バカとIS   作:陸のトリントン

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みなさん、お久しぶりです。

久々の更新です。

思うように書けなかったり、他の作品の執筆に時間を掛けたりしましたが、更新し続けるのでどうか見守ってください。


第十九話 バカと「カギ爪」

「清香さん!」

 

「くっ」

 

簪の叫び声を無視し、マドカは小型の銃に弾を装填し再びカギ爪に銃口を向けたが・・・

 

「・・・・・・」

 

「ぐあっ!」

 

女の三棍棒がマドカを銃ごと吹き飛ばし、二度目の射殺は未遂に終わった。

 

「こちら第一アリーナ東側通路。ケースWEが発生。こちらで対処可能ですが、念のために学園にも通達をお願いします」

 

女は首に着けてあるネックレス型通信機で何者かと会話をし、事態の収拾を行っているが・・・

 

「く・・・」

 

マドカは諦めてはいなかった。

 

「何度やっても同じです。あなたの夢は私を殺せない。だから、一緒に夢を見ませんか?みんな仲良く、幸せに暮らせるように」

 

カギ爪の男は何事も無かったかのようにマドカに近づきカギ爪を差し伸べた。

 

「清香さん!しっかりして!」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

簪は近くにあった救急キットで清香の治療に専念していた。傷は深くなく、清香は起き上がりマドカの方を見つめた。今の自分ではマドカを止めることは出来ない。

 

「・・・・・・」

 

一方の翔は何かを見極めるかのようにマドカとカギ爪の男を見ていた。

 

「夢・・・か・・・」

 

「ふふっ」

 

マドカはカギ爪の手を両手で優しく握りゆっくりと立ち上がる。その顔はカギ爪の男の言葉に共感したのか優しい笑顔だった。カギ爪も自分の夢を理解してくれたと思い、笑顔で返した。

 

だが・・・

 

 

 

「捕まえたぁ!」

 

 

 

マドカの笑顔は狂気に満ちた(オリジナル)笑顔へと変わった。

 

マドカの左足の靴底から発砲音が数回鳴り響く。その直後、通路の地下から何かが近づいて来るのか、振動と音が大きくなっていく。

 

「思い出させてやる、お前に!」

 

マドカの背後から大きな土煙と轟音を上げて何かが現れた。

 

「そう、これが・・・」

 

その何かは、蒼い蝶をイメージしたようなフォルムをしたISであり、背中のスラスターも蝶の羽をイメージした造りになっている。

 

「スコールとオータムが私に託した・・・」

 

ただ、操縦者のスペースには装甲が覆われており、顔の部分にはドーム型の顔に黄色のツインアイが施されていた。

 

「サイレント・ゼフィルスだ!」

 

マドカは左靴の踵を地面に強く叩きつけ、サイレント・ゼフィルスを起動させた。

 

「マドカ!」

 

「逃げろ相川!今から私はこいつと共に死ぬ!」

 

「死ぬって・・・」

 

マドカの迷いのない叫びに簪と清香はただ呆然とするしかなかった。

 

「ふんっ!」

 

再度マドカは左靴の踵を地面に叩きつける。サイレント・ゼフィルスはそれに応えるようにライフルをカギ爪に向けた。

 

「っ!これは・・・」

 

「ん!?」

 

カギ爪はライフルを向けるサイレント・ゼフィルスに怯えるどころか、何かを思い出したように見つめる。

 

「思い出しました。これは廃校所で・・・」

 

「ああ、そうだ!貴様に殺されたスコールとオータムの形見だ!」

 

「それは違う」

 

「何っ!?」

 

カギ爪はマドカに目を向けることなく語り始めた。

 

「この技術、設計思想、私の夢を支える一つになっている。ああそうだ、二人は私の中で生きている。ということは・・・あなたの夢はおかしい。生きている人の仇なんてとれませんよ」

 

「二人を汚す気かぁ!」

 

マドカは我を忘れ、左足の踵を地面に叩きつけた。

 

だが、サイレント・ゼフィルスのライフルは一機のISらしきものに妨害されていた。

 

「何っ!?」

 

女性のフォルムを持ち、どこかしらの植物をイメージさせるデザインをした桃色のISらしきものである。

 

搭乗者は三節棍の使い手の女であった。

 

「道志!早く避難を!」

 

女は三棍棒を器用に扱い、マドカとカギ爪を突き放した。

 

「貴様・・・!」

 

「道志の邪魔をするなら容赦はしません!」

 

女はサイレント・ゼフィルスを三節棍で破壊し、マドカの退路を塞いだ。

 

「くっ!」

 

「少し・・・お仕置きが必要ですね」

 

マドカは避ける術もなく、三節棍の一振りを喰らった

 

 

 

「あらよっ!」

 

 

 

・・・訳もなく、(バカ)があっさりと太刀で切り払ったのである。

 

「貴様・・・」

 

「悪いな。あのカギ爪を見てると、どうも気持ちが悪くてな」

 

翔はそのまま太刀を女に向け、戦闘態勢に入った。

 

「何をしているの!?」

 

だが、この戦いは教職員によってあっけない幕切れとなった。

 

 

 

 

 

 

「私の連絡が早ければ、このような事態にはなりませんでした」

 

「い、いえいえ!こちら側の不祥事が無ければ早くこれたので・・・お、落ち込まないでください!」

 

応接室で丁寧に謝罪をしている女に山田先生は慌てながらも、事情聴取を行っていた。

 

「ですが、織斑さんがそのようなことを・・・」

 

「はい。何か心当たりは・・・」

 

「申し訳ございません。生徒のプライベートに関わる質問は答えられませんので・・・」

 

「そうですか」

 

だが、応接室にカギ爪の男はいなかった。

 

 

 

 

 

 

「佐山、その話は本当か?」

 

「そうだが。なあ、簪?」

 

「う、うん・・・」

 

一方、生徒指導室では翔と簪が千冬の事情聴取を受けていた。

 

「にわかに信じ難い話だな」

 

千冬は二人からカギ爪の男について聞いたが、信じようにも信じられない話であった。

 

カギ爪の男の話は真実味が欠けるものだと感じていた。だが翔は嘘を言えるほどの口が上手いわけではない。常に感じ、思った事を口にする男であることを理解している。

 

「この件に関しては他の人に話すな」

 

「なんでだよ?」

 

「マドカがどうしてカギ爪の男を殺そうとしたか。カギ爪の夢は何なのか。はっきり言えば、色々と分からなさすぎる」

 

そう言い、千冬は開いていた冊子を閉じた。

 

「事情聴取は今回で終わりだ。特別保護観察は今日が最後だ」

 

「・・・特別保護観察?」

 

「翔・・・これ」

 

シャルルの授業ですっかり忘れている翔のために簪は特別保護観察の概要書を渡した。

 

「ああ、こんなのあったな。で、今日が最終日なのか?」

 

「・・・・・・そうだ」

 

千冬は自分が教師として向いているのか、疑問を持ち始めた。

 

「マドベはどうなった?」

 

「マドカの事か。あいつは一か月の謹慎だ」

 

マドカの行った行為は退学不可避の行動であったが、千冬の必死の交渉(?)で一か月の謹慎で済まされた。ちなみに千冬の交渉は武力行使を辞さないと言われるが、真相は不明である。

 

「で・・・えっと・・・相川って奴はどうなった?」

 

「相川は保健室で安静にして・・・い・・・」

 

「どうした?」

 

千冬は開いた口が塞がってないまま、翔を見つめた。

 

「佐山・・・今、なんて言った?」

 

「どうした?」

 

「その前のセリフだ」

 

「相川って奴はどうなったって」

 

「・・・そうか。二人とも、もう部屋に戻っていい。後、佐山のISスーツは部屋に置いてある。確認を怠るな」

 

そう言い、千冬は生徒指導室を後にした。

 

「簪。俺、何かいけないこと言ったか?」

 

「ううん、言ってない」

 

簪は理解している。翔が初めてクラスメイトの名前を覚えていたことに。

 

(先生・・・辛かったんだ)

 

簪はそんな世界最強に僅かながら親近感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

「で、どうなんだ?」

 

―ああ。二人の話が本当なら、これは少しヤバいかも―

 

寮長室で千冬は成美にマドカの起こした事件について電話で話していた。

 

―しかし、そっちは大変ねぇ。フィールドも廊下も事件が発生して、事故の後始末大変だっただろうな。しかしIS学園のセキュリティー大丈夫なのか?―

 

「こちらの心配は無用だ。で、何がヤバいのか説明して欲しいんだが」

 

―分かった、説明をする。そのカギ爪と一緒にいた女が乗ったのはおそらくISではない―

 

「どういう意味だ?」

 

千冬の驚愕に動じることなく、成美は手元の資料をめくりながら話し続けた。

 

―その姿に非常に似た機体が30年前にあって、武装も同じときてる―

 

「では・・・あれは・・・」

 

―これはあくまで私の推測だ。ISを難なく無人機に仕上げるマドカの技術力も気になるしな。で、そっちの方はどうだ?―

 

「残念だが、すべての質問を黙秘で貫いた」

 

―そうか。それじゃ、スコールとオータムが手掛かりか―

 

「そこは生徒会にも協力を・・・」

 

―それは危険じゃないか?―

 

「・・・分かっている」

 

成美の言葉に千冬は重い顔をした。

 

楯無は佐山翔を危険視し、簪との関係は最悪の状態。今回の事件をきっかけに取返しのつかない事が起こるのではないかと成美は心配していた。

 

―危ないと思ったら私に電話しろ。すぐに駆けつけるから―

 

「そんな状況になったら、電話しよう」

 

少なくとも千冬は成美の事をあの天才と比べ、それなりに信頼はしている。

 

―じゃあ、私は翔ちゃんの専用機の仕上げに取り掛かるからお前はさっさと一夏の―

 

プツッ

 

直ぐに下ネタを言おうとする部分を除いては・・・

 

「ふぅ」

 

電話を切った千冬はスーツのまま、ベットに倒れこんだ。

 

「30年前の技術・・・か」

 

千冬はバッグから雑誌を取り出し、気怠そうに読み始めた。

 

「束・・・お前は30年前の技術を使ってISを作ったのか?」

 

千冬の問いに答える者などなく、雑誌のページをめくる音だけが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「おお!俺のISスーツ、傷一つ付いていない!」

 

「そんなに・・・大事なの?」

 

「ああ。簪の次の次の次の次に大事な物だ!」

 

「そんなに大事そうに思ってない」

 

一方、翔と簪は部屋に戻って就寝の準備をしている。いつもなら翔は太刀の練習をしているのだが、簪が一緒に寝たいと言い出し中止となった。

 

「いいのか?俺と一緒に寝て」

 

「大丈夫・・・今日は・・・その方が安心できるから」

 

「あのカギ爪の男が怖いからか?」

 

「私・・・あの人の言ってる事が怖くて・・・その・・・」

 

「大丈夫だ。簪に指一本触れさせはしねぇ。俺はお前を守るって決めたからな」

 

「ありがとう・・・」

 

カギ爪の背後にある恐怖。それでも今の簪には翔の言葉が心地よかった。

 

「そうだ、簪。近い内、林間学校が「臨海学校だよ」そうだった。それでさ、水着買いに行こうよ」

 

翔は簪に笑顔でいて欲しいため、不器用ながら話題を臨海学校に変えて雰囲気を変えようとした。

 

「そうだね。気分転換にもなるし・・・今週の土曜日でも買いに行こう。ちゃんと翔の水着を買わないとね」

 

・・・が、それ以上に面倒なことが発生した。

 

「今までのじゃダメなのか?」

 

「どう考えても・・・ダメ」

 

「どこが?」

 

「黒スーツのズボンを水着にはしないよ」

 

翔は中学に入るまで、学校指定の水着を使っていた。しかし、中学に入学時に会社の予算不足が原因で学校指定の水着が買えなくなったのである。仕方なく黒スーツのズボンを水着代わりにして泳いだ所、水泳部のエース達の記録を次々と更新していった。おまけに水着より泳ぎやすいこともあってか、中学三年間黒のスーツで泳ぎ続けた。

 

「あれ、結構泳ぎやすいんだぜ」

 

「でも、スーツはダメ。泳ぐだけが・・・海の楽しみの全てじゃない」

 

「そうなのか?」

 

「だから、一緒に買いに行ってあげる」

 

「いや、それぐら「翔・・・」だから「翔・・・」あの「一緒に買いに行こう」・・・分かった」

 

こうして、翔の水着コーディネート計画が始動した。

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・そんな・・・」

 

夜中、楯無は自分の部屋で机に座り資料を読んでいた。

 

ただ、その資料に書かれている内容に彼女は驚きを隠せなかった。

 

「一体、何が起こってるの・・・」

 

楯無はただ呆然とするしかなかった。その資料には・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡国企業が謎の組織に壊滅されたという情報が載っていた。




次回は、シャルロットの紹介からレゾナンスの買い物までを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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