それにしても文才が欲しい・・・
目が覚めると、彼女の目の前にはオレンジ掛かった白い天井が広がっていた。
体を起こし外を見たら、夕方であった。
豆腐屋の笛が静かな街並みに響き、道路には帰宅している学生が何人か歩いていた。
ふと、自分の部屋を見渡すと、フローリングの床に白いベッド、押し入れと大小様々な木刀、茶色のボロドアと机、さらには、学校指定の女子生徒用の制服が壁に掛けられてあった。
次に自分の体を見てみると、体中に絆創膏や湿布、包帯が全身に巻かれていた。幸い顔は、右の頬が少し腫れてる程度で、IS用の小型ディスプレイは無傷であった。
ここが誰かの家だと気付いた時、彼女は自分が生きている事に驚いた。
あの時、女子生徒達に校舎裏に連れ込まれ、暴行を受けた。無能であることを受け入れ、自分の人生が終わると信じ、倒れた。しかし、無能である自分が生きている。
暴行した女子生徒達はどうなったのか、無能な自分を助けたのは誰なのか、様々な疑問が思い浮かぶ中、彼女は壁に掛けてある制服に手を差し伸べた時に気付いた。
制服が綺麗であった。
倒れる直前の制服は、スカートは破れて太腿が丸見え、上着に関しては数々のいじめによって付いたシミや汚れ、女子生徒達の暴行によって原型をとどめないほど破れていた。
しかし今着ている制服は、スカートは破れておらず、上着に関しては原型を留めており、シミや汚れなど一切付いていない新品同様の状態になっていた。さらに、裏ポケットには自分の名前の刺繍まで縫ってあった。
こんな自分のためにここまでする人は一体誰なんだ。
そうこうしているうちに、ドアの開く音がし振り向くと・・・
「体大丈夫か?」
「は、はい・・・」
「腹減ってないか?」
「い、いえ、大丈夫、です・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「今日泊まるか?」
「い、いえ、大丈夫・・・」
「とりあえず、そこのベットで休んでくれ」
「は、はい・・・」
眠たそうにボーっとしている顔とは裏腹に、彼の声は年相応に似つかわしくないダンディな声であったため、彼女は若干顔を赤くしながら答えた。
彼はベットに座り込んだ彼女を見て、ある質問を投げかけた。
「俺の誘いをなぜ断る?」
彼女は呆気にとられた。
「なんで倒れてたの?」や「一体何があったのか話してくれないか?」など、女子生徒達の暴行に関する質問が来ると思っていたが、よりにもよって毎日の昼食、掃除の手伝い、荷物持ち、送り迎えの誘いを断る理由だった。
一瞬呆気にとられていたが、すぐに暗い顔に戻り彼の質問に答えた。
「一人のほうが・・・好きだから」
「生きた目をしてないのに?」
「・・・それでも、一人がいい」
「周りが一人にさせないのにか?」
「私が誰なのか・・・知ってて、聞いてる?」
「えーっと・・・知らん」
「転校生なのは「知ってる」・・・じゃあ、名前はし「寝てたから知らん。クラスメイトだというのは知ってた」・・・はぁ」
彼女は大きくため息をついた。彼はバカだ。どうしようもない程バカだ。
「・・・簪」
「あ?」
「更識簪・・・それが私の名前」
「俺は、「佐山翔・・・」知ってるのか?」
「有名だから・・・学校で一番・・・バカな男」
「え?そうなの俺?」
「・・・知らないの!?」
「ああ。俺が聞いた話だと、学校で一番会いたくない男、学校で一番喧嘩する男、学校で一番問題を起こす男、あとは・・・なんだっけ?」
彼はどれほど学校に迷惑をかけているのか全く理解していない。
そんなバカに助けられた自分が情けない。
一つの疑問が浮かんだ
・・・・・・なんで無能な自分を助けたんだ?
助けられたって、彼には何のメリットもない。ましてや、ターゲットが自分になるかもしれないのに。
「・・・・・・」
「どうした?腹減ったのか?」
「・・・どうして」
「ん?」
「どうして・・・助けたの?」
「助けない理由が無いから」
「一人の方がいいから・・・だから、助ける理由なんか・・・ない」
「理由はある」
「え?」
顔を引き締め近づいてきた彼に彼女は戸惑いながら見た。
「お前が苦しんでるのに、それを見過ごして授業受けるのは無理だ」
「いつも・・・寝てるのに?」
「いつもじゃない。五日間の内の三日以上だ!」
「半分以上寝てる・・・」
「それでも見過ごせない!」
「・・・はぁ」
彼の説得力のない言葉に彼女は頭を悩ませた。どうすれば納得してくれるのかと考えていたが、そんなことはお構いなしと彼は話し続けた。
「それに俺は決心したからな、お前は俺が守るって」
「・・・え?」
「お前は倒れそうになるまで、一人ですべてやろうとする。だから俺は、お前がそんなことをしないためにもお前を守る。」
「・・・一人でやらなきゃ・・・いけない・・・全部」
突然、視線を下に下ろし、体を小刻みに震え始めた彼女に、彼は少し戸惑いつつ質問をした。
「一人でする必要ないだろ?」
「ある!・・・でないと私は・・・私は・・・みんなに認められない!」
「みんなにか?」
そして彼女は、自ら心の傷を曝け出した。
「お姉ちゃんは・・・ISのロシア代表候補で、勉強も、運動もできる・・・有能な人なの。私はお姉ちゃんに・・・負けたくない思いで努力した。友達と遊ぶ時間を削って勉強とかISの練習をした。夏休みなんて宿題を早く終わらせてどこにも行かず、お姉ちゃんに追いつこうと頑張った!だけど・・・ダメだった・・・。どんなに頑張っても!どんなに努力しても!みんなお姉ちゃんしか評価しない!私なんか、付属品、オマケ、劣化物と言って見下してばかりいる!お姉ちゃんにだって、『無能なままでいて』なんて言われたのよ!居場所も無くなって・・・今までやってきたことを・・・全部・・・全部否定されたんだよ!あなただって・・・本当は・・・私のことを・・・見下して「んなわけあるか」・・・え?」
突然の発言に顔を上げ、彼を見つめた。息は常に荒く、体は小刻みに震えており、目は既に赤く、涙が浮かんでいた。
「俺はお前を見下したりもしないし、無能なんか思っていない。すごいじゃねえか、そんなこと俺には到底できっこない」
「嘘よ・・・本当は私を「いや、俺は断言する。お前は凄い!無能じゃない!」・・・嘘よ!」
「いいや、お前は、本当に無能な奴に無能と呼ばれても、努力し続けたんだ。お前は無能じゃない!」
「お姉ちゃんは無能なんかじゃない!」
「本当の無能は、相手を無能呼ばわりすることから始めるんだ」
「そんなわけない!」
「ある!それに・・・」
そういうと彼は、彼女の顔に近づき、やさしく語り始めた。
「お前は俺が守るって言ったろ?俺はお前の努力を知ってるぞ。どんなにつらい目にあってもお前は学校に来て、授業を受けて、一日を過ごしてるじゃないか。俺なんか授業中寝てばっかりで先生にしょっちゅう怒られるが、お前は寝ないで授業を真剣に受けていい点数とるじゃないか。俺にはそんなことは出来ない。だからお前は無能なんかじゃない。有能だ」
自分を否定せず、姉と比較もせず、無能扱いもしない。彼女は心の底から嬉しかった。全ての努力が報われたかのような気分が、彼女の心に広がっていた。そして泣くのを堪えつつ、彼に一つの疑問をぶつけた。
「なんで・・・そこまで・・・私を守ろうとするの・・・私と一緒にいても・・・つらいことしか・・・ないのに」
「決まってるだろ・・・」
彼は、ゆっくり、やさしく、そして力強く彼女に言った。
「それはな、俺は、お前が好きだからだ」
「・・・え?」
「俺、お前に一目惚れしたんだ」
突然の告白に彼女は泣くどころか、軽いパニック状態に陥った。
「ええ!?えと・・・その・・・わ、私に・・・惚れるところな、なんか・・・無いのに・・・」
「そうか?周りの女は、おかしなメイクして、変なファッションして、変に粋がってる連中ばかりで、嫌だな。でもお前を見た時、俺の心がときめいたんだ。そん時に俺は気付いたんだ。俺はお前に惚れていたんだと。」
「うう嘘よ。本当は私の事なんか「俺はお前が好きだ。簪!」はうぅ・・・」
デリカシーのない言葉に彼女は戸惑った。
やはり
「告白の返事は、明日以降で良いから家に帰ったら?」
勝手に話を終わらされた彼女は、少し不満を持ちながらも帰宅するのであった。
ただ、彼女は生き生きとした顔で自分の家へ向かって行ったことを彼は知る由もなかった。
その後、暴行した女子生徒達は、原因不明の重傷で半年の入院をすることが分かった。目撃した教師によると、皆「怪物に襲われた」と体が震えながら、口をそろえて言ったが、凶器らしい物も目立った外傷も無く、今までの非行もあったため、厳重注意をし、病院へ運んだという。
クラスメイト達は
だが、昼休みにそれ以上の事件が起こった。
残りを早めに投稿します。
ちなみに中学のデートの話は番外編という形で出す予定です。
(そこまで書くとプロローグで10話近くやってしまうため)