朝倉涼子さんと消失   作:魚乃眼

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Post-credit = 番外短編


Post-credit1

 

 

 

 現代日本において海外文化がどれくらい浸透しているかなんて話は文化人類学者の領分だが、俺みたいな一般人でも"ハロウィン"が元来日本の文化でないと知っている。

 だが普通の生活を送っていてハロウィンなんざと関わる機会などまずない。

 過去を思い返してみても幼稚園の頃に園内でイベント感ある時間を過ごしただけで、外国のように近隣住民にお菓子をねだりに行ったことなどないし、仮装でパーティ紛いの催しをしたこともない。

 世の大半がただの有り触れた一日として消化するのが十月三十一日と言えよう。

 

 

「いったい何が面白いのかね」

 

 涼子に耳かきをしてもらいながら、夕方のニュースで取り上げられている去年都内某所に集まったコスプレ集団の映像を見て俺は呟く。

 

 

「渋谷なんて何もなくても無駄に人多いのに、それ以上集まったらどうなるのかわからんのかね」

 

「渋谷行ったことあるの?」

 

「そりゃあね。東京圏住んでたことあるし」

 

 もちろん"俺"の話だ。

 それにしても毎年ハロウィン時期になるとこの手の報道が多くなる。

 若者が大挙して押し寄せると街が混乱するため自重しろ、といった旨の内容なのだが、深刻な事態というより面白可笑しい風にマスコミが扱っているため注意喚起ではなく煽動しているように感じてしまう。

 

 

「あなたああいうの嫌いだものね」

 

「それは君も同じだろ」

 

「人様に迷惑かけるのは駄目よ」

 

 流石委員長。

 コスプレそのものは涼子も嫌いじゃないのだ。

 

 

「それはあなたがお願いするからしてるのであって、誰も喜んでコスプレしてるわけじゃないから」

 

「オレのせいかよ」

 

「もちろん」

 

 そりゃないぜりょこたん。

 絶対ノリノリだったと思うが下手なことを言うと鼓膜を破られかねないので黙っておく。

 ぼーっとテレビを眺め、涼子の心地よい綿棒捌きに癒されるこの時間。最高に良い。

 右耳が終わったので左耳をやってもらうため寝返りして体制を変え再び涼子の太ももに頭を預ける。彼女のお腹に顔をうずめるのは耳かきが終わってからだ。

 

 

「……たとえば、ハロウィンのコスプレだったら何が好きなの?」

 

 番組の音声が明日の天気予報コーナーに切り替わると、不意に涼子がそんなことを訊ねてきた。

 これはあれか。答えたら三十一日の夜はその恰好してくれるってことなのか。

 それはそれとして、その問いかけに即答するのは難しい。

 

 

「定番だと魔女か白布のお化けだけど、涼子はドラキュラもイケると思うし、チャイナ服見てみたいからキョンシーも捨てがたい」

 

「魔女っ子は可愛いわよね。あ、魔女と言えばあなたが好きなあいこちゃんの恰好してあげましょうか?」

 

「いやなんで知ってんだよ」

 

 君に【おジャ魔女どれみ】の話をした覚えは無いんだが。

 ちなみにキャラクターコスプレを涼子にしてもらうのであれば、あいこちゃんよりプリキュアのほのかちゃんの方が見たい。俺はキュアホワイト派だ。

 

 

「あなたのパソコンは私に筒抜けだもの」

 

「ははは、そういやそうだった」

 

 笑うしかない。

 もはや見られてマズいものなどないが、スマホも同様だと思っていた方がいいだろう。

 コスプレの件はタキシードサムがお化けの仮装をしたハロウィン限定アクリルチャームを涼子が持っていることを思い出したため、なんだかんだお化けが一番と回答し、耳かき終了後は涼子のお腹を堪能させてもらった。

 その数日後。

 まさかハロウィン仮装デートなどという俺と一生無縁と思っていた体験をする羽目となり、誰にも迷惑こそかけなかったもののハタから見たらあの日テレビで見た痛々しい連中と同類になったのだとダウナーな気持ちにもなりつつも、帰宅後はしっかりやることをやったので良しとする。

 

 

 






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