更新が超時間空いてしまって申し訳ないです。
今まで頭の中で組み立ていた物語の中に矛盾点と、納得できない部分が見つかったため、もう一回組み立てていました。
結果、今まで書くつもりだった物語より数倍ほどいい仕上がりになります。
更新は不定期になりますがこれからもよろしくお願いします。
殺すにしてもJ.Mという手がかりだけではどうもすぐに見つかりそうにはなかった。どこかのデータベースには記されているのだろうが、俺にはそこにアクセスする権利はない。
ならばハッキングしかないだろう。けれど、ここ学園都市でそっち方面に人並みにしか知識を持っていない俺には何ができるだろうか。
残りの手がかりは、やはりこの手紙であろう。だが、俺はどうしても二枚目に手をつけることができなかった。
今日は本当にいろんなことがあったせいか、体の疲労感が半端なく、頭も回らない。
俺はヤツの居場所を考えることを諦めると、大人しくベッドに潜り込んだ。
朝までぐっすりと眠っていたようだ。
枕元の目覚まし時計は、仕事をしなかったらしい。午前十時、デジタルでそう表示されていた。学校は八時半までに登校と決まっているので完璧な遅刻である。
急いでベッドから跳ね起き、身支度をしようとしたとき壁に掛けたカレンダーが目に入った。
3月28日。つまりはまだ春休みである。
それを確認すると直ぐにUターンし、ベッドを目指す。
途中ふらっとしてしまい、テーブルに手を付く。昨日の手紙が手に触れた。
昨日あったことを思いだし、二度寝している場合ではないと思いなおす。すぐさま顔を洗い、服を着替える。
端末を立ち上げ『J.M 科学者』で検索する。しかし、そう簡単には見つからない。一番の近道はやはりあの手紙だが、二枚目を読むのは気が進まない。
思考を巡らした結果、ヤツと対峙したときにヤツに勝つための手法を身に付けるべきだという結論に達した。
この学園都市にも数こそ少なかろうが、武芸を教えてくれるところはあるだろう。検索しようとして文字を入力し、だがそこで手を止める。
もし、その教室で目が赤くなってしまったら?俺みたいな初心者は多少運動能力が高かろうが、思い切り腹にストレートパンチをもらい、畳に勢いよく投げつけられ、固め技を決められるだろう。そうしたら、目の色が変わってしまうのは避けられないだろう。アイマスクをしながら教えてもらうわけにもいかないだろうし、そういうところに行くのは得策とは言えない。
人から教えてもらったほうが早く上達し、そのレベルもより高いものになるのは分かっていたがこうなれば仕方がない。教本に頼るしかないだろう。
行きつけの古本屋は11時開店であと一時間近くある。
あいにく、眠気は完全に覚めたので二度寝はできない、空腹感は感じていない、春休みの宿題もなかった。何をして時間を潰そうか考えていると、立ち鏡の中の、自分の服装が目に入った。
俺はクローゼットの奥の方から結構重い衣装ケースを運び出す。夏のバーゲンで買ってきて、まだ着たことのない春服が結構出てきた。それらを出して、代わりに冬服を入れていく。もうそろそろ着れなくなってきた服はビニール袋にたたんで入れておく。
ジャケット類をハンガーに掛け、その他のものをタンスにしまい込む。値札がまだ付いているのばっかりで、それを見るたびにバーゲンっていいなと思った。
出してきた春服に着替えると、もう店の開店時刻であった。俺はさっき冬服を詰め込んだビニール袋と財布を手に家を出た。
古本屋までは10分程で到着した。この近くには映画館とかデパートとかがあったりするので暇なときには結構この辺をうろついている。行きつけのこの店、BOOK ONは一回はフツーに古本が置いてあるのだが二回には古着を売っている。要するに古着の買取もしてくれるのだ。
俺はまず2Fに行き、古着の査定をしてもらいに行く。その間にスポーツの教本コーナーを見に行った。
今までは文庫本を見るためにここに来ていたので教本コーナーに行くのはどこか新鮮な感じがした。
格闘技に関する本は、予想以上にたくさんあった。合気道、柔道、空手、ボクシング・・・。それぞれがどんな競技なのかさえよくわからない俺は取り敢えず、それら全競技に目を通してみた。そのなかで、総合格闘技というなにか良さげな競技があった。
投げ技、固め技はもちろん、殴る蹴るといった打撃もあるいかにも総合的な格闘技であった。最も喧嘩に近い格闘技らしく、写真付き解説本にはスキンヘッドのイカツイ男が右手を大きく掲げていた。
一番喧嘩に近いということは、一番実戦に近いのだろうか。そんなことを思った俺は総合格闘技の『初めてでもよくわかるシリーズ』をレジに持っていった。代金を支払い終えると査定がちょうど終わったらしい。思ったよりも財布が膨れたので満足だ。
今日から家で一人格闘技。春休みが終わる頃にはかなり戦えるようになっていたいものだ。「ありがとうございましたー」という店員の声を背中にうけ、店を出る。
こう、タイミングが良すぎると運命というものを信じてみたくなる。店のドアのすぐ前を、昨日会った絹旗さんがちょうど通ろうとしていたところだった。目が合う。鼓動が早くなる。
「あれ、また会いましたね」
「超偶然ですね」
春服を出してきて良かった。昨日のはラフなスタイルで、決してセンスのないわけじゃないということが分かってもらえたらと思う。
「今日もまた、映画ですか?」
彼女の服装はというと、やはり太ももを大きく曝け出し、いかにも誘ってます、と言っているようなものだ。今の俺の顔は赤くなっていないだろうか。口元が変ににやけていないだろうか。それが非常に気になる。
彼女は頷くと、「悪霊の盆踊りっていう、超C級映画を見に行くところです」と答えた。話を聞くと一日一回しか上映していないほどの人気のなさで、昨日の分の上映は終了していたらしい。
「もう行かないと上映に超間に合わないので。それでは」
彼女は軽く頭を下げると、再び歩き出した。
その遠ざかっていく背中を見ていたら、なんだか悲しかった、痛かった。
俺はこの痛みを知っている。知識として知っている。いつもそれは自分の周りや、小説、映画、漫画などの創作物の中で頻繁に起こっているもので、自分には一生わからないだろうなと思っていたもの。わかってはいけないなと思っていたもの。
今まで読んできた幾多の本の中で、彼らは自分が行動を起こせなかったことでその痛みを数倍にも膨れさせていた。
ここでやることをやらなければ俺は彼らと一緒になってしまう。それだけは避けたい。でも同時に俺は人間じゃない。彼らと同じにそれをして、焦がれる権利はあるのだろうか。
だけど、この痛みを我慢しろというのか?忘れろというのか?そんなことはもう無理だ、だから。
「すみません!」
彼女に声をかける。心拍数が瞬く間に上がっていくのが分かる。顔が熱い。彼女が振り返った。
「俺、坂崎いつかって言います。よかったら、映画、ご一緒させてもらえませんか?」
心臓がいよいよ爆発しそうだ。言ってやったぞという達成感と、断られたらどうしようと言う不安とでごっちゃごちゃになって本当に心が痛い。
彼女が口を開くまでの、そのやけに長い数秒間を待つ。
彼女は何も言わなかった。
ただ、少し恥ずかしそうに笑い、頷いた。
こっからしばらく、絹旗さんといちゃつきたいと思います。