艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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第一話はプロローグ的な存在であるため早急に用意した第二話。

個人的に劇場版で一番好きな、多数の艦娘が登場するシーン。
劇場版では軽く流されたシーンだが、この話では果たして。


第二話『姉妹』

 

「綾波型駆逐艦一番艦、綾波です。この度、大本営代理として参りました」

「綾波!? アンタがなんでここに」

 

予想外の人物の登場に叢雲は驚愕する。

それはそうだ。彼女は涼月の案内人として横須賀鎮守府を中心に活動していた。

といっても送迎程度ではあったが横須賀でひと悶着あった後はどうなったか、

それは誰も知らない話であった。

 

「大本営代理の艦娘。噂に聞いたことがあります。

 主に憲兵を指揮し鎮守府の不正を暴くために派遣される艦娘がいると」

 

先ほどまで黙っていた大和が口を開く。

どうやら先ほどまでの会話では意見具申がしづらかったのだろう。

 

大本営代理という大層な名前ではあるが実を言えば、

鎮守府の規律を乱す者を摘発するための部隊であった。

かといって全ての鎮守府に点々と存在するわけでもなく、

彼女らはほとんど横須賀を本拠地として動いている。

何か問題があればすぐに飛んでいく、という風にできているのだ。

 

「少なくともそれだけじゃありませんよ。

 この前のように大本営の意向で私達が使われることもありますし、

 事実を事実と確認するために派遣されることもあります」

 

彼女がここにいる理由はどうやら後者の方が高そうであったが、

どうとも取れないその柔らかい表情から読み取ることは無理であった。

そういう意味では綾波はこの役職があっているのかもしれない。

 

「それでも本拠地の横須賀が裏の鎮守府に乗っ取られてちゃ、

  面目も何もないような気がするけど」

「一度知ってしまった蜜の味は忘れられませんから」

 

大湊で起きた一連の事件に関わっていた叢雲は嫌味とばかりに言葉を投げかける。

しかし見透かされていたのか、綾波は対して動揺もせずさらりとかわした。

 

「それにその案件は軍でもトップシークレットとされることです。

 ここではともかく他の方々の前では慎んでくださいね」

 

返事をする気も起きないのか、やれやれと首を横に振る叢雲。

 

「ですが、大本営代理の艦娘である貴方がなぜここに?」

 

話を戻して、と長門が綾波に尋ねる。

呉の秘書艦とは言えど立場としては綾波の方が上。自然と丁寧語になっていた。

その言葉に対して綾波は少し落ち着いた様子で口を開く。

 

「皆さんもご存知の通り、この作戦を大本営は大変注目しています。

 それを見届けるのも大本営代理である私達の仕事です」

「つまり隠し事は一切なし、ってことね」

 

長門の隣で話を聞いていた陸奥も、厄介なことになったな、という表情を浮かべる。

実際呉や大湊の提督であれば真実を隠したりはしないだろう。

だがこういう『目』があると逆にやりづらい部分もあるわけで。

効率化を図ってある程度妥協ラインにまで落としていた作業を、

いつものマニュアル以上に戻さなければいけないといえば、

そのやりづらさはわかるだろうか。

 

「その代わりにと言えばですが、私も艦隊に編成してもらっていいですよ。

 これでもちゃんとした艦娘ですから」

 

曇りない笑顔を見せる綾波。

練度は一見しても解らないが、こんな激戦区にわざわざ送られてくるのだ。

そこそこは期待してもいいだろうと皆は思った。

 

「ひとまず、現在あまりよろしくない状況になっています。既にご存知かと思いますが」

「はい。ある程度のことまでは噂程度に。正確な情報を頂けますか」

 

こうして綾波を交えた作戦状況の説明、

そして計画している今後の行動について再びまとめるのであった。

 

 

//////////////////

 

 

綾波が加わったことで再び行われた会議を終えた長門達は、

この後の予定のため会議を一旦保留しひとまず呉鎮守府とトラック泊地、

大湊提督府の艦娘の顔合わせを目的とした交流会を催すことにした。

これから共に戦場へ向かう者同士が顔も名前も知らないのでは話にならない。

 

ショートランド泊地の開けた場所で、多くの屋台が立ち並ぶ。

カレーライスやローストビーフ、お好み焼きや焼きとうもろこし、あんみつにラムネと、

その様子はさながら縁日を開いているかのようであった。

またその広場の中央には演壇が用意してある。代表者が挨拶するためのものだろう。

 

「わぁ~」「凄~い」「お祭りっぽい!」「本当ね~」

 

吹雪・睦月・夕立・如月がその光景に思い思いの言葉を口にする。

既に屋台には艦娘が調理をしていたり、ほかの艦娘に料理を盛りつけたりしていた。

 

「ねぇねぇ如月ちゃん、どれから行く?」

「そうねぇ、睦月ちゃんの一番食べたいものかしら」

「も~、質問を質問で返さないでよー!」

「「あはは」」

 

二人のやり取りに相変わらずだなぁと笑みをこぼす吹雪と夕立。

同型艦だから仕方ないことなのかもしれないが、

こうも見せつけられると反応に困るものがあるというか。

 

「と、とりあえず私は吹雪ちゃんと一緒に回ってくるっぽい」

「ご、ごゆっくり~」

「あ、うん。なんだかごめんね」

「いいのいいの! 気にしないで」

「姉妹水入らずの方がいいっぽいし」

「お気遣いありがとう。吹雪ちゃん、夕立ちゃん」

 

ここは二人きりにしておいた方がいいと判断し、

苦笑いを浮かべながら二人はその場を離れて屋台の方へと歩き出す。

潮風に乗って屋台からは香ばしい匂いが漂ってきておなかを刺激する。

 

「夕立ちゃん、何から食べる?」

「とりあえず飲み物が欲しいっぽい~」

 

ショートランド泊地は赤道のすぐ下に位置する島。

高温多湿であるため当然汗もかく上に喉も乾く。

ほかの屋台を見ても汁物があるわけでもなく、まずはラムネから行くことにした二人。

 

ラムネの屋台では大きな桶の中で氷水に浸かったラムネが沈んでいた。

その奥にはストックであるまだ冷やされていないラムネの瓶がまとめておいてある。

そこに長い黒髪の少女――磯風が座って店番をしていた。

 

「大和特製の瓶ラムネ、一本100円だ」

「お金取るんですか!?」

「冗談だ。2本でいいか?」

「あ、はい」

 

割と真面目な顔とトーンで値段を提示してくるため、

本気で驚いた吹雪は安心しながらも肩透かしを食らっていた。

 

「磯風さんは冗談が冗談に聞こえないっぽいよ~」

「私に戦い以外のことを期待されてもそれには応えられないからな」

「でも割とノリノリでしたよね……」

 

ラムネを受け取りながらもジト目で抗議の視線と言葉を贈る吹雪。

夕立に一本渡して慣れた手つきで玉押しを使い、はまっているビー玉を外す。

トラックで何本か飲んでいたこともあり、

その開け方はマスターしたといっても過言ではない様子。

一方で夕立は少し中身が噴き出しており、慌てた様子でラムネをすすっていた。

それが功を奏したのか服につくこともなくその場を凌ぐ。

 

「そういえばお前達、お好み焼きは食べたか?」

「食べてませんけど……」

「そうか。なら食べてくるといい。私の名前を出せばサービスしてくれるはずだ」

 

先ほどまで、戦闘以外は~~と言っていた艦娘とは思えない発言だ。

しかし、サービスという言葉に興味が惹かれる二人。

次に向かう店を決めていなかったこともあり、

その言葉に導かれるようにお好み焼きの屋台へと向かった。

 

 

 

お好み焼きの屋台の前ではなぜか多くの艦娘達が集まっている。

さして珍しいわけでもないのにと思いながらも待っていると。

 

「あら、吹雪さんに夕立さん」

「赤城さん! 加賀さんも!」

 

後ろから二人に声をかけたのは赤城と加賀。その手には紙のお皿と箸があった。

既に何か食べている様子。

 

「お二人はもうどこの屋台に行かれたんですか?」

「ええ。大和さんのローストビーフを頂いてきました」

「中々おいしかったわ。吹雪さんも早く行った方がいいわよ?」

 

ローストビーフと書かれた屋台、

そこでは大和と涼月が多くの艦娘にローストビーフを切り分け提供していた。

大和の料理は絶品なのはどの艦娘からしても同じだろう。

それに高級感溢れるあの肉の塊が何とも言えない魔力を放っている。

見れば涼月が戦艦とも見て取れる艦娘と自然に話していることから、

恐らく大湊の艦娘だろうと吹雪は予想する。

 

置かれている料理だけでなく屋台にいる人物にも惹かれるが、

並んだ屋台から離れるのも気が引ける。

 

「あっちもあっちで大人気っぽい」

「うー、あっちの方がよかったかなぁ」

「次のお客さんどうぞ~」

 

迷いが口からもれているうちにどうやら順番が回ってきたようで。

 

「すーぐ作るからな~。ちょっと待っててな~」

 

屋台には大きな鉄板がしかれており、青い髪の艦娘――浦風の手にはボウルとお玉が。

その後ろでは白髪の艦娘――浜風が中華麺をほぐし、

茶髪の艦娘――谷風が大量のキャベツを包丁で切っていた。

 

独特の口調と共に、小麦粉を溶かしたタネを鉄板で薄く広げる。

薄く伸ばした丸い生地の上にこれでもかと千切りキャベツを乗せ、

さらにその上から天かす・ネギ・豚バラ肉を乗せて最後にタネをかけると

それを二枚のヘラでひっくり返し、鉄板の横の方へ移動させる。

まだ火が通りきる前に、手を休めることなく次のお好み焼きを作りにかかる浦風。

 

一枚目が出来上がったと思いきやほぐれた中華麺を落とし、

ソースと混ぜ合わせ出来上がった具のない焼きそばの上にお好み焼きを乗せた。

また、鉄板の別のところで卵を割る。

目玉焼きを作るのかと思いきや黄身を割って生地と同じように丸く広げ、

お好み焼き・焼きそばと連なるそれを上に乗せた。

そしてひっくり返して卵が上になるようにし、皿に盛りつけヘラで切り分ける。

仕上げにソースをたっぷりかければ。

 

「お待ちどぉさん、浦風さん特製のお好み焼きじゃ!」

 

あまりの手際の良さに感服してしまう4人。

しかもそれを一人で移行作業を行い人数分作ってしまうのだから驚きだ。

 

「熱いから気ぃつけるんじゃぞ?」

「はい、ありがとうございます!」

 

流されるように吹雪・夕立・赤城・加賀はお好み焼きを受け取り、それぞれがほおばる。

 

「おいしい!」「おいしいっぽい!」

「これは……」「気分が高揚します」

 

聞きなれた料理でありながらも初めて見るそれに舌鼓を打つ4人。

 

「次のお客さんもおるからなー。嬉しいけど順番回してな」

「あ、ごめんなさい!」

 

優しい母親のような笑みを浮かべる浦風。

吹雪は謝りつつほかの3人と共に広場のところまで移動する。

 

「それにしてもおいしいですね、このお好み焼き。初めて食べました」

 

そういって空母である二人の方へと視線を移す彼女が見たのは、

盛られていたお好み焼きを早々に平らげ再び列に並ぶ二人の姿だった。

量を盛ることが出来ない分何度も並んで何度も食べようということなのだろうか、

と思いながらも自分の分が残っているので、

夕立と一緒に味わいながら食べ終える。

 

「そういえば、あの艦娘の子初めて見たけど誰だったっぽい?」

「あ、聞きそびれちゃった」

 

屋台を見てみれば並ぶ前よりも更に多くの艦娘が並んでいる。

赤城や加賀のように再度並ぶ、といったことすら遠慮してしまう人数に、

名前を聞くことはかなわないだろうと予測する吹雪。

そのほとんどがラムネの屋台から流れてきているように見えるのは、

磯風が客を誘導しているからだろう。

その光景を見て磯風の名前を出すことすら忘れていたことに気づき、

少し損した気分になるのだった。

 

「まぁ、また機会があったら聞けるよね」

 

今はせっかくの楽しい時間を無駄にしないように、と気分を前向きにする吹雪。

 

「吹雪ちゃん、次は大和さんのお店に行こう!」

「うん、行こ!」

 

夕立に催促され次の屋台を目指して駆ける。

そこでは3人の艦娘が大和、涼月と楽し気に会話していた。

近づくにつれてその姿がはっきりとしてくるが、

2人の知らない艦娘であることもはっきりしてきた。

そして段々と会話の内容も聞き取れてくる。

 

「涼月さんが深海棲艦役を、ですか?」

「そうなんだよ。それが結構決まっててさ~」

「『私を呼びましたか。姉上』キリッ……絶対決め顔でそう言ってた」

「決め顔なんてしてませんし、大体顔なんて見えないじゃないですか!」

「でもかなり役に入ってましたもんね。涼月さん」

「それはちょっと気になりますね。涼月さん、後でやってみてくれませんか?」

「む、無理です無理です! 大和さんの前でなんて」

「何の話をしてるんですか? 大和さん、涼月さん」

 

ずいぶんと賑やかな会話に誘われて、吹雪も思わず声をかける。

その言葉にひかれ3人の艦娘の視線も自然と吹雪の方へと向かう。

同じ艦娘としての制服、それを着た艦娘が3人。

色こそ違うものの、それはまさしく吹雪型の象徴であった。

 

「吹雪さん。スノーバスターの時のお話ですよ」

「え、あ、アンタが吹雪、さん?」

「? はい。吹雪です。吹雪型一番艦の……」

 

戸惑っていた3つの視線が一点に集中し、

言葉を確かめるかのように短髪の艦娘が吹雪に質問を飛ばす。それもやけに丁寧語で。

それに対していたって普通、といった様子で答える吹雪。

その発言に3人は明るい表情へと変わっていき、満を持したかのように敬礼する。

 

「吹雪型二番艦、白雪です。よろしくお願いします」

「吹雪型三番艦、初雪……です。……よろしく」

「吹雪型四番艦、深雪だよ。よろしくな!」

 

その言葉の意味を理解するまで、吹雪はそれほど時間を要しなかった。

 

「はじめまして、吹雪型一番艦、吹雪です。よろしくお願いいたします!」

 

 




綾波の頭の中は読めるものではなく、
ただただ淡々と言葉を並べる変わり種の艦娘であった。

「あーあ、出会っちまったか」

ついに出会った吹雪型。この接触が今後何を生み出すのか。

第一話ではなかった自問自答ですが、
第二話からは平常運転で参ります。
今回は第一話を含めた内容で。

簡易的な自問自答コーナー

第一話

Q.あれだけ苦労した自動回復の悪夢が……
A.キラ付けされてたんですよきっと()
 なお作者は2013年の秋イベ経験済み(E-4でフィニッシュ)

Q.おい、D事案。
A.如月が沈んでいないので如月がドロップするなんてことはありません。
 この世界で艦娘は世界にたった一人という設定です。(独自)

Q.涼月の活躍なくね?
A.まだ序盤なので。


第二話

Q.綾波の練度はどれくらい?
A.改二になっている時点で最低の練度はお察しください。

Q.如月は改二になってる?
A.ご想像にお任せします。

Q.後半がお好み焼きのレシピだったんだが。
A.超野菜人の王子「この俺様が、たっぷり料理してやるぜー!」

Q.なんとなく吹雪メインな気が……
A.メイン主人公ですから。ただしこれが最後まで続くとは言っていない。

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