Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第十二章 開幕の囃し

広い森の囲まれた要人、金持ち向けの高級ホテルだ。格調高い客室はもちろん多目的ホールをいくつも有し、地下には格納庫や倉庫も充実しており、主にパーティーなどのイベント事に使われる事が多い。

 さらに言えば、ミッド主街区に多い高層ビルなどではなく、十階程度で、円形と正方形がくっついたような形だ。それほど目立つ場所を考えなければそれほどど目立たない。だからこそパーティーなどのイベント事が多いのだが。

 

 そして、今日行われるのは、骨董品のオークションだ。

 

 いわゆる過去の遺産というものは遺失物すなわちロストロギアという危険物を指す場合が多い。そしてそれは危険物の代名詞であるが、当り前のこととして過去の遺産全てが危険というわけではないのだ。

 歴史的、美術的等の危険性はないが実用性もまた皆無という物もまた存在するのだ。

 だからこそ、学者の研究や金持ちの道楽として危険性のない過去の遺産、あるいは言うほど古くはないが、それなりの価値がある物がオークションに掛けられているのだ。

 

 無論参加するのは学者か金持ち。いや道楽のつもりの後者が圧倒的に多いだろう。金に余裕がある者たちが観賞用に買っていくのだ。あるいは学者のスポンサーとしているのかもしれないが。

 そんなわけで、今ホテルに来ている人間は身なりのいい金持ちばかりで、男女比率では男のほうがかなり多い。

 

 その上で、その比率大目の男たちの視線を引き受ける女性がいた。

 

 一人は金の短髪の女性だ。燃え上がる火のような快活さを漂わせる勝気な瞳と引き締まった体。身に纏うのは赤地に金の龍の刺繍がされた、所謂チャイナドレスだ。コスプレ用の丈が短いものではなく、足首まである本格的なものだ。太ももまでスリットが見えるか見えないという長さで艶めかしい。

 

 もう一人は紫色の長髪の女性。隣の彼女とは正反対のようにお淑やかな雰囲気を持ち、彼女以上に豊満な肉体。それを包むのは黒のイブニングドレスだ。胸元や肩、背中を露出させているスタイルが視線を集める。

 

 アリサ・バニングスと月村すずかだ。

 

「あーうっとうしいわね、燃やしてもいいかしら」

 

 言葉通りにうっとうしそうに、手にした扇子で扇ぐアリサ。確かに今のドレスには自信があるし、見てもらいたい人はいるが、それはこんな金持ちなだけの有象無象のお坊ちゃんではない。

 

「まぁまぁそんなの気にしないでいいじゃん。それよりも早く会場に行こうよ。なのはちゃんたちが来ちゃうよ」

 

「あー、そうね。急ぎましょうか」

 

 少しだけたじろぐアリサにすずかは苦笑する。

 自分たちの十年来の幼馴染である高町なのはを始めとした機動六課の面子がこのオークションを護衛すると言う話しは当然ながら知っている。確か、オークションにかけられるものに危険度の低いロストロギアが混じっていて、それをガジェットが襲撃に来る危険性がある----とか、そんな名目上で招集されているはずだ。

 まぁそこらへんは自分やアリサのの管轄外なので置いておく。謀が得意なのは一番、三番とか七番、十二番だ。あとついでに腐れ十三番も。

 切り込み隊というか実働が一番多い自分たちは自分たちの主である首領閣下の命通りに動けばいいのだ。

 

 まぁそれはそれとして、どうにもなのはたちとは顔を合わせづらい。勿論、先日の海鳴での一件のせいだ。

 なのはたちはきっと自分たちは普通の人間だと思っていただろう。

 まぁ、本当の所すずかはそれこそ生まれた時から普通ではなかったけど、基本的には普通の少女だったし、事実五年前まではそうだった。なのはたちがミッドチルダに移住してからしばらくしてからだから、気付かないのも無理はないだろう。

 なのに、あんなにがっつり目の前で戦って、意味深なことたくさん言ってたのだから顔も合わしづらい。

 翌日は余裕な振りして、結構焦りながら、なのはたちの質問を受け流したものだ。

 

「ほら、すずか。置いてくわよ」

 

「あ、待ってよアリサちゃん」

 

 何時の間に数歩先に行っていたアリサへと少し小走りで追い掛ける。それなりに高めのヒールだが、今さらそんなことでバランスを崩すほど人間のままじゃない。

 オークションが始まるまでにはまだ時間があるが、それでも少し早めにオークション会場、そのVIP席に。

 席に関しては予め貰っていた。普通の席ではなく、別のボックス席だ。基本的にかなりの金持ちか、

 

「関係者側の恋人とか、家族……奥さんとかなんだっけ」

 

 そのことに少し優越感。彼の護衛は渋々譲ったけれど、こういう役得があったのだから譲ってよかった。

 こういうのは案外外堀から埋めていくのが重要なのだし。見ればアリサも口元がにやけていた。

 ボックス席にはまだ誰もいなくて、とりあえず、一番前に。ここからならばステージが一望できる。

 

 もう少し経てば----あの場所にユーノ・スクライアが立つのだ。

 

「なんか……昔を思い出すねぇ」

 

「……そう、ね。あの日もユーノから招待されてたわね」

 

 記憶が戻っていくのは五年前。黒円卓が黎明を迎え、この世界そのものに反旗を翻した運命の日。

 翡翠の光に包まれ、水銀に祝福さ(呪わ)れ、魂が回帰した。

 言葉にすればたったそれだけ。だが、それですずかもアリサも人生が変わった。生きる世界が変わったのだ。

 陽の当たる所から影に潜む所へ。それは自分の意思と魂の選択故なのだから後悔してないのだけれど。

 

 なにも知らないで、どこかの■■を愉しませるなんてまっぴらごめんなのだし。

 

 それはともかくとして。

 五年前も今日と同じように次元世界のちょっとしたオークション兼展覧会みたいなものだった。他にスケジュールが開いている人がいなくて、特別にこっそりという理由でユーノに招待されていた。

 その帰りの、その世界で、カイトとシュテルたちと出遭い、たまたまいたギンガやカリムも混ざって。ユーノとそしてあの詐欺師めいた男の九人で自分たちは黎明を迎えた。未だに空席があるだろうとはいえ埋まるのも時間の問題だろう。

 空席を埋める人物を導くのもすずかたちの役目なわけだし。

 

 まぁ今日に関しては、それほど重要な役目ではなくて、

 

「やっぱ、あの子たちだよねぇ……」

 

 思い、苦笑したのは、色々な意味で後輩といえる子供たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あん?」

 

 ホテルアグスタの外部。なのはやフェイト、はやての隊長陣三人がドレスアップして中に入り他のメンバーは外部警備となったのだ。その最中にタバコをふかしていたカイトが突然声を上げた。

 なにかに気付いたかのような動きだった。ホテル屋上の外壁に腰かけて片膝立てて、もう片方の足を空中に泳がせていた。

 カイトからすればある程度気を張っていれば、このホテル周辺くらいなら楽に把握できる。

 

 それに事が起きるのはオークションが始まってからということは知っている。

 

 だからかなり気を楽にしていた。それは間違いない。

 この場には機動六課だけではなく黒円卓が何人か出張っているから、想定外のことが起きてもどうにでもなるだろう。カイトとしてはその想定外のことこそが欲しいのだが。ともかく、かなり気が楽だった、所謂自然体、普段の軽薄な雰囲気のままでこれからのことを愉しみにさえしていたのだ。

 だが、ふと感じた気配。それにカイトは僅かに目の色を変えた。

 

「デジャブりやがる……けど、こいつは……」

 

 既知感。

 真っ先にそれを感じた。

 カイトの感覚が捕えたのは周囲に広がる森の中だ。かなり遠いが、しかし確実の感じる。

 カイトの感覚器官は黒円卓内でも随一の範囲を誇る。視力、聴力、嗅覚そのどれもが飛びぬけていた。灰色狼《ガウス》の名は伊達ではない。永劫破壊による身体能力強化そのものはすずかには劣るが、大きな差は開けられてないし、昼夜によって強弱の差が激しい彼女に比べれば安定している。例えすずかでもこの気配には気付かなかっただろう。

 そして、なによりカイトが特化しているのは第六感だ。ただ、なんとなく。そういう感覚とか勘が飛びぬけているのだ。

 それは既知感という呪いのこともあるし、彼自身の持つ戦闘経験に基づくものでもある。

 

 その上で、感じているこれには既知感と共に、違和感を感じた。

 

「……おい、スバル、ティアナ」

 

『なにかあったの?』

 

『なに』

 

 違和感に突き動かされたまま、念話でスバルとティアナに連絡を取る。僅かな懸念の下に二人からは確かな返答は帰ってくる。スバルはかなり素っ気ない感じだが、気にせずに、

 

「お前ら、今どこだ」

 

『はぁ? 持ち場にいるけど……』

 

『私もよ。なに、なにかあったならちゃんと報告しなさい』

 

 煙草の煙を大きく吸い込む。確かにカイトの感覚からはスバルとティアナの存在は事前に配置された持ち場の通りだ。無論二人だけではなく、他の面子も確かに存在を感じる。魂レベルで判別しているから間違いない。

 ならば、だ。

 

「こいつは……ちと面白そうなことになりそうだなおい」

 

『は?』 

 

 スバルの怪訝そうな声は最早無視。感じる魂は知らない者ではあるが既知感は生じている。

 

 ならばつまり、そういうことだ。

 

「あーでも、いやだなぁおい。あれか、今日はあのボロ外套も来るんだったか。うわっそれすげーやだわ。うざいしなぁアイツ。まぁどうせ兄貴のとこにしかいかねぇだろうけど……ウザいよなぁ。いるだけで面倒なことになるしよぉ」

 

 そういう意味では、海鳴ではやり易かったと言える。あの日の海鳴全域は翡翠の守護に包まれていて、彼の領域下であり一つの宇宙(ヴェルトール)を内抱しているが故に彼の加護にあることである程度、この(世界)の法から抗うことはできる。

 だから、それはまた別の宇宙(ヴェルトール)を内抱しているアレの領域下に置かれるのならば、同様に抗えるだろう。

 

「けど、そりゃあ困るわな」

 

 水銀はかつてと変わらない。少なくともカイトにはわからない。

 だからこそ、アレの領域下に身を置くと言うのは、通常よりも回帰が早い。それだけかつてに塗りつぶされる可能性が高くなるのだ。

 それは、ユーノを始めとした黒円卓の望むことではない。それくらい越えてもらわなけらばならないのだ。

 だから、

 

「まぁ、ひっかきまわすかね」

 

 武道でも魔道でもない外道の歩み手だ。パワーファイターでもスピードスターでもないトリックスター。黒円卓の天秤。円卓を左右しうる存在であるが故に、黒円卓の首領の寵愛を受ける者たちのことも揺るがす。

 揺らして、選ばせるのだ。

 それこそがなにより肝要なのだから。

 

「……」

 

 煙を吐き出しながら、時計を見る。時刻はもうあと僅かでオークションが始まる時間だ。

 つまりそれこそがこの場における開戦の時刻。

 時計の針が動くのを眺め、その針が開始時刻となるのを見て、

 

「さぁ、派手にやろうぜ。やっぱ喧嘩は男の華だよなぁ!」

 

 その言葉に答えるかのように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかろう。加減はせん、全力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い槍を携えた、鋼のごとき男が応えた。  

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のはマッキーじゃあありません。先に言っておきます。
かなり汚染されてニートのせいで散々な目にあっていますけど、マッキーじゃない原作キャラですよ。

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