期待していた読者には迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。
「なあ、マドカ。なんで簪は不機嫌なんだ?」
「自分で考えろ」
「えぇ・・・」
鈴が去った後、翔は簪を不機嫌にさせたにも関わらず、マドカに理由を問い詰めていた。
「貴様は人の気持ちを踏みにじる事に関しては、優れているな」
「お前、言いすぎじゃねえのか?」
「事実を言ったまでだ」
マドカの発言に不満を持ちながらも、翔は簪を慰め続ける。
「なあ、簪」
「・・・ふん」
「その・・・悪かったよ。まさかお前が、ここまで恥ずかしがるとは思わなかったか「恋人がいるって・・・入学早々言ったのは誰?」いや、そう言わないとさすがに「翔・・・私、恥ずかしいんだから」・・・すいません」
もはやカップルというよりは、女の尻に敷かれてる男の図である。
(更識簪・・・ロシア代表、更識楯無の妹。今の彼女に楯無は不要か)
マドカは、二人のやり取りを見ながら考えていた。
簪は自分より肉体的に劣るが、精神的には自分より勝ってると確信したからである。
(だが、そんなことはどうでもいい)
マドカには夢を叶える使命があるからだ。それがどんなに血なまぐさい夢であっても・・・
「ところで、マドベ」
「・・・マドカだ」
「お前、部屋とかどうすんだ?」
「織斑先生がキーを渡しに来る」
「ふーん。そうか」
翔の問いかけにそっけなく答えるマドカ。彼女は、一人部屋にして欲しいと事前に千冬に頼んでいるため、これからの事を考えていた。
「あいつ」は何者なのか、「あいつ」は今どこにいるのか・・・
マドカの頭の中は「あいつ」の事で一杯だった。
放課後。キーを渡されたマドカは、それに表示されていた部屋の前に立っていた。
(さて、どうやって「あいつ」を探すか・・・)
これから一人で作戦会議を開こうと思い、ドアを開けたが・・・
「あれ?マドカさんが私のルームメイトなんだ!」
「お前は・・・」
「出席番号1番、
「・・・・・・」
「あ、あれ・・・マドカさん?」
(姉さんの高笑いが目に浮かぶ・・・)
マドカは、現実というものを知ることとなる。
一方、翔は今日も学園の野良猫と戯れていた。だが、その顔は笑顔に満ち溢れていない。
昼休みの一件で簪は不機嫌。翔はそれに対するフォローの仕方を全く知らない。そのため、翔はどうしたら簪の機嫌が良くなるのか考えてたが・・・
「全く分からねえ・・・」
「なあ、俺は一体どうすればいいんだ?」
「「「「「ニャー」」」」」
「そんなこと言わなくていいだろ」
「「「「「ニャー」」」」」
「えぇ・・・」
猫の言葉を理解してる翔は、傍から見たら変人にしか見えない。
「あんた・・・何してるのよ?」
「ん?お前は・・・フェイ・イェン!」
「
「略して、ファイ!」
「鈴でいいよ!」
「で、彼女の機嫌を直すにはどうすればいいのか分からないと」
「ああ。全く分からないんだ」
「あんたねぇ・・・」
ベンチに座り、翔の悩みを聞いた鈴はため息をはいた。自分が原因である事に気付いていない。
これは気付かせないといけないと感じた鈴は、翔を睨みつけた。
「じゃあはっきり言うけど、原因はあんたよ!」
「俺!?」
「当たり前でしょ!あんな公衆の前で自分の彼女を紹介されて、恥ずかしがらない方がおかしいよ!」
「事実をただ言っただけなんだが・・・」
「それをあの場で堂々と言うのがおかしいのよ!」
もはや、簪が可哀想に思えてきた鈴は、ある質問をぶつけた。
「あんた、本当に簪が好きなの?」
「ああ!あいつと生涯共に生きて行くって決めたからな」
「あいつは、好きって言ってくれたの?」
「ああ」
「どういう風に言ってくれたの?」
「あなたのお嫁さんになってあげるって」
「・・・いつ言われたの?」
「中二の夏」
「はあ・・・」
鈴はこれ以上話をしてもらちがあかないと感じ、簡単なアドバイスを送る事にした。
「じゃあ、何かプレゼントをした方がいいわね」
「プレゼント?」
「彼女が好きなものとか、得意料理でもいいのよ。なんか無いの?」
「あいつ、抹茶のカップケーキが好きだったなあ」
「じゃあ、それをプレゼントしなさいよ」
「できるかなあ?」
「できるかなじゃなくて、やりなさい」
「何で、上から目線なんだ?」
「いいから、行きなさい!」
鈴の怒号に渋々従うことにした翔は、そのまま自分の部屋に戻って行った。
だが翔は気付いていない。簪は抹茶のカップケーキが得意料理であって、好きな食べ物では無いということを・・・
「ふう・・・もう出て来ていいわよ」
「・・・分かってたの?」
「あんなにジロジロ見られてたら、嫌でも分かるわよ」
木陰に隠れていた簪は少し怯えながら、顔を出した。
「聞きたいことがあるけど」
「・・・何?」
「あんた、翔のどこが好きになったの?」
「え?」
鈴から見れば、佐山翔という人物は危険そのものでしかない。日本の警察を倒し、数々の犯罪組織やテログループと喧嘩をした不良。簪は何故、そんな人間と付き合ってるのか。それを聞く絶好の機会は今しかないからだ。
「私には、翔を好きになる理由が私には「・・・一途なところ」え?」
「ロシア代表の妹で見比べもしないし・・・蔑ましもしない。ただ・・・一途に頑張る姿が私は好き」
顔を赤くしながらも、簪は笑顔で語っていた。
「で、今の
「そ、そうじゃない・・・」
鈴の心も無い(?)一言に簪は落ち込みながらも、否定はするが・・・
「それとも・・・違うクラスだから?」
「・・・・・・」
「はあ・・・」
どうやら、図星の様であった。
「あいつはバカでデリカシーは無い。けど、あいつは純粋なバカなだけよ。あんたにバカと言えるほど好きで一途なだけ。だから今度会ったら、謝りなさい」
「どうして、そこまでのアドバイスを?」
「あんたたちを見てたら、何か応援したくなってね」
「・・・泣いてたのに?」
「あ、あれは。あんなバカに彼女がいることに悔しくて・・・つい」
簪の思わぬ反撃に鈴は言葉を詰まらせたが、無理矢理話を締め上げる。
「と、とにかく!あんたはちゃんと、翔に謝ること。いい?」
そう言い、鈴は一目散に去って行った。
「謝る・・・」
簪はこれまで翔と一度も喧嘩したことは無い。翔のバカっぷりに振り回されながらも楽しい毎日を送っていた。しかしそれは、翔が近くにいたからだ。今は、お互い違うクラスにいる。しかもロシア代表の姉がいる。そのせいで同じ寮の部屋にいても、緊張が抜けない。
(私・・・ストレス溜め込んでたかも・・・私・・・翔に八つ当たりをしたかも・・・)
知らないうちに翔を傷つけたのではないかと思い始めた簪。
(謝らなきゃ・・・)
そう決意した簪は、すぐに翔がいる部屋へ戻って行った。
「どうしたら、こうなるんだ?」
翔は苦戦していた。寮の部屋で黒のエプロンを着込み、抹茶のカップケーキを作っていたはずなのだが・・・
出来上がったのは、パエリアである。
「分からん・・・どうしてこうなるんだ?」
あと一人分の材料しか残っていない。ここで失敗すればカップケーキは作れない・・・
「やべぇ・・・」
絶体絶命のピンチにドアのノック音が響き渡る。
「はーい?」
誰なのか知らず翔はドアを開けた。
「翔・・・」
「簪・・・」
「・・・」
「とりあえず、中に入れよ」
「あ、あの!」
「ん?」
「・・・ごめん」
「え?」
簪の突然の謝罪に、翔は唖然とする。
「私、翔の気持ちを無視して・・・ひどいことを言って「いや、あれは俺が悪かった。すまないことをした」」
簪の言葉を遮り、翔は深々と頭を下げる。
「俺は、お前の乙女心を踏みにじる最低な行為をしたんだ。だから俺がものすごく悪い!」
「そんな・・・私だって・・・翔がすごく苦労してるのに酷いことを言ったから、私の方が悪い」
「いや!俺が悪いんだ!」
「私・・・」
「俺だ!」
「私」
「俺なんだ!」
「私!」
謝罪のはずが、悪いのは自分だと言い始める。そして・・・
「はあ、はあ、はあ」
「はあ・・・はあ・・・」
二人は疲れ切っていた。
「ところで・・・翔・・・何を・・・作ってたの?」
「カップ・・・ケーキ・・・お前・・・好きだろ?」
「得意料理・・・だけなんだけど」
「え!?」
「・・・ぷっ」
翔の呆気にとられた顔を見て、簪は思わず笑みをこぼした。
「なんで、笑うんだよ!?」
「だって・・・し、翔の呆気にとられた顔が・・・ふふっ、おもしろくて・・・」
「そんなにかよ・・・」
何故かそこで落ち込む翔。簪は笑い終えたのか、翔にある提案をする。
「翔、カップケーキ・・・一緒に作る?」
「いや、いい!これは俺が「ちゃんと出来てるの?」・・・できてません」
「じゃあ・・・一緒に作ろう」
「一人分しかないぞ。いいのか?」
「うん。一緒に・・・作りたいだけだから」
「じゃあ、頼む」
「うん。これで・・・おあいこだね」
新しい環境で起こったケンカ。
それは、ちょっとした二人の愛を確かめる出来事だったかもしれない。
「どうしてこうなるんだ簪?」
「・・・分からない」
できあがったのは、フォアグラだった。
次回から、クラス代表戦です。
絶対、書いてやる・・・