一部のキャラの性格がちょっと変わっています。
放課後、第二アリーナのフィールドの隅で、簪は翔が来るのを待っていた。
観客席では、「世界で二番目にISを動かした男」のIS練習を観に、生徒達が集まっていた。
しかし、生徒達の視線は「期待」の視線ではなく、「軽蔑」と「疑惑」の視線で溢れていた。
「代表候補生を脅迫した」という噂が学園中に広がっていたからだ。最初は、口論したという話が広まっていたが、何かの情報の行き違いか、代表候補生の脅迫に変わってしまった。
アリーナに行くまでの間に簪もそういう心無い噂を耳にした。その度に、胸の奥が苦しい気分に襲われた。その度に、翔に対する偏見をなくすには、どうすればいいのか考えた。今回のIS練習をきっかけにすれば、周りの目も変わるかもしれない。そう考えた簪は、意を決してアリーナへ向かった。
「翔・・・まだかな」
だが、肝心の翔が来てない。ISスーツが届いたと言うが、スーツを着るのに時間が掛かるのか。
「おう。待たせてすまない」
「翔、待って・・・た?」
背後から翔の声がして振り返ると、翔がいた。そして、左手には・・・「打鉄」を引きずっていた。
「翔・・・何してるの?」
「ISを付けて行こうとしたけど、歩かないんだよこいつ。」
「だからって、引きずるのは・・・」
「それ以外方法が無かった」
「・・・はぁ」
彼は、バカだった。
「まずは・・・ISの歩行訓練したいけど・・・」
「どうした?」
「翔・・・それはISスーツなの・・・?」
「ああ。ISスーツはこんなもんなのか?」
「違う」
ISスーツ。ISを効率的に運用するための専用衣装であり、バイタルデータを検出するセンサーと端末が組み込まれている。体を動かす際に筋肉から出る電気信号などを増幅してISに伝達し、ISを動かすという仕組みになっている。
通常のISスーツはスクール水着状のレオタードと膝上サポーターの格好なのだが、翔の着ているISスーツは、黒いタキシードを纏い、頭にはS字を90度回転させたような、独特な形の黒いテンガロンハット。それはまさしく・・・
「どう見てもそれ・・・ヴァ「それは言わなくていい」分かった」
さすがの
「じゃあ、翔・・・ISに乗ってみて・・・」
「分かった。で・・・どうすればいいんだ?」
「ISに・・・触れてみて」
簪に言われたとおりに翔は打鉄に触れた。その瞬間、彼の頭に情報が流れ、気付いた時には視線が高くなっていた。目の前を見ると、簪を見下ろしていた。
「翔・・・とりあえず歩いてみて」
「おう・・・って、どうやって?」
「とりあえず・・・自分の感覚で・・・歩いてみて」
「分かった」
翔はとりあえずISで歩いてみた。そして、二歩目で盛大に転んだ。
その姿を見て、観客席にいた生徒達は笑っていた。
「あれが、代表候補生に喧嘩を持ちかけた人?」
「大したことないじゃん」
「あれで、勝てるのかしら?」
そんな心無い言葉が飛び散る中、簪はすぐに翔の所へ駆けだした。
「大丈夫?」
「大丈夫だが、またかよ・・・」
「また?」
「ああ、簪にはまだ話してなかったか。実技試験のこと」
「受けたんだ・・・」
「無理矢理だったけどな」
翔は簪にIS実技試験での出来事を話した。
「相手はものすごく強くてさ、結局負けたんだ。だけど、俺の戦い方を見てなんか驚いた様子だったよ。今でもあの驚いた顔は覚えてるよ。それで試験が終わった後、なんか俺の乗ったISに集まって話してたなあ。制御がどうとか、反応がどうとか・・・」
ハッキリいえば曖昧な記憶であった。しかし、簪はこの曖昧な記憶の中に何かハッキリとしたものがあると気付いた。
「翔・・・」
「なんだ?」
「ISで・・・飛べる?」
「やってみる」
簪の言葉の意味を理解せず、翔はISで飛んでみた。
その瞬間、翔が目の前でいなくなり、周りに強風が巻き起こった。
簪は、一体何が起こったのか理解できず戸惑っていると、
「簪、次はどうすればいい?」
翔は上空にいた。だが、簪も周りの生徒達も驚いた。なぜなら、観客席を守るために張られているシールドエネルギーの頂上にいた。しかも飛んで1秒足らず。
「え、えっと・・・降りてきて」
「分かった」
翔は言われたとおりに降りてきた。だが、簪が驚いている意味は理解できなかった。
「なあ、簪。俺変な事したか?」
「ううん、そうじゃない。次は・・・さっき飛んだ感覚で・・・フィールドを駆け巡って・・・」
「おう」
翔は、言われたとおりにISでフィールドを駆け巡った。そして簪の予想は、確信へと移った。
「
長距離ならまだしも、50mもない短距離でそんな離れ業を平然とやってるのであった。
生徒達も簪も呆然としていた。訓練用のISで、未確認飛行物体のような動きをするのは、誰一人としていないからである。いや、いても人間の体が耐えられるはずがない。
無論、そんな離れ業にISが耐えきれる訳も無く打鉄の全身は黒い煙を出していた。
「翔・・・フィールドの中央で・・・止まって降りて」
「分かった」
フィールドの中央で止まり、降りた打鉄は機体の限界など超えていた。全身にヒビが入っており、全身から黒煙を出しながら、あちこち火花が走っていた。それなのに翔は、息一つ乱れてる様子など無かった。
「大丈夫・・・翔」
「・・・ISは大丈夫じゃない」
そう言い、翔がISを降りた瞬間、力を使い果たし崩れ落ちるかの如く打鉄は倒れた。翔自体に特に変わった様子も無く、倒れた打鉄を見つめていた。
「翔・・・アリーナでの練習は・・・終わり」
「え!?終わるの?」
「うん・・・次は部屋で、対策会議」
「お、おう。で、どうするIS?」
「翔が・・・運んで」
突然の終了を告げられ、戸惑いながらも翔は打鉄を引きずりながら、アリーナを出て行った。
(あれなら代表候補生に・・・勝てるかも・・・しれない)
そんな思いを簪は、翔の動きを見て実感していた。後、セシリアの安否を気にかけた。
部屋に戻り、翔と簪はパソコンでセシリアの試合映像を観ていた。
「これがあいつのISかあ。」
「名前はブルーティアーズ。イギリスが開発した、第三世代型IS。射撃に特化した機体で、BT兵器を搭載している」
「BT兵器?」
「脳波で遠隔操作する・・・兵器」
「それって・・・」
「うん。・・・それよ」
BT兵器が某ロボットアニメの兵器に酷似しているとツッコミたかったが、野暮だと二人は悟り試合映像を観つづけた。途中、セシリアの試合映像を観ながら、気になるところを一時停止し、ノートに書き込んでいた。
「こいつ、近距離武器持ってねえのか?」
「多分、BT兵器で済ませてるから、あっても使ってないと思う」
「ミサイル、腰に付けてるのにあまり使わねえのかコイツ?」
「それに、BT兵器を使ってる間は・・・動いていない」
その後、試合映像を観終わった二人は、セシリアとの試合対策を話し合っていた。
「一気に懐に近づけば勝てるのか?」
「その前に、BT兵器をどうにかしないと・・・」
「避ければいいじゃねえか」
「翔の扱いだと、避けて近づく前に・・・ISが壊れる」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「明日から・・・ISの基本動作の練習」
「あれじゃダメなのか?」
「ISが、ダメになる」
話し合った結果、「セシリアはBT兵器を使ってる間は動けない」という一点に絞り、ISの基本動作の練習を兼ねての、対セシリア戦の特訓を開始することにした。
「明日、アリーナは使えるのか?」
「明日も使えるはず。放課後使えるように予約するから」
「分かった。これであのドリル野郎に、一泡吹かせることができる」
「本当に泡を吹きそうで・・・怖い」
「おい、どういう意味だよ?」
「・・・そのままの意味」
簪のきつめのジョークを喰らい翔が苦笑いしてる中、ドアをノックする音が二人の部屋に響いた。
「ん?」
「・・・誰?」
「やっほ~。かんちゃ~ん、さ~や~ん」
ドアを開けたのは、ダボダボの制服の袖を振り回して
「誰だ、お前?見かけねえ奴だな」
翔の発言に少し落ち込んだ、布仏本音だった。
「本音・・・」
「なんだ。お前の知り合いか?」
「知り合いというより・・・幼馴染」
「・・・こいつが?」
翔は、不機嫌に袖をブンブン振り回して本音を指差した。
「さーやんは相変わらず物覚えが悪くて、ショックだよ~」
「さーやんって、誰だ?」
「さーやんは、さーやんだよ」
「は?」
本音のマイペースぶりに、さすがの翔も困惑していたが、面倒と感じ本音の用件を聞いた。
「で、何の用だ?」
「かんちゃんに、話があって「かんちゃん?」うん」
「翔、かんちゃんは私」
「簪!?」
「本音・・・いろんな人に、あだ名をつける癖があるの」
「・・・はあ。じゃあ、さっさと用件済ませろ。俺は先に飯を食いに行ってるから」
「ありがとう」
翔は若干退屈な表情をしながら、部屋を後にした。
「いや~。かんちゃんの恋人がさーやんだなんて、人生何が起こるか分からないな~」
「恥ずかしいから・・・あまり言わないで」
本音の突然の発言に簪は、顔を赤くしながらも、話を無理矢理変えた。
「それで、本音・・・用件は何?」
「おお~、そうだった」
本音は本来の用事を思い出し、簪に問いかけた。
「ねえ、かんちゃん」
「何?」
「かいちょ~と仲直りしても「しない」え・・・」
簪の即答に、本音も戸惑いを隠せなかった。
「でも、かんちゃん。会長は十分反省し「そういう問題じゃないの、本音」」
本音の言葉を静し、簪は語り始めた。
「本音の言いたいことは・・・分かる。お姉ちゃんと仲直りして・・・昔のように一緒にいよう・・・って言いたいんでしょ。でも・・・それはできない。お姉ちゃんは、私がいなくなっても、明日を見続けて・・・歩いて行った。私も、お姉ちゃんがいなくても・・・自分の手で明日を見続けて・・・歩くことができた。それが、互いに交わることのない道であったとしても・・・私はその道を選んだ。新しい自分、新しい仲間、新しい居場所・・・私はその道で得たものを捨てて、昔に戻るつもりは・・・ない」
本音は簪の強い意志を見て、驚きと悲しみを感じずにはいられなかった。
中学二年の転校以降、姉妹の仲は悪くなっていった。何度か簪に声をかけても答える素振りを見せず、買い物に誘っても毎回断る。簪が男子と一緒に下校している所を目撃し、半分からかいながら姉が問いかけても、一言もしゃべらず、部屋に行ってしまった。IS学園に入学し、友達との会話を楽しんでても、姉と話すことは無くなった。そんな状況に、本音は何もできない自分に葛藤していた。
「でも、その得たものを捨てずに仲直りすることだ「本音。言いたいことがあるの」え、なに?」
なんとか説得しようとする本音に、簪は突然問いかけた。
「私は決めたの。お姉ちゃんとか・・・更識の人間とか関係なく・・・自分の手で明日を・・・見たいの」
「かんちゃん・・・」
「だから、お姉ちゃんに伝えて。『私は、自分の選んだ道を歩きます』」
「わかった、伝えるよ。でも・・・」
本音は一旦呼吸を整え、覚悟を決めた。
「かんちゃんとかいちょーが仲直りするまで私、あきらめないから。何度も説得しに来るから!」
そう言い、本音はそのまま走って部屋を出た。
「本音・・・」
本音は本気で簪と姉の仲を戻すと宣言した。嘘でもなんでもなく、それを本気で行うと感じると共に、とある不安が頭をよぎった。
「廊下走ったら・・・織斑先生に怒られるのに」
直後、その不安は的中した。
本音のキャラがいまいち掴めない・・・
後、
次回なんですが、セシリア戦にしようか、番外編(織斑マドカ視点の話)にしようか、悩んでいます。
番外編は、1、2話程度で終わる予定にしております。
それとも、これとは全く違うISのSSを作ろうかな・・・
ご意見、よろしくお願いします。