そのメニューのない店で【完結】   作:puc119

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(・∀・)きのこ!




第3話~茸~

 

 

 季節は秋。

 木々の葉は紅く染まり、世界へ色を一つ加えてくれる。

 紅葉の秋、読書の秋なんて言うけれども、やはり僕は食欲の秋が一番しっくりくる。

 

 この季節、お米を始めとし様々な農作物が収穫され、きっと近いうちに人里でも収穫祭が開かれることだろう。今年も無事収穫できたことに感謝をし、皆で喜びを分かち合う。

 収穫祭の歴史は古く、人類が狩猟生活から栽培を始めるようになったと同時に、収穫祭が行われてきたなんて言われている。それはきっと良い事なんだろう。

 

 今はそんな素敵な行事のある季節だ。浮かれるのも仕方が無いはず。それに今日は素敵な食材も手に入りテンションは上がりっぱなし。

 朝、起きてから店を開けてすぐに秋姉妹がこの店へ訪れた。

 冬の間の彼女たちは、ちょっと可哀想になるくらい落ち込んでいるけれど、今ばかりは彼女たちの季節。見ていて此方も嬉しくなっちゃうほどのテンションだった。

 

 そんな彼女たちが、いつも世話になっているお礼だと、とある食材を僕に渡してくれた。それは、滅多に手に入ることのない貴重な食材。

 お礼にと思い何か料理を出そうとしたけれど、この季節は忙しいからと断られてしまった。それなら仕方ないね。

 またおいで。きっと美味しい料理を用意しておくからさ。

 

「ふふん」

 

 嬉しさのあまり声が出る。

 それほどに貴重な食材。以前食べたのは、何年前だったかしら?

 

 ふふん、さてさてどうやって食べようか。豪華に網焼きってのも良いだろうし、炊き込みご飯にするのもきっと美味しいはず。香りを逃さないようホイル焼きとかやってみようかな。

 

 厨房の中でくるくると回りながら、料理のメニューを考える。せっかくもらった食材。自分で食べなければもったいない。

 ああ、そうだ。今日は店を閉じておこうかな。どうせお客さんなんて来ないだろうけれど、念のため、ね。

 

 くるくる回るのも流石に飽きてきたので、一度止めお店の看板を裏返しに。あまり回りすぎると目が回るのです。

 

 そして、動き出した瞬間だった。

 僕にとってそれは悪いこと。けれども彼女にとっては良いことなんだろう。

 

「お邪魔するわよ」

 

 そんな声を落としながら、博麗の巫女が僕の店へ訪れてしまった。

 

 おぅ……何故……何故なのですか?どうしてこうもタイミングが悪いのですか?日頃の行いだって悪くはないはず。少なくともこの巫女よりは絶対に良い。

 それなのに、そうだと言うのに……

 神の気まぐれか、悪魔の囁きか、妖精のいたずらか……ああ、そうじゃないか、きっとこの巫女の力なんだろう。だってこの巫女、平気で神様ぶっ飛ばすもん。きっとこれが弱者の宿命なんだろう。

 

 

 ――いや、まだだ、まだこの巫女にあの食材のことはバレてはいない。どうにかして誤魔化せば、きっと一人で美味しくいただける。諦めるのにはまだ早い。

 

「や、いらっしゃい霊夢。悪いけど、今日はもう店を閉めようと思ってるんだ」

 

 持っていた食材を背中へ回し、霊夢には見えないように。そしてできる限り平然を保ち、怪しがられないよう言葉を落とす。頼む、帰ってくれ!

 

「あら?何かあるの?」

 

 はい、あるんです。あっちゃうんです。けれども本当のことなんて言えるわけがない。きっとこの巫女にバレたら、私にも食べさせてとか言うに決まっているのだから。

 

「う、うん、まぁ色々とね」

「へぇ、色々ねぇ……」

 

 あかん、めっちゃ怪しまれてる。目が据わってるよ。マジ怖い。

 だいたいこの巫女の勘っておかしいだろ。どうして今日、この時間ピンポイントで来るんだよ。

 

「と、言うことで今日のところは帰ってもらえないかな?また、今度来なよ」

 

 なんとかこれで、押し通せないだろうか?

 しまったなぁ、せめてこの食材を隠しておけばもっとどうにかなっただろうに。まぁ、今更どう仕様も無いけれど。

 

「ふ~ん……ところで、あんたが後ろに隠している物はなに?」

「な、なんでもないですよ……」

 

 

 のそりのそりと近づいて来る楽園の素敵な巫女。素敵さなんて欠片もありゃしない。

 あっ、ダメだ。こりゃ……

 

 

「ちょっ、やめ!こら落ち着きなさい!!ええい!離れろこの貧乏巫女!腋出し!貧乳!!」

 

 

 ぶん殴られた。

 鬼だね。鬼。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「へ~、これが松茸ってやつなのね。初めて見たわ。それで、これはどうしたの?」

 

 殴られた右頬が痛い。

 そして、それ以上に心が痛い。どうしてこうなった。

 

「今朝、秋姉妹が来てくれたんだよ。世話になっているお礼って言ってさ」

「む、私はもらってないわよ?」

 

 神奈子たちの異変の時、何も悪いことしてない秋姉妹をボコボコにしてたじゃん。そりゃあ、来ないでしょ。

 そろそろ、博麗の巫女被害者の会とかできてもおかしくはない気がする。

 

「んで、霊夢は何をしに来たの?」

「賽銭箱の中にキノコを入れた奴がいて、それがムカついたから」

 

 全く持って僕は関係なかった。迸りにも程がある。

 そして僕、その犯人わかった気がする。

 

 あの白黒魔法使い、何やってるのさ……

 

「つまり、今日は松茸料理ってわけね。楽しみだわ」

 

 料理を出すなんて一言も言ってないんだけどなぁ……

 でも、出さなきゃ絶対怒るよね。この巫女すぐ怒るもん。早苗を見習いなさよ。まぁ、あの巫女もあの巫女でちょっとおかしいけど。

 

 はぁ、仕方が無い。此処は全部取られなかっただけ良しとしよう。人生諦めは肝心なのだ。

 

 秋姉妹からもらった松茸は全部で6本。大事にいただかないとね。

 

 と、言うことで今日はキノコのお話。

 キノコと言っても種類は様々。まずキノコは、子嚢菌類と担子菌類の二つに分けられるよ。子嚢菌類は冬虫夏草とかトリュフが有名。それで、担子菌類は一般で食用とされるキノコに当たるんだ。松茸もこの担子菌類に分類される。

 

 ん~……とりあえず最初は網焼きにしようかな。簡単だもの。

 石づきを落としてから、湿らせた布で優しく拭き汚れを落とす。んで、お酒を少々振りかけてから暫く置いてあげる。その間に、網焼きの準備。店の中でやるとちょっと煙たくなっちゃうけど、外でやると他の奴らも来そうだしね。此処は我慢です。

 

「そう言えば、どうして松茸ってそんなに貴重なの?」

 

 パタパタと扇ぎ火を起こしていると、霊夢がそんな質問をしてきた。

 

「簡単に言うと、人工的に栽培することができなくて、自然からしか取れないからだよ」

 

 色々と研究されているみたいなんだけどね。あと、トリュフなんかの子嚢菌類も人工栽培は難しいとされているよ。

 

「人工栽培?」

「まぁ、幻想郷じゃ人工栽培は難しいけれど、外の世界では多くの茸が人工栽培されているんだ」

「なんだか、魔理沙が喜びそうな話ね」

 

 いや、魔理沙が欲しいのはそう言う茸じゃないでしょ……

 流石に化け茸は栽培できないと思うよ?

 

 さっき茸は子嚢菌類と担子菌類の二つに分けられるって言ったけど、担子菌類はさらに、活物寄生菌と死物寄生菌に分けられよ。

 松茸はこの内、活物寄生菌に当たって、椎茸や榎茸なんかが死物寄生菌に当たるかな。

 

「どうして、松茸は人工栽培できないのよ?」

 

 良い感じに火が起きてくれたから、先程用意しておいた2本の松茸を、そっと網の上へ寝かせる。松茸丸々使う豪華な食事。

 

「詳しいことはわかってないみたいだけど、松茸が成長するには生きているアカマツが必要とか、色々な理由があるみたい」

 

 なんとか人工栽培しようと頑張ってはいるらしいけど、どうにも難しいみたい。普段食べている部分は子実体と呼ばれて、いくら菌を繁殖させてもこの子実体ができなきゃ意味が無い。

 松茸の菌を増殖させることはできるけれど、子実体形成まではいかない。アカマツの幼木と一緒に育ててみても、やっぱり子実体はできなかったらしいよ。

 

 まぁ、もし人工栽培できるようになっても、それはそれで寂しいけどさ。

 

「へ~よくわからないけれど、つまり松茸は貴重ってことね」

 

 うん、そんな理解で良いと思う。

 

 さて、網の上の松茸も漸く良い感じになってきてくれた。匂いマツタケ、味シメジ。な~んて言われるように、松茸の香りは良いよね。

 マツタケオールって呼ばれる不飽和アルコールによる独特なあの香り。残念なことに、外国ではこの香りは嫌われやすいみたい。

 

 生の松茸に旨みは感じないけれど、加熱をすることで旨みは増える。香りも広がるし一石二鳥。

 熱々の松茸を手で縦に割くと、中から水分が溢れ出しあの香りがさらに広がる。其処へ醤油を数滴。

 

 うん、良い香りだ。

 

「ほい、松茸の網焼きできたよ」

「ホント、良い香りがするのね」

 

 

 それじゃ――

 

「「いただきます」」

 

 収穫祭と言うわけではないけれど、採れた食材への感謝を一言。それは大切なことだと思うんだ。

 

 せっかくの美味しい食事。一人だけで楽しむんじゃあもったいない。

 どうせなら皆で楽しみたいよね。

 

 な~んて言い訳してみたり。

 さて、次は何を作ろうか。

 

 






読了お疲れ様でした

このお話を書いていたら松茸が食べたくなりました
もう何年食べてないんだろう……

次話でもまたお会いできることを願っています
では、次話でお会いしましょう

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