とある血涙の奇形変種(フリーク)   作:iとθ

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 6話見返してみたら駄文過ぎて涙出ました。


7話 I

 家に帰り、決して柔らかいとは言えないベッドに仰向けに寝転がった。だんだん薄暗くなってきた部屋の中で明かりも付けず、スマホを弄る。

 

 絹旗さんからのメール。今日は超楽しかったです。また、見に行きましょう。絵文字やら何やらでデコレーションされたメールが来るとばかり思っていたのだが、その文面はいたってシンプルなものだった。

 

 どう返信したものか。文章を5分ほど考えてやっと返信する。今日の別れ際、メアドを交換した。自然な流れでそうなったので、言いだしたのはどっちかというのは曖昧なものだ。だが、彼女との距離が近づいたことに変わりはない。

 

 突然のバイブレーションに驚き、スマホを取り落とす。返信が早いのはやはり女子だからなのであろう。届いたメールを開ける。見たい映画が来週あたりに公開予定なのでその時また連絡します。

 

 また来週会える、それも彼女から誘ってもらえる。口元がニヤついているのを感じて真面目な顔を作り直す。このままいけば彼女と・・・なんてことを考えてしまう自分を我ながら気持ち悪いと思う。

 

 そんな浮ついた気持ちをぬぐい去るためにシャワーを浴びに行く。超冷たいわけでもない水を頭から浴びる。全身にひんやりとした間隔が広がっていく。すごく心地いい。それが疲れを少しずつ癒していく。両目をギュッとつぶって、手で頬を強く叩く。

 

 今俺がやらなくちゃいけないことは、ヤツを殺すこと。さっきまでしていた、ふわふわしたものはやらない、やってはいけない。彼女と俺では住む場所が、違う。

 

・        ・        ・

 

 その日から俺は買ってきた教本を読んでは真似して過ごした。こんな短時間で筋力が大幅に上がるということない。気のせいだと思うがそれでも少しは肉付きが良くなったのではないだろうか。それは技術面でも同じでこうすれば技がかかるんだなということぐらいは掴めてきた。はっきり言って、教本だけでこれより上達するのは無理があると思った。さて、そういった理由もあるのだがやはりこういうものをやり始めてしまうと誰かで試したくなってしまうのが男の宿命というものではないだろうか。

 

 そして俺は今、第十学区の廃ビルを根城にしていたスキルアウト数人と、その地下の駐車場にて対峙していた。

蛍光灯が切れかかった薄暗い空間で、俺は拳を構える。

 

 前の俺ならこんな行動は取らなかっただろう。自分の自己満足のために人を殺すと決意する前ならこんなことは。俺から殴り合いのケンカを仕掛けるだけで、たとえ相手がスキルアウトだとしても殺すつもりはない。とはいえ人を傷つけるこんな行動は。

 

 万が一、ばけもののあの触手や羽根、眼が出てきてしまったら。その人相などがネット上を駆け巡ったら。それを考えるとさすがに怖かったので、ピエロのマスクをどこからか買ってきて素顔を隠している。

 

 オレに向かって疾走してくる先方の二人。下っ端であることにはすぐに気づいた。だって、弱すぎる。殴りかかってきたそいつの拳を潜り、鳩尾を殴りつける。腹を押さえて座り込むそいつを助けようともうひとりの下っ端が向かってくる。俺はそちらの方を向きそいつと組み合うと足を引っ掛け、勢いよく前へ押し倒した。地下駐車場の中に背中がコンクリートに叩きつけられた大きい音が響きわたる。

 

 それを見たリーダーらしき男が部下に指示を出して俺を取り囲ませた。

 

 俺はそいつらには目も呉れず、この集団の中で一番強いであろうリーダーに向かって飛びかかる。

 

 初撃はよけられ、脇腹に蹴りを喰らう。俺は3メートルほど後退して体勢を立て直す。目が赤くなっている気がするが、この明度とお面のおかげで誤魔化し切れるだろう。それにしてもやはりリーダーだけあって敵は強い。今度はそいつが追撃のために向かってきた。繰り出された蹴りをうまく避け、カウンターを狙いに行く。相手の攻撃は入るのに俺の攻撃が入らないのがこんなにイライラするものだとは知らなかった。これでは分が悪い、どうしたものか。そんなことを考えていたその瞬間。顎にアッパーを食らってしまった。その場に崩れ落ち、俺を殴ったそいつを見上げる。ニヤニヤと意地悪く笑う醜い顔。手には、拳銃が握られていた。悪寒と恐怖が体を走る。

 

 殺される。もう終わったはずなのに。心の中で叫ぶ。今度こそ殺されてしまう!

 

 必死の思いで立ち上がり、拳をこいつの腹を殴りつけるために動かす。突然の立ち上がったので対処できなかったのだろう。みぞおちに拳が突き刺さる。 こいつは痛そうな声をもらしたが、攻撃の手を緩めない。緩めたら殺される。前のめりになったそいつの頭を押さえ、顔に膝を入れる。グチャ、と肉の潰れる音とそれから少し遅れて血が床に水音をたてる。こいつは立ってられなくなったのだろう、自身の血の上に倒れ込む。俺は躊躇なくそいつの顔を踏みつけた。思いっきり何度も何度も。殺される前に殺してしまえ。

 

 凄まじい出血量だった。俺の靴を赤く染める。

 

 肩で息をしながら、こいつの顔だった部分を見つめる。俺の足元で倒れているこいつは生きているのだろうか。生きていないわけがない。誰だこんなことをやったのは。俺はこんなにひどいことをするつもりで今日ここに来たわけじゃない。でも、なんだこれは。おそらく彼のものであろう名を叫ぶ声と、オレに向かって放たれた怒声が駐車場の中に響き渡り、脳を震わせる。殺して、ないはずだ。生きてるはずだ。だとしたら俺は人殺しなんかじゃない。そうだ。

 

 そうだよ。なんでコイツは俺の足元で倒れてるんだ?なんでそのまま動かないんだ?なんで俺は、ここにいるんだ?

 

 俺が殺したから、俺が殺したから、俺が殺しに来たから。全部、元凶は俺。悪いのは全部俺。

 頭を押さえて、膝から崩れ落ちる。体の震えが止まらない。俺は、それでも俺は悪くないんだ。悪いのは全部この力なんだ。そうだ、この力さえなければ。この力のせいにすれば俺は悪くなくなる。

 

 背中から羽根が、触手が生えてくるのを感じる。

 

 でもそれだけで、俺は何もしていないということになるのだろうか。今日のことを見ていた奴が居なくなれば、俺は何もやってないってことにならないだろうか。

 

 2本の触手をうねらせながら、ゆっくりと立ち上がる。周りを見渡すと、すぐに一人のスキルアウトと目があった。触手を操り、そいつの体をぶち抜く。

 

 発砲音が周囲から聞こえ、体に衝撃を感じた。放射されているその羽根を音が聞こえた方向に向かって飛ばす。うめき声と、そいつらが倒れた音が耳を刺激する。

 

 なんだ。人間なんて、この力の前には屈服するしかないのか。J.Mもきっと近くにいた俺の力が怖くなって俺を手放したに違いない。自分で操れないものを、それも意思を持つものを作るなんて、相当愚かな行動だな。

 

 その日、俺は堕ちた。

 

・        ・       ・

 

 夜。ベランダに出て、曇った空を見上げる。雨がポタポタと降り始め、少し肌寒い。その空に僕はつぶやいた。

 

「もうすぐですよJ.M。僕といつかでもうすぐ、あなたを殺しに行けますよ」

 


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