そのメニューのない店で【完結】   作:puc119

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(・∀・)みるく!




第7話~牛乳~

 

 

「暑いよ……」

 

 じめじめとした梅雨を越え、紫陽花の花も顔を垂らす、茹だる様な厚さの続く季節です。

 外の天気は晴れ、雲一つない空にはさんさんと輝く太陽。こうも暑くては何もやる気にはならない。きっとこれだけ暑ければ、夏の象徴であるあのヒマワリたちだって、顔を背けてしまっているだろう。

 夕方になれば過ごしやすくもなってくるけれど、昼間はやっぱり暑い。こんなに暑いと言うのに、この店の閑古鳥は今日も元気にしてくれているようで、相変わらずお客さんは訪れない。

 

 窓を開け、涼しい風でも吹かぬものかと期待はしているけれど、流れてくるのはただの温風。まぁ、窓を締め切ってしまったら熱中症待った無しなんだけどさ。熱中症は怖いから、しっかりと水分と塩分補給が大切です。

 

 何処か涼しい所へでも行きたい。でも、そんな元気もない。

 

 霧の湖にいる氷精でも捕まえてこようかしら?あの娘、ひんやりしていて気持ち良いんだよね。ちょっと騒がしいところもあるけれど。

 

 

「お邪魔するよ」

 

 そんな声と共にドアが開き、またあの生暖かい風が流れた。

 ホント暑い季節だねぇ……どうにかならないものか。

 

「や、いらっしゃい妹紅」

 

 カウンターに突っ伏したまま、声の主に歓迎の言葉を落とす。ああ、ひんやりとしカウンターが気持ち良い。今の僕はちょっと元気がないけれど、ゆっくりしていってね。

 

「なんだ、随分とぐったりとしているじゃないか」

「そりゃあ、これだけ暑けりゃねぇ……」

 

 暑いのは苦手なんです。まぁ、寒いのも苦手だけどさ。僕はやっぱり春がいいな。

 

「まぁ、今日はちょいと暑いものねぇ」

「妹紅でも暑いって思うんだ。暑いのは慣れてそうじゃん」

 

 火を扱っているイメージが強いから暑いのには強そうなのに。そう言うものでもないのかな?

 

「慣れるもんか。暑いものは暑いわよ」

 

 まぁ、そりゃあそうだよね。

 汗で服はべとつくし、今は水浴びでもしたい気分。きっと最高に気持ち良いだろう。誘ったら妹紅も一緒に水浴びしてくれないかな?

 

「とりあえず、何か冷たいものでももらえる?」

 

 はい、かしこまりました~

 冷たいものならちょうど良い。何か冷たいものを、と作っておいた料理があります。

 

 新鮮な牛乳が手に入ったから、序でに生クリームを作りそれから作ったもの。この暑い季節にはぴったりです。

 

 冷凍庫からそれを取り出し、ガラスの器に盛り付ける。

 

「はい、どうぞ」

「これは?」

「アイスクリームだよ」

 

 生クリームと卵黄と牛乳と砂糖を温めながら混ぜ、それを冷やして固めたもの。冷やすとき、2、3時間に一度ほど混ぜる必要があるからちょっと面倒くさい。

 また、冷たい料理はどうしても甘味を感じにくくなる。だから、砂糖はかなり入れないといけないんだ。だから、食べ過ぎは身体に良くないかもね。

 

「へ~これがねぇ。私は初めて食べるよ……ん、美味しい」

 

 そりゃあ、良かったです。僕もあとで食べようかな。それなりに量も作ったのだし。

 

 と、言うことで今日は牛乳のお話です。カルシウムなどの豊富なミネラルやアミノ酸を含む栄養はバッチシな食材。大豆と同じようにアミノ酸スコアは100と優秀。

 

 そう言えば、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするよね。アレは牛乳中に含まれるラクトースって呼ばれる糖を分解できないから起こる現象。

 ラクトースを分解するのにはラクターゼと呼ばれる酵素が必要なのだけど、このラクターゼは成長と共に弱くなってきちゃうことが多い。だから、子どもの頃は普通に飲めたはずなのに、大人になったら牛乳を飲むとお腹を壊すことがある。ただ、ちゃんと牛乳を飲み続けていれば、このラクターゼはまた復活してくれることもあるよ。

 

 因みに、お腹に優しい牛乳ってのはこのラクターゼを予め分解しておいた物。だから飲んでもお腹がゴロゴロしないのです。

 

 

「ねえねえ、もこたん」

「次、そう呼んだらぶん殴る」

 

 もこたんが、おこたん……

 

 今まで嬉しそうに、アイスクリーム食べてたのに。いいじゃんもこたんって響き、僕は可愛らしいと思うよ?

 

「ねえ、妹紅」

「……なに?」

「今日はどうして僕の店へ来たの?」

 

 妹紅にしては珍しいこと。だってこの娘、いっつも竹林に篭っているイメージだし。そりゃあ、慧音だって心配するはずだ。ちゃんとした生活を送っているのだろうか。

 

「今日は暑かったからさ。此処へくれば冷たいものでも食べられるかと思って」

 

 ああ、そう言うことでしたか。それなら今日来て良かったね。もし、昨日来ていればその願いは叶わなかっただろう。だって昨日は唐辛子の日だったし。

 

 そうだと言うのに、天子ちゃんが店へ来て汗だくになりながらチリ鍋を食べてった。

 

『こ、この舌の痺れる感覚がっ……!』

 

 とか言いながら。

 変態かと思った。たぶん変態だろう。

 

 料理を出した僕が言うのもアレだけど、流石に天子ちゃんにはドン引きです。あの娘も不思議な子だよね。まぁ、性癖だって色々とあるのだし、僕は口出ししないでおくよ。

 

 さてさて、天子ちゃんのお話は良いとして、次は何を出そうかな。残念なことに、冷たい食べ物はアイスクリームしか用意していないんだよね。そのまま、牛乳を出すんじゃ味気ないし……

 

 ん~……んじゃま、牛乳とチーズでいっか。

 

 加熱処理も熟成もさせていない、なんとも手抜きなチーズと冷やしておいた牛乳を妹紅へ渡す。

 チーズフォンデュとか作っても良いけれど、この季節に食べる料理じゃないもんね。天子ちゃんなら喜びそうだけど。熱々のやつらなら、さらに喜ぶことだろう。

 

「今日はなんとも、馴染みのない料理ばかりだね」

「まぁ、幻想郷じゃ乳製品は珍しいからねぇ」

 

 それにチーズも作るの面倒くさいんです。チーズは牛乳に凝乳酵素や酸を加えて固まった物。

 ただ、この凝乳酵素がちょいと面倒くさい。レンネットって呼ばれる酵素だけど、この酵素が取れるのは仔牛の第四胃から。だから、チーズを作るために仔牛を殺す必要があったんだ。成長してしまった牛では牛乳は固まってくれないみたい。

 

 チーズを作るために仔牛を殺す。それだと生産が安定しないから、カビからもチーズを作れるようになった。けれども、カビから作られたチーズはどうしても風味が悪くなる。だから人気はないみたい。

また、遺伝子組換え技術を用いて、微生物からも作ることはできるらしいよ。

 

 難しいよね。確かにチーズは美味しいけれど、それを作るために色々な物語があって……

 何かを食べると言うことは、何かを殺すと言うこと。それは仕方がないことで、別にそれが悪いとも思わない。けれども、やっぱり食材に対して感謝はするべきなんだと思うんだ。

 

『いただきます』

 

 たったその一言だけでも、良いからさ。そう言うのは大切だと思う。

 

 

「う~ん、こう塩っ辛いものを食べると、どうしてもお酒が飲みたくなる」

「まだ昼間だよ?」

「たまには昼間から飲むお酒も悪くはないさ」

 

 チーズと言えばワインのおつまみ。辛口の赤ワインとの相性はバッチシだよね。

 う~ん、昼間からお酒かぁ……うん、まぁ、確かにたまには悪くないかもね。きっとお酒が入れば、この暑さだって多少は紛らわすことだってできることだろう。

 

「了解。ちょっと待っててね。今、冷酒を用意するから」

 

 本当ならワインの方が良いのだろうけど、残念ながら今はありません。今度、紅魔館からいただかないとですね。

 暑さも寒さも紛らわせてくれるお酒はやはり優秀な食材。飲みすぎには注意する必要があるけれど、何より美味しいもんね。

 

 

「ほい、持ってきたよ」

「ん、ありがとう」

 

 まだまだ、暑い日々が続きます。

 きっとあと数ヶ月をすれば、この暑さがまた恋しくなることでしょう。夏になれば涼しさを求め、冬になれば暖かさを求める。なんとも我が儘なものです。

 

 けれども、それが生きているってことなんじゃないかな。

 

 な~んて言い訳してみたり。

 

 

 






読了、お疲れ様でした

学校給食を食べていた頃は牛乳を毎日飲んでいたので、普通に飲めましたが、今では牛乳を飲むと確実にお腹を壊します

なんとも寂しいものですね

このお話もこれでもう7話となりました
あと、3,4話ほどでこの作品も完結させようかと思うところです

物語の流れなんてこの作品にはありませんので、どう終わらせるかはまだ考えていませんが


では、次話でお会いしましょう

感想・質問何でもお待ちしております

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