この話は、ギャグが一切ありません。
残酷な描写、暗い展開になっておりますので、それらが苦手な方は閲覧することを推奨いたしません。
私の名前は織斑マドカ
織斑千冬と織斑一夏の細胞を基に作られたクローンだ。
何故自分がクローンだと分かるのか、はっきり言って分からない。
だが、そんなことはどうでもいい。
かつての私は、自分の存在を証明するために織斑一夏を殺す事だけを考えた。
だが、私は「あいつ」と出会い、全てが変わった。
そいつは、私に夢と恐怖を与え、私の仲間を殺した奴だ。
たった一回。
たった一回の出会いが、私の全てを狂わせた。
その出会いについて話そう。
PM10:00 とある廃工場
私は、スコールとオータムの二人と一緒に「あいつ」が来るのを待っていた。
目的は、資金提供の代わりに、「あいつ」が持っている科学技術の一部を貰うという取引だった。
その技術は30年前に誕生し、今でも解析ができていない部分が多い「オーバーテクノロジー」だと言うが、そんなことはどうでもよかった。
その時の私は、織斑一夏を殺し、自分の存在の証明をすることだけ考えていた。これから来る惨劇に気付くことなどなく・・・
「本当に来んのか、その男は?」
「ええ。場所と時間を指定して、一人で来るようにと約束したから」
「スコール。信用できんのか、その男は?」
「できなかったら、その場で始末すればいいだけの話よ」
オータムとスコールは取引に来る男について議論しあっていた。そういえば、一昨日からずっと「あいつ」について議論しあってたな。
「・・・」
「どうした、エム?」
「・・・どうやら、来たようだ」
遠くから、人影見えた。そう、「あいつ」だ。約束通り一人でショーケースを持って来たようだ。
「あいつ」の風貌は今でも覚えてる。顔はしわが寄っており、髪は薄紫のオールバックだが、常に優しい顔つきであった。服装は黒い靴に、ひとつなぎの白い服、そして右手はカギ爪の義手をしていた。
「あいつ」は、少しずつ私達に近づいてきた。
「止まりなさい。そこで、ショーケースの中身を見せなさい」
スコールは取引を行う際、自分たちが提示した条件で、なおかつ信用しにくい取引相手だった場合、若干きつめの口調で取引を進めていたからな。だが、男は顔色一つ変えずにショーケースを開けて、中身を見せた。
当時の設計図と企画書、書類がショーケースに入っていた。
それを確認したスコールは、金が入ったショーケースを開けて約束通りの金額が入ってることを「あいつ」に見せた。
「あいつ」は中身を確認した後、ショーケースを開けたまま床に置いた。スコールもショーケースを開けたまま床に置き、蹴り飛ばして「あいつ」に送ろうとした。
だが、「あいつ」は突然おかしなことを口にした。
「私と一緒に、夢を見ませんか?」
その言葉に、私とオータムは少し驚いたが、スコールは顔色一つ変えずに「あいつ」を見続けていた。
「今回は取引のために会っただけよ。お友達になるのはまた今度」
スコールはショーケースを蹴り飛ばして、「あいつ」のところへ送った。「あいつ」も残念そうな顔をしつつも、ショーケースを精一杯の力で蹴飛ばして、私たちの所に送った。
これで取引が終わると思った。だが・・・
「私には夢があるんですよ」
突然、「あいつ」は語り始めた。
「世界中から争いが無くなって、みんなが幸せに暮らせる。そんな夢を私は叶えたいんです。しかし、世界は悲しみを広げていき、ISでさえ本来の使い道を辿らず歪んだ道へ進んでいく。私は、そんな事に心を痛めていきました。あなた達に渡した技術は、私の夢を叶えるための欠片なんです」
そう言い、「あいつ」はスコールに歩み寄ってきた。
「残念だけど、私にはそのつもりはないわ」
スコールは銃を構え、「あいつ」に向けて引き金を引いた。
引き金を引いた、それだけであった。
「!?」
何と銃は弾詰まりを起こした。私達が驚愕している間に、「あいつ」はスコールの左肩にカギ爪を乗せていた。
そして、「あいつ」は・・・
「私の技術をどう使うかは分かりませんが、これは何か一つの縁です。私とお友達になって、ゆっくり話し合いませんか?」
その直後、スコールの左肩から下が引き裂かれ、そこから大量の血が流れ出た。
スコールはその場に倒れ、叫びにならない苦痛に悶えていた。私は一体何が起こったのか理解できてない状況だったが、オータムはスコールが傷つけられたことに怒りを露わにした。
「てめえ・・・ぶっ殺してやるぅ!」
そう言ったオータムは、二カ月前にアメリカから盗んだIS「アラクネ」を装着し、「あいつ」に襲いかかった。
だが、アラクネの攻撃は「あいつ」には当たらなかった。怒り任せの攻撃だと気付かず、「あいつ」はオータムを抱いたのだ。
「すみません、うっかり力が入ってしまいました。この義手、うまく調整ができないんです。ですが、大丈夫です。ちゃんと治療をすれば、あの女性は助かります」
私は「あいつ」の言葉を聞いた直後、背筋が凍える感覚に襲われた。そして、「あいつ」に気付かれないように恐る恐るスコールを見た。
スコールはその場に倒れ、体が動く気配が無かった。左腕があった所から血は流れておらず、体は青ざめていた。
私は確信してしまった。
スコールが・・・死んだ。
スコールが死んだと理解した直後、横から断末魔が聞こえた。オータムの声だ。私はオータムの方を見ると、オータムの背中には血を流しながら、カギ爪がめり込んでいた。絶対防御を無視し、カギ爪はゆっくりとオータムの背中に入り込んでいった。
「てめえ・・・スコールを・・・スコールを!・・・殺してやる・・・殺して・・・や・・・る」
アラクネは解除され、オータムは力を無くしたかのようにその場に倒れた。
そして、「あいつ」は私の方へ振り返り・・・
「私と一緒に・・・夢を見ませんか?」
そう言い、私の方へ歩み寄った。
私は生まれて初めて、恐怖を感じた。
自分が無力であると認識したからだ。自分ではこの状況を打破することができない。仮に逃げ切れたとしても、組織で今まで通りに任務ができるわけがない。少なからず、証拠隠滅のために殺されるだろう。不幸中の幸いとしては、監視用ナノマシンが撃ち込まれてないことぐらいだ。
だが、撃ち込まれていようがいまいが、私は「あいつ」に殺されると思っていた。
「あなたも私と一緒に、争いのな「うおおおおおぉぉぉ!」おや?」
「あいつ」の言葉を遮ぎり、後ろから羽交い絞めしたのは、背中から血を流してるオータムだった。彼女の両手には、手榴弾とペンダントを持っていた。
「何が争いのない世界だクソッタレ!てめえみたいな奴が争いを生んでんだよバーカ!この偽善者が!」
「いえ。私は争いのない世界を本当に作ろうとして「じゃあ言うが、そんな世界は絶対に作れない!」どうしてですか?」
オータムの必死の行動にも動揺することなく、「あいつ」はオータムに問いかけた。
「そんなことも分からねえ時点で、お前の夢は叶わねーよ!おい、エム!」
オータムはペンダントを投げつけ、私はそれを受け取った。だが、少し力を使いすぎたのか、息が荒くなっていた。
「いいか・・・エム。私はこいつと・・・一緒に自爆する。・・・お前は・・・自分の力に自惚れてて・・・生意気で・・・しょっちゅう命令を無視して・・・いけ好かない奴だったが・・・嫌いじゃなかった。スコールほどではないが・・・私は・・・お前が好きだった。失いたくない・・・仲間だった。だから・・・今は・・・こいつから逃げろ・・・逃げて・・・逃げて・・・生き延びろ。もし・・・こいつが・・・生きていたら・・・お前が殺せ。私たちの代わりに・・・殺せ。命令じゃない。仲間・・・としての・・・頼みだ。」
そう言い、オータムは手榴弾の安全ピンを抜き、「あいつ」から離れないように羽交い絞めをやめなかった。
「走れ・・・走れぇ!マドカぁ!」
私はオータムの最後の頼みを聞き、全速力で「あいつ」のいる廃工場から逃げ出した。
『でも、残念です。私には夢があるんです。その夢が私を殺させないんです』
『そいつは・・・どうかな。てめぇだって・・・人間だ。死ぬときは・・・死ぬんだ!』
通信機から流れる二人の会話。オータムはもはや限界まで来てると言うのに、未だに強がりを見せている。
そして・・・
『スコー・・・ル・・・』
廃工場が爆発すると同時にオータムとの通信が途切れた。
私は燃え盛る工場を背に走り続けた。
今なら分かる。二人は私を仲間だと信じていた。たとえ全てを信じていなくても、仲間として信頼されていた部分が少なくともあった。
だけど私はそれに気付かず、二人にいつも突っかかっていた。
もし、時間が戻るなら二人に会って謝りたい。殴られても罵られても構わない。二人に謝りたい。
二人を・・・返して。
気付いた時には、私はどこかの駐車場にいた。だが、これ以上歩けない。三日三晩、寝ず食わずに走り続けた結果だ。もはや飢え死にするのも時間の問題であった。
そういえば、オータムから渡されたペンダントの中身を確認してなかったが、その力さえ残っていなかった。
「スコール・・・オータム・・・ごめん。どうやら・・・そっちに・・・行く・・・準・・・備が・・・」
私は男の声が聞こえていたにも関わらず、そのまま瞼を閉じた。
「・・・い・・・か・・・き」
女性の声が聞こえる。スコールでもオータムでもない・・・誰だ?
私は力を振り絞り、目を覚まそうとした。
「生きてるか?聞こえてるなら返事をしろ」
「成美さん。駄目ですよ、まだ安静にさせなきゃダメなんですから」
「甘いな、由紀子。おそらくこの子は、三日三晩寝ずに食わず、100km以上の距離を走り続けた強靭な肉体を持っている。小柄な体のくせして、その強靭さ、コスプレさせて撮影会を開きたいほどだ」
「結局、成美さんの欲望が詰まってるじゃないですか!」
「まあまあ、それより起きたぞこの子」
なぜ、起きてるのが分かった。まあ、そんなことはどうでもいい。
「私は佐山成美。株式会社ブレイブカンパニーの社員だ」
「私は三原由紀子です。株式会社ブレイブカンパニーの事務員を務めています」
なぜそこで自己紹介をする。まあ、いい私の・・・
「ところで、お前の名前は何だ?」
「ちょっと、成美さん!」
・・・仕方ない、名前ぐらい言っても問題ないだろ。
「マドカ・・・」
「ん?」
「織斑マドカ・・・それが私の名前だ」
「マドカか・・・魔法少女のコスプレをさせよう!」
「成美さん!」
魔法少女?こいつは何を言ってるんだ。
「冗談はさておき、マドカ。お前は三日間ベットで寝続けた。そのベットりょう「成美さん!」冗談だ。だが、三日間寝てたのは確かだ。」
あれから三日経ってたのか・・・
「その間に世界はいろんなビックニュースが飛び込んできた。男がISを動かしたとか、廃工場の爆破から生還した謎の男とか・・・」
廃工場・・・爆破・・・男・・・もしや!
「いやあ、世界ではいろんな「その男はどこにいる!」・・・どの男だ?」
「廃工場の爆破から生還した男の事だ!」
「知らん。情報規制が掛けられて、居場所など分からん」
「くっ!」
あの男・・・生きていたのか・・・!
「まあ、それは置いといて。マドカ、お前の所有物をチェックしたが、一つ分からない物が出てきた。これは何だ?開け方が分からないぞ」
それは・・・オータムが渡してくれたペンダント!
「返せ!」
「いいよ、ほい」
私は成美からペンダントを受け取り、すぐさま開けた。その中には・・・
「これは・・・」
ペンダントの中には、イギリスから奪取したBT兵器を搭載したISの
「これは・・・ISだ」
「どうして、ISがペンダントに・・・マドカさん?」
「ふふふ・・・」
これほど嬉しい気持ちになったのは久しぶりだ。
これほどまでに・・・
「そのISがなんなのか、お前は知ってるか?」
「ああ、知ってる。これは私の夢を叶えるためのISだ」
「夢ね。どんな夢なのか知らないが、他人に迷惑かけるなよ」
「分かってる・・・」
スコール、オータム。私は生まれて初めて「夢」を持つことができた。
私が初めて持った夢、それは・・・
「あいつ」を殺す事だ。
佐山翔がIS学園に入学する一か月半前の出来事であった。
いかがだったでしょうか。
この話は結構(自分としては)暗めに執筆したので、読んだ人が不快なってるのか少し心配です。
今後もこのような形で番外編を出そうかと考えてるので、次の番外編にご期待ください。
ちなみに人物紹介は、本編で登場した時に紹介します。
設定をあまり練らずに出したんじゃないんだからね!
ご意見、ご感想お待ちしております。