横島の道   作:赤紗

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親友

 

GS協会内部にて唐巣は異常をその身に感じとっていた。聖職者である神父からみても此処は聖域のように清められてるのだ。

 

「…やはり気配は無いか。しかしだとすれば一体何が…」

 

 ヴォン!!

 

その時一台のデスクトップパソコンが突如起動したのだ。驚きそちらを見ると画面が光を放ち一人の人物が現れた。

 

「ヒ、ヒャクメ様!?」

 

そこに居たのは全身血に染まった、百の目を持つ神が倒れていたのだった

 

『…し、神父 …逃げるのね。連中が …戻ってくる前に』

 

慌てて駆け寄った唐巣にヒャクメは辛うじて告げる。危険を…

 

「一体何が有ったのですか? いや、そんな事より先に応援と治療を呼びます」

 

『ダメなのね。…それよりも、…コレを 妙神山に』

 

そう言ってヒャクメが差し出したのは自身の額中央に位置する眼球だった。

 

『それに …全ての情報が …急いで、…手遅れになる前に』

 

「しかし貴方様を置いて行くことは…」

 

『いいのね。…私はもう助からない。…行って下さい』

 

「しかし…」

 

『…お願いなのね』

 

確かに自分には治療する術はなくどうすることも出来ない。此処が敵地であるならば自分は一刻も速くに情報を持ち帰るべきだ。

本当は一目見た瞬間にもう分かっていた。…彼女がもう助からない事など

ただ感情が認めたくなかっただけなのだ。

 

『行って、…私を犬死にはさせないで』

 

そう言うヒャクメは口からヒュー、ヒューという異音と共に呼吸が乱れて弱まっていた。

 

「仇は、…仇は必ず!!」

 

そう言うと唐巣はその場を後に妙神山に向かうしかなかった。

 

 

 

彼の行く背中を目にしたヒャクメは嬉しそうに微笑んでいた。

連中に殺されかけた時、とっさに瞬間移動で逃げたように見せたが、そこまでの力は既に残されておらずパソコンに潜み機会を窺っていたのだ。

そんな中で神父が来たのはまさに僥倖だった。もはや動くことも満足に出来ない状態の中、敵が居ないタイミングで来てくれたのだ。

 

 

ヒャクメの脳裏に走馬灯が過ぎる。

決して恵まれた人生では無かった。妖怪出身のヒャクメは能力を買われて神族として迎え入れられという経歴だ。その為、認められようと彼女は調査官としての仕事を真面目に努力して成果を上げ昇進した。

けれども昇進出来たことが結果として自身の能力を広めてしまい、その能力故に他の神族に疎まれてしまった。

力を発揮すればするほど彼女は周囲から忌避された。それだけ彼女の心を読み取るという能力が高いということを示したからだ。

そんな中で、心が見える私を受け入れてくれるのが小竜姫ぐらいであり、彼女は良くも悪くも裏表がない。心を覗かれたとしても、何ら恥ずべきところはないということがあってこそだろう。

他の神族は後ろめたいことや、隠しておきたいことの一つや二つは有り人間と変わらないのだ。

そんな中で小竜姫の存在は救いであり彼女と過ごす時間は大切で、かけがえのない大切なひと時となった。

 

 

――そして、人間の男性で初めて出来た親友

 

彼は考えた事を端から口にするような人間であり初対面から「文珠の中から美少女を出したんだから俺の所有物ッ!!」と言いながら抱きついてくるような非常識人だがヒャクメはあまり気にしない。何故なら男はみんな心の中は同じであり、人も神も魔も建前があろうが考えている事は一緒であるのだ。

下手に欲望を隠して偽善的な者達に比べると横島は、まだマシでヒャクメからすれば付き合いやすかった。

平安京の事件以降も横島に興味を持ったヒャクメは、持ち前の好奇心から仕事の合間に覗きをしていたのだ。

 

余談ではあるが、この覗きは月の事件の際に横島とコンタクトを取るのに役に立っている。

その後も会いに行きたかったが仕事が忙しく時間が取れなかったのだ。

 

そして南米でアシュタロス逮捕に向かう神魔合同チーム選ばれたヒャクメはその任務中に逆天号の性能もありチームが全滅しヒャクメ自身も捕虜(ペット)になる。

そんな中で横島が捕まり、一緒に捕虜になったさいには、おもわず抱きついている。その後で美神に気が付くも正直横島が来て安心したのだ。

だから内部からの破壊工作にも手を貸したのだ。戦闘要員でも無いヒャクメが…

もっとも、やりすぎて横島は逆天号の中に取り残されてしまったのだが

 

逆天号とUSS空母インクレータブル戦の時に美神美智恵が横島を本気で切り捨てて敵を抹殺しようとしているのをヒャクメは見ていた。

西条は「横島君の信用度は上がった。潜入中の彼の安全を確保するのが目的だったんですね。」などと言っていたが美智恵は本気で横島ごと始末しようとしていたのだ。

この件以降ヒャクメは内心密かに美智恵を警戒していた。

 

―――そして

 

横島が帰還して美神令子、おキヌ、ヒャクメと再会した時

 

「――ただいま」

 

―――彼の笑顔は何時も覗いて見ていた

 

――――それでも、…この笑顔にヒャクメは心惹かれたのだ

 

――――それは、きっと、恋と呼べるものではないのだけれど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺には女のコを好きになる資格なんかなかった……!! なのに、あいつそんな俺のために……!! うわああああああッ……!!」

 

――――絶叫、慟哭

 

事件の調査と報告の為に各人の記憶を覗いた。…あの時ほど自分の役目を呪ったことはない。

……私は何の力にもなれなかった、何の手助けも出来なかった。

 

 

 

悲恋と絶望の物語であり救いは無く行き着く先に始まった彼の後悔の日々

引き裂かれんばかりの虚無と絶望が彼を蝕み

その後に発覚した美神美智恵の真実に怒りと悲しみで彼が壊れていく

 

そんな中で発覚した美神美智恵の“横島忠夫抹殺”という恥知らずな思惑。

そして文珠の情報を公開したせいによってGS協会、オカルトGメンの横島忠夫捕獲命令

…人間としてでは無く魔族としての捕獲命令、…洗脳、及び人工的文珠の生産機への転換が目的であり人権すら無く処理されようとしている

 

――――ふざけるな何だそれは!

 

ヒャクメは自ら神罰を下しに行こうとしたが

 

『まて! 此度の件は一神族だけで動く事は許されぬ。御主はその能力を使いどの人間が関わっているのか調べ監視せよ! …動くときは神魔合同での逮捕となる。』

 

老師に言われた私は直ぐに調査チームに志願して任につけた。

 

 

そして――――

 

 

チームは全滅。対人間を想定していた為、ある意味で此方に油断があった。本部に連絡前に奇襲を受けてしまい情報を届けられぬままであり、私はまた役に立たず終わるところだった

だが情報は届けられた。私も最低限の役目を果たせたのだろう

 

 

 

 

―――意識が遠のく

 

 

 

思い浮かぶのは横島の、あの時の笑顔

 

 

 

――――ヒャクメの体が粒子となり崩れていく

 

 

 

……ああ、そうか私は彼の笑顔がもう一度見たかったんだ。

 

愛することを知った男の表情ながらも笑顔は親しいものにだけ向ける親愛の笑顔

 

心が見える私を受け入れてくれる横島さんが向けてくれた、あの笑顔にヒャクメは心惹かれたのだ。たとえ自分だけに向けられたものじゃないと解っていながらも

 

『…小竜姫 後は …頼むのね』

 

彼に笑顔を取り戻させたい。だが自分ではもう無理だ。ならばこの想いもう一人の親友に託そう、彼女なら大丈夫だ彼女ならきっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵まれた人生では無かった

 

後悔が無かったわけでもない

 

でも、……私は幸せだった 小竜姫と横島に出会い私の人生は変わった

 

願わくば2人のこれからに多くの幸せが訪れん事を…

 

 

 

 

――――ヒャクメは光となり消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻妙神山―

 

神炎の中で眠りし竜が突如目覚め、人間界 …ヒャクメが消滅した場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

―人間界―

唐巣は妙神山に向かいながらヒャクメの彼女の死を悟った。湧き上がる激情を抑えながらも妙神山へ一刻も速く向かうしか出来なかった。




更新遅れました。
今回はヒャクメの話ですが、此処から物語りは動き出します。
美神美智恵や西条なども事件とどう関わるのか?
そしてメドーサの目的などなど
次回もご期待下さい。

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