上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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 今回はかなり短めです。
 タグですが、一部キャラ強化あり、というタグを入れました。


ヒーロー〈一人の少女を救うために〉

 佐天は絶叫する。

 

 自らの竜巻が原因なのか、それともあのとき光線が振り撒かれた結果、コンテナのバランスがずれてしまっていたのかは分からない。

 

 だが、結果として。

 

 ヒーローもヒロインも救われないバッドエンドになってしまった。

 

(こんなのってないッ!…………こんなことってないよ!!!)

 

 

 神裂は、ようやく動き出す。

 

 すぐさま現場に駆けつけ、その有り様に、目を見開く。

 

 

 そこには、五体満足な上条とインデックス――

 

 

――そして、彼らを庇うように、その背中でコンテナを受け止めたステイルがいた。

 

 

「――――ステイルッ!」

「勘違いするな」

 

 上条は、ステイルがその身を犠牲に自分を助けたことに気づき大声で叫ぶが、ステイルは吐き捨てるように言う。

 

「……僕は誓ったんだ。彼女を、救う、ためなら、誰でも、殺す。…………いくらでも、壊、す。……君はついでだ、上条当麻」

 

 インデックスを救う。

 

 その為なら、例え自分の体でも――いや、自分の体などいくらでも捨て駒にする。

 

 この男は、そんな覚悟など、とうの昔に出来ていた。

 

 だからこそ、こんなに満足気に笑うのだ。

 

 インデックスを救う一助になれたことを、こんなにも誇りに思っているのだ。

 

「――――ッ!! 神裂!! アウレオルス!! コンテナを破壊しろ!! 早く!!!!」

 

 上条は見えない場所にいる二人の魔術師に呼び掛ける。

 

 この男を、こんなところで死なせるわけにはいかない。

 

「――――Salvare000!!!」

「――――砕け散れ!!」

 

 コンテナは、一瞬で木端微塵に吹き飛ぶ。

 

 ステイルは、その場でバタリと倒れ込んだ。

 

 おそらく中身は入っていなかったのだろうが――それ故にバランスを崩し落下したのかもしれないが――それでも人間一人で支えられる重量ではない。

 

 それでもこの男は動いたのだ。

 

 咄嗟に魔術を使うことも忘れて、無我夢中で。

 

 

 大事な女の子を助ける為に。

 

 

 上条はすぐさま電話を掛ける。

 

「おい、土御門!! すぐに救急車を!!――分かった、頼む!!」

 

 土御門は、こんなこともあろうかとすぐ近くに救急車を待機させていた。

 数分でここに到着するだろう。

 

「上条当麻、私が病院まで――」

「いや、この状態じゃあ聖人の移動速度に耐えられない。それなら、救急車の中で治療を受けながらの方がいい」

 

 ステイルは呻く。

 おそらく体の至る所が骨折しているだろう。

 

 聖人は瞬間移動しているわけではなく高速移動しているに過ぎない。

 当然、ただ抱えられているだけでも負担はかかる。ここに来るときはインデックスと佐天の負担にならない程度のスピードで連れてきたのだ。

 

 

 その時、インデックスがゆっくりと目を覚ます。

 

「…………ここは?」

 

「「「「!!!!」」」」

 

 ゆっくりと目を開く。

 その瞳には先程と違い、しっかりと感情の色が見えた。

 

「インデ――」

「るいこ!! 大丈夫!?」

 

 上条が声をかけようとするよりも先に、インデックスは少し離れた場所に居た佐天に飛びつく。

 

「るいこ! 怪我してない? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。それよりインデックスちゃんこそ、体の具合大丈夫?」

「うん!」

 

 そう言って、二人の少女はお互い抱き合い、微笑み合う。

 

 その光景を、三人の男たちは苦笑しながら少し寂しげに見つめた。

 

 分かっていたことだ。自分達が、インデックスの帰る場所ではなくなっていることくらい。

 

 今のインデックスにとってのパートナーは、ステイル=マグヌスでも、アウレオルス=イザードでも、ましてや上条当麻でもない。

 

 “友達”として彼女の隣になった、佐天涙子なのだから。

 

『未練がないと言ったら嘘になる。なにせ、僕はインデックスに直接フラれたじゃないんだ。記憶が戻れば、彼女は今すぐにでも抱き着いてくれるはずなんだから』

 

(…………あの時のお前も、こんな気持ちだったのかな、“ステイル”)

 

 上条が前の世界のステイルのセリフを思い出していたら、インデックスがこの場で最も重症な男に気づく。

 

 自分を救う為に、文字通り命を懸けて体を張った男に。

 

 ついさっきまで、自分を追いつめる敵だった男に。

 

「――!! 大丈夫!? 凄い怪我だよ!?」

 

 彼女は切羽詰まった、心の底から心配しているという表情で、ステイルに駆け寄る。

 

 それを見たステイルは、信じられないといった表情で固まった。

 

 もう自分に向けられることはないと思っていた。

 

 彼女の敵意のない瞳に。純粋にこちらの身を案じる表情に。

 

 ステイルは胸の奥から感じたことのない感情が湧きあがるのを感じる。

 

 ステイルは、震えそうになる声を必死に押し殺し、今の自分に作れる最も優しい表情を向ける。

 

「……大丈夫だ。――――ありがとう」

 

 それを近くで神裂が優しい微笑みで見つめる。

 佐天も、なんだが温かい気持ちでその光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「間然。本当にいいのか?」

 

 

 

 

 

「…………ああ。それが、一番のハッピーエンドだ」

 

 

 

 

 

「歴然。ただし、お前以外にとっては、な」

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

「間然。最後にもう一度問う。本当にいいのか? “もう二度と、インデックスに触れることが出来なくなるぞ”」

 

 

 

 

 

「…………元々、アイツにとって、俺は今日出会ったばかりの男だ。なら、何の問題もない。等価交換にすら、なってないさ。――これが最善だ」

 

 

 

 

 

「…………すまん、戦友(とも)よ」

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 ビクン、と、インデックスの躰が震える。

 

 そして、恐る恐ると言った表情で、ステイルを見上げる。

 

 ステイルは、まさかまだ何か仕掛けられていたのか、と思い体を緊張させるが、インデックスから飛び出た言葉により、別の意味で体を硬直させた。

 

「…………すて、いる?」

 

 いくら瞬間記憶能力を持っている彼女でも、まだ名乗られていない名前を覚えていることは出来ない。

 

 だから、つまり、これは――

 

 

「インデックス……覚えているのか?……いや、“思い出せた”のか?」

 

「ステイル……私……私……」

 

 ステイルの躰が震える。インデックスの瞳にも、みるみる内に涙が溜まる。

 

「インデックス!!」

「ッ!……かおり……かおり!!」

 

 神裂はインデックスを抱きしめる。インデックスも力の限り神裂を抱きしめた。

 

 それは、心を許した親友同士の、暖かな抱擁だった。

 

 そこに、緑髪の錬金術師が歩み寄る。

 

「久しいな、インデックス。変わらぬ君の姿がとても嬉しい」

「ッ!! アウレオルス!!」

 

 インデックスは、尊敬する先生の元へ走る。

 

 

 神裂とステイルは、彼の手に鍼が握られているのを見て、全てを察した。

 

 そして、二人は、あの少年に目を向ける。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 誰もが、笑顔。

 

 インデックスの命を蝕む首輪は解かれ。

 

 佐天は新たな力に目覚め。

 

 インデックスのこれまでに失くした記憶も取り戻した。

 

 ステイルは全身に重傷を負い、上条は全身に裂傷と右手を痛め左腕を複雑骨折しているが命に別状はない。この街の治療技術ならすぐに治るだろう。

 

 およそ、これ以上ないハッピーエンド。

 

 インデックスも、佐天も、ステイルも、神裂も、アウレオルスも。

 

 みんな、みんな、救われた――――完璧な世界。

 

 

 

 

 

 その幸せな光景を、上条当麻は一人、集団から離れた場所で、微笑みを携えながら眺めていた。

 




 次回、禁書目録編、エピローグ。

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