東方妖火煉   作:超絶暇人

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今回は心綺楼完結篇。


突如煉は仮面の少女に火球を飛ばし、攻撃の様子を見せる。その意思は、放火魔の一面が垣間見えるモノだった。


四話 仮面を焼くライター

 付喪神と言うのは、物に命が宿った、言わば“その物”の神と言える存在である。また、物が使い古されていた場合、持ち主と同じ行動を執ったり同じ性格となったりする、それは“物”に持ち主の記憶が刻まれているからだ。

 

「さぁ、来るなら来なよ。無論、本気でね……!」

 

 仮面の少女に向かって指招きを行う煉は手加減無し遠慮無しの模様。だが、一方の仮面の少女は煉の変貌振りに戸惑いながらも一応に本気の素振りとして自身の武器である薙刀を取り出して構えた。

 

「そう、そうだよ……そう来なくっちゃさぁ〜、詰まらないじゃんッ!!!」

 

 ゆらゆら揺れるように仮面の少女に数歩近づいた直後、倒れるように地面に体を近づけ、そこから超速(ちょうスピード)で突進していく。この時の煉が体を地面に近づけた傾斜は45度以上、80度以下だった。

 

 煉は自らの足の爪先を地面に突き刺すように踏み込み、蹴り出す事で摩擦に関係無く蹴り出せる上、体勢を低くする事で体に受ける空気抵抗を最小限に抑える走り方をしている。

 

 また、煉は妖怪である為に、人間を軽く上回る筋力と身体能力を持っている。相手も仮面の付喪神、言わば妖怪と何ら変わりない、だが、この時の煉の余りの速さには目が追いつかなかった。

 

「は、速いッ……!?」

 

 仮面の少女が次にその目で捉えたのは火が灯った左拳を低い位置から上方向へダッシュスイングする煉だった。少女は咄嗟に体を右に逸らして煉の拳を避けるが、煉は少女が丁度自分の隣に来たところで体を右に捻り出した。

 

 捻った勢いで煉の全身は右に素早く回転を行い、自らの靴底を仮面の少女の顔に近づける。自身の体のバネが最大まで縮まった直後に両足揃えて思い切り蹴りを放った。

 

「よいしょォォォォォッ!!!」

 

 押し飛ばされるように顔面を蹴られた仮面の少女は勢いのまま地面に激突して跳ねる。体が跳ねた後に少女は吐血、そこから蹴り飛ばされた勢い余って地面を少し長い距離転がった。

 

 勢いが無くなり、漸く体の回転が止んだ少女はうつ伏せの状態から感情の無い目で煉を見る。煉は仁王立ちの如く立ち尽くし、そこから仮面の少女を見下ろした。

 

「怒面『怒れる忌狼の面』!」

 

 仮面の少女はうつ伏せの状態のままスペルカードを取り出して宣言。即座に立ち上がり、上空高く飛び上がってから犬の面を顔に着け、煉に向かって真っ逆さまに高速降下しながら狼の顎の形を描く霊気を纏って突進する。

 

 しかし、戸惑う事無く、そこで煉は笑みを浮かべた。煉は笑みと共に服の裾を翻し、右足で地面を蹴って左足を支点に高速回転、同時に両腕を伸ばし、自身の周囲に炎の熱気を飛ばして回す。

 

 続けて回転軸にしている左足で地面を蹴って空高く跳び上がり、高速回転を維持したまま熱気の竜巻を巻き起こす。これを見た仮面の少女は知った、これが彼女のスペルカードなのかと……。

 

「スペルカード宣言ってねッ! 遊炎『牙炎超回天(ヴォルケイノアクセル)』!!」

 

 さながら氷上のスケーターの如き回転美、だがその回転は地獄と呼べるほどの燃える熱風。これぞまさに炎上のスケーター、煉獄の回天美が生む燃える竜巻が、仮面の少女の高速降下の勢いを掻き消し巻き込む。

 

「ねぇ知ってる?『アサダマオ』って人。有名なプロスケーターなんだよ! こんな風な回転をするんだよ!!!」

 

 燃える竜巻に巻き込まれた仮面の少女は、服を焦がされ、皮膚の所々に火傷を負ったところを煉の追撃の高速回転からの回し蹴りをぶつけられ斜め下に蹴り飛ばされた。

 

 蹴り飛ばされて仮面の少女はまたもや地面に全身を強く打ち付け、吐血。一回地面をバウンドしてから少し転がり、うつ伏せの状態でまた煉を見る形となった。

 

「つ、強い……これほどまでとは……一体あなたは何者なのですか……!?」

 

「おんや? おかしな事を訊くね、私は妖怪だよ、妖怪。見てわかる通りの火の妖怪、ライターの妖怪、そんてもってかなり特別製。何故なら、私を持っていた人は"放火魔"だからね」

 

「なるほど、火は何よりも破壊の象徴……それがあなたで具現化したとも言えるのですね」

 

「ん〜難しい事ぁわからないけど、そんなんじゃない?」

 

 煉はそう言って右手に灯った火を手の平の中に閉じ込め、自身の顔の前に持ってくる。そしてゆっくり手の平を開くと、そこには火では無くソフトボール位の大きさの火球があった。

 

「ところでヤラレっぱなしだけど、そろそろ反撃したら?」

 

「言われなくてもそのつもりです。憂面『杞人地を憂う』!」

 

 仮面の少女は悲しそうな老婆の面を着け、頭を抱える仕草をしつつ体を起こして座った。直後、煉の足下から大きく青白い霊気が勢い良く噴出してその場に立っていた煉を呑み込む。

 

「イィィィヤッッッホホォォォォイイッ!!!」

 

 煉の楽しそうな声が上空から響いて来て仮面の少女は仮面の隙間から真上を見上げた。そこには青白い霊気が立ち昇るその一番上から放り出され、楽し気に真下の少女に向かって落下する煉の姿があった。

 

「ヒャッハァァァァァ!!!」

 

「そんな!? まさかあの霊気の噴出に呑まれたのにも関わらず、無傷で抜け出したと言うの!?」

 

「どうやら不運(ハードラック)(ダンス)っちゃったみたいだね、不思議ちゃん! 火符『ライターフレア』!」

 

 煉は予め用意していた火球を手で前に突き出し、細かな火球として前方放射状に無数にばら撒いた。すると仮面の少女は即座に仮面を変え、般若の面を着けて立ち上がった。

 

「憑依『喜怒哀楽ポゼッション』!」

 

 仮面の少女は両腕を顔の横まで振り上げてがっしりと構え、仮面や全身から赤い霊気を放出する。放出された霊気は向かってくる細かな火球を全て掻き消した。

 

 煉は落下の勢いに乗ったまま空中で前宙返りを行い、踵を振り下ろす準備をする。少女も薙刀を持ち、薙刀自体に霊気を纏わせて煉に向かって振るうべくどっしりと構える。

 

「行くよッ! 名付けて、天空首筋割り!」

 

「なら、私も名付けて、天空首筋割り破り!」

 

 煉の踵落としと仮面の少女の薙刀の一撃が激突して火炎と霊気が爆発を起こす。二人の繰り出した攻撃の接触面では火炎が火を撒き散らし、霊気は強く発光している。

 

「はぁぁぁぁァァァァァアアアッ!!!」

 

「やぁぁぁぁあああぁぁぁああッ!!!」

 

 暫らく経過してから攻撃の接触面で火炎と霊気が弾け、煉は後方に飛んで着地、仮面の少女は後退って体勢を整える。少女は少し疲労した様子を見せるも、煉は変わらず元気であった。

 

「どうしちゃった? 疲れちゃった? 私はまだまだ元気だよ!」

 

「羨ましいですね、アレだけの力を使っておきながらまだ元気でいられるとは……でも、私にはまだ秘策があります」

 

 仮面の少女の顔の横に福の神の面、上には狐の面が有り、表情は変わらないが、煉には確かに少女が笑っていると感じ取れた。直後から煉は戦いを楽しむ笑顔から一転、戦いそのものの顔となった。

 

「笑っているようだけど、その"秘策"とは何なのかな?」

 

「それは……これですッ!」

 

 唐突に仮面の少女は自分の顔の横に浮いていた福の神の面を掴み、フリスビーの要領で素早く投げた。福の神の面は煉に向かって飛んで行き、面は煉の顔にピッタリと貼り付いた。

 

「うわッ!? 暗い! 見えない! 苦しい!」

 

「これが私の秘策、仮面の舞をその身で(とく)と吟味あれ! 『仮面喪心舞 暗黒能楽』!」

 

 仮面の少女はまず扇子を取り出して煉に対して振り抜いてから開き、もう片方の手にも扇子を持って煉に対して振り抜いてから開いた。次に最初に開いた扇子を開いたまま煉に対して振り下ろし、そこから二番目に開いた扇子で煉を打ち上げた。

 

 更に扇子から薙刀に持ち替え、華麗な薙刀捌きで煉を連続で斬り払い、仮面を次々と変えながら霊気での攻撃も加え、最後には薙刀の一閃で仮面喪心舞の幕を下ろした。

 

「うわぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 仮面が自身の顔から消えた時、初めて煉は痛みによる叫び声を張り上げた。顔を真上に向けて血を口から滴らせ、頬や腕には(アザ)に切創、服は胴が右半分切れ、所々切り裂かれている。

 

「漸く、しかしやっと、あなたに攻撃を与えられました……が、まさか私の秘策で、とは……この秘策が通用しなければ、私は勝つ(すべ)がありませんでした」

 

「────じゃあ、ホントーの意味で為す術(・・・)無くなるんじゃない? 私が立ち上がったらさァ……」

 

 瞬間、仮面の少女の顔が硬く凍り付いた。煉の若干疲労した、しかし変わらぬ元気な声を聞いて、少女は倒れている煉から目を背け、恐怖から冷や汗を一滴、二滴と垂らした。

 

「そんな……私の秘策でも戦闘不能に出来ないなんて、これ以上はもう何も…………」

 

「だろうねェ、私は見ての通り無事、それに私にはまだ出してない技があるしねッ!」

 

 煉は素早く起き上がった瞬間に体を前に倒し込み、地面に突き刺すように前に踏み出した足の一回のみの蹴りで仮面の少女の目前に一瞬で迫る。それから煉は右手で少女の口を猿轡のように掴み上げる。

 

「……ッ!!?」

 

「私の秘策は私の中の持ち主の状態を全面に押し出し、目に付くモノ全てを焼き尽くす事! そして今から魅せる芸当は、人の形をした人と呼べる全てを効率良く後味良く燃やす技! 名付けて……『内部焼却』ッ……!!!」

 

「ンンッ!!!!」

 

 直後、仮面の少女は口の中に燃えるような熱を感じた。口に感じた熱は喉を通って胸、胴、手、足、頭部にまで広がり、熱が血液の如く全身を循環して次第に温度が増して行く。

 

 仮面の少女は直感した、自分は間も無く死ぬ……遺体として残る事無く灰となって散り散りになって死ぬ。目から涙を流す、この世を去る悲しみで、折角付喪神として目覚めたのに、こんな短い時間で去るなんて……。

 

「ーーでも、さすがに放火魔になり切りたくは無いから、私はやらない。生かしてあげる、それが絶対おもしろいから!」

 

 煉は唐突に右手で掴んでいた口を放し、服や体の汚れを手で払ってから仮面の少女に手を差し伸べた。この時の煉は絶える事を知らないいつもの無邪気な笑顔だった。

 

「不思議ちゃん、名前はなんてぇの?」

 

「私は"不思議ちゃん"ではありません、秦 こころ(はたの ココロ)ですよ、煉さん」

 

 こころは無表情ながらも嬉しそうに煉の手を掴み、立ち上がった。ちなみに、その暫らく後に人里に再び人が戻り、感情も戻り、よくわからない宗教戦争も収束したと言う……。

 

 

 

 

 

 

 

続く




次回から煉と良く絡む霖之助を除いたメインサブキャラとの出会い。


煉と関連のあるキャラはこころを除いて他に誰が居たか、覚えてますか?

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