バカとIS   作:陸のトリントン

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皆さん、長らくお待たせしました。

難産であったためか、キャラの言動に違和感を感じる所があると思われます。


第十七話 バカと「仲間」

「ねえ、一夏」

 

「ん?」

 

「僕、翔の事を勘違いしていたよ。彼、あんなに人想いな所があるのに驚いたよ」

 

翔達が部屋を去った後、シャルルは一夏に翔に対し偏見を持っていたことを謝罪したが、

 

「いや、人想いじゃないんだけどな・・・」

 

「え?」

 

「翔はただ、自分に素直なだけなんだ。自分の思った事を言って、行動して・・・だから人想いとは違うんだ」

 

一夏は翔の人想いのある所を否定しているが、なぜかその顔は爽やかな表情である。

 

「でも、あそこまで自分に素直なのは羨ましいよ。自分で決めたことを、誰が何と言おうと実行して結果を残せるなんて俺には早々できないよ」

 

「それって、翔はバカ正直って事?」

 

「そうだな」

 

「それでも僕は嬉しいよ。自分は望まれて産まれた訳じゃないって思ってたのに、翔は僕に大事な事を思い出させてくれた。お母さんとの思い出あるのは、望まれて産まれたからなんだって」

 

シャルルの顔からは満面の笑顔が出ていた。

 

「よかった。シャルル、もし困ったことがあったら俺にでも相談してくれ。翔みたいなことは出来なくても、できる限りのことはお前を守ってやるよ」

 

「ありがとう、一夏」

 

一人のバカの一言で一人の少女が救われた。

 

それが些細な一言であっても、彼女に背負っていた重荷は確実に少なくなっていた。

 

シャルルはそんな翔に感謝の念を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりって・・・」

 

「簪ちゃん。翔君と付きあ「嫌だ!」それは難しい話よ」

 

だが、翔と簪に大きな壁が立ちはだかる。

 

「お前、いい加減付きまとうのはやめろ。それにお前が「訳はちゃんと話すから聞いて」・・・」

 

「簪ちゃんと付き合うのをやめて欲しい理由は、あなたにあるの」

 

「俺?」

 

楯無は翔を若干睨みつつも、翔が原因である理由を話した。

 

「あなたの事は学園のみならず私の家族も警戒しているの。一人で数々の組織を壊滅させた力を世界中が欲しがっているの。それを手に入れるためにありとあらゆる手段でこの学園に襲撃しようとする輩まで現れたの。私は生徒会長とし「帰れ」・・・え?」

 

部屋に響き渡る、低く重みのある声。

 

「聞こえなかったのか。帰れ」

 

「・・・翔」

 

「てめぇの言いたいことは分かった。俺と簪が一緒にいることが気に食わなねえって言いたいんだろ!この卑怯者が!」

 

「そうじゃないわよ。私は簪ちゃんに被害が及ぶ前に離れて欲しいだけなの」

 

「それを卑怯者って言うだろうが!」

 

翔の叫び声が部屋のみならず学生寮全体に響き渡った。

 

「てめぇはいつも人を見下して、いざっていう時に尻尾を巻いて逃げて、脇からケラケラしながら見ていて、それでも簪の姉か!?」

 

「・・・」

 

「俺はなぁ、簪を無能だと思ってねえし思ったことも無い!簪はお前より有能だ!てめぇみたいな無能野郎に無能って呼ばれてもな!」

 

「私が・・・無能?」

 

「ああ。てめぇは簪に何もしない。すると思ったら簪と離れろしか言わない。自分から謝りにも行かず、ただ別れろしか言わないてめぇを無能って言わずなんて言うんだ!」

 

「・・・」

 

翔の怒号に楯無は何も言わずにただ聞くだけであった。

 

「てめぇ・・・何かい「騒がしいぞ!一体なんだ!」千秋先生!「千冬だ!あと、織斑先生と呼べ!」すいません」

 

いつものように名前を間違えられたが、千冬は気にすること無く楯無に視線を移しす。

 

「楯無、消灯時間はとっくに過ぎている。さっさと部屋に戻れ」

 

「分かりました」

 

言われるがままに楯無は部屋を出て行った。

 

「佐山、さっきの大声は何だ?」

 

「あいつが簪と別れろって訳の分からねえ事を言いだすんだ」

 

「だが、大声を出す必要は無いと思うが?」

 

「出してたのか簪?」

 

「・・・」

 

翔の問いかけに答えることなく、簪は顔を俯かせている。

 

「簪、おい簪」

 

「佐山、彼女は疲れてる。休ませろ」

 

「はあ」

 

「では、私は部屋に戻る。二度と大声を出すような真似はするな」

 

千冬はそのまま翔の部屋を後にした。

 

「簪、大丈夫な「大丈夫。疲れてる・・・だけだから」お前、無理し「大丈夫!寝れば・・・大丈夫だから」・・・簪」

 

簪はそのままベットに体を委ねるかの如く倒れ込んで寝た。

 

「簪・・・」

 

翔は簪に何か出来ることは無いか一人で考えたが・・・

 

 

 

「・・・分からねえ」

 

 

 

翌日の朝になっても、分からずじまいであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の一組の教室はいつも通りに他愛のない会話で賑やかであった。一人の眠たそうにしているバカを除いて。

 

「翔・・・大丈夫か?」

 

「んあ?大丈夫だ・・・少し考え事をしてた」

 

「えっ!お前が考え事!?」

 

「一夏・・・俺だって考えたり、悩んだりする事ぐらいあるぞ」

 

その言葉に賑やかに会話をしていた教室が静かになった。

 

 

 

「あの翔が・・・考え事!?」

 

「あの学園一のバカが・・・考え事!?」

 

「簪以外の女が存在しないと考えるあいつが・・・考え事!?」

 

 

 

皆が口を揃えて翔が考え事をする事に驚きを隠せない。

 

「俺が・・・考え事を・・・しないと思ってたのか?」

 

「「「思っていた!」」」

 

クラスの皆が口を揃えての返答に翔は・・・

 

 

 

「Zzz・・・」

 

 

 

寝ながらショックを受けた。

 

「千冬姉の授業の前に寝るなんて、凄い根性だよ」

 

「全くだ」

 

「ああ・・・って、千冬ね「織斑先生だ!」いでっ!」

 

千冬の出席簿が炸裂し、一夏は悶え苦しみながら千冬を見る。

 

「お前はいつになったら、学校と家の区別ができるんだ?」

 

「すいません」

 

一夏の公私混同ぶりに呆れつつ翔に視線を移し・・・

 

「起きろ、翔!」

 

全力の出席簿クラッシュ(神は裁き)を喰らわせた。その威力は轟音が響き、出席簿が粉々になり、空気が振動しているのが分かるほどのものであった。

 

「やりすぎ・・・じゃないか?」

 

「これぐらいでやっと起きるだろう」

 

冷や汗を流す一夏の問いかけに千冬はそれに動じることなく淡々と答え・・・

 

 

 

「ん・・・んうあぁ・・・」

 

「嘘だろ・・・」

 

 

 

何事も無かったかのように目覚めたことに、一夏は驚きを隠せなかった。

 

「簪・・・大きくなったな」

 

「私は更識簪ではない」

 

「・・・・・・おやす「寝るな!」ぐほぁ!」

 

こうして一時限目が始まった。

 

 

 

 

 

 

「簪の様子がおかしい?」

 

「今朝からずっと元気が無くて、いくら言っても大丈夫としか言わねえんだ」

 

昼休みになり翔は、珍しく一夏とシャルルの二人と食事をし、相談を持ちかけている。その行動に食堂にいる周りの生徒達は驚いていた。

 

「昨日の夜はそんな様子なんてなかったのにな・・・」

 

「翔。何か心当たりはないの?部屋に戻ったら何かがあったとか?」

 

シャルルは昨日の一件もあり、翔の手助けになろうと部屋を出て行った直後の事について問いかける。

 

「部屋に戻ったら簪の姉貴がいてな「えっ!?簪に姉がいるの!?」言ってなかったか?」

 

一夏は簪に姉がいることに驚いているが、そのことを話すのは今日が初めてである事に気付かない翔である。

 

「初耳だよ・・・」

 

「そうか。で、その姉に簪と別れろって言われたんだ」

 

「どうして?」

 

「簪に危険が来るから、その前に別れろって言うんだ」

 

翔は二人に昨夜の出来事を覚えてる限りのことを話をした。

 

 

 

「そんな事があったんだ・・・」

 

「何の危険が来るんだよ?」

 

「分からねぇ。あいつの言ってる事訳が分からねえんだよ。だけど、簪を守らなきゃならないのは確かだ」

 

「それは難しいと思うよ・・・」

 

シャルルの一言に翔と一夏の表情が固まった。

 

「翔の話を聞く限りだと、簪さんの家族に関わる問題だと思うんだ」

 

「「家族の問題?」」

 

「うん。もしこのまま付き合っていたら、簪さんの家族が翔に何らかの手を打つ。それを防ぐためにも別れさせて、早いうちに手を打った方が良いと考えたから別れてって言ったんじゃないかな?」

 

「シャルル、簪の家族ってそんなに凄いの「すごいよ~」ん?」

 

一夏の質問に即答をしたのは・・・

 

「のほほんさん!」

 

「やっほ~。おりむーにデュッチーにさーやん」

 

制服の袖を振り回しているのほほんこと

 

 

 

「・・・誰?」

 

 

 

翔の一言に固まった「布仏本音」である。

 

「翔・・・まだ覚えられないの?」

 

「シャルル・・・あれが佐山翔なんだ・・・」

 

シャルルと一夏は、ただ見守る事しかできなかった。

 

「簪の家族が何だろうと俺には関係ない。俺は簪を守るって決めたからな」

 

突然話を終わらせて、翔は立ち上がって本音達の前から去ろうとした。

 

「翔、どこに行くんだ?」

 

「簪を探しに行く。言わなきゃいけねえ事を思い出した」

 

「俺も一緒に行くよ。お前一人じゃ、簪の所に行けないと思うからさ」

 

「僕も行くよ。二人だけだと何か心細いと思うから」

 

「かんちゃんが気になるから私も~」

 

「じゃあ頼む」

 

シャルルと一夏、本音を連れ添い、翔は簪を探しに行った。

 

 

 

「ところでお前の本名ってなんだ?」

 

「ええ・・・」

 

本音を連れ添っても彼はバカである。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

簪は整備室で一人ため息を吐いていた。

 

「どうして・・・翔を目の敵にするの・・・」

 

ラウラと楯無の件で翔の評価は悪くなっていく一方である。

 

学園内では翔を退学すれば平和になると、生徒のみならず教員も言う始末である。最早、翔が学園を去るのも時間の問題である。

 

「私じゃ・・・翔を守るのは・・・無理なの?」

 

翔に対する偏見を無くすために簪は孤軍奮闘したが、偏見がなくなるどころか危険視する声が日に日に増えていくことに己の無力さを悔やんでいた。

 

「駄目!こんなところで諦めたら・・・翔が「俺がどうなるんだ?」え・・・翔!?」

 

翔の声に驚きつつも振り向いたら・・・

 

「翔・・・この人達は?」

 

「道案内を頼んだらこうなった」

 

翔と一夏とシャルルと本音と・・・

 

 

 

箒とセシリアと鈴とマドカと清香と谷本と鷹月の豪華(?)メンバーである。

 

「そんなに・・・人数が必要なの?」

 

「いや、興味本位でついて来ただけだ」

 

興味の対象が翔と簪であることに彼は一切気付いていない。

 

「簪、お前の専用機が明日辺り来るって聞いた?」

 

「・・・完成したの?」

 

「完成したけど、稼働データが欲しいからクラスリーグマッチで専用機を動かせって話だ」

 

「そう・・・分かった」

 

「・・・簪?」

 

簪が喜ぶと考えていたが、落ち込んでいる姿を見て翔は困惑する。

 

「どうした簪?何か悪い物でも食ったのか?」

 

「だ、大丈夫。ちょっと疲れただ「どうして俺に嘘を言うんだ?」・・・それは」

 

「姉に言われたことを気にしてるのか?」

 

翔の指摘に簪の体が一瞬震えた。

 

「気にするな。お前の姉が別れろと言おうが、俺はお前と別れるつもりはない。俺はお前の恋人でいたい」

 

「でも、周りが「周りがダメなら付き合っちゃいけないわけじゃないだろ?」翔は知らないの?退学すべきかどうかいつも議論されてることを?」

 

「知ってるが、別にお前が気にすることはないだろ?それに仲間はいるんだ」

 

翔は一夏達を指差して言ったが・・・

 

 

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 

 

完全なとばっちりである。

 

 

 

「お前ら、簪をぶっ倒しに来たのか?」

 

「そうじゃない!どうして俺達が「僕達は協力するよ」・・・シャルル!?」

 

シャルルは笑顔で翔に協力する事を誓った。

 

「簪さんを助けることができるのは翔君しかいないから、僕達が出来ることは・・・」

 

 

 

「翔君に常識を身に付けさせることかな」

 

「は?」

 

 

 

シャルルの言葉に一夏達の目が光る。

 

「それしかできないけど協力するぜ!」

 

「微力ではあるが協力させてもらうぞ」

 

「わたくしの英国し「ちょっと待て!」あら?」

 

一夏、箒、セシリアの協力に翔はツッコまざる得なかった。

 

「何で簪じゃなくて俺なんだ!俺より簪を助けるのが先決だろ!」

 

翔の必死の主張に一夏達は視線を逸らす。

 

「おい!」

 

「しょうがないでしょ。この中で簪を守れるのはアンタしかいないんだから」

 

「授業中、寝言でいつも簪さんを呼んでたし・・・」

 

「簪さんとの交流しか深めていないし・・・」

 

鈴、谷本、鷹月の証言にシャルルの笑顔は崩れることなく翔に近づく。

 

「簪さんを守ろうとする決意と姿勢は立派だけど、そのために皆に迷惑を掛けるのは良くないよ」

 

「だから、俺より簪の方が「翔を・・・よろしくお願いします」簪!?」

 

「翔・・・常識はとっても大事だよ」

 

「いや、俺はお前のた「常識を身に着けて」俺が嫌いにな「嫌いじゃない。でも、非常識な翔は嫌い」俺は非じょ「常識を付けて」・・・はい。だけど、本音っていう奴の協力はいらねえからな!」

 

「どうして?」

 

「胡散臭い」

 

 

その言葉に簪の形相が変わる。

 

「・・・」

 

「簪?」

 

「翔・・・それはどういう意味?」

 

「どうも何も、いつもお前の所に来ては姉の事について洗脳するだろ」

 

「違う・・・」

 

「違うのか?って、おい簪!袖を引っ張るな!どこに行く!おい簪!」

 

翔の袖を引きずりながら整備室の奥に行く簪の後ろ姿を見て、一夏達は簪が翔の事で思い悩んでいたのかそれなりに理解した。

 

「かんちゃん・・・怖い」

 

 

 

そんな賑やかな会話の傍で清香はマドカに不安を持っていた。

 

「ねえ、どうしてマドカは参加しないの?」

 

「簪の事など、あいつ一人で解決する」

 

「そうだけど、どうしてそう一人でいたがるの?」

 

「群れる必要などないからだ」

 

そう言い、マドカは黙々とISの整備を始めた。

 

「マドカ・・・」

 

(カギ爪・・・貴様はこの私が殺す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。これでまた私の夢が一歩近づきました」

 

「いえ、わが社の経営不振を解消させてくれたお礼です」

 

デュノア社の社長室ではある交渉が行われていた。

 

札束の入ったショーケースと資料の入った封筒がテーブルの上に置かれていた。

 

そのテーブルには黒いスーツを纏ったデュノア社の社長と右腕にカギ爪の義手をした男が向かいあって座っていた。

 

「では、これで交渉成立ということで」

 

「そうですね」

 

デュノア社の社長は札束のショーケースを

 

資料の入った封筒をカギ爪の男が受け取った

 

「この事は内密にお願いします」

 

「分かりました。今回だけなのが残念でありますが、またの機会にお会いしましょう」

 

カギ爪の男が持っている資料

 

それが後に世界を破滅へと導くものになることをまだ誰も知る由も無かった。




次回はクラスリーグマッチを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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