Dies irae ーcredo quia absurdumー   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:Bottomless Pit

説明回だから読み飛ばしても大丈夫……てわけではないですよ?

8月23日、最期の方を少し修正しました


第十章 知らねばならぬこと

 機動六課が海鳴から帰還したその日に深夜。

 六課の誰もかもが疑問と驚きを残し、釈然とせぬまま、それでも疲労により誰もが自室に倒れこんだ夜だった。

 ミッドチルダの主街区、その少し外れ。それのさらなる路地裏の地下に一つの店がある。

 店、というよりもクラブと言った方が正確だろう。碌に魔力を扱えずに魔法学校をドロップアウトした連中やそもそも魔力を使えず、魔導師を妬み、憎み、マトモに職に付く事がなかった不良やゴロツキたちだ。年は様々だが、性別は男のほうが多い。

 どういうわけか基本的に強力な魔力持ちは女性が多いのだ。おまけに言えば見目麗しい美女、美少女ばかり。そういう理由もあった女性がいない訳でもないのだが。 

 

 その店は二、三年前にとある少年がそれまでの店名から改名し、ミッドチルダでの拠点として使っている。

 そこに二人の女性が訪れていた。

 紅色の三つ編みの、女性と言うよりも少女、あるいは幼女と言ってもいいほど小さい少女だ。

 もう一人はピンク色の長身の女性。出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる抜群のプロポーションだ。

 どちらもその外見故に周囲の男たちから下卑た視線を向けられるが、二人がその鋭い眼光でにらみ返すとすぐに目を逸らす。それでも、またすぐに視線を戻すのできりが無い。

 店に入り少しした所で、店の男から声を掛けられ案内されたのは店の奥にあるVIPルームだ。

 中に入れば廊下で、シャワールームがあったり他の部屋らしき扉があるがそれらは無視し、気配のある正面の扉に手を掛けた。

 部屋の中には一人の少年がいた。

 黒と白の斑の髪の少年。彼は煙草を咥えながら笑みを浮かべ。

 

「ようこそ、姐さん方。クラブ『ボトムレスピッド』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、こっちでもお山の大将やってたのかよ」

 

 開口一番、ヴィータはカイトの正面のソファにドカっと座り込みながら言った。

 

「こっちでもつうかあっちでも同じで、あいつらが勝手に持ち上げてくるんスよ。俺はくれる物を使ってるだけっすよ」

 

「相も変わらず、ひねくれているな。お前は」

 

 シグナムがヴィータの隣に、しかし静かに座る。

 その端正な眉は僅かに歪んでいた。生真面目というか、真っ直ぐな彼女としてはあまり印象にいい物言いではないのだろう。

 それでもカイトは肩を竦め、

 

「ま、性分なんで。変えようもないすね。あ、なにか飲みます?」

 

 言いながら指したのは目の前の机の上に散乱する酒瓶だ。開いているのもあれば未開封のもあるが共通するのは酒の度数が高いことだ。

 

「飲むか。お前一応明日も仕事だぞ」

 

「大丈夫っすよ。どうせ酔わない体なんすから」

 

 言いながら、飲みかけのボトルに口を付け一気に煽る。かなりのアルコール度数だが構わず一気飲み。酒に弱かったら一発で卒倒してもおかしくないが、カイトは顔色一つ変えずに飲みきる。

 

「あーくそまっじぃ」

 

 そして、二人に視線を戻せば、

 

「おいおい、そんな睨まないでほしいんすけど」

 

「体質といったな?」

 

 軽口に付き合わず、目を鋭く細めたシグナムが低く呟く。

 

「さっさと本題に入れ。わざわざこんな時間に、こんな場所に呼び出したのだ。その体質(・・・・)の話しだろう?」

 

「あー」

 

 言葉も視線も気配すらも低く鋭くさせるシグナムやヴィータヴィータに対して、カイトは視線を泳がせて髪をくしゃくしゃとかく。どう説明するか困ったという様子だ。実際困っている。

 確かに今夜この場に呼んだのは彼女たちの新たな体質について話さなければならない。カイトとしてもこういうことはあまり得意ではないがなにも説明しないままでは危険(・・)すぎる。だから、最低限説明が必要だが、どこから説明したものか。

 

「単純な感じ? 複雑な感じかどっちで?」

 

「単純な感じ」

「単純な感じ」

 

「さいですか」

 

 単純な感じの返答に顎に手を当てて考える。絶対に伝えなければならないことは四つ、だろうか。

 

 聖遺物と位階と霊的装甲と魂の関して。これらをどうにかして都合よく(・・・・)伝えなければならない。

 

「あーそうだな。簡単にいえば。俺たちは人間やめてるって話しっすよ。……ああ、元がプログラム体とか関係無くて。第一、十年前はともかく今はほとんど人間でしょう? そういうレベルの話しじゃない」

 

 人間をやめるの辺りで顔色を変えた二人に軽く手を振る事で押さえ、ネガティヴ入ろうとしたのを止める。そんなんでは困るし、この先の話しについていけない。プログラム体どうこうではすまない。

 

「事実だけをいうならば、俺もそれから姐さん方もこれから先は普通の物理的攻撃も魔法攻撃もなにもかも通用しないし、酔わないし、煙草で肺を壊さない。基本的に不老不死で戦えば戦うほど強くなる……後、なんだ? まぁそんな感じ」

 

言いながら酒瓶を煽る。今度の飲酒用というよりは消毒用といった方が正しいほどの度数を誇る火酒だ。よっぽど酒に強くてもコップ一杯でぶっ倒れる代物。それを一気飲みしても体は熱くならないし、顔色も変わらない。わかるのは酒が糞不味いということだけだ。

 

「んで。ああ、質問は後にお願いしますよ? こっちもわかりやすく話すの大変なんすから。えっと、昨日、ていうか一昨日に地球で姐さん方がゲットしたのは『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』っていう、レアスキルみたいなもんす。確固とした習得条件は曖昧なんで、どうして持ってるのとかは無しにしてくださいよ?」

 

 いろいろ言いたそうだった二人はとりあえず押さえておく。

 習得条件が曖昧というのはもちろん嘘だ。カイトたち自身はユーノと腐れ水銀から与えられたし、目の前のシグナムやヴィータやかつてから引き出した上で自分のデバイスを聖遺物としてその身を変革した。さらに言えばシグナムたちのデバイスには元々ユーノが細工していて自分のとシグナムのはまた少し違うのだが。

 

「で、これが一番大事な話しなんすけど、この『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』には位階があるんすよ。四段階。活動、形成、創造、流出っていうのが。まぁ、レベル1とかレベル2とか思って貰えればいいっす。これが一番大事な話し。ちなみに姐さん方はレベル1の活動。はい、質問は?」

 

「具体的な効果はなんだ? そんなわけのわからんこと言われてもな」

 

「簡単に言やあ、活動ていうのは所謂超能力かね。聖遺物……ああ、つまりデバイスとかのことっすけど、それの特性とか機能を使える感じすっかね。つまりはデバイス無しでの魔力行使みたいな能力っすね。これがレベル1。ま、パンピー相手にはこれでも十分すけど、『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』持ち同士では使えないっすね」

 

「それがアタシらだってか?」

 

「ええ、そうっすよ。このレベルだと聖遺物に振り回されてて、暴走もし易いから気をつけてくださいね? 目下お二人には、レベル1からレベル2に上がってもらうのが目標ってことで」

 

「上がれないとどうなるんだよ」

 

「良くて廃人、悪くて死ぬから気を付けてくださいね。んで、その次レベル2が形成。ここに上がってようやく使いものになる段階っすね。主に聖遺物の武装として具現化。それに怪力やら肉体が頑丈になって、第六感の強化。ここらへんから人間を超えて超人の域になる。んで、その上のレベル3が創造で所謂必殺技。一番上は俺もよく知らないんでなんとも」

 

 一息ついてまた酒を煽る。とりあえず位階に説明はこれでいいだろうか。創造と流出に関しては元々説明する気はない。まぁ、知らないのは嘘なのだが。身近に魂だけとはいえ、そこに至っている者もいる。

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

「じゃあ、あの連中は」

 

「……ああ、シュテルたちっすか? 全員レベル3っすよ。俺も含めてアリサさんやすずかさんもね。つまり位階が違うとそれだけの差があるんすよ。レベル1とか2とかいいましたけど、もっと極端な話し普通のSランク魔導師がレベル1なら活動位階でレベル25、創造位階なら75とかそんくらいの差があるんすよ。ほら、昔やったゲームみたいな感じで」

 

 自分で言ってかなり上手い説明なのではないかと思った。レベル制のゲームならレベル1がレベル25にダメージを与えることなんてできないし、50とか75ならなおさらだ。それにレベル75のやつが低レベルの技使えば、それに応じて威力は上がるだろうし。自ら納得しながら二人の顔を見れば、

 

「…………」

 

 かなり顔をしかめていた。なにせ今のままでは、シュテルたちや目の前のカイトにも絶対に勝てないと言われたのに等しい。特にプライドの高いシグナムにはキツイだろう。それでも、現実から目を背けたりはしないからいいんだが。

 

「話し進めますよ? まぁ、そんな感じで、俺らは通常の攻撃は通じない……霊的装甲っていうんすけど……通じるのは同じ聖遺物を介した攻撃のみっす。んで基本的に不死だけど具現化した聖遺物を壊されたら死ぬので気を付けてくださいね」

 

「その、聖遺物の使い手とやらはどれくらいいるんだよ」

 

「俺が知る限りじゃあ十数人っすけどね。もしかしたらもっとたくさんいるかも……まぁわかんないすけどね。今覚えといて欲しいのはとりあえず、普通の魔導やら物理攻撃は通じないってこと。だからまぁ、あんま訓練とかで調子のらないほうがいいすっよ?」

 

「だからおめぇ普段出てなかったのか……」

 

「ま、そういうことすかね」

 

 ぶっちゃけこの術法はチート以外のなにものでもない。無論簡単に習得できるものではないし、メリットだけではないがそれにしても霊的装甲や形成位階以上の超感覚は反則すぎる。真面目な話し、創造位階の聖遺物の使途が一人いれば管理局を落とせるだろう。地上本部だろうが本局だろうが関係無い。Sランク魔導師からようやくダメージが通りだすというのだから自分の事ながらふざけてる。

 

「ああ、あと最後。基本的に戦えば戦うほど強くなる。戦闘したあとに聖遺物が勝手に周囲の魔力吸いとって本人に還元してくれるんす。まぁもちろん勝たないとだめっすけどね」

 

 コレが一番の相違点。既知世界で使用され、現黒円卓が保有するものとの最大の違いだ。

 本来ならば聖遺物と『永劫破壊《エイヴィヒカイト》』は魂を燃料として駆動するものだ。魂を糧として発動、使用し、魂を喰らえばば喰らうほど、つまり

 

 

 人を殺せば殺すほど強くなるのだ。

 

 

 それゆえに魂を回収するために慢性的な殺人衝動に犯される。六課に入る前に管理外の辺境世界の紛争地域に行ったのは魂の回収の為だ。魂を多く持てばそれだけ強くなるし、その上で魂を使って傷を治すことも出来る。

 

 だが、それは裏を返せば人を殺さなければ強くなることが出来ないのだ。

 

 それを彼は、ユーノ・スクライアはよしとしなかった。自分の宝石たちの手を穢すことをよしとしなかった。

 自己満足と言われてもおかしくないだろう。それでもユーノは自らの宝石を汚したくはなかった。もっといえば、本当ならば彼はこの世界で再び黒円卓を作ることさえその気ではなかったのだ。

 戦い、傷つくのは自分だけでいいと、唯我ならぬ唯他の域まで彼は思っている。

 だからこそ今の黒円卓はあるのだが。

 

 とにかくユーノ・スクライアはその唯他を以って『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』を改変し、シグナムやヴィータたちはもちろん機

 

動六課のほとんどの面子のデバイスに仕込んでいる。もはや、呆れるほかない。カイトとしては何時の間に仕込んだか不思議でしょうがないし。

 

 まあ、義兄の頭がおかしいのは置いといて。

 

 改変されたことによって魂を魔力に置き換えて使用できるようになったのだ。

 

「ま、そんなとこっすかね。とりあえず、次の位階目指して頑張ってくださいな」

 

 一息付きながら、煙草を咥える。

 とりあえず、必要なことはこれでいい。かなり突拍子もない話しだったが、今は知識として飲み込んでくれればそれでいい。

 紫煙を吐き出しながら、ふんぞり返っていたら、

 

「位階とやらはどうしたらあがるのだ?」

 

「ん、ああ。そうっすね。それを忘れてた。単純すよ」

 

 そう簡単なことだ。だれもが無意識で行うことなのだから。

 ヴィータとシグナムを眺め、その上で額にある真新しい小さな傷痕をなぞり、

 

「願えばいい」

 

「なに……?」

「あ……?」

 

 

 

 

「祈ればいいんすよ。心から、魂から、餓えて、飽いて、望む事をやめなければいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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