そのメニューのない店で【完結】   作:puc119

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(・∀・)さとう!




第8話~糖~

 

 

 はぁ、と吐き出した息は外の空気と触れるとすぐに白くなった。

 

 冬。それは風花舞う幻想的な季節。

 木枯らしと空っ風によって身の凍るような寒さが続き、あのスキマ妖怪も今頃は冬眠していることだろう。そんな寒し季節です。

 連日振り続けた雪は地面を白く染め上げ、普段見えていたものを隠してしまう。それは、まるで自分の知らない場所へ来てしまったかのように思える。

 

 

「寒いなぁ……」

 

 

 そんな言葉と共に吐き出された空気は、やはり白く変わった。

 

 今日は珍しく良い天気だけれど、こうも毎日雪が降っていては、雪掻きをするのも面倒になってくる。掻いても掻いてもキリが無いんだもん。これでは、あのぐうたらな博麗の巫女のことも莫迦にはできなさそうだ。

 一応、店の前だけは多少雪掻きをしてあるけれど、それが人里まで続いているわけでもない。これが僕なりの頑張ったアピールなのです。

 そんなんだから人里からお客さんなど訪れることもなく、今日も今日とてまた、一人ぽっちで過ごす日となりそうだ。雪の降り始めた頃は、雪だるまやカマクラを作って楽しんでいたものの、そんなのは2、3日もすればすぐに飽きる。

 

 

「暇だねぇ」

 

 

 さて、いつまでも外にいては体が冷え切ってしまう。そろそろ中で暖をとるとしましょうか。寒さ厳しい寒の季節。そんな季節は、家でのんびりと寛いでいるのが正しいはずなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

 店の中へ戻り、火鉢で暖をとっているとそんな声と共に、扉が開いた。

 

「おろ?こんな寒い日によく来たね。いらっしゃい歓迎するよ」

 

 其処には、説教好きの自称仙人が立っていた。今日は博麗神社へは行かないのかな?きっと霊夢だって雪掻きをしていないだろうし、説教をする理由には困らないだろう。

 人々を良い道へと導く。ふふっ、なんだか本当に仙人みたいだよね。

 

 まぁ、誰が来ようと歓迎はするよ。一人で暇だったし、ゆっくりしていってね。

 

「外の様子を見ましたが……なんですか?あの中途半端な雪掻きは」

 

 ため息を零しながら華扇はそう言った。

 

「僕にはアレくらいでちょうど良いのさ。ま、とりあえず座りなよ。どうせ、いつものようにお腹を空かせているんでしょ?」

 

 僕の言葉に華扇は何処か恥ずかしそうに、けれども素直に従った。君いっつも何か食べてるもんね。

 うん、それで良い。お堅いお話はまた今度。

 

 それじゃ、せっかく火鉢があるのだしお餅でも焼こうかな。冬にはお餅がよく似合う。

 

 

 一般的に食べられているお米はうるち米なんて呼ばれる。けれども、お餅はもち米から作られる物。五平餅みたいに、うるち米から作られるお餅もあるけどさ。

 

 うるち米ともち米の違いだけど、見た目はうるち米の方が透明っぽくて、もち米の方が白っぽいよ。成分的に大きな違いは、うるち米はアミロースとアミロペクチンからなり、もち米はアミロペクチンだけからなる。このアミロースやアミロペクチンはデンプンのこと。二つともよく似ているけれど、アミロースは直鎖上になっているのに対し、アミロペクチンは所々で枝分かれしている。

 そして、このアミロペクチンが多いほど、もちもちとした食感になるよ。

 

 火鉢に乗せた網の上へ切り餅を適当に置いてあげる。数分もすればきっと膨らんでくれることだろう。

 

「私以外のお客さんは?」

「ん~珍しいことに今日はいないみたいだね」

 

 本当は珍しくもなんともありません。通常営業です。ちょっと見栄張ってみたかったんです。

 

「貴方はいつまでたっても変わりませんね……」

「君だってそうでしょう?変わるってのは難しいことさ」

 

 華扇の右腕に巻かれた包帯を、ちらりと見ながら言葉を落とす。

 

 網の上のお餅からうっすらと湯気のような煙のようなものが登り始めた。膨らむまでもう少し。何をつけて食べようか。うん、楽しみだ。

 

 変わらないものなんてないけれど、変わることだって大変なこと。難しいものです。

 

「ずっとずっと昔から疑問に思っていました……貴方はいったい何者なのですか?」

「さあねぇ。随分と永い間生きてきたから、そんなことも忘れちゃったよ」

 

 僕はその場に留まり続け、時代ばかりが先へ進み続けた。ついて行く体力だってなかったし、それはまぁ、仕様が無いんじゃないかな。そんな僕にとって、時の流れが遅いこの幻想郷は助かる存在です。

 

 そして、漸く網の上のお餅がぷくりと膨らんだ。うむ、美味しそうだ。

 

「またそうやって貴方は誤魔化すのですね……」

「ま、僕の話なんてどうでも良いでしょう?そんなことより、華扇はお餅に何を付けて食べる?」

「砂糖醤油でお願いします」

 

 かしこまりました。そう言えば甘いもの好きだったね。

 

 砂糖醤油なら簡単に作ることもできるし助かります。砂糖へ少量の醤油をかけてから少し混ぜ合わせるだけで完成。あとは焼き海苔なんかでお餅を包んであげれば、なお良いかもね。

 

 用意できたお餅と砂糖醤油を華扇へ渡す。どうせ沢山食べるだろうから、次のお餅の準備。

 

「いただきます」

 

 パリッと焼き海苔の噛まれる音が静かに響く。海苔の風味と醤油の香りはよく合う。ただ問題なのは少々食べ過ぎちゃうこと。

 

「美味しい」

 

 そりゃあ、良かったです。

 

 さてさて、それじゃあ今日は糖のお話をしようかな。

 糖と言っても種類は様々。今使った砂糖だって糖だし、いつか話した牛乳を飲むとお腹がごろごろしてしまう原因だって糖なのです。

 糖と言えば、甘いイメージがあるけれど、甘くない糖だって沢山存在する。例えば、植物の細胞壁の主成分であるセルロースや蟹みたいな甲殻類の殻を作っているキチンも糖に含まれるよ。また、さっき話をしたアミロースやアミロペクチン、つまりデンプンも糖になります。

 

 糖は人間にとって欠かせない存在。人間が主食としている食べ物にはデンプンが多く含まれる。デンプンはグルコースと呼ばれる単糖がいくつも繋がった多糖なんだけど、このグルコースがなければ人間は生きていくことが難しい。

 だから逆に言えば、デンプンが多く含まれるから、人間は米や麦、トウモロコシなんかを主食にしているのかもね。

 

「そう言えばさ、どうして華扇はそんな仙人みたいなことしているの?」

「うっ……べ、別に私が何をしていようと良いじゃないですか」

 

 いやまぁ、そりゃあそうなんだけどさ。

 この前、萃香がうちに来て、華扇が冷たくなったとか言って落ち込んでいたから気になったんだよ。昔はあんなに仲良かったのに。

 相変わらず、なくしてしまった腕も見つかってはいないみたいだし。

 

 第二段のお餅が焼き終わったので、其方もとって華扇のお皿へ。第一段は既に食べ終わっていたみたい。食べるの早いねー。あまり食べると太るよ?

 まぁ、僕はふくよかな方も嫌いじゃないけどさ。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 どういたしまして。

 

 それじゃ、もう少しだけ糖のお話。

 植物の体を作っているセルロースも、人間が主食としているデンプンも同じグルコースからできているよ。そんな同じグルコースが繋がった多糖ではあるけれども、セルロースは人間の主食にはならない。それはどうしてかと言うと、グルコースの繋がり方が違うせいで、セルロースは人間が消化できないからなんだ。

 だから、セルロースをいくら人間が食べようが消化できないせいで栄養にはならない。詳しく説明するのは面倒くさいから、かなりざっくりとした説明だけど、そんな感じなんです。不思議だよねぇ。

 

 そんな感じに、物思いに沈んでいたせいで、また華扇のお皿が空になっているのに気づかなかった。だから食べるの早いよ。

 

「何か、お餅料理で食べたいものある?」

「えと……じゃあ、おしるこを」

 

 え~……また甘いもの?お雑煮とか言うと思ったのに。

 いや、まぁ食べたいのなら作るけどさ。

 

「なんですか?その目は……」

「太るよ?」

「し、失礼な。私が太るわけないでしょ!」

 

 何処からその根拠の無い自信は湧いてき来たんだろうね?

 糖は人間の主食なんだ。だからやっぱりカロリーも高いのです。

 

「うん、まぁ……例え華扇が太ったとしても、僕は嫌わないであげるから安心しなよ」

 

 さてと、粒餡を探さないとだね。

 まだ残っていたかなぁ……

 

「だから大丈夫です!」

 

 ふふっ、わかっています。ちょいとからかってみたかっただけ。

 

 

 寒い季節が続くんだ。少しばかり熱くならなきゃ凍えちゃうもの。

  

 な~んてね。

 




 
う~ん糖のお話はちょっと広すぎましたね
失敗です

さて、これで漸く春夏秋冬を書くことができました
あとはどうやってこの物語を終わらせるかですね

色々と考えてはみましたが、そもそもこの物語には話の流れなどありませんので、最後のお話はさらりとした感じになりそうです
伏線とかも張ってませんし

では、次話でお会いしましょう


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