(・∀・)だいず!
「くはっ……」
そんな情けない声とともに、大きな欠伸が一つ。
時刻は朝と呼ぶのには少々遅い時間。別に朝が苦手なわけではないけれど、昨日は夜ふかしをしていたせいで、どうにも睡眠が足りていないっぽい。てか、ほとんど寝ていない。寝られませんでした。
「ん~……」
大きく伸びをして、欠伸によって押し上げられた涙腺からこぼれ落ちた涙を拭う。
どうやら、また今日も一日が始まるみたいだ。だから今日も声を出す。
「おはよう」
そんな時間でもないし、言葉をかける相手もいないけど、やっぱり起きたときはこの挨拶に限るもの。
店の様子と用意した食材を確認。うん、準備は大丈夫。
「さてっと」
今日も一日が平和に終わることを祈りながら、外へ出て店の看板を裏返した。
――――――――
「くはっ……」
「なんだ?随分と眠そうじゃないか」
目の前にいるのは白黒の魔法使い。女の子としてどうかと思う口調が特徴な子。
店を開けたは良いものの、いつも通りお客さんは現れない。閑古鳥は今日も頑張ってくれているらしい。いい迷惑だ。
人里から離れたこの場所に店を構えたのが悪かったのか、人間のお客さんなんてほとんど来ない。来るのは妖怪、妖精、神、仏。あとは巫女と魔法使いくらいかな。
まぁ、お客さんと言えるのか怪しい奴らばっかりだけどさ。
「いやね、昨日の夜寝ていたらフランちゃんが来て叩き起こされたんだよ。それで徹夜でゲームしてたから眠いんだ」
寝かせてって言ったら
『寝ても良いけど腕ちぎる』
とか言って脅された。鬼かと思った。鬼だった。
そして、フランちゃんはと言うと僕のベットで就寝中。もうやりたい放題だ。いっそ店なんて開けず寝ていようかとも思ったけれど、ベットは占領されているからやめておいた。どうせ寝るのなら気持ちよく寝たい。
「なんだよ、随分と面白そうなことをしていたんだな。私も呼んでくれれば良かったのに」
「呼びに行くの面倒」
此処から魔法の森って遠いんだよね。それに深夜テンションのせいか、酷い有様だったと思う。あまりにも眠くて何をやったのかほとんど覚えていない。たぶん半分寝ていた。
「じゃあ、なんだ?フランドールはまだ此処にいるのか?」
「うん、ぐっすりと眠っているよ」
可愛らしい見た目に反してやることがえげつない。咲夜さん迎えに来てくれないかなぁ。このままだと僕の生活リズムが崩壊する。
「…………」
「おろ?どうしたの?」
ジト目の魔理沙。そんな目で見られても、何かを言ってもらわないとわからないのだけど。
「まぁ、いいや。それで?今日は何の料理を出してくれるんだ?」
「あの、まだ今までのお金もらってないんだけど……」
「ま、それはそのうちな」
うん、わかっていたし、もう諦めている。まぁ、今は別にお金に困っているわけでもないし、それほど問題でもないけどさ。
「はぁ……ん、ちょっと待っててね。今、持ってくるから」
僕の店にメニュー表はない。日毎に、その日の気分で出す料理は変わる。そのせいか自分でもこの店がなんの料理屋なのかわからなくなる。あえて言うのなら小料理屋……なのかな?
そんな自分でもよくわからないこの店で出す今日の料理は――
「今日は枝豆か?」
予め塩茹でし、冷やしておいた物。茹でた枝豆を冷やす時、冷水を使うと味が薄れるから注意が必要。
「うん、そうだね。知ってた?枝豆って未成熟な大豆なんだよ」
「うん、知ってた」
おろ、そうなのか。自信たっぷりに言ったのにちょっと恥ずかしい。ん~意外と知られていないことだと思ったのに。残念です。
まぁ、枝豆は未成熟の大豆ではあるけれど、品種は違うから枝豆を熟成させれば一般的な大豆になるってわけじゃないんだけどさ。
「てなわけで、今日の食材は大豆です」
世界中で広く栽培され、アミノ酸スコアも100点の優秀な食材。日本でも馴染み深く、醤油、味噌、油なんかの調味料から豆乳、豆腐、ずんだ、きな粉なんかの加工食品まで様々な料理に使われる食材。暗所で育てればもやしに、麹菌と酵母で発酵させれば味噌や醤油、納豆菌で発酵させれば納豆にもなる。用途は様々だ。
抜群の栄養価で、豊富なタンパク質を含み畑の肉なんて言われるよね。
「ああ、大豆か」
食材として優秀なこともあるけれど、炒った大豆なら鬼だって退治できる。超優秀だね!
試しにと思って萃香に投げつけたら。返り討ちにあってボコボコにされたからもうやらないけど。鬼かと思った。
「何をやってるんだよ……」
ちょっと遊んでみただけです。
どうしてかわからないけど、店の中に萃香がいたから、炒り豆で鬼は外やってみた。萃香ブチギレた。マジ怖い。
いつかの節分の日は、誰も豆撒いてくれなかったって半泣きになっていたのにね。
どうやら、節分の日以外でやると怒るらしい。
「そう言えばさ、大豆と言えば豆腐だろ?どうして豆腐って、豆が腐るって書くんだ?」
出した枝豆を食べながら魔理沙が聞いてきた。ちゃんと僕の分も残しておいてよ。
「んとね、詳しくはないけれど、豆腐は元々中国から伝わってきた食材なんだ」
「美鈴か」
違います。
中国のこと美鈴って呼ぶのやめてあげようよ。可哀想でしょ。
「んで、豆腐の腐の字はどうやら元々、柔らかく弾力性のある物って言う意味らしいんだ。けれども、日本では腐るって言う意味が強いから、納豆と豆腐は名前が入れ替わっちゃったなんて言う俗説もあるよ。まぁ、それは違うと思うけど」
また、腐の字はどうして嫌われるから、日本では豆腐ではなく豆富なんて書く時もあるね。中国ではそんなことを気にすることはないらしいけど。
「じゃあ、豆腐は別に腐っているわけじゃないのか?」
「うん、そうだよ。豆腐は豆乳を固めただけだし」
豆腐ついでに、木綿豆腐と絹ごし豆腐の違いを話すけど、木綿豆腐ってのは豆乳に凝固剤を加えて一度固めたものをくずしてから、圧力をかけて水分を搾り、再び固めた物。絹ごし豆腐は、木綿豆腐に使う豆乳より濃い豆乳に凝固剤を加えて、そのまま固めて作った物。
だから、水分を搾った木綿豆腐は絹ごし豆腐よりも栄養価は高め。ただ、水分を搾っちゃうから水溶性ビタミンなんかは絹ごし豆腐の方が多く含まれるよ。
因みにだけど、食用大豆は油を抜かすと豆腐に一番使われているかな。その次は味噌と納豆が同じくらい。
「ま、私は美味しければなんだって良いけどな」
また身も蓋もないことを……けれどもまぁ、食ってのはそんなものなのかもね。どんなに高級でどんなに貴重な食材だろうと、結局のところ美味しくなければ仕方が無い。
美味しい物を追い続け、人類の発展と共に、食文化も発展してきた。美味しい物を美味しく食べることができるってのは幸せなことなんだろう。
な~んてね。
枝豆だけと言うのも寂しかったので、先程話題に上がった絹ごし豆腐も魔理沙に出してあげることにした。
「ありがとう」
どういたしまして。
それにしても、客さん来ないね。もっと繁盛してくれれば、一々人里へ行って稼いでくる必要がなくなるのに。屋台引っ張って行くの面倒なんだ。
人里で暮らせば解決するけれど、それじゃあ味気ない。料理も人生も味くらいは欲しいもの。
この店には、碌なお客が訪れることはない。でも、意外とこの生活も気に入っていたりします。ちょいと味が濃すぎる時もあるけどさ。
「そう言えばさ、この前霊夢が――
美味しい料理は話の花を咲かせてくれる。
食べる食材に感謝をして、少しばかりの舌鼓。
少しの料理で少しの幸せ。人生それくらいがちょうど良い。それくらいでちょうど良い。
そう思ったりする人生です。
読了お疲れ様でした
基本的には一話完結を目指していきます
お暇な時にでも読んでみてください
お酒のお話も書きたいですね
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております