バカとIS   作:陸のトリントン

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今回は翔と簪のクラスリーグマッチ戦です。

久々の戦闘・・・表現が難しい。


第十八話 バカと「タッグ」

クラスリーグマッチ当日

 

第一アリーナのピットで翔と簪はISの最終確認を行っていた。

 

特に翔のISは、簪の持てる知識を注ぎ込んで改修されているため、入念な確認が行われているが・・・

 

「翔、大丈夫?」

 

「ああ・・・ったく、あいつら容赦なく俺を可愛がってくれるじゃねえか・・・」

 

翔のコンディションはあまり良くなかった。

 

シャルル考案の『翔の常識力向上授業』で翔は疲労困憊状態である。箒による剣士の心得、セシリアによる英国式女生との接し方、鈴によるTPO講座、谷本によるIS学園での過ごし方・・・etc

 

クラスリーグマッチが始まるまでの間、翔はそれらの知識を詰め込まれては忘れ、詰め込まれては忘れを繰り返し、頭はショート寸前にまで追い込まれた。

 

「それは・・・今までの行いが・・・悪かったと思う」

 

「簪を守る為にやってきたことが悪いのかよ?」

 

「そうじゃない。やり方が・・・ダメだったの」

 

簪以外の女性の名前と顔を覚えさせられ、早朝と深夜の太刀の練習を自粛され、放課後は部活動以外は簪とISの勉強をしたが・・・

 

「確か最初の相手は・・・ドリルとリンリンだったな」

 

効果はいまひとつである。

 

「ところで、のほほんはどうなんだ?」

 

辛うじて本音のあだ名と顔は覚えられた。

 

「本音もまだ・・・分からないって言ってる」

 

「あいつ、一体何考えてるんだ?」

 

楯無の言動については本音でさえ理解できない始末である。

 

「お前達、準備はできてるのか?」

 

若干心配しつつ二人の所へ現れた千冬。

 

「お、織斑先生・・・」

 

「簪、そう堅くなるな。翔、お前の方は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だが、なんで妙に優しいんだ?」

 

千冬の態度に翔は僅かながら違和感を感じていた。最初は一夏同様に厳しく指導をしていたが、クラス代用戦以降から翔に対しては若干ながら甘くなっている。翔が問題なく学園生活を送れるように陰ながらサポートをする。そんな千冬の行動に翔は違和感を感じせざるえなかった。

 

「クラス代表戦での戦いを見て、お前の評価が少し変わっただけだ」

 

「俺、戦ったか?」

 

「無人機を倒したではないか」

 

「無人機・・・・・・いたな、あのヨロイもどき」

 

(お前から見ればあの無人機は大したことの無い物なのか)

 

一夏達が力を合わせて中破に追い込み、翔の一撃で破壊された無人機を他人事のように話す翔を見て千冬は少しショックを隠せなかった。

 

「とにかく、早く準備を済ませろ。オルコットと鈴音が待っているぞ」

 

モニターには鈴とセシリアがアリーナ上空で二人が現れるのを待っていた。

 

「じゃあ、行くとす「一つ言い忘れてたことがあった」何だ?」

 

「簪、お前の専用機には『合体機構』があると聞いたが」

 

「は、はい!」

 

「それは使用するな」

 

「え?」

 

千冬の命令に簪は驚いたが、直ぐに言葉の真意を気付き頷いた。

 

「どういう意味だ!」

 

(バカ)を除いては。

 

「はぁ・・・佐山、このクラスリーグマッチはISに乗ってタッグで試合を行うものだ。IS以外のモノで戦っては意味はない」

 

「合体だってISに「ISにそんな機能は元から無い」だったら今日か「変な所は親譲りなのか」・・・知ってんのか?」

 

千冬は溜息交じりに翔に説明をする。

 

「簪の専用機に搭載されている『合体機構』、佐山のISスーツと太刀は30年前の技術が使われている事ぐらいしか知らん」

 

「何で知ってるんだ?」

 

「お前の実家に行った時、成美から聞ける所まで聞いた」

 

「実家に来たのか?」

 

「ああ、お前と簪は制服を着ていたことも憶えてる」

 

「凄い記憶力だな」

 

「はぁ・・・」

 

翔との会話にも一苦労する世界最強(ブリュンヒルデ)である。

 

「翔・・・今日はデータ収集だから・・・合体できない」

 

「あ!そうだったな」

 

「簪、よく佐山と会話ができるな・・・」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない・・・」

 

会話に苦労する自分が虚しくなった世界最強(ブリュンヒルデ)である。

 

「とにかく準備が終わってるなら行け」

 

「わ、分かりました」

 

「んじゃ、行ってくる」

 

簪は打鉄弐式でフィールドの空へ飛び、翔は打鉄改修型でフィールドへ跳んだ。

 

 

 

 

 

 

甲龍とブルーティアーズ、そして打鉄弐式。日本、中国、イギリスの代表候補生三人の対決が見れるという事でアリーナは熱狂的な雰囲気に包まれていたが・・・

 

「待ってたわよ、翔!」

 

「佐山さん、あの時のリベンジを果たしますわ!」

 

「翔・・・大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫」

 

アリーナのフィールド上空の代表候補生三人は、フィールド上にいる一人のバカに注目していた。

 

「あんたの実力、見せてもらうわ!」

 

「あの時のわたくしとはちが「お前と戦ったか?」・・・な!」

 

「翔・・・オルコットさんとは戦ったよ。初めてISで戦った相手だよ」

 

「ああ、オルコットいたな。で、今どこにいるんだ?」

 

「ここにいます!」

 

相変わらずの翔の物忘れにセシリアはイラつきながらも平静を保とうとする。

 

「そういえば、あんたとはこれが初めての試合だったわね?」

 

「んん?そうだったな。まあ、リンリンが相手でも俺は構わねぇけど」

 

「リンリン言うな!」

 

「リーン」

 

「何で鈴って呼ばないのよ!」

 

「お前の名前、鈴って言うのか!」

 

「初耳じゃないでしょ!」

 

鈴も翔の物忘れにSAN値が削られていく。

 

「とにかく、二人共覚悟しなさい!」

 

「そうですわ!わたくし達を甘く見ますと、後悔す「言いたいことはそれだけか?」ぐぬぬ・・・」

 

翔は黒のテンガロンハットの端にあるリングに指を通し90度回転させ、近接ブレード『葵』を構えた。

 

「相手が誰でだろうと、俺は簪を守るって決めたんだ。てめえらを土の下で眠らせてもな!」

 

「翔・・・」

 

「簪、お前に「二人共・・・私をさらったりしないから」え?」

 

翔は呆然とした顔で鈴とセシリアを見るが・・・

 

 

 

「「はぁ・・・」」

 

 

 

もはや怒りを通り越して、溜息しかでなかった。

 

『それでは一回戦第一試合、開始!』

 

そんな雰囲気はお構いなく試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの更衣室では箒とラウラがモニターで第一試合の模様を見ていた。

 

モニターでは簪とセシリアが激戦を繰り広げていた。打鉄弐式のミサイルをBT兵器で撃ち落とし、スターライトmkⅢの狙撃を華麗に避けながら春雷で反撃するなど、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「ラウラ、お前のISは大丈夫なのか?」

 

「貴様に心配される筋合いはない」

 

 

ラウラのISは、翔との一戦でクラスリーグマッチ前日まで修理が終わらなかった。特に大型レールカノンの損傷が酷く、ドイツに送り返すほどの損傷であった。

 

「佐山の奴は剣の扱いが全然なっていない!」

 

箒は、翔が剣士としての心得を全く理解していないことに腹を立てていた。

 

だが、擬音だけで翔に剣士の心得を教えようとすることが無謀だと箒は気付いていない。

 

(佐山翔・・・貴様の力は、あの教官を凌駕するとでも言うのか?あの男に教官がやられるはずが・・・)

 

一方のラウラは翔の力に少し警戒心を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、変わった刀を使ってるんだな」

 

「何なのよ!あんたはぁ!」

 

アリーナでは鈴の叫びがアリーナに響き渡っていた。

 

近接戦闘では翔に分があるため、龍咆での遠距離戦で立ち向かうはずが・・・

 

 

 

龍咆から放たれた衝撃砲を切り払ったのである。

 

 

 

避けられる事は予想していたが、切り払いには鈴を含め全員が驚きを隠せず、アリーナは静寂に包まれた。

 

「どうして切り払えるのよ!?」

 

「やったらできた!」

 

「全然理由になってない!」

 

もはや作戦も戦略も総崩れした鈴は双天牙月で翔との戦いに挑んだが・・・

 

「もう分かってんだよ!お前時間を稼ぎたいだけだろ!」

 

話にならないレベルで翔が圧倒している。

 

斬りかかろうとしたら斬られ、カウンターを仕掛けたら斬られ、フェイントを仕掛けたら斬られ・・・何をしても斬られる事に鈴の額から滝の様に汗が吹き出ていた。

 

「あんた、手加減しなさいよ!」

 

「手加減したら、簪が守れるとでも言うのか!」

 

もはや双天牙月は大型の青竜刀ではなく、大型の楯の役割しか持っていない。

 

「おらっ!」

 

「ぐっ!」

 

葵の横振りが鈴の右脇腹を直撃し、アリーナの壁に叩き付けられた。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

翔の問いかけに鈴は視線を下に向け、右脇腹を抱えたまま答えた。

 

「舐めない・・・でよね・・・中国代表候補生のじつりょ「じゃあな!」え!?」

 

・・・が、言い切る前に翔は片手で葵を回しながら空高く跳び、逆手持ちに替えていた。

 

「ああもう!人の話を最後まで聞きなさい!」

 

鈴は怒りに身を任せ、最大出力の龍咆で迎撃に当たったが・・・

 

 

 

「チェーストォ!」

 

 

 

その掛け声と共に翔は瞬時加速(イグニッションブースト)を使い、衝撃砲を切り払った。その勢いのまま甲龍に葵の一撃を与えたが・・・

 

「ちょ・・・ちょっと・・・」

 

「ん?どうした?」

 

「何で甲龍の右手と右脚があんたの頭上にあるのよ!」

 

「切ったからに決まってんだろ!」

 

甲龍の右手と右脚が斬られたのである。

 

絶対防御やシールドエネルギー、アラスカ条約などでISの武器の威力は極端に下げられているが、翔の前では無意味であった。

 

そのまま右手と右脚を失った甲龍は倒れ・・・

 

『凰鈴音、戦闘続行不可能』

 

アナウンスが鈴の敗北を告げた。

 

「どうして・・・負けたのよ・・・」

 

 

 

チリーン

 

 

 

鈴の独り言に答えるかの如く、翔のテンガロンハットのリングがアリーナに鳴り響く。

 

 

 

「そ・・・そんなまさか!?」

 

セシリアと簪は翔の戦いぶりをただ眺めるだけしかなかった。搭乗者の生命を守る絶対防御が破れた。生徒のみならず、教員達も驚きを隠せなかった。それはISに乗っていても死ぬという事である。

 

「ん?次はてめえか」

 

「ひぃっ!」

 

「悪いが、た『こ、この試合は無効とさせていただきます!』はぁ!?」

 

アリーナに響き渡る焦った声のアナウンスに生徒達は安堵の表情を浮かべたが・・・

 

「まだ試合は終わってねぇだろ!」

 

(バカ)はまだ、事の重大さに気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

試合終了後、翔と簪は千冬と慌てている山田先生が管制室で今回の試合の処遇について聞かされているた。

 

「佐山、お前のISスーツを検査させてもらうぞ」

 

「何で検査する必要があるんだよ?」

 

「今回の試合で甲龍が破壊された原因がお前のISスーツだと睨んだからだ」

 

「俺のスーツが?」

 

「ああ。明日の昼までには検査は終わらせる」

 

「早く終わらせて返せよ」

 

「口の利き方は気をつけろ」

 

「すいません」

 

簪との試合が無効となり、自分のISスーツを検査させられる事に不満を持っているが、渋々千冬の言う事を従う事にした。

 

 

 

 

 

 

「ったく、何で試合が無効になったり、俺のスーツが検査されるんだ」

 

「ISを・・・壊した事が原因」

 

「壊れるもんだろ、普通」

 

「壊れる事は普通じゃ・・・あり得ない」

 

アリーナの廊下で翔と簪は今回の試合と処遇について話していた。フィールドでは、一夏、シャルルペアとラウラ、箒ペアの試合が始まっているが二人は興味を示す事なく、更衣室に向かっていた。

 

「簪はこの後、どうするんだ?」

 

「打鉄弐式を・・・送り返す」

 

「そうだったな」

 

「翔はどうするの?」

 

「俺は・・・」

 

翔の予定は突然の銃声によってかき消された。

 

「ん?何だ?」

 

「い、行ってみよう」

 

翔と簪は銃声のした所へ向かい、そこで見たのは・・・

 

 

 

 

 

 

小型の銃を持ったマドカと腕から血が流れてる相川清香と女。

 

そして、カギ爪の男がいた。




次回はマドカ視点の番外編を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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