Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Kriegsschaden

△よりMros Certa


第十三章 並び立つこと

 

 

 ガジェットの襲撃はオークションの開始と共に始まった。

 

 周囲の森の中から小型機のⅠ型を中心としたガジェットの大群が押し寄せてきた。その数実に百以上。Ⅰ型だけでも二桁は優に超えていて、大型の三型や空戦型のⅡ型もかなりの数がいる。これまでの襲撃にくらべてもかなりの多さだった。AMFという魔力拡散力場を生じさせるフィールド魔法を搭載しているそれは通常の魔導士にとってはかなりの脅威だ。それ、専用の訓練を受けていないと厳しい。

 

 正直、今のティアナたちでは処理しきれないだろう。ホロウインドウから見る外見はコミカルというかシュールではあるがそれほどまでの脅威なのだ、ガジェットという相手は。

 にも関わらず、

 

「……!」

 

 ティアナの足元が揺れた。同時に視界の中、森の一部が爆砕された。木がなぎ倒され、宙を舞う。そしてそれはただの二次効果でしかない。超膂力によって振り下ろされたであろう鉄槌が大地を打撃したのだ。それによる本命は周囲のガジェットの破壊。インパクトの瞬間による衝撃波。それゆえに魔力を必要としない純粋物理攻撃だ。

 そして、それは一度では終わらない。

 一度、二度、三度。連続する爆砕音は連続して鳴動し、大地を震わし、ガジェットは押しつぶす。

 

 そしてそれは地上だけではない。

 

「ひゃっ……!」

 

 近くにいたキャロが小さく悲鳴を上げる。

 原因は空に咲いた爆炎の花だ。対象は空中戦型の飛行機型のガジェットたちだ。ホロウインドウを見るまでもなく、肉眼で確認できた。ガジェットたちの合間を飛び抜ける、赤い騎士。赤紫の炎を纏った長剣を振る。

 AMFなど関係無いと言わんばかりに超高熱の炎剣がガジェットを断ち切る。刀身の温度は実に数百度。それに、騎士の実力が伴えば、ガジェットの機体などバターのごとく焼き斬れる。

 尽くを一刀の下に。

 時に魔法で、時に両断した爆砕寸前の機体を足場としてさらなる得物を追う。

 

 鉄槌の騎士八神ヴィータと剣の騎士八神シグナム。

 

 その二人の無双ぶりに対し、

 

「ありえねー」

 

 死んだような目で、思わずティアナは呟いた。もうなんか嫉妬とか劣等感とか下らなく感じるほどだった。 

 現場指揮のシャマルから周囲の地図とか貰ったけどいらないだろう、これ。あの二人だけで十分だ。まだ襲撃から数分しか経ってないのに。というか若干シャマルも引いているのはどういうことだろうか。

 

「おーおー派手にやってんなぁ姐さん方。まぁあの程度なら苦戦するわけもねぇか」

 

「む」

 

 カイトだ。ホテルの屋上からここに跳び下りてきたらしい。靴が数センチ埋まっているから、衝撃吸収等の術式を介さずにそのまま飛び下りてきたのだろうか。相変わらず、アホみたいな身体能力だ。 

 呆れ気味の半目を向けていれば、

 

「おいおい、そんな呆けてんじゃねよ。……お客さんだ(・・・・・・)?」

 

「え……?」

 

 お客さん、という単語。カイトがそれを言ったのと同時に、キャロが声を上げた。悲鳴に近いそれは、

 

「! ティアナさん!」

 

 周囲に薄紫色の魔法陣が浮かぶ。四角いソレはキャロと同じ召喚用の魔法陣だ。召喚陣がホテルの玄関付近から少し距離が開いた周囲に大量に展開され、

 

「遠隔召喚、来ます!」

 

 来た。

 ガジェットⅠ型からⅢ型までいて、数も結構多い。つまりそれはAMFの効果も強まるということだ。

 予測できる苦戦に手に汗が滲む。鼓動が早まる。

 だが、そんな余裕はない。今目の前にこそ戦うべき敵がいるのだから。

 息を一度吐き、大きく吸う。正直言えば、嫉妬とか劣等感とか、そういう嫌な感覚が無くなったわけではない。だがそれでも今ここは戦場であり、戦場でそんなことを考えているのは命取りだ。それをたび重なるカイトとの模擬戦でティアナは学んでいた。

  

 だからこそ、今この場で指揮官である自分がすべきことはこの面子での最良の指示を出すことだ。

 そのためのシュミレーションはなんども行っており、だからこそ、今ここで必要な指示を出す。

 今回は通常の殲滅戦ではなく防衛戦だ。隊長陣は今はホテル内で安全な場所での避難誘導をしているはずだ。森の広範囲ではシグナムとヴィータが出ていて、どちらもまだ少しは手が空かないだろう。空くとしたら、隊長陣は警護があるから、森にいるシグナムやヴィータ。彼女たちの到着まで凌げば、それでいい。

 

 だったら、スバルを前に。自分はその援護で、エリオとキャロに防衛を任せるべきだ。カイトは遊撃、というか自分が指示を出すまでもないだろう。

 

 思い、指示を出すため声を張り上げようとし、

 

「おっし、行くぞエリオ。男の子の時間だぜ」

 

「えっ、え? ……あ、はい!」

 

 エリオの首根っこ掴んだカイトがガジェットの大群へと突っ込んでいた。

 

 

 

「……って、ちょっと待てぇーー!?」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう! 後で覚えてなさい! スバル、キャロ! アンタたちはホテルの防衛に専念して! 私は二人の援護の回るから! わかった!?」

 

「は、はい!」

 

「りょ、了解!」

 

 後ろで、ブチ切れたティアナの指示が聞こえる。思い切り勝手な行動をしたカイトに合わせてすぐに指示が出せるのは流石という他ない。だが、カイトに真面目に付き合ってることに意味なんてないのだ。真面目に相手するなんて疲れるだけだし。結構真面目なティアナもいい加減なれないと何時か爆発しそうで怖い。

 まあ、それはともかく。

 

「……どういうつもりですか?」

 

 とりあえず、聞いてみる。とりあえず。いや意味が無いとは解ってるが、聞かないと始まらないだろう。

 

「あ? そりゃお前……わかってるだろ?」

 

「…………」

 

 解ってる。当然解ってる。つい最近思い出してばかりで、すぐに忘れるほど呆けてもいない。それが大事なことなら尚更だ。でもカイトがそれを自分に言ったのはずっと昔のことだ、でも、カイトはそれを昨日のことのように言う。エリオが忘れていることなんて想像すらしてない様子で、

 

「……ええ、わかってますよ」

 

 首に掴まれた手をほどき、自分の足で立つ。横目に見れば、愉快そうに口元を歪めたカイトが立っている。

 いや、立ってくれている、というほうが正確か。海鳴で見たカイトの本気の一端。それに比べれば自分は虫けらと変わらないだろう。それほふぉの実力差があるはずだ。いや、その差はきっと自分が思っている以上に大きいだろう。

 

 でもカイトはエリオと肩を並べてくれる。

 

 それが嬉しいのと同時に少しだけ恥ずかしい、それに誇らしい。

 そして、同時に僅かに悔しい。こうやって自分のことを弟のように接してくれて、肩を並べていてくれるのに、

 

 ----僕はなにも返していない。なにもできない。

 

 そんな、どうしようもないことを思うのだ。

 

「…………」

 

 だが今はそんなことを長々考えている時間はない。今はただ、自分に出来ることをするだけなのだから。

 手に握っていたストラーダをより強く握りしめる。やることは一つだ。

 

「--スゥーーハァーー」

 

 息を吸い、吐く。周囲のガジェットが迫ってくるのに応じて魔力を上手く使えなくなる。だからこそ、築き上げる魔法を体の中に留め、身体能力や反射神経を高め、全身に薄く雷を纏う。魔力変換資質による雷ならばガジェットにも有効なのはすで解っている。そして派手に撒き散らすのは魔力の無駄使いだからこそ、体の強化をメインにするのだ。

 これならば、なんとか戦える。

 

「ようし、じゃあ行くか」

 

「はい」

 

強化が終わったのを見計らったようにカイトが声を掛けてくる。彼自身もすでに魔力式に拳銃を片手にしていた。先日見た銃剣ではないが、それでも伝わる魔力はエリオと桁が違う。

 だが、確かに肩を並べ、

 

「ほんじゃ、まぁ……」

 

「行きます……!」

 

 行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストラーダ!」

 

『Explosion!』

 

 飛び出し、ガジェットとの距離を半分にしたところで愛機の名を叫ぶ。同時にストラーダからカートリッジを排出。瞬間的に魔力が爆発的に上昇した。

 それによって得られるのは加速だ。

 身に纏う雷光が輝きを増し、速度も増す。それまでの倍近い速さだ。

 基本的にガジェット、特にⅠ型のアルゴリズムは単純だ。だからこそ、こういう急加速によってガジェットの反応を遅らせれる。

 Ⅰ型に比べて処理速度の高いであろうⅢ型には通用しにくいが、Ⅰ型相手ならこの程度で十分だ。反応するⅢ型が多腕型アームを伸ばすが、カイトの銃弾が撃ち落とす。

 それに感謝しつつ、

 

「はぁっ!」

 

 槍を振う。電熱と加速に任せた斬り払い。シグナムのように真っ二つはできなくとも破壊は容易い。

 僅か一秒の間に駆け抜けたのと同時に破壊したのはⅠ型を三体。一秒間にできるエリオの限界と言ってもいいだろう。

 だからこそ止まらない。

 反撃は考えない。たまに多腕型アームが迫り来るがそれらは全てカイトが落としてくれるし、時折、オレンジ色のティアナのソレも来る。

 だからこそ、エリオが行う事は一つしかない。

 

「シッーー!」

 

 疾走する。斬撃の勢いも加速に繋げ、身体能力強化の魔法を重ね掛けし速度を上げる。元より速度のみに特化した身だ。

 早く、速く、疾く。疾走するだけだ。

 ジグザグに駆け抜け、とりあえず一瞬で移動できる範囲のⅠ型はあらかた破壊した。

 

 だから狙うのはⅢ型だ。

 

 管制機とも言えるそれを破壊する意味は大きい。前回はキャロの支援があってようやく倒した相手だが、

 

「おお……!」

 

 臆せずに迫る。振りかぶった槍を叩き込む。雷撃を纏ったから、斬撃痕に焼けた痕ができるが破壊には至らない。

 

「まだだ!」

 

 だから走る。叩き込み、鋼の感触に僅かに押し返されながらも振り抜き、そのまま膝を沈め、跳んだ。

 跳躍の行き先はⅢ型の頭上だ。頭上を取った。そして、

 

 空中を蹴る。

 

 いや、勿論、何もない中空を蹴ったわけではない、そんなことができるほどエリオだって人間をやめていなかった。だから蹴ったのは空中に展開した魔法陣。宙空に足場を形成するスキルで結構な難易度の魔法だが、

 

 なんとなく(・・・・・)できると思った。

 

 それを以って、落ちる。

 

 槍の穂先を真下にして落ちる先は、勿論ガジェットⅢ型の頂点だ。

 

「っおおーー!」

 

 咆え、力一杯差し込む。柄まで差し込みきるが、ガジェットの動きは止まらず多腕型アームを伸び、

 

 機内にてストラーダの穂先から雷撃が弾けた。

 

 Ⅲ型の動きが止まり、勢いよく引き抜いて退避。

 数メートル離れて、Ⅲ型が中から爆発した。

 

「ヒュー! やるなぁ、エリオ!」

 

「……これくらいは当然ですよ」

 

 突然褒められた事に、少し照れながらも応える。まあ、あながち痩せ我慢というわけでもない。現にカイトが撃つ弾丸は一発ごとにⅢ型すらも撃ち抜いているのだから。さすがの一言だ。

 

「ふうん、なら援護とかいらなそうだなおい」

 

「ええ、大丈夫ですからそっちはそっちでお願いします」

 

「あっそ、じゃあそういうことで」

 

 言いきり、言葉の通りにエリオに来るカイトの弾丸はなくなり、ティアナののみだ。だが彼女は全体を把握しなければならないし、指揮もあるからある程度しかできないだろう。

 つまりは自分の動きで乗り越えなければならない。

 

 そしてそれはなんとかなる気がする。なんとなくで、大した根拠もないけど。

 なんとなく体の調子もいいし、勘も冴えている気がする。

 これは絶好調というかなんだかんだでイケルだろう。

 

 そんな、自分でもよくわからない感覚を得ながらも、再びガジェットへと駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、というわけでそういうことだよ、友よ。これよりこの場は私に主導権を握らせてもらおう。なに安心したまえ、こういう運びは得意でね。退屈させないと保障しよう。だが言っておくが私は君ほど甘くはない。先日を以って鉄槌と烈火は認めたが、他はどうだろうか。我が歌劇の演者足れるのかどうか、見極めさせてもらうよ。それに、()も、甘くはないだろうしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガジェットと戦闘が始まり十数分がたっていた。幾らか傷を得たが、それでも大きなものはないし、まだまだ余裕の範疇だ。

 だが、余裕の範疇の外は少し張りきり過ぎて、皆から離れてしまったことだろう。

 調子がいいのも困りものだと、苦笑する。周囲にガジェットがいないからこその笑みだった。というか今、最後の一体を破壊した直後だった。

 流石に離れすぎたのかと思い、戦闘音の聞こえる所に戻ろうし、

 

「……?」

 

 視界の隅に何かを捕えた。それは誰かの人影で、

 

「……!」

 

 認識した瞬間に、人影へストラーダを構える。確かな確証があったわけでもなくやはり、なんとなくそんな気がしたからだ。

 だが、その感覚は間違っていなかった。

 

「…………」

 

 現れたのは一人の男だった。くすんだカーキ色のコートに同色のインナー。整えられていなボサボサの髪や髭。なによりもその鋼のような鉄の如き眼差し。

 どこかで見たことがあるような雰囲気を持つ男だった。

 だが、顔は知らないが、まさか迷い込んだ一般人という訳ではあるまい。それにしてはいくらなんでも纏う雰囲気が鋭すぎる。

 なによりも手にした槍。刃から柄までが漆黒に染まった槍。

 あれはヤバい。直感とか、勘とか、そういうのを超越して不味いと解る。気持ち悪い、吐き気すら覚える。

 なんだ、あれは。

 

「……お前は」

 

 驚愕と吐き気をおぼるエリオを無視してその男は呟いた。低く、重い声だった。

 

 

「自分が今どういうものに手を出しかけているのか解っているのか?」

 

 

  

 

「----は?」

 

 

 

 

 あまりにも唐突過ぎる言葉。何を言われたのか理解できなかった。なんだそれはどういうことだ。今エリオが何に手を出したというのだ。確かに調子はいい。今日は絶好調だ。それは間違いない。だけど別に何に頼っているわけでもないだろう。なにか訳のわからないものに手を出した覚えはない。そうだそのはずだ。そうに違いない。一体何に頼るのか。そうだ、そのはずなのだ。なんだこの人は、なにを言っているのだ。勝手な事を言わないでほしい。

 

 思考にノイズが走る。不愉快な雑音が駆け巡る。

 

「ぐ、あ、あ……」

 

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。

 頭が割れそうに痛い。

 なによりもおかしいのはコレの感覚すら覚えがあるから。

 さっき、名も知らぬ男に名前を聞かれて、こうやって不快感に襲われたことにすら覚えがある。

 なんだこれは。やめてほしい。

 

「う、あ、…………っああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 僅か十歳。たったそれだけしかエリオは生きていない。人格形成すら終わりきっておらず、第二次性徴期すらまだの少年に過ぎない。 そんな少年にその既知感は重すぎた。脳内を駆け巡る不快感により、防衛機能が発動して、こうなった原因へと槍を振う。

 

 雷撃を纏ったそれは本能のまま、恐怖によって放たれた刺突だ。だからこそ、武力ではなく暴力にまでなった勢いがあり、

 

「温いな」

 

 必死の一撃は、槍を使われるまでもなく、唯指の一本で止められていた。

 

「力がない。意思もなければ覇気もない。なんだこれは、この程度か。まるで木偶の槍だな」

 

「で……く……?」

 

 なんだそれは。崩壊しかける精神の中でエリオを告げられた言葉を反芻する。

 木偶。つまりあれか、自分がただの物だと? 立っているだけの置物で意味が無いだと? なんだそれは、認められない。認めるわけにはいかない。

 だって、つまりそれは-------

 

 

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 最早悲鳴に近い絶叫が喉から迸る。

 同時に体から、槍から、ありとあらゆるところから雷が迸る。かつてない勢いで放電された激情の雷は、

 

「黙れ」

 

 その一言と共に、僅か指の動きでストラーダの穂先が粉砕された。刃が砕け、それに伴い、亀裂が柄まで伸びて粉砕される。破片が手の中に突き刺さった。

 

「……え」

 

 目が見開く。今目の前で起きた事が信じられない。そんな動きを止めたエリオに、

 

「……この程度か」

 

 失望した声。

 槍ではない、だがしかし確実に必殺を威力が込められた一撃が、エリオの顔面へと振り抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、がっつりエリオ君既知感汚染な回でした。
だがあえて言おう。

これで終わりではない。

ぶっちゃけこのパートは難易度超ハードですから。



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