朝倉涼子さんと消失   作:魚乃眼

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Epilogue29

 

 

 

 身体が疲労感を訴え始めた頃、日差しが傾き出したのでビーチから撤退し別荘に戻った。

 外観だけでなく内装まで立派な別荘の欠点は大浴場が存在しないことだが、そんなもんまずあるわけがないし、あてがわれた部屋はスイートルームかって思うくらいわけわかんないほどオシャレで1人で使うには広く、窓からのオーシャンビューも素晴らしくて、しかもバストイレが別ときた上に壁掛けの液晶テレビと横になれるソファまで置いてあるのだから何一つ不自由しなかった。ここに住みたいぐらいだ。

 それに大浴場が無いとはいえバスルームからも謎の高級感が漂っているし、置かれたソープ類は見慣れない海外製品だがきっと優れモノなんだろうよ。

 シャワーを済ませ私服に着替え直してふかふかベッドの上で横になれば夢うつつ。

 たちまち俺の意識はブラックアウト。一時間は眠っていただろう。

 もちろん、こうなれば一時間やそこらじゃ起きず本格的な睡眠に落ちてしまうのだが、そうはならなかった。何故かはわかるよな。

 

 

「あだっ!?」

 

 額に強打を受け、睡眠を中断させられる俺。

 しかめっ面で瞼を開けると平手を構えている涼子。察するに彼女にチョップで文字通り叩き起こされたらしい。

 必要がなかったとはいえ鍵もかけずに寝落ちしたもんだからこうやって簡単に起こされてしまうのだ。マスターキーを持ってこさせる手間が省けたとも言えるが、俺としては少しでも寝てたかったわけで。

 そんな俺の心持ちなど知らず涼子は休日のオカンかってくらいの粗暴さで身体を揺さぶる。

 

 

「もう、早く起きないと晩ご飯抜きよ」

 

「あのさ……もうちょっと優しく起こしてくれてもよかったよね?」

 

「鶴屋先輩の別荘に来てまで昼寝してるようなお馬鹿さんにはこれくらいがちょうどいいの」

 

 こちらに非があることは認めるが、これじゃ付き合う前と何も変わらんではないか。今朝のアレは何だったんだ。

 俺の悪態を聞いた涼子は顔色一つ変えずこう返す。

 

 

「それはそれ、これはこれ」

 

 何事も俺に決定権が無いということがよくわかったよ。

 武士は喰わねど高楊枝と言うが、俺は晩ご飯抜きが普通に嫌なのでこれ以上無駄口を叩かずベッドから起き上がる。

 お互いにどこか投げやりな雰囲気を出しつつも足並みだけは揃えて部屋を出て夕食会場まで移動していく。

 これは俺の勝手なイメージに基づく話だが、どこであれ別荘というものはリビングないしダイニングが一番広い作りになっているのが一般的。

 ともすればこの鶴屋さんの別荘は日本ランキングの上位に食い込みかねないような代物であり、当然の帰結としてダイニングは開放感溢れる大部屋。ここで晩餐会となる。

 部屋の中心にドカンと置かれた2、3人で使うには寂しすぎる大テーブルを全員で囲んでの食事は温泉合宿の旅館とは異なる趣がある。甲乙つけがたい。

 食費含めた宿泊費用は全部無料という状況からして、借りてきた猫よりも低い物腰であるべき俺たちはたとえ白米と漬物だけでも何ひとつ文句言わずにありがたく食すべき立場なのだが、まさかこれが出てくるとは思わなかった。

 

 

「わー! でっかいおにく!」

 

 キョンの妹氏が熱い視線を送る先には鉄の大判皿に乗っかった分厚いステーキ。300グラムはありそうな感じだ。

 聞けば国産ブランド牛のサーロインときた。最早申し訳なさを通り越して罪悪感さえ覚えるレベルだぞ。

 こんなもの誰がどう見ても美味しいに決まっているが、実際に一切れ口に運んでみると想像の10倍を軽く超える肉の味わい、柔らかさ、くどすぎない脂。ウマい。

 

 

「かーっ、やっぱ体動かした後は肉に限るわね!」

 

 今日ばかりは涼宮の主張につい頷きたくなってしまう。単なる思い込みにすぎないと承知していてもスタミナ付けてる感あるし。

 スープのミネストローネは俺が飲んできたなかでトップクラスと言っても過言ではない完成度で、使用人の白髪紳士がじっくり仕込んだものらしい。完璧すぎないかあのおじさん。

 肉と汁物がうまけりゃ自然とご飯が減るわけで、厚かましくもおかわりまでしてしまった。不可抗力だよな。

 ファミレス顔負けのステーキセットを美味しく頂戴した後、暖かいお茶を飲んで暫しリラックスタイム。

 明日は朝から近場の水族館に出向く予定だ。こういうのをバカンスと呼ぶのだろう。

 部屋に引っ込んだ後は何をするでもなくテレビをザッピングして時間を潰す。数少ない自慢のひとつが無限に寝ていられることだが、流石に出先で20時前に寝るのは気が引けるのでせめて22時までは起きてるつもりだ。

 これも余暇の過ごし方のひとつだろうと思いつつソファにふんぞり返りながらローカルの旅番組を眺めていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。

 訪問者は涼子である。

 

 

「ちょっとつきあってほしいんだけど」

 

「何につきあえって?」

 

「お出かけに」

 

 お願いなのかもよくわからない彼女の言葉に従うがまま部屋を出ることに。

 涼子は階段を下り、廊下を進んでいき、使用人の女性に外出する旨を伝えてから別荘を後にする。

 さていったいどこへ行くつもりなのかと訊ねてみると。

 

 

「ん? 特に決まってないわよ? 食後の運動じゃないけど、お散歩でもしようかなって」

 

 平然と返された言葉に俺は何とも言えない気持ちになった。

 道路こそ舗装されているものの見たところここいらの道路照明は皆無に等しい。散歩にしてもわざわざ夜道を歩くことないだろうに。

 だがそれを敢えて口に出すことをしないようにできる程度には俺も人間的に成長していた。

 デート中は否定的なことばかり言うもんじゃないとあの宇宙人に口酸っぱく注意されてたからというのはあるが、ていうかこれデートでもなんでもないけど、とにかくうちの姫様のご機嫌を取るのが大事なんだと。

 なんとなくではあるものの、彼女が俺を誘った動機的な部分について推論できていたが、そこも今は口にせずまずはジャブを打つように思ったことを話す。世間話というやつだ。

 

 

「星が綺麗で風は静か……いい夜だ」

 

「そうね」

 

「こんな空の下、森林公園みたいなとこで寝られたら気持ちいいんだろうな」

 

「あなたの頭の中は寝ることばかりなの?」

 

「一度やってみたいってだけだよ」

 

 昼間より気温が下がっているといえど夏の夜は寒くないため外で寝ても風邪ひかなさそうだし。

 森林公園ほど立派な場所は近くに無いと思うが少し道路から逸れれば樹々が生い茂っているように見受けられる。いや、マジではやらんけど。 

 見知らぬ地での散歩、それも店も何もないような海沿いの道を延々と歩く。いつかは何かしらの建物にぶち当たるはずだが今のところ家屋さえ見当たらぬ閑散ぶり。まあ、静かなとこにあってこその別荘か。

 さっき見た旅番組で紹介されてた海鮮丼の店についてだとか、今年の文化祭は文芸部として何かした方がいいんじゃないかだとか、そんな話をしながら歩き続けてると脇道に海が一望できるスポットがあったのでホイホイと移動。

 当たり前だが真っ暗でロクな海模様など見れたものではない。むしろ遠くの灯台の光にしか興味が沸いてこないような有様。

 彼女も似たような感想を抱いたのか互いに顔を見合わせて苦笑する。

 

 

「なーんも見えねえや」

 

「昼に来たらいい眺めなのかしら」

 

「どうだか。別荘の窓から見た海は良かったけど」

 

「写真は?」

 

 もちろん撮ったさ。

 すると彼女はそうじゃなくて、と首を横に振り。

 

 

「ここで撮りましょうってことよ」

 

 わざわざ虚無みたいな夜景を背にセルフィーせんでもいいと思うが。

 こうしてまたしてもスマホのライブラリに涼子とのツーショット画像が追加された。

 俺の待ち受け画像が今なお長野の温泉旅館で撮った奴であることを確認した彼女は満足げな様子だ。

 あん時はイレギュラーだとしても今となっちゃ恋人同士なわけだし、こんな感じの写真を事ある毎に撮ってくんだろうよ。まあ、悪い気はしないわな。

 これは私の分、と彼女のスマホでも律儀にツーショ決め終えると俺は引き返すことを提案する。

 

 

「そろそろ帰ろうか」

 

「ええ」

 

 明日の水族館で泳ぐ姿を見るのが楽しみなゴマフアザラシに対する情熱を語ってもよかったのだが、そんな与太話をする前に涼子にひとつ言っておく。

 同じ気持ちだとしても言葉で出して共有することが大切なのだから。

 

 

「大丈夫さ、なるようになるって」

 

「……それで励ましのつもり?」

 

「一応ね」

 

 不安なのは俺も一緒なんだぜ。

 けど常日頃から彼女に助けてもらっている立場なんだし、彼女が不安な時はタフガイぶってでも精神的な支えになってあげないと。

 きっと涼子は俺の余裕の無さなど見え透いているのだろう。それでも、

 

 

「私の気分転換につきあってくれてありがと」

 

心からの感謝と笑顔でこう返してくれた。

 もちろん気分は良いが、少しむず痒さも感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目の朝も当然のように涼子に起こされる形でスタート。

 一応弁明しておくと、自力で起きれはしたのだがベッドの寝心地が良すぎたため二度寝を決めたわけだ。迷いなどなかったね。

 着替えと顔洗いを済ませて向かったダイニングでの朝食は昨夜のアメリカンなディナーと打って変わり日本人らしい和食である。

 メインのおかずがカンパチの煮付け、小鉢に揚げだし豆腐、ほうれん草のおひたし、なめこの味噌汁と茶碗には白米。朝の補給は100点満点といったところか。

 鼻歌でも歌いたくなるような朝食を終え、一息ついてから本日の予定である水族館へ向かうことに。

 2、30分ほどバスに揺られ着いた先にある水族館は海沿いを通り越して施設の一部が海岸と一体化しているそうで、ここならではの見どころが数多くあるとリサーチに余念のない古泉が解説してくれたが、過去合計で3回行ったか怪しい水族館なるスポットについて他との違いを楽しむなんて芸当俺には土台無理な話である。

 ここは特別大きい施設というわけではないが、流石に9人でぞろぞろと行動するのはどうかということもあり、朝食後のくじ引きで決めていた班での館内行動となる。

 そのくじ引きの結果、俺は鶴屋さん朝比奈さんの先輩2名とキョンの妹氏、それに古泉を加えた5名の班となった。

 宇宙人パワーで抽選が操作されていたとしたら間違いなく涼子が誰かしらと入れ替わりで入っているはずなのでやはり昨日の座席決めは偶然だったのだろう。疑心暗鬼になりすぎてたな。

 さて、水族館と言うと薄暗い建造物の中あっちこっちに水槽が置かれているのをイメージすると思うが、ここは動物園みたいに屋内外の展示場が点在している形だ。順路も何もなく、行きたいとこへ勝手に行けという感じ。

 涼子の方の班は涼宮が何も考えず走っていったため右往左往するのだろうが、こっちは落ち着いて見物していく方針だ。そのために広場で作戦会議を開始する。

 

 

「あたしはガキのころしょっちゅう来てたからねーっ。行き先はみんなに任せるよっ」

 

 この中で一番権力のある鶴屋さんがそう言うと決める方はかえってプレッシャーである。

 そんな状況でも涼しそうな顔で古泉は提案する。

 

 

「では、先ずは手堅く海の魚から見るというのはいかがでしょう」

 

 まあ水族館に来たのだからそうするのが無難だろう。

 古泉の意見を採用し、広場から水族館エリアへと移動する。同じ方向へ向かっていく親子連れの多さがメインストリームであることを証明している。

 海中生物なのか海藻なのかもよくわからぬキャラクターが描かれた自動ドアをくぐって館内に入るといきなり床から胸元ぐらいまでの高さの大きな水槽が目に入ってきた。

 岩や草がキャパの半分近くを占めているその水槽は淡水水槽となっており、ぷかぷかと魚どもが自由気まま泳いでいるのが見える。

 こんなもの程度では何の感情も湧いてこないのは年のせいだろうか、俺と違ってキョンの妹氏はガラスにおでこをくっつけ熱心に水槽内を見ているという熱の入りようだ。

 

 

「微笑ましいですね。僕も昔は図鑑で見たのと同じ魚を探すのに夢中になりましたよ」

 

 少年古泉の体験談など知ったこっちゃない。

 どうやらキョンの妹氏はオオサンショウウオを探しているらしい。水槽横のパネルによるとこの中に3匹ほど棲んでおり、ボクを見つけてねと書かれている。

 などと言われてもオオサンショウウオくんを見つけるのは至難の業だ、彼の身体はこんにゃくとも称される泥みたいな保護色なのだから注意深く観察しなければそれと気付かないだろう。

 だがそこは情熱溢れるちびっ子、キョンの妹氏はあっちこっち場所を変えながら探していく。そして。

 

 

「あっ、みくるちゃん!」

 

 顔をガラスにつけたまま朝比奈さんのスカートの裾をちょいちょいと引く妹氏。

 彼女の視線の先には岩の隙間に身体をすっぽり入れてるオオサンショウウオの後ろ姿が。

 思わず俺もかがんで見てしまう。意外に大きいな。

 

 

「ここのはどれも1m越えだよっ」

 

「へぇー。はぁー」

 

 自分が育てたと言わんばかりにドヤ顔を見せる鶴屋さんといたく関心の声を上げる朝比奈さん。

 居場所がバレたのを察したのか、オオサンショウウオがのそのそと体勢を変えてこちらに顔を向ける。どこに眼ん玉が付いてるかわかりにくい不思議な生物だ。

 淡水水槽を後にして先へ進んで行くと吹き抜けにドデカい水槽が見える。

 お次は海洋生物の超巨大水槽らしい。川魚よりふた回り以上は大きい魚がたくさんいる。

 古泉が魚図鑑を読み込んでいたというのは伊達じゃないようで、

 

 

「あっちがアジで、こっちがタカベですね。どちらも黄色い尾をしてますが、背びれの大きさやうろこの模様で見分けがつきます」

 

こんな風にスラスラと魚の解説をしてくれる。

 刺身や寿司が好きでも生きてる魚なんてサンマとサケぐらいしかわからない俺にしてみれば大したスキルだ。

 そして彼の良いところはうんちくを語りすぎない点にあるのかと思った。涼宮にウザったい奴と思われたらいくら低姿勢を貫いたとしても相手されなくなるのだろうし、その辺のバランス感覚というか引き際が優れているのは育ちの良さなのかね。

 自由気ままに超巨大水槽を泳ぐマンタに癒された後はフロアを移動しながら次から次へと展示されている水槽を眺めていく。魚以外にもサンゴや貝類、大きなクラゲなんかもいた。

 水族館エリアを出て次に向かうのはトドやアシカといった海の獣たちが生息するエリアだ。

 もちろん俺の目当てはゴマフアザラシ。ちょうどアザラシのエサやりショーの時間になったため飼育員がバケツ持ってやって来る。

 アザラシたちも己の役割を理解しているのだろう、水面から飼育員の立つ岩場まで腹ばいで這い上がっていく。

 

 

「やっぱゴマちゃんなんだよな」

 

「トッポイ少年はアザラシがお好きかいっ?」

 

 あんなかわいい生物を嫌う奴なんていないでしょうよ。

 それからアザラシたちの他にセイウチやトドのエサやりなんかを見て、少し早めのランチタイムとなった。

 施設内のレストランは特に動物がモチーフになってたり描かれてたりもせず、海辺のカフェみたいな感じのオシャレな店だ。

 テラス席に陣取り、潮風を浴びながら少し優雅な気分に。サングラスかけてくれば良かったな。

 まだ書き入れ時じゃないからか、5人分のオーダーが席に届けられるまであまり時間はかからなかった。

 俺が注文したのは海鮮炒めのワンプレート。匂いが美味しさを物語っているが、果たして。

 

 

「……うん。良いね」

 

 ぷりっぷりの海老を咀嚼しながら呟く。

 ごま油と魚醤油で炒めたらそりゃウマいに決まってろうよ。

 味も凄いが何より凄まじいのは俺たちがこの昼飯を実質的にタダで食べているという事実。

 ここの関係者と繋がりでもあるのか、鶴屋さんの謎の力が働き全員の入園料がロハな上この施設内レストランの食事券まで渡されているのだ。

 本当どれだけ感謝の言葉を述べても足りないくらいですわ。

 と、貸しの多さから来る台詞を吐いたところ和風ランチの味噌汁を一口飲んでから鶴屋さんはいつも通り無礼講を唱える。

 

 

「なーに改まったこと言ってんだいっ、私と君の仲じゃないか」

 

 言うほどの仲か、と思いつつも顔には出さないように平伏の姿勢を貫いていると眼前の御大は口の端をつり上げ。

 

 

「だから駄賃代わりに聞かせておくれよー、君と朝にゃんの馴れ初めについてっ」

 

「!? ゲホッゲホ」

 

 思いもよらぬ方向から飛んできた発言に驚愕してコショウが喉に引っかかりむせてしまう。

 いや、みんなにバレバレとは思ってたけどそんなこと面と向かって言われると思わなかったし、しかも俺一人の時に。

 なんでこんな事を言い出してきたのかと思えば、昨日の夜に女子全員で一部屋に集まってウノしながらガールズトークをしてたんだとか。

 となると必然的に恋バナにも話題が及び、今日のお前どうしたんだいつもよりイケイケじゃないかって感じで皆に問い詰められた涼子が俺と付き合うようになったことを白状したそうな。

 

 

「じゃあ先輩が聞きたい話は涼子から聞けたんですよね?」

 

「そうだけどさぁ、少年の視点からも語ってもらった方が厚みが増すんだよねっ」

 

 わかります、わかりますよ、わかりますけども。

 古泉は事も無げな表情をキープしているが、朝比奈さんとキョンの妹氏は興味津々といった様子でチラチラこっちを見ている。

 諦める以外に選択肢はなかった。

 

 

「馴れ初めだなんて言われましても……幼馴染なんで接する機会は多かったですけど、あんまし昔の事は覚えてませんね」

 

 覚えてないのではなく識らないというのが正しいが、敢えて言う必要はない。

 しかし何をどう説明するべきか。涼子がどんな話を昨日したか知らない身としてはそこと噛み合わない話はしたくない。

 "俺"が語れる話として必然的に中学時代を回想する形となる。

 

 

「今でこそ誰もが羨むザ・委員長みたいな感じになってますけど、中二の頭ぐらいまではキョンの妹さんと同じくらいの身長だったんで……それでいて今と性格はそこまで変わってないんで子ども委員長って感じでしたよ」

 

「涼子お姉ちゃん、あたしくらいちっちゃかったの!?」

 

 現在の完全体スタイルからは想像もつかないのだろう、妹氏が信じられないといった表情をしている。

 昔から芯がブレてないというのは涼子の素晴らしさと言えるが、当時は見た目もあって今ほど認められていなかった面もある。特に男子相手がそうだ。

 

 

「出る杭は打たれるというか、生意気な奴って思ってた連中は多かったっすね」

 

「でも"俺は違う"って感じだねっ」

 

「べつに涼子の味方でいようだなんて考えてたわけじゃあないですけど、彼女に見捨てられない程度には頑張ろう、と」

 

「にゃるほど~。それで副委員長やったりもしてたんでしょっ? うんうんっ」

 

 そんな話までしてたのか涼子よ。

 中学生活における副委員長もとい学級副代表というのは思い出したくもないほど面倒な役割だ。間違っても俺が自主的にそんなポストに納まるはずもなく、つまるところ誰もやりたがるやつがいなかった末に行われたジャンケンで俺が負けたというだけの話。

 やっぱ止めだ、昔の振り返りなんかしてもメシがマズくなる一方だ。

 結局。休日に2人で遊びに行った時の話だとか、当たり障りのないエピソードをいくつか喋ってこの場は切り抜けられたが、こんな羞恥プレイは二度とご免である。

 

 

 


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