(・∀・)ぽてと!
勢いよく備中鍬を地面へと突き刺せば、シャクリと嫌な音と、何かを突き刺してしまった感覚がした。
「おろ」
むぅ、またやってしまった。これでもう何度目だろうか。
「はぁ」
地面へ刺した備中鍬を抜き、ため息を一つ落としながら刃と刃の間に挟まった芋を抜いた。何年も作り続け何度も収穫をしてきたが、いつまでたっても上手くはならない。慎重にやれば芋を突き刺してしまうことはなくなるけれど、どうしても作業スピードは落ちてしまう。
どうにかならないかねぇ。
二つに割れてしまったジャガイモも見ながら、僕はそう思うのです。
ジャガイモは緑色の果実がつき、茎が枯れ始めた辺りが収穫時期。栽培も比較的簡単な作物で、たっぷりとデンプンやビタミンCを含み栄養もバッチシ。世界中で広く栽培され、主食になることも、おかずになることも時にはお酒に使われることもある万能な作物です。
日本でも幾度となく飢餓のピンチを救ってくれた。加熱をしなければ美味しくないけれど、あのホクホクで仄かに甘い味はやっぱり美味しい。
ただ、もう少し収穫が楽だと嬉しいんだけどね。それは我が儘かな?
さてさて、文句ばかりを言っていても仕様が無い。さくっと収穫しちゃおうじゃないか。
「やあ、こんな暑い昼間から精が出るじゃないか」
額に浮かんだ汗を拭い、手に持った備中鍬に力を入れ、さぁ頑張るかと思ったら声をかけられた。声のした其方を向くと、赤髪で大きな鎌を持った少女の姿。
「昼間だから精が出るんだよ。んで、小町はどうしたの?申し訳ないけどお店はまだ開かないよ」
どうせサボってるだけなんだろうなぁ……映姫も苦労していそうだ。まぁ、あの説教好きの閻魔ならそれが逆にストレス発散となりそうだけど。
「ああ、大丈夫だよ。別にお前さんの店へ寄ろうとしたわけじゃないからね。んで、今は何をしているんだい?」
「馬鈴薯の収穫。暇なら手伝ってくれても良いんだよ?」
枯れた茎と一緒に収穫できれば楽なんだけだなぁ。茎と一緒に採れるのは小さいな芋ばかり、大きな芋は変わらず地中に残ったまま。なかなか上手くはいかないものです。
「いんや、私は忙しいから遠慮しておくよ」
どの口が言うのやら。まぁ、自分で育てている作物なのだし、ちゃんと自分で収穫するけどさ。
さてさて、作業に戻るとしますか。口ばかりでなく、手だって動かさなくちゃ。
「そう言えば、馬鈴薯って毒があるらしいじゃないか」
「うん、悪魔の植物なんて言われていたらしいね」
しゃくしゃくと鍬で土を掘り起こし、出てきた芋を籠の中へ入れる。むぅ、あと2畝もあるのか……これは腰にきますね。
小町の様子を見ると、石へ腰掛けプラプラと足を揺らしながら、何が楽しいのかはわからないけどニコニコと良い笑顔。のんきなことで。
んじゃ、ジャガイモに含まれる毒のお話でもしようかな。今はポテトグリコアルカロイドなんて呼ばれるけど、ジャガイモにはソラニンやチャコニンなどのステロイド系の毒が含まれる。特に芋から芽が出ている部分や、日が当たって緑色になった部分に多く含まれるよ。だからジャガイモを育てる時は、土を盛って芋が地上へ出ないようにしないといけない。
それは、摂取しすぎると時には死に至ることもある危険な物質。幼児なんかは成人と比べて致死量が10分の1くらいだから注意しないとね。
「悪魔の植物ねぇ……なんだか親近感が湧くじゃないか」
「小町は死神でしょ?」
「似たようなもんだよ」
違うと思うけどなぁ……
毒についてもう少し補足をすると、加熱してもこの毒は分解されることが少ない。流石に油で揚げたりすれば分解してくれるらしいけどさ。
ただ、冷蔵保存なんかしたジャガイモを油で揚げるなど高温処理をすると、アクリルアミドなんて言われる発がん性物質が出るよ。まぁ、人類へ本当に発がん性を示すのか微妙っぽいけど。それに、冷蔵保存したジャガイモは高温加熱すると、焦げ付きやすいし見た目は悪いしとあまり良いことはない。だから、もしフライドポテトなんかを作るときは冷蔵保存していないジャガイモを使った方が良いかもね。
あと、ポテトグリコアルカロイドは水溶性の物質だから、水で洗えば多少はその量を減らすこともできるよ。
さて、後1畝だ。もう一踏ん張りと言ったところ。
「んで、小町は何をやってるの?サボり?」
「失礼な。あたいはちょいと休憩しているだけだよ。休憩だって仕事の一環さ」
君にとっては仕事が休憩の一環でしょうに。仕事と休憩、どちらが本業なんだろうね?そんなんだから、霊夢からサボさんとか言われちゃう。もし、此処に映姫が来たら僕は全力で逃げよう。
巻き添え喰らうのヤダし、説教嫌いだし。
「馬鈴薯って唐柿のような実ができる時あるけど、アレって食べられるのかい?」
「緑色のうちはちょっと食べられないかな。でも、黄色く熟してくれれば普通に食べられるよ。そんなに美味しくないけどさ」
ジャガイモはトマトと同じナス科ナス属。だから似ている部分も多いのです。
外の世界ではポマトなんて言われる、地中では芋を作り、地上ではトマトを作る植物が開発されたそうだね。残念ながら、芋も果実もできはいまいちだったから消えちゃったみたいだけど。
もしかしたら、そのうち幻想入りするかもね。
最後の一株のあった場所へ鍬を刺し込む。するとやっぱり、しゃくりと嫌な音。上手くいかないものだねぇ。最後くらい綺麗に終わらせたかったものです。
最後の芋を籠へ放り込み、大きく一伸び。疲れました。
さてさて、鍬が突き刺さり、割れてしまったジャガイモを捨ててしまうのももったいない。せっかくなのだし、いただくとしようかな。
「小町」
「なにさ?」
「ジャガイモ食べる?」
そう尋ねると、小町は元気よく頷いた。うん、良い顔だ。
ホイル焼きでも作ってみようかな。
適当に燃やせそうな物を集め、火をつけておく。
「こんな暑い日に焚き火とはねぇ……」
「それはそれで乙なものでしょ?」
割れてしまったジャガイモを水でよく洗ってから、湿らせた紙で包み、さらにその上へアルミホイルで包み込む。
紙は文々。新聞を使いました。頼んでもないのに、どんどんとくれるから邪魔だったんです。まさか役に立つ日が来るとは思わなかった。ありがとう文。
そして、用意できたジャガイモを焚き火の中へ。美味しくできると良いね。
「火の勢いが強いけど、大丈夫?」
「ん~……たぶん」
本当なら落ち葉とかでやれば良いんだろうけど、まだまだ木々の葉は青々としたまま。まぁ、きっと大丈夫。生焼けになることはあっても、焦げることはないと思うよ。
「相変わらずの性格だねぇ」
「そう言う性分なものですから」
そんな俺の答えに、やはり何処か楽しそうに小町は笑った。
アルミに包まれ銀色となったジャガイモを、木の枝を使って動かしてあげる。ほっくほくのジャガイモが食べたいです。
「そう言えばさ」
「うん?」
とりあえず一つだけ取り出し、熱々のジャガイモを包み込んでいるアルミを剥がし、竹串を刺してみる。
表面に近い部分は柔らかく竹串は進んでくれたけど、中心部分へ近づくと串は止まった。うん、もう少しと言ったところ。再びアルミで包んであげ火の中へ。
「お前さんはいつまで地上にいるんだい?」
パチリと焚き火の中で何かが爆ぜた。
「ん~……この世界に飽きるまでかな」
「良い加減、飽きる頃だろうに」
薄く広がり始めた焚き火を中心に集め、あともう少しだけ頑張ってもらう。ほくほくのジャガイモまであと少し。
「それがねぇ。なかなかどうして飽きが来ないんだよ。だからもう暫くは此処にいると思うよ」
「そうかい、そうかい。ま、お前さんがそれで良いならあたいは何も言わないよ。けれど、もし川を渡りたくなったのなら気軽に声をかけておくれ。安くすることはできないけれど、サービスくらいはしてあげるからさ」
そりゃあ、至れり尽くせりなことで。とうぶん、そんな予定はないけどさ。
もう少しだけ、だらだらと生きていたい気分です。
さて、そろそろジャガイモも食べ頃だろう。
できれば、バターをかけて食べたいけれど、生憎今は持ち合わせていない。塩でもかけて食べるとしよう。
熱々のジャガイモを取り出し、小町へ投げる。
「ちょっ、ちょっと熱いじゃないか」
「だから美味しいのさ」
こんな生活は気に入っているのです。
読了お疲れ様でした
色々なキャラを書きたいですが、どうにも一話で一人しか出てきてくれません
さてさて、次は誰を書こうかな
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております