(・∀・)まんぞく
「ふむ」
多少の酔いはあるけれど、なんとか家の掃除を終わらせることができました。上出来、上出来。
この家にも随分と世話になっちゃったね。最初はどうせまた直ぐに旅へ出るんだろうなぁ。な~んて考えていたけれど、あれよあれよと言う間に数百年。
ちょいとのんびりしすぎました。
幻想郷は居心地が良いもの、仕方が無いね。
別にこのまま幻想郷で暮らしても良いけれど、それじゃあ少しばかり味気ない。どうせなら、色々と味わいたい。
残っていた食べ物も霊夢とのお食事で全て無くすこともできたし、思い残すことは何も無い。流石に調理器具とかは置いていくけどさ。持って行っても邪魔だし。
最初は当分此処へ帰ってこないだろうから、お世話になった皆へ挨拶に行こうかとも考えた。けれども、それで名残惜しくなってしまってはもったいない。漸くこの面倒くさがり屋が旅へ出ようとしているのだ、それなら余計なことはしない方が良いと思うのです。
ま、挨拶へ行くのが面倒くさいって言う理由もあるけどさ。
そんな僕の行動に、きっと怒る人もいるだろう。もしかしたら呆れられるかもしれない。
それでも、動くと決めたのです。まだ見知らぬ食事を探しへ行こうと決めたのです。だから僕は止まらない。
時代には置いてかれてしまったんだ。その代わりに何かを追いかけてみるのも悪くない。
「さてっと……」
それじゃ、行こっかな。
あのスキマ妖怪に頼めば直ぐに外へは出られるだろうけど、あの彼女、何処にいるのかわかんないもん。仕方が無いから博麗神社の裏から抜けさせてもらうとします。
ふふっ、勝手に大結界を抜けたらあの彼女も怒るかな?ま、気にしても仕様が無いか。
持って行く物など何もないから、何も持たずに家を出ると、青々とした葉をつけた桜の木が目に止まった。そう言えばいつかの春、この木の下で桜を見ていたら、こいしちゃんが膝の上に乗ってきたことがあったっけ。そしてその後、幽々子と二人きりのお花見なんかもして……うん、懐かしいものです。
それにしても君、大きくなったねぇ。最初は僕よりも小さかったのに、今ではこんなに大きくなっちゃって……これが生長ってやつなのかな。僕がまた帰ってくるまで君が残っていてくれれば嬉しいな。
さてさて、これ以上思い出へ浸っていても仕様が無い。後ろ髪を引かれてしまう前に出発しようかな。
時刻は日も沈み、そろそろ妖怪たちが騒ぎ出す時間。出発するにゃあちょうど良い。
飛んで博麗神社へ向かっても良いけれど、どうせならと思い、歩いて神社へ向かうことにした。普段は引き篭ってばかりだったけれど、この景色ともこれで当分はお別れ。そう思っちゃうと、やっぱり寂しくなるよね。
ゆっくりと歩を進め神社へ続く山道を行く。道はボコボコだし歩き辛いこと此の上ない。
これじゃあ、参拝客だって神社へ訪れないはずだ。霊夢はそのことを嘆いていたけれど、参道がこの様子では参拝客だって増えはしないだろうね。
それに、あの神社妖怪だらけだもん。それじゃあ人間は怖くて神社へなんて行こうとは思えない。昔はそんなことなかったんだけどなぁ。参拝客だってそれなりには訪れていたし、妖怪は神社へ近づくこともなかった。
それなのに、魑魅魍魎の蔓延る神社となったのはやっぱり霊夢の影響なのかねぇ。良いことなのやら、悪いことなのやら……
そんなことをぽつぽつと考えながら。ふみふみと地面を蹴りながら荒れた参道をゆっくり進んだ。
「むぅ、遠いなぁ……」
こんなに長い距離を歩いたのは久しぶり。外の世界へ行けば歩くことも多くなるだろうし、ちょうど良い足慣らし。
漸く辿り着いた博麗神社に、人影はなかった。
ま、いくら妖怪が蔓延ることが多いと言っても、霊夢が寝ている時は静かな場所。寝ているところを騒いで起こしたらあの巫女怒るもんね。
見送りが誰もいないと言うのも寂しいことではあるけれど、それは僕自身が望んだこと。静かにこっそりと旅へ行かせてもらいましょうか。
――しかし、残念ながらそんな僕の願いが叶うことはなかった。
博麗神社の裏にある、外の世界と幻想郷との間に位置する鳥居の下には一人の少女。
雨も降ってはいない、日も出てはいないと言うのに傘を差し、ゆらゆらとその長い金色の髪を靡かせながら、その少女は立っていた。
「今晩は。こんな時間にお出かけ?」
「今晩は。うん、ちょいとそう言う気分でね」
今日、旅へ出ることは誰にも教えていないんだけどなぁ。どうしてわかったんだろうね。まぁ、盗み聞きの好きなこの妖怪のことだ。どうせ、こっそりと覗いていたんだろう。
「貴方が旅へ出ると、悲しむ子たちが沢山いるわよ?」
「大丈夫。その子たちは強いから、きっとそれでまた一つ成長してくれるよ」
どうせ、僕を止めるつもりなんてないだろうに。どうしてそう言うことを言うのやら。
「お見送り?」
「いえ、たまたま此処に立ち寄っただけ」
ホント、君は素直じゃないねぇ。
たまには正直になってみなさいよ。
「……もう此処には飽きたの?」
此方に顔を向けず、ポツリと彼女が呟いた。
飽きた……か。そうだねぇ。この狭い幻想郷の物は全て食べさせてもらった。それだけじゃあ、僕のお腹は満たされない。
けれども――
「飽きてなんかないさ。毎日、楽しくさせてもらったよ。ちょっと騒がしい時もあったけどさ」
それでも、此処での暮らしは楽しかったよ。
「なら、どうして?」
「お腹が減ったから」
僕が旅へ出ようと思ったのは、ただそれだけの理由です。
今まで、沢山の料理を作ってきた。そんな作った料理を皆に食べてもらってきた。だから今度は僕が食べる番なのです。
「……貴方の言葉の意味はよくわからないわ」
「そりゃあ、そうでしょ。僕だってよくわかってないもの」
どうして旅へ出ようと思ったのか。そんなこと僕にはわからない。そりゃあ、お腹が減っているのもあるけれど、理由は一つじゃないはず。そんな理由はわからない。
けれども、旅へ行きたいと思うこの気持ちは間違ってはいない。それならその気持ちに従ってみるのも悪くはないさ。
「ずるい男……」
そう言う性分だからねぇ。こればっかりは変わってくれない。
「僕が旅へ出ると君は寂しい?」
「…………」
僕の質問に彼女は何も答えはしなかった。
ふふっ、それでいいさ。それくらいでちょうど良い。僕と君との関係はそれくらいがちょうど良い。
「ま、そのうち帰ってくるよ。いつになるのかわからないけれど、きっと帰ってくるからさ」
きっと数十年後にはなっちゃうだろうけれど、帰っては来るはず。
「そう……それなら行ってきなさいな」
「うん、行ってくるよ」
きっと外の世界には僕の知らない食べ物が沢山あるはず。わくわくするね。
「それじゃ、またね。名も知らない妖怪さん」
「ええ、また。名も知らない人間さん」
きっと僕が戻ってくる頃には、時の流れの遅いこの幻想郷だって変わっているはず。それもまた楽しみだ。
長い付き合いなはずなのに、お互いの名前も知らない。そんな君と僕。また一緒に笑いながらお酒が飲めれば嬉しいね。
彼女の横を通り、外の世界へ繋がる鳥居をくぐる。
その瞬間、視界が白へと変わり始めた。
さてさて、どんな世界が待っているんでしょうね?
きっと美味しい食べ物が沢山あるはず。そんなことが楽しみなのです。
読了、お疲れ様でした
漸くこれで完結となります
無事完結もでき、満足満足
食べ物のお話をいくつか書きましたが、お酒の席での話の種にでも使っていただければ私は幸せです
物語自体はフワフワしていてよくわからないお話でしたね
それでも、私は楽しく書けたので、それはそれで良かったと思っています
感想も沢山いただき、お気に入り数もなかなかの量
幸せな限りです
この作品を読んでくださった全ての読者の方に最大限の感謝を
ありがとうございました
では、違う作品か感想欄でお会いしましょう