上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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 生まれたばかりの生命が感じる、初めての温もり。

 その温かさは、冷めたい人形だった少女の心に、優しく染み渡る。



抱擁〈しあわせ〉

 

 一方通行(アクセラレータ)は、その燃えるような瞳を、ぐちゃぐちゃの心境で受け止めた。

 

 その少年は、怪物である一方通行(じぶん)を、微塵の揺らぎもない眼差しで、燃え盛るような眼差しで、臆することなく見据え続ける。

 

 こんな色の瞳を受けたのは、本当にいつ振りだろう。

 

 もしかしたら、それこそ目の前の少年と生き別れた四年ぶりかもしれない。

 

 あの木原数多ですら、みるみるうちに怪物ぶりに磨きをかけていく一方通行(アクセラレータ)に対して、徐々に恐怖の色を隠せなくなっていき、彼と目を合わせなくなっていった。

 

 あの『木原』ですら、そうなのだ。

 

 

 自分は――一方通行(アクセラレータ)とは、それほどの怪物なのだ。

 

 

 なのに、今、自分の目の前に立ち、あろうことか、その一方通行(アクセラレータ)を見下ろすこの少年は――

 

 

(……カッ。なンつー顔してやがる)

 

 強い意志を湛えた瞳――間違った道へ進もうとしている友達を、その身を持って止めようとする瞳だ。

 

 なんというひどい悪夢だ。

 

 

「……はァ? 誰が、誰を止めるってェ?」

 

 一方通行(アクセラレータ)は、ぐらりとふらつきながら立ち上がる。

 

 口元の血を拭いながら、凶悪に笑ってみせる。

 

「面白ェが、笑えねェな」

 

 あろうことか、よりにもよって、こんな自分を――友達だと?

 

「殺したくなるくらい、笑えねェよ」

 

 そして、笑みを消し、憎々しげに、目の前の少年を睨み付ける。

 

 

 ふざけるな。無敵に逃げて何が悪い。孤高に逃亡して何がおかしい。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)という怪物に関わったものは、総じて大きな傷を負う。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)という怪物が触れたものは、それが何であれ致命的に破壊される。

 

 

 それは、被害妄想でも、誇大広告でもない。

 

 

 ただの事実だ。真っ白な少年の、無垢な心に残酷に刻まれた、全てその目で見て、その手で作り出してきた、容赦ない現実だ。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)という、真実だ。

 

 

 そんな存在に、そんな怪物に――友達など、いていいはずがない。

 

 

 そんなことはあってはならない。

 

 

 だって、そんな大事な存在がいたら――――誰も救われないじゃないか。

 

 

 壊してしまうと分かっている大事なものなんて、救われないだけじゃないか。

 

 

「俺を助けるっつゥンなら……上条」

 

 

 怪物は、笑みを向けた。

 

 

 自分を助けにきたという少年に。

 

 

 かつて自分を救ってくれた、友達になってくれた存在に向かって――――悲しく笑った。

 

 

 

「俺の前から、今すぐ消えてくれ」

 

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、立ち上がりかけていた膝を折って、再び両手を床に着ける。

 

 

 その体勢は、まるで懇願するかのようだった。

 

 

 そして、その両手によって――――床が爆散する。

 

 

 その儚い挙動とはまるで比例しない破壊の余波が、上条を襲う。

 

 

「――くッ!?」

 

 上条はそれを大きく飛び退くようにして躱し、大きく円を描くようにして一方通行(アクセラレータ)を挟むような位置取りだった00001号の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

「は、はい。致命的な負傷はありません、とミサカは状況がまるで読み取れない困惑を隠してとりあえず聞かれた質問に端的に回答します」

 

 00001号はその言葉通り、無感情なはずの表情に困惑の色を出して、突如自分を庇うように現れた少年の背中を見上げる。

 

「あ、あの、あなたは? 実験はどうなったのですか? とミサカは己の突発的な不測の事態への弱さを露呈します」

「言っただろう、実験は中止だ。永久にな。だから――」

 

 上条は首だけ振り返り、クローンの少女に言った。

 

 

「――お前達は生きるんだ。これからは実験の為じゃなく、普通の、世界に一人だけの女の子としてな」

 

 

 00001号は、その言葉を受けて、まるで大量のエラーが発生したかのようにフリーズする。

 

 

「……理解、出来ません、と、ミサカは……ミサカは……」

 

 

 00001号は――生まれたての生命(クローン)は、壊れたレコードのように、言葉を、意味を持たない言葉を、ただ思い浮かぶがままに、目の前の背中に向かって投げ掛ける。

 

「ミサカは、実験の為に作られた個体です。……定価十八万円で量産される、模造品です。……いくらでも替えが利いて……壊されるために作り出されて……なのに……どうして?」

 

 00001号は、目の前の少年の行動が、まるで理解できない。

 

 少年の行動は、自身が学習装置(テスタメント)によって教育(インプット)された知識や常識とは、まるで逸脱しているからだ。

 

 助けられているという実感すら湧かない。ただ己の中にある情報(じょうしき)との矛盾による疑問(エラー)だけが湧き起こり続けた。

 

 

 自分は今日、ここで殺されることで役割を終えるはずだった。

 

 

 そして、自分の(けいけん)はミサカネットワークによって次の個体(ミサカ)に受け継がれる。

 

 

 それが00001号(ミサカ)の与えられた人生(やくめ)のはずだった。

 

 

 なのに、目の前の少年は、それを突然強引に滅茶苦茶にした。

 

 

 少年は言う。人形としての人生(やくめ)を何の疑問もなく享受しようとしていた少女に向かって、振り返ることすらせず、すげなく言い放つ。

 

 

 

「そんな事情(こと)知ったことかっ! 俺はお前を助けるっ! 死ぬことは許さないっ! だから黙って俺に助けられとけ!!」

 

 

 

 分からない。分からない。分からない。

 

 少年の言っていることは、何一つ00001号には理解できない。

 

 どうしてこんなことをするのか。こんなことに意味はあるのか。

 

 

 実験を止める? どうやって? それならば自分達はどうなる? 何をすればいい? 役目は? 命令は? 生きるとは? 死とは? 分からない。分からない。

 

 

 00001号には、何も分からない。

 

 彼女には、あまりにも何もかもが足りなかった。

 

 

 生まれたばかりの少女は、あまりにも幼かった。

 

 

 ただ少女は、その背中を見つけ続ける。

 

 

 目の前の少年は、決して大柄というわけではない。言葉通り、年相応の少年の背中だった。

 

 

 だが、00001号には、その背中は大きく、逞しく――そして、痛ましく見えた。

 

 

 破壊を振りまく白い悪魔に向かって、その背中は一直線に特攻する。

 

 

 右の拳だけを握りしめて、散弾のごとく目の前を覆う瓦礫群の中に、臆することなく雄叫びをあげて。

 

 

「……っ!」

 

 

 なぜだかは分からない。

 

 だが、00001号は、その背中を見つめ続けながら、まるで痛みを堪えるように、ギュッと、胸を押さえるように手を握った。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 清潔感溢れる無機質な廊下を、女王が闊歩する。

 

 食蜂操祈は、その黄金の髪を靡かせながら、気品すら感じる足取りで、堂々と道の真ん中を進んでいた。

 

 後ろに控えるのは、一人の女生徒と、一人の白人の研究者。

 まるで従者のごとく追従する両者は、だがその様子は対象的だった。

 

 女生徒――縦ロールはこの状況に対して何の疑問も持たず、ただ敬愛する主の引立てとなるべく恭しい態度を崩さず、食蜂の斜め後ろを歩く。

 対して白人の研究者――カイツは目の前の状況に冷や汗と空笑いを堪え切れなかった。

 

 確かにこの実験の上層部の連中は軒並み制覇したが、もちろんあの連中だけがこの実験に関わっている研究者の全てではない。

 なのでこのように研究所の中を堂々と歩いていれば、他の研究者と当然のごとくかち合う。

 

 が、そんな有象無象は、前を歩く超能力者(レベル5)の前ではただの背景に等しい。

 

 姿を現すや否や、小さな電子音一つですぐさま軍門に下る。

 

 まるで平伏するように、道を譲って、跪き、頭を垂れる。

 

 

 その様は、まさしく女王を敬う奴隷の如くだった。

 

 

「――あ、あの、無力化するだけならここまでする必要はないのでは?」

「これは、ただの女王の趣味です」

「…………そうですカ」

 

 縦ロールはこっそりと耳打ちをしてきたカイツに目を合わせることすらせず平然と答えた。

 

 常盤台の女王は、色んな意味で女王だった。

 

 カイツはもはや何も言うことはせず、ただひっそりと食蜂達の後に続いた。

 

「ねぇ、妹達(シスターズ)がいるのはあの部屋でいいのよねぇ」

「ええ、おそらくハ。私は計画全体の警備担当だったので、彼女達には深くは関わっていませんが」

「……ということは、あのダミーの研究所に『アイテム』なんていう物騒力が高すぎる過剰戦力を投入したのは貴方だったのねぇ。まぁ、その件は色々片付いた後でゆっくり追求するとしてぇ――」

 

 そして食蜂は、名も知らぬ一人の研究者を操って扉を開けさせ、躊躇なく突入する。

 

「っ!? あなた達はなに――」

「はぁ~い、お邪魔するわねぇ☆」

 

 ノックどころか扉前で逡巡することすらせず、その歩みの速度を一切緩めぬまま一気に侵入し、無粋にも女王の視界に入った二名の女性研究者をリモコンの電子音と共に瞬時に支配する。

 

 ガクンと糸が切れたマリオネットのように動かなくなった彼女らを完全に無視して、食蜂達は部屋の中にいた四人の少女達に目を向ける。

 

 食蜂の傍らに立つ縦ロールは、その光景に生理的嫌悪感――否、生理的恐怖心を覚えたように一瞬息を呑み、そしてそんな自分を嫌悪するかのように顔を俯かせた。

 

 それも無理もない、と食蜂は思う。平然としているカイツが異常なのだ。

 

 

 なぜなら、顔も、身体も、表情さえも全く同一の――といっても全く感情が読み取れない無表情だが――存在が、お揃いのように全員真新しい常盤台中学の制服を身に着け、こちらを無感動に見つめているのだ。

 

 

 思わず本能的に警戒してしまうには、十分すぎる程に異常な光景だ。

 

 その中の一つの個体が、全員の気持ちを代弁するかのように答える。

 

「失礼ですが、あなた方は何者でしょうか? と、ミサカは突然の侵入者の正体を問い詰めます」

 

 食蜂はそんな彼女らを見て、一度ギュッと唇を噛み締めて湧き上がる把握しきれない色の感情を抑え込み、気品ある笑顔を作って、答える。

 

「初めまして、私の名前は食蜂操祈よぉ。単刀直入に言わせてもらうと、あなた達を助けに来たわぁ」

 

 その食蜂の言葉を受けて、これまでずっと無表情だった、質問をしてきたその妹達(シスターズ)の、目の色が変わった、と食蜂は感じた。

 

 表情自体は変わらず無表情だけれど、確かに瞳に困惑の色を感じ取ったのだ。

 

 すると、彼女とは別の妹達(シスターズ)が、恐る恐るといった風に食蜂に問いかける。

 

 

「あの――助けるとは、どういうことでしょうか? と、ミサカは困惑を露わにします」

 

 

 その言葉に、食蜂の横の縦ロールが、珍しく素の感情を出して呆気の声を漏らした。

 

 食蜂は眉根を潜め、カイツは目を閉じたまま何も発さない。

 

 すると、三人目の妹達(シスターズ)が言葉を発する。

 

 

「ミサカは、実験に参加し、計画(プログラム)通り処理される以外の、生き方を知りません。と、ミサカは自分の箱入り娘っぷりに驚きを隠せません」

 

 

 さらに、残る一人の妹達(シスターズ)も続ける。

 

 

「ミサカを助けるということは、ミサカは殺されないということでしょうか? そうしたら、ミサカはどのように生きていけばよいのでしょうか? 何をして、どのように、生きればいいのでしょうか? と、ミサカは途方に暮れます」

 

 

 そして、初めに食蜂に疑問を投げかけた妹達(シスターズ)が、再び全員の胸中を代弁するかのように問う。

 

 

「あなた達は、ミサカ達を助けて、ミサカ達に何を求めているのですか?」

 

 

 縦ロールとカイツは、妹達(シスターズ)と同様に食蜂の方を向く。

 

「……私達が、あなた達に求めるものねぇ?」

 

 一身に視線を集める食蜂は、くすりと笑って彼女に向かって歩き出す。

 

 そして、問い掛けてきた妹達(シスターズ)の手を取って、笑いかける。

 

 

 

「幸せになりなさい」

 

 

 

 ただ、そう告げた。

 

 

 生まれたばかりの命に、母親が腕に抱える我が子に、慈しみを込めてそう願うように。

 

 

 食蜂は、生きる意味を求めている妹達(いのち)に、そう優しく告げる。

 

 

「私はただ……“あの子”の分まであなた達には、精一杯生きて欲しいだけよぉ。そして、願わくば……あなた達があなた達の幸福力を獲得出来たら……そう願っているわぁ。――だから、これが、あなた達を助ける上で、私が要求する、あなた達への対価力よ」

 

 その食蜂の言葉を受けて、その妹達(シスターズ)は、目を見開き、思わず顔を俯かせる。

 

「……幸せとは、どのように獲得するものなのでしょうか、とミサカは尋ねます」

「分からないわぁ。幸せの形は、人それぞれ違うもの。――私の幸せが、あなたにとっての幸せとは限らない。……だから、それはあなたが自力で模索力を尽くして、自力で手に入れるしかないわぁ」

「……ミサカに、見つけられるでしょうか? と、ミサカは抑えきれない不安を露わにします」

「大丈夫よぉ」

 

 

 食蜂は少女を優しく抱き締める。

 

 

 少女は、初めて感じる感触と温もりに戸惑うが、なぜかそこから抜け出そうとは思わなかった。むしろ、ずっと味わっていたい心地よさを感じていた。

 

 

 人工的に作られた少女は、初めて感じる人の温もりに、形容できない感情が、自身の内から溢れ出すのを感じる。

 

 

(……これが、抱擁というものですか。と、ミサカは――)

 

 

 食蜂は、そんな少女の耳元で囁く。

 

 

「あなた達が、これから羽ばたく外の世界は……色々な不幸もあるけれど、それ以上の幸福力で満ちているわぁ。……私はそう信じている。だって私は、上条さんや――こうしてあなた達にも出会えたのだものぉ」

 

 

 食蜂はギュッと少女を抱き締める。己の言葉を、誰よりも自分に言い聞かせるように。

 

 

 自分が、彼女達が――そして彼が、これから歩んでいく道は、紡いでいく物語は、決して不幸(バッドエンド)ではないと。

 

 

 幸福(ハッピーエンド)に、決まっていると。

 

 

 絶対に幸せになっ(ハッピーエンドにし)てみせると。

 

 

 自分も、彼女達も――そして彼も。

 

 

 外の世界、と聞いて、食蜂の腕の中の妹達(シスターズ)は、少し前に、00001号が見たという映像を思い出す。

 

 彼女がミサカネットワークにあげて、五人の姉妹達で共有した、あの光景を。

 

 

 あの美しい光景。美しい世界。

 

 

 あそこには、幸福が溢れているのか。

 

 

 見つけられるのだろうか。

 

 量産品の自分が。モルモットの自分が。替えの利く自分が。かけがえが溢れている存在の自分が。

 

 

 人形(クローン)の自分が、“しあわせ”になれるのだろうか。

 

 

 分からない。分からない。分からない。

 

 

 でも、一つ間違いのないことは、分かっていることは、自分は今、助けられたということだ。

 

 

 自分を包み込んでくれたこの人に、救われたということだ。

 

 

 そして、もう一人――

 

 

「――上条さんというのは、今現在00001号の前で戦っている人のことですか? と、ミサカは幸せそうにあなたの巨乳に顔を埋めて使い物にならない00002号に代わって質問します」

 

 その00005号(いもうと)の言葉に00002号はバッと食蜂から身体を離す。心なしか無表情のはずのその顔は朱色に染まっているように見えた。

 

 食蜂はそんな00002号の可愛らしい反応に微笑みながら、00005号の方を向いてその質問に答える。

 

「ええ。彼と一緒に、私達はあなた達を助けに来たの」

「……どうしてそこまでするのですか? と、ミサカは気まずさを堪えて恐る恐る問いかけます」

 

 00005号はそんな言葉とは裏腹に、全く表情を変えることなく、むしろ食いつくように食蜂に問いかける。

 

「……今現在00001号の見ている戦いの情報が、ミサカネットワークを通じてリアルタイムで送られてきています。……ミサカには、理解できません。……どうしてあの少年は、あそこまで必死に戦うのですか? とミサカは再度問いかけます」

 

 妹達(シスターズ)に、幸せになって欲しい。

 

 食蜂のそんな想いは、抱き締められた00002号だけでなく、他の三人にも伝わった。理解できたかは別の問題として。

 

 

 だが、だからといって、第一位の怪物に拳一つで立ち向かう、上条当麻のことは分からなかった。

 

 痛い。痛かった。身体の中の何かが痛んだ。胸の中の何かが悲鳴を上げている。

 

 上条当麻の戦いを見ている00001号の痛みが伝わったのか、それとも少年の戦う姿がネットワークを通じて少女達の何かを刺激しているのかは分からない。

 

 

 だが、おそらくは何か理由があるのだと思った。食蜂とはまた違う、少年には少年の戦う理由が。自分達を助ける理由が。

 

 

 それが分からない。理解できない。

 

 

 それを、00001号は、00005号は――妹達(シスターズ)は、知りたいと思った。

 

 

 少年の戦う理由を――上条当麻のことを、知りたいと。

 

 

 食蜂は、そんな彼女の問いに、瞬間、辛そうに表情を歪めて――

 

 

「……きっと、幻想(ゆめ)の為よ。……あの人が、ずっと憧れてる、幻想(ゆめ)の為」

 

 一度も、話してくれないんだけどねぇ。と、食蜂は悲しそうに笑う。

 

 その泣きそうな笑みが、なぜか00002号の心に、感情が未成熟な妹達(シスターズ)の柔らかい心に、刻み込まれた。

 

 

 そして、食蜂はその先の言葉を、グッと飲み込む。

 

 この先は、食蜂が00002号に語った言葉とは矛盾するが故に、言葉にするのを躊躇った。

 

 上条当麻が、その幻想に向かって手を伸ばし続けた姿を、誰よりも近くで見続けてきた食蜂が思うこと。

 

 その言葉を飲み込んで、別の言葉を口にする前に、00003号の無機質な言葉が、それを伝えた。

 

 

「みなさん、即座の回避行動を推奨します、とミサカは――」

 

 それを言い切るよりも前に――建物全体が大きく震えた。

 

「きゃぁっ!」

 

 縦ロールの少女らしい甲高い悲鳴が発せられた直後――――天井に巨大な亀裂が走り、崩壊した。

 

 

 食蜂は、それを呆然と見上げながら、ふと自分が言いかけた言葉を思い返していた。

 

 

 

――きっと、上条さんは許せないんだと思うわぁ

 

 

 

――この世界に溢れている、どうしようもなく蔓延っている、“不幸”が

 

 

 

 

 

――そんな不幸が跋扈している、そして、それを許容している“この世界”が

 

 

 

 

 

 そして、そのまま情け容赦なく、巨大な瓦礫群は食蜂達を呑み込んだ。

 




 次回は、上条サイド。

 上条vs一方通行をたっぷりとお届けします。


 それと、原作の一年前で食蜂さん貧乳じゃね? というご指摘を頂きました。
 原作を読み返しました。表紙で気づきました。ペッタンコでした。
 ペッタンコでした。
 すいません。願望入りました。母性の象徴に顔を埋めて欲しかったんです。

 なので、この物語では食蜂さんの成長期が一年か半年早く来たということでお願いします。巨乳なりたてということでお願いします。やったね、食蜂さん。

 今後はなるべくこういうことはないようにします。混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

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