Fate/reverse alternative   作:アンドリュースプーン

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第零話  運命の夜

 一面どころか世界が焼野原だった。

 たぶん想像もつかないような大火災が起きたのだろう。何事もなく日々を甘受していた街は一夜のうちに地獄へと変わった。

 見渡す限り『死』が溢れる赤い世界。頭上を見上げれば邪悪な黒い太陽。

 まるで映画で見た地獄のようだった。いやもしかしたら地獄そのものなのかもしれない。

 家の建っている位置が良かったのか、それとも居た場所が良かったのか。

 そんな地獄でも自分は辛うじて生きていた。

 炎の中を当てもなく彷徨い歩く。

 こんな地獄だ。自分だけが助かるなんて思ってはいなかった。ただ為す術もなく死んだ人がいるのならば、為す術がある限り生きなければ嘘だと思った。

 自分は助からない。自分は死ぬ。もう直ぐ死ぬ。そんなことばかりが脳裏をよぎる。

 助けを求める声があった。

 生きながら焼かれ苦しむ子供の叫びがあった。

 自分はいいから子供だけは助けてくれ、と懇願する母親がいた。

 炎に焼かれながら泣き喚く赤ん坊がいた。

 もはや声も出せないほどに焼かれた人がいた。

 あらゆる怨嗟、あらゆる懇願、あらゆる求めに耳を塞いで歩き続ける。

 自分には貴方達を助ける事は出来ないと、そんな言い訳をして。助かるはずのない道程を歩み続けた。

 やがてそんな足掻きも力尽き為す術もなくなり地面に倒れる。

 雨が降っている。それはいい。雨が降ればこの悪夢も洗い流してくれるだろう。失った残骸を無にすることはできないが、この炎くらいなら消せるはずだ。

 だけど自分はとっくに死んでいた。

 肉体は生きてはいる。心臓もまだ鼓動を止めていない。

 けれどこの時、確かに死んだのだ。思い出も名前も、自分すら全部綺麗さっぱり失った。

 なんのことはない。

 要するに肉体を生かすために、心が死んだだけのこと。

 肉体が生きていても、中身が"ゼロ"ならそれは死んでいるのと同じことだ。

 それでも―――――あの顔は鮮明に覚えている。

 十年前、奇跡的に助けられた。

 だけど助けたのは消防士でもレスキュー隊の人でもない。

 一人の正義の味方だった。

 その人は『正義の味方』ではないと否定したけれど、自分にとっては紛れもなく正義の味方だったのだ。

 

「――――――」

 

 その人は不思議な笑顔を浮かべていた。

 救われたのはこっちだというのに、まるで自分こそが救われたような笑顔。

 それがなんて綺麗なのだろうと、思ったのだ。

 

「ぁ――――え?」

 

 次に気付いた時には真っ白な部屋にいた。鼻孔を擽る薬品の臭い。着た事もない場所だが病院であることは直感的に分かった。

 

「……どこだろ、ここ」

 

 はっきりしない頭を左右に回す。

 自分はベッドに寝かされていて、窓からは澄み渡った青空が見えた。

 それに部屋にある別のベッドには自分と同じように包帯で巻かれた同年代の子供が沢山眠っていた。

 この部屋にはもうあの炎はない。ならもうここは安全なのだ。

 それでも全部失ってしまった。親も家も、なにもかも。

 子供ながらこれからどうなるのか、とぼんやりと考えていたら――――その男はひょっこりとやってきた。

 手入れのまったく行き届いていないしわくちゃの背広にボサボサの髪の毛。

 年齢は20代の後半くらいだろうか。

 

「こんにちは。君が士郎くんだね」

 

 その男の人が笑いながら言う。なんだかとても胡散臭そうな人だったけど、とても優しい人のようにも見えた。

 

「率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな」

 

 別にその人が親戚だったわけではない。

 本当に自分とはなんの面識もない人だ。ただ地獄の中から自分を救い出してくれた、ということを除けば本当に赤の他人。

 それでも自分を引き取ると言った。

 どうせ孤児院も知らない場所だ。ならこの人の所に行こうと、その時に決めた。

 

「そうか、良かった。なら早く身支度をすませよう。新しい家に、一日でも早く慣れなくっちゃいけないからね」

 

 そいつはこっちが了承したことに喜ぶと荷物を纏めだした。

 こういう作業に慣れていないのか、その手つきはとても遅々としたものに見えた。

 そして荷物を一通り纏め終わった後に。

 

「おっと、大切なコトを言い忘れてた。うちに来る前に、一つだけ教えなくっちゃいけないコトがある」

 

 夕食の献立を話す様に気軽く振り向くと、

 

「――――うん。初めに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ」

 

 人にいえば笑われてしまいそうなことを真正直に堂々と言った。

 自分も子供だったのだろう。そんな言葉を疑いもせずに信じると。

 

「――――うわ、爺さんすごいな」

 

 それから俺はそいつの子供となった。血は繋がっていないから養子だろうか。

 親父の名前は衛宮切嗣。だから俺の名前は衛宮士郎になった。

 それで他の人に言っても信じて貰えないだろうし、言う気もないし、言ってもいけないそうなのだが。

 親父が魔法使いというのは嘘でも冗談でもなく真実だった。

 引き取られて二年後くらいだろう。俺はどうにか親父を言い負かして、魔法使いの弟子になった。

 俺が弟子になったからか、それなりに生活に慣れて来たか。親父はよく外出するようになった。

 外出といっても隣町にぶらり、といったような規模じゃない。親父は「世界中に冒険にいくんだ」と子供のように顔を輝かせては、本当にそれを実行してのけた。

 そのことを不満に思った事はない。

 一緒にいられる時間は少なかったけれど、帰ってきた親父から旅行での話を聞くのが楽しかった。

 

―――――それは五年前の話。

 

 月が綺麗な夜、自分はなにをするでもなく切嗣と月見をしている。

 季節は冬だったが、温度はそう低くはなかった。僅かに肌寒かったが、月を肴にするにはいい夜だったろう。

 この頃になると親父は外出することが少なくなっていた。

 ちょっと前までは半年以上帰ってこないなんていうのはよくあったのに、近ごろはずっと家にいてのんびりしていることが多かった。

 それが死期を悟った老人のそれだと、子供の頃の俺は気付きはしなかった。

 

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」

 

 俺にとって正真正銘の『正義の味方』はその名を否定するようにポツリと呟いた。

 

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 

 むすっとして言い返す。

 切嗣は困っているようだった。

 

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気が付けばよかった」

 

 言われると納得する。切嗣が内心でどんな想いを抱いているのかは分からなかったが、切嗣がそう言うならたぶんそうなのだろうと思った。

 

「そっか。それじゃしょうがないな」

 

「そうだね。本当に、しょうがない」

 

 切嗣は苦笑して相槌をうつ。切嗣がたぶんそうやって返すことは分かっていたから、俺の答えもとっくに決まっていた。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。――――任せろって、爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやるから」

 

 自分が言い終わる前に切嗣は微笑った。これ以上訊くまでもないという風に。

 切嗣は本当に嬉しそうに笑ったのだ。

 

「ああ――――安心した」

 

 切嗣は静かに目蓋を閉じると深く寝入った。朝になれば普通に起きてくるような穏やかさだったから、騒ぎだてはしなかった。

 だが切嗣の死に顔を心に刻み付けるように見つめていた。

 両目が熱かったから、きっと涙を流していたのだろう。

 悲しみはなかったし、泣き声もなかった。けれど月が落ちるまで涙だけが止まらずにいた。

 切嗣がいなくなっても、生活は変わらない。

 正義の味方を目指すのだから衛宮士郎はのんびりなんてしていられない。

 そう―――――確かに、覚えている。

 誰も助からない様な世界。誰も助かるはずのない世界。

 そんな世界にいた自分を唯一人助けてくれた人がいた。

 

――――だから、そういう人間になろうと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 黄金の剣を見ている。権威を象徴しながら驕らず、華美でありながら静謐であり尊い剣。

 日本刀こそとある縁もあって何度か見たことはあるが、西洋剣を見るのなんて数えるほどしかない。だというのに一目でそれが素晴らしいものだと分かる。

 ただそれは武器としての力や装飾の美しさではなく――――その剣を担う人間を想像し、その者こそを尊いと思ったのだ。

 

「――――ぅ、あ」

 

 差し込んだ朝日の光が目に入り意識を覚醒させる。

 床が冷たいと思ったら、どうやら土蔵で寝てしまったらしい。これで今年に入って何度目だろうか。切嗣に引き取られてからこの土蔵を秘密基地にしていたからなのか、この年になっても土蔵に篭って作業した挙句に眠ってしまうという癖が抜けない。

 

「おはようございます先輩」

 

 そんな自分を微笑ましそうに眺めクスリと笑うのは後輩の桜だ。

 今日も朝食を作りに来てくれたのだろう。一人暮らしで隣の家の姉貴分がそっちの方面にはまるで役立たずなこともあり、桜は今の衛宮家にとって必要不可欠な人間といえる。

 いや衛宮家といってもこの家には衛宮士郎こと自分しかいないわけだが。養父である切嗣は五年前に他界してしまった。

 土蔵を出て衛宮邸の居間へと歩く。

 自慢ではないがこの家はかなりデカい。学生一人が住むには分不相応な規模の歴史を感じさせる武家屋敷でその気があれば人が十五人は住めるだろう。何に使うのか知らないが敷地内には道場まである。

 

「悪い桜。いつもありがとうな」

 

「いえ。好きでやっていることですから」

 

 そう言ってにっこりとほほ笑む桜。

 最初はそうでもなかったが、ここ最近の桜はどうにも大人びてきていて健全な男子としては少しドギマギとした心境になってしまう。

 

(気を付けよう。藤ねえにばれたら色々と不味い)

 

 藤ねえは英語教師らしく卓越した頭脳と洞察力がある――――というわけではないが、野生の本能と直感力にかけては右に出る者などいない御仁だ。

 もし虎が爆発すれば偉いことになる。これに封印した虎竹刀までもが解放されれば冬木市はハルマゲドンに陥るだろう。

 

「あー、士郎。おそーい。もうお腹ペコペコだぞー! 桜ちゃんの折角の朝ごはんが冷めちゃうじゃない」

 

「藤ねえ……なんかもう、なんでさ」

 

 ツッコみたいことは山ほどあるが、藤ねえに対してそれらがどれだけ無意味なことなのかはこの十年間で身に染みている。

 触らぬ虎に祟りなしだ。

 

「藤村先生、大丈夫ですよ。このくらいじゃ朝ごはんだって冷めたりしません。それに時間だってまだ余裕があるじゃないですか」

 

「むむむっ。桜ちゃんは士郎の味方とな。ああ、こうやって弟は離れていくのね」

 

 よよよ、とわざとらしく泣き崩れるポーズをとる虎。朝から元気な人だ。

 しかしいつまでも虎と漫才しても仕方ない。そんなことしていたら本当に折角の朝食が冷める。藤ねえではないが料理は冷めてるより出来立ての方が良いものだ。

 朝食を食べ終えると教師の藤ねえは一足先に学校へ行った。

 あんな人だが一応は立派な社会人。藤ねえもやることはやるのだ。……やらなくていいことも全力でやる上に、やることをたまにポカするのが玉に瑕だが。

 

「……んっ!」

 

 制服に着替え家の門を潜ったところで手の甲に痛みが奔った。

 別にそれほど傷んだわけではない。例えるなら少し威力の強い静電気でも喰らったような痛みだ。

 

「なんだ……これ?」

 

 手の甲になにやら刺青のような紋様のようなものが浮かび上がっている。

 一体全体これはなんだというのか。切嗣の弟子になって魔術師見習いになってそこそこ経つがこんなことは初めてだ。昨日息抜きにやった投影魔術に少し失敗でもしたのだろうか。

 

「先輩、それ」

 

 士郎の手の甲を見た桜が「あっ」と口を開けて驚く。

 無理もない。いきなり人の手の甲に入れ墨のようなマークが浮かび上がれば驚きたくなるというものだ。

 

「えーと、なんでもない。ちょっと怪我したみたいだ。包帯とってくるな」

 

 桜を心配させるわけにはいかない。士郎は桜に一度断ると家に包帯をとりに戻った。

 この紋様。水で洗えば落ちるだろうか。士郎は呑気にそんなことを考えた。

 今はまだ衛宮士郎は知らない。気付いてもいない。

 自分が五度目となる聖杯を巡る戦いに巻き込まれた事を。自分が父と同じサーヴァントを召喚し戦う運命にあるということを。

 

 

 

 

 

 夜の冬木市を駆ける。

 日常ならば通学路として通いなれた道だが、聖杯戦争中の今は戦場の一つに他ならない。

 

「ああもうっ! なんでサーヴァント召喚前に……!」

 

 愚痴りながらも走る。気分は最悪を通り越してどん底の最低だった。

 

"お前もさっさとサーヴァントを召喚しろ。尤も戦いに怖気づいて逃げるというのであれば令呪を摘出しよう。いつでも来たまえ"

 

 一応は自分の後見人ということになっているド腐れ神父の言葉を思い出し、更に最低な気分になった。

 いけない、と神父のニタリ顔を振り払う。今はあんな人間のことなど気にしている場合ではない。

 迫りくる襲撃者の対処をするべきだ。

 遠坂の魔術刻印が輝く。その刻印に刻まれし術の一つ、北欧に伝わる有名な呪術――――ガントを放った。

 一般に物理的攻撃力すら備えたガントの一撃をフィンの一撃と呼称する。

 であるなら私の撃ったのはフィンのガトリングというべきものだった。自慢ではないが、これだけの一撃を詠唱なしに撃てる魔術師はそうはいないだろう。

 

「はぁ――――――っ!」

 

 だが敵はそれ以上に出鱈目。

 ルーンの刻まれた手袋を装着している女魔術師は全てのガントをあろうことか殴り落としてしまう。

 歯噛みする。

 自分の技量にはそこそこの自信はあるが、相手はそれ以上の出鱈目。いや魔術師としての総合的な技量ならこっちが上だろう。しかしこと戦闘においてはあちらが遥かに上手だ。

 封印指定の執行者。

 外道に堕ちたり余りにも特異性のある魔術を修め『封印指定』となった魔術師を狩る執行者は、戦闘魔術師のプロフェッショナルといっていい。

 けれどもしも並みの執行者というのなら撃退する自信はあった。相手が執行者だとしてもこっちは五大元素(アベレージ・ワン)。そうそう負けはしない。だが相手は執行者でも随一の力の持ち主だった。

 

「逃がしませんよ」

 

 執行者が涼しげな表情で追ってくる。

 足はあちらの方が早い。フェアな勝負を心がけているのか、執行者のプライドかサーヴァントは使って来ていないとはいえこのままではジリ貧だ。

 いずれ追い付かれ殺される。それならば、

 

(一か八か!)

 

 手の甲に刻まれた赤い印、令呪を見る。

 魔法陣もなければ時間だって悪い。宝石の手持ちだって多くはない。これといった霊地ですらなかった。

 しかしやらなければ死ぬというのなら、やって後悔した方がいいというものだ。

 

「閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ」

 

「っ! まさかサーヴァントを召喚する気ですか!? こんな場所で!」

 

 執行者の女が驚いている。それはそうだろう。普通の魔術師から見たら常識外の行動に違いない。

 我ながら自分でもどうかしていると思う程だ。彼女が驚くのは当然といえる。

 それでも、

 

「繰り返す都度に五度――――ああもう、時間ないのよ面倒臭い! なんでもいいからさっさと出てきなさい! 天秤の守り手よ――――!」

 

 投げつけた宝石を起点としてエーテルが舞う。

 エーテル流は私と女魔術師の間で渦を巻き、そして。

 

「なんにも……ない?」

 

 エーテルが晴れた時、そこにはなにもなかった。

 力が抜ける。どうやらギャンブルには失敗したらしい。十年間この戦いの為に準備をしてきたというのに、こんな『うっかり』で脱落とはつくづく家にかかった呪いには腹が立つ。

 

「……万策尽きたようですね。遠坂凛――――相手がアサシンとはいえ独力で倒してのける貴女の実力は危険だ。ここで排除させて頂きます」

 

 女魔術師、バゼット・フラガ・マクレミッツは格闘戦の構えをとると静かにこちらを見た。

 実力差は明白。けれどこっちもただでやられる気はない。全部ではないがこちらには十年間休まず魔力を溜めてきた宝石がある。これの一つでもぶつけられれば勝てる。

 バゼットが動いた。

 私はガントを撃ちバゼットの目を晦ますと、

 

「―――――――Sechs Ein Flus,ein Halt……!」

 

 ありったけの魔力を込めて文字通りの全身全霊の一撃。

 ランクにしてAにも届く宝石の炸裂はサーヴァントの頭蓋すら吹き飛ばし得るだろう。だがバゼットはお見通しだったようだ。宝石が投げてから炸裂するまでもほんの一瞬、その一瞬のうちに宝石を頭上高く蹴りあげていた。

 

(あ、やば。終わったわ)

 

 私の頭めがけて拳を振り落そうとするバゼットを見て否応なく悟ってしまう。バゼットの拳は数瞬の後には私の頭部をトマトのように破裂させてしまうだろう。

 目を瞑るのも癪だったから、せめて死ぬまでその顔を睨めつけてやるとつまらぬ意地で目を見開いていたが、

 

「御下がりを! 我が主!」

 

 霊体化を解除した端正な顔立ちの槍騎士がバゼットを抱えると、全速力で後退した。

 その直ぐ後に地面に突き刺さる剣。北欧風の衣装の施された剣は地面に刺さると同時に小規模なハリケーンを発生させた。

 

「――――酷い顔だ」

 

 頭上から天啓の如く鳴り響く声。

 傲慢さを隠そうともしない声色だったが、不思議なことに不快感はない。寧ろそれが当然のような気さえする。

 

「冥界の悪鬼にでも出くわしたか、はたまた裁定を待つ罪人か、悪趣味な夢に浸っていた結果か。どうだ、その萎えた魂に我の名を口にする気骨はあるか」

 

 全身を覆うは黄金の甲冑。髪の色は月の光を凌駕するほどに黄金色に輝いており、その端正な面貌には血のように真っ赤な赤い双眸がある。

 

「アンタが……まさか?」

 

 令呪がこの黄金の男に反応している。だとすれば、この男こそが、

 

「私のサーヴァントってこと……クラスは?」

 

 ランサーとアサシンは既に見ている。となると残るクラスは四つ。

 バーサーカーは有り得ない。月の光を背にして立つなどイカしたことを仕出かしているが、彼は狂っているようには見えない。

 キャスターも違うだろう。離れていても肌で分かる王気を見せる男が魔術師であるわけがない。

 となれば――――。

 私の思考を中断したのは男の「ふん」というつまらそうな声だった。

 

「我は絶対にして始まりの王、英雄の中の英雄王、ギルガメッシュ。凡百の英霊どもと一緒くたにするな! 我にクラスなどない。故に貴様もそう呼ぶがよい」

 

 ギルガメッシュ。それはこの世で最も古い神話を元とする人類最古の英雄王。

 黄金の英雄王は堂々とした立ち振る舞いで遠坂凛の聖杯戦争が開闢したことを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問おう。貴方が私のマスターか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――FIN――――――


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