Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM: Ewlge Wlederkunft


第十一章 悔い恥じること

「いいか? エリオ。男なら女とダチは護れよ。これ絶対な?」

 

 いつだったかカイト・S・クォルトリーズはエリオ・モンディアルは言った。数年前、地球の、エリオやキャロがいた孤児院で彼はそう言った。いつも、彼はエリオを含め孤児院の男の子たちに喧嘩の仕方やら即席罠とか訳のわからない、周りの大人たちが聞いたら激怒しそうなことを教えていた。

 そしてその言葉は、たまたまだったのか故意だったのか、エリオ一人に向けられて放たれた言葉だった。

 いつものように半笑いで煙草を咥えたまま、煙の臭いを漂わせたまま、

 

「喧嘩ってのは男の華だぜ。キンタマついてんなら根性見せなきゃダメだ」

 

 キンタマって言葉にエリオは顔を赤くした気がする。そんなエリオにカイトはまた笑った。

 

「そりゃあ、ウチのお姉さま方はぶっちゃけ悪魔とかそんな感じにめちゃくちゃ強いけどな? でも、ま。そういう話しじゃねえよ」

 

 確かに、エリオの保護者であるフェイトやその親友であるなのはやはやては魔導士としては異常なまでに強い。それぞれが速度、砲撃、空間攻撃においては管理局では五指に入るであろうレベル、らしい。そこらへんはカイトから聞いた話しなのでよく知らないが。それでも最近魔法を少しは覚え出したから、とにかく凄いなぁとは思っていた。

 

「あれだ、女の影でバトル解説してる男とか死んでいいだろ」

 

 バッサリと言い切る。

 あっさりとした言いように思わず苦笑してしまった。

 

「確かにお姉さま方は強いぜ。魔導師で、騎士で、戦士、兵士でもあるんだろうさ。けど、なぁ、エリオ。わかるだろう?」

 

 

 

 男の戦場にーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おら、起きろ男の子」

 

「……っ、はっぁ!」

 

 なにか懐かし夢を見たような気がしたが、しかし鼻や口の中に大量の液体が入りこみ、咽ながらエリオの意識が覚醒した。

 ぼやけた視界の中で前髪が額に張り付き、顔や体も濡れていた。起き上がりながら、回りを見渡せば、スバルやティアナそしてキャロが心配そうに自分のことを見ていて、上を向けば、

 

「よぉ、大丈夫か?」

 

「……ええ、まぁ」

 

 バケツ片手にしたカイトだ。

 中身が空っぽで、自分とその回りが濡れているということは、

 

「……どのくらい気絶してました?」 

 

「十分ってとこだな。動かなくなったからとりあえず運んで水ぶっかけたわけだ」

 

 少しの頭痛と共に記憶を掘り起こす。

 そう、確かいつもどおりの午後の訓練で、めずらしくカイトが模擬戦の相手をしてくれて。

 それから、いつかのようにキャロが最初に落とされ、順に、自分、ティアナ、スバルとやられていったのだ。

 そのおり、エリオは思い切り顔殴られて気絶したのだった。

 

「……っう」

 

 思い出したところで頬に痛みを感じる。触れてみると少し晴れているだろうか。傷としてはそれほど酷いものではない。

 それでも、驚くほどの痛みを感じる。

 なぜか、デバイスで常時フィールドタイプの防御魔法を張っているにも関わらず、カイトの拳は痛い。自分でも痛みには強いほうだと思うけれどそれでも思わず顔を顰め、歯を食いしばるほどの痛さだ。

 

 まるで魂まで響いているかのように。

 

 そんな様子にカイトはエリオの頭に手をのせ、

 

「おいおい、これくらい大丈夫だよな。男の子」

 

「……ええ、はい」

 

 半ば痩せ我慢で立ち上がる。正直言えば、まだ少しふらつくがそんなことを言われてうずくまってることなんてできない。

 

「大丈夫? エリオくん」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 キャロが覗き込みながら聞いてくる。それにエリオなりに笑顔で返したがそのままキャロは手をかざし治癒魔法を使う。特定の傷を治すものではなく、疲労回復や沈痛効果の魔法だ。全身に桃色の光が広がり気だるさや痛みが引いていく。頬の痛みも少しずつ引いていく。

 やはり長い付き合いだから、痩せ我慢でもばれるらしい。

 

「……ありがとう」

 

「うん」

 

 そんな二人にカイトは口笛を吹き、

 

「おうおう、熱いねぇ」

 

「もう! ちゃかさないの、カイト!」

 

「うっせあほスバル。乳揉むぞ」

 

「んなぁっ!」

 

 スバルが注意するが、カイトの切り返しに顔を赤くして胸を抑える。

 く、と声を少し抑えめに笑い、スバルが自分がからかわれてることに気付き、さらに怒りで顔を歪めかけて、

 

「はいはい、エリオ起きたならなのはさんたちの所行くわよ。エリオ、行けるわね」

 

「はい」

 

「ん、ほらスバル、カイト。じゃれてないでとっとと行くわよ」

 

「じゃれてない!」

 

「あいよ」

 

 ティアナに引きつられ、それでもまだ口げんかを止めないカイトを見て思う。

 

 カイトとスバルの仲が変わったなぁと。

 

 出逢ってからしばらくは仲は険悪というか最悪だった。目が合えば射殺さんばかりに睨みあい、口を開けば互いをののしり合っていた。常に空気が殺意で満ちていたというか恐ろしいまでギスギスしていた。

 正直、そんなカイトの様子は意外だった。

 エリオの知るカイトはいつも瓢々として、余裕をもっている人だった。

 昔からいろんな事を教えてくれて(キャロたちは難色示していたが)、兄という相手だった。もっとも兄というならユーノもいたけれど

 

、彼は兄と言うよりは父みたいな雰囲気なので、エリオにとっての兄といえばやっぱりカイトだ。

 

 隣にいるキャロもそれは同じだろう。

 彼女はカイトに苦手意識持っているだけで嫌ってはない。こっちだって長い付き合いだ。それくらいわかる。

 まあ、たしかにあのノリは女の子にはついていくのは難しいだろう。

 

 それでもやはり、キャロだって、そして自分だってカイトことを実の兄のように慕っているし、カイトだって弟や妹として接してくれていた。

 

 スバルにしても短い付き合いとはいえ、仲好くできていた。

 

 

 だからこそ、カイトとスバルの確執は意外だった。

 

 

 二人とも方向性は違っても社交的というか人づきあいは上手い人だと思っていた。

 カイトは上手く距離感掴むし、スバルはそんなこと気にせずに笑顔で近づくだろう。

 なのにも関わらず、二人の間柄は最悪だった。

 

 まるで魂から反発しているように。

 

 でも。

 

「んだよ。無駄にデカイんだから少しぐらい触らせてくれてもいいだろ?」

 

「セクハラ!セクハラだよこれ! ティア! 訴えたら勝てるよねこれ! てか無駄とか言うなぁ!」

 

「知らないわよ……まったく」

 

 自分の前で会話を交わす二人のはもう、そんな険悪さは感じられない。仲がいい、とは言わなくても悪い、という感じではないだろう。

 

 変わったのはやはりこの前の出張任務でだろう。

 

 スバルの様子が豹変して、それをカイトが止めた。

 その後にカイトが自分の額の傷を見て爆笑したという謎の行為の後からだろう。あの時は遂に異常に気が狂ったかと思ったが、どうやら今まで通り、通常に気が狂ったままだ。

 それでもなにかしらも心境の変化はあったらしい。

 その証拠に彼の額には頭突きの時の小さな傷跡が残ったままだ。

 カイトの身体にはまったく傷跡はない。喧嘩もよくしてるし、戦闘だってエリオよりも多くの場数を踏んでいるはずなのにも関わらずだ。よく付き合いでシャワーやら風呂に入るがまったくなかった。無論エリオだって同性の身体をジロジロ見る趣味はないからあくまで大体だが。

 

 そんなカイトにエリオが知る限り始めての傷跡だった。普段は前髪で隠れていて見えないとしても、傷跡なのは変わりない。

 

 だから、それはなにか大事なことなのではないのかと、エリオは思う。

 どうして、とかなにが、と言われると困るのだがとりあえずなんとなくそう思う。

 言うならば弟分としての勘だった。

 

「エリオっ!」

 

 考え事をしながら歩いていたエリオは自分の名前が呼ばれたことに気付き、声の方を見る。

それは、視線の先になのは、カイト、スバル、ティアナがいて、

 

「大丈夫、エリオ? カイトに凄い殴られて気絶してたって聞いたんだけど……」

 

「だ、大丈夫ですよフェイトさん。それに訓練なんですしそれくらい……」

 

 隊舎から走ってくるエリオとキャ代わりでもあるフェイトだった。彼女はその艶やかな金髪を揺らしながらエリオと目線を合わせる為に両膝を曲げる。

 

「それでも心配はするよ。ホントに大丈夫?」

 

「はい、大丈夫ですから」

 

「そっか、よかったよ。お疲れ様、エリオ、それにキャロも」

 

「はい、フェイトさん」

 

 言いながら、それでもフェイトは心配そうな瞳でエリオやキャロのことを見ている。

 基本的の過保護なのだ、彼女は。

 そして、そんな彼女の視線を受けるたびエリオは思う。

 

 温かくて、くすぐったいと。

 そして同時に情けなくて、恥ずかしいと。

 

 愛されている自覚はある。

 プロジェクトFATEによって生まれ、管理局で手がつけられなかった自分を引き取ってくれて地球の孤児院に入れてくれた。そこにはキャロや他の魔法とは関係の無い友達はたくさんいたし、高町家や月村家、バニングス家といったいろいろな人が来てくれて寂しくは無かった。

 

 たまにだけでもフェイトやユーノが来てくれて、少しずつ魔法を教えてくれた。カイトも喧嘩の仕方とかを教えてくれた。だから自分が不幸だと思ったことはエリオは一度もない。むしろ恵まれていとすら思う。

 

 でも、だからこそ。

 こうして守られているだけと言うのが情けないし恥ずかしい。

 

 勿論、フェイトはSランクの歴戦エース魔導士で自分の保護者で、十近くも年上の女性だ。それに引き換え自分はCランクのぺーぺーの新米でまだ十歳だ。ならばこそ守られているのはしょうがない、

 

 とはエリオは思えないのだ。

 

 そんなのいくらなんでも情けないだろう。

 十歳とはいえエリオだって男の子だ。女性に守られているばかりなんていうのは嫌だ。

 

 こればっかりはキャロにだってわからないだろう。というか今この場ではカイトくらいしか共感が得られないと思う。

 我ながら古臭いとは思いつつも変えようのないものだ。

 

 それにキャロだって守れていない。いつもカイトは模擬戦すると真っ先にキャロを狙う。それは戦略的なこともあり同時に、

 

 自分に守りきれと言っているような気がするのだ。

 

 その思いに応えきれていない。

 

 

 そしてもう一つ。

 こういう時に思うことある。

 フェイトだけでなく、ユーノやカイト、それになのはやフェイトに対してでもそれは同じだ。

 

 それは------

 

 

 

 

「おーい! みんなぁ!」

 

「……っ!」

 

 今日何度目かで思考が断ち切られる。その場にいた全員の目が声の下に集まる。

 

 それはシグナムが運転するオープンカーから手を振るはやてだった。確か、朝からどこかに出ていたはずだったが戻って来たようだ。

 帰還した部隊長にカイトを覗く全員が敬礼をし、すぐにはやてが軽く手を振ったから手を下げる。

 

「さあて、皆。次の任務が決まったで」

 

 車から降りながらはやては開口一番そういった。手に数枚の書類を持っていた。

 

「内容を聞いても? 部隊長」

 

 代表し、なのはが問い、

 

「ええで、なのは隊長。……ああ、でもんな堅苦しくせんでええで? もっとリラックスしいや。ああ。カイトだけは直立な」

 

「いやですよ、んなもん」

 

 理不尽なモノ言いに当然ながらカイトは取り合わず、話しを促す。

 

「ま、ええか。んで肝心の任務内容やが……」

 

 僅かに溜めて、

 

「ホテルアグスタでウチとユーノくんが挙式するから、皆はそれの護衛や」

 

 にんまりとして言いきった。

 

「真面目にやるの」

「真面目にやって」

「真面目にやってください」

 

 殺意はないにしても引くくらいの黒いオーラ纏った三人にデバイスを突きつけられた。

 

「じょ、じょーだんや」

 

 冷や汗を流しながら、引きつった笑みを浮かべ書類で顔を隠し、

 

「まったく胸が大きいと冗談が通じんのかいな……。やっぱおっぱいはひかえめに限るで」

 

 よくわからないことを呟き、そして、今度こそ真面目に言ったことは。

 

 

 

 

「ホテルアグスタで行われる骨董品オークションの警備護衛や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これよりホテルアグスタ編ですが、エリオメインでやってきますよ。
結構改変します

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