
だから、本当に不思議なのだ。
――まるでカイトに対してだけは別人のようで。
少しだけ、嫌になる。違和感と言うか不快感というかとにかく気持ち悪い。どうしてとか、何故かとか考えると困るのだけど。ともかく嫌だ。
だからまぁ、二人には仲良くしてほしいとか思わなくもないのだけど、
「……あの様子じゃあ難しそうねぇ」
カイトの方はそうでもなさそうなのだけど。
というか他人から見ればアレの方はべたぼれというか分り屋すぎるのだけど。海鳴出張からはかなり露骨だ。まぁ、部隊長陣は色ボケだし、エリキャロはピンク空間創り出してるから気付いてないようだけど。ちょっと距離を取れば一目瞭然だろう。
スバル自身に言ったらまた叫ばれるか、もの凄い嫌な顔するだろうけど。
まぁ、今ここで考えても仕方ない。
「って、アンタまだアイス食べんの!?」
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