後、ある人物が早くも登場します。
結局クラス代表は、セシリアの辞退により一夏に決定となったが、当の本人は、生きた抜け殻となっており、セシリアは翔を「恐怖の大魔王」を見るかのように怯えていた。しかし、そんな事は御構い無しと、翔は簪と一緒に学園生活を楽しんでいた。
あまりに甘々し過ぎて織斑先生に怒られもしたが、本人は気にもしていなかった。
そして日曜日、翔と簪は、翔の両親が勤めている、株式会社ブレイブカンパニーの正面玄関前にいた。見た目はプレハブを何個か連結させた、こじんまりとした雰囲気で看板には、第一格納庫とやらが手書きで書かれていた。
ちなみに二人の服装は、親の要望で制服を着て会社に訪問している。
「なあ、簪」
「何?」
「俺達、お袋に呼ばれたよな?」
「うん」
「二人だけだよな?」
「うん」
「じゃあさ・・・」
「何で隣に織斑
二人の隣には、白い半袖とジーパンの一夏と、いつも通りの黒スーツを纏っている千冬がいた。
「多分、翔と織斑一夏の・・・監視ついでの訪問」
「まじか!?織斑先生はストーカ「全然違うから!」一夏、違うのか?てか、何で顔を青くしてるんだ?」
「いや、その・・・千冬姉がいる前で・・・」
「私をストーカー呼ばわりするとは、いい度胸だな」
額に怒りマークを浮かべてる千冬の前に、翔は顔色一つ変えずに見ていた。
「違うんですか?」
「違う。全く持って違う」
一触触発の空気に、簪は慌てて、一夏は子犬の如く怯えていた。
そんな状態の中、一人の女性が四人に近づいて来た。
「おいおい、会社の前で一悶着起こすな。やりたきゃ、ラブホでやってくれ」
寒い下ネタを放った女性は、モデル並の長身で黒のポニーテールと黒の瞳にスレンダーな体型と悪くない顔のパーツだが、目には隈ができており、常にやる気が無いような顔をしている。
「あ、お袋。来てたんだ」
「まあね。後、翔ちゃん。この二人は私が呼んだから、手荒に扱うなよ」
「何すんだよ?」
「いや、ただ二人に会わせたい奴がいるだけで、特に何もしない。まっ、山田先生がいたら話は別だがな。」
「はあ」
「ここで立ち話するのもなんだし、会社に入ってから話を続けるとするか」
成美は四人を会社に案内し、青汁を一気飲みしてから話を続けた。
「ようこそ、株式会社ブレイブカンパニーに。千冬に一夏」
「は、初めまして。織斑一夏です」
「お前とは、初対面だったな。私は佐山成美。ブレイブカンパニーIS「武装・兵装」開発チームのリーダーを勤めてる」
「よろしくお願いします」
「うーむ」
突然、一夏を凝視し始めた成美に千冬は呆れていた。こんな変態に好かれたのかと。
「お袋。俺と簪の専用機はどうなった?」
「大作が担当だからそっちに聞いてくれ。第二格納庫にいるから」
「じゃあ、お袋は?」
「この二人に用があるから。じゃあ、ここいらで解散。お二人は第二格納庫にさっさと行った」
そう言い、成美は織斑姉弟を地下行きのエレベーターに乗せて去ってしまった。
「じゃあ、行くか」
「うん。翔・・・私、第二格納庫の場所・・・分からないから・・・その・・・」
簪は顔を赤くしながら、翔に手を差し伸べた。
「・・・分かった。俺が案内してやるよ」
そう言って、簪の手を優しく握り第二格納庫へ案内した。幸い、案内掲示板があったため、目的の場所に10分足らずで着いた。
「来たぞ、親父」
「おお、来てくれたか。翔、制服もなかなか似合ってるじゃないか。簪ちゃんも似合ってるよ」
二人を褒めた男は、佐山大作。株式会社ブレイブカンパニーのIS「武装・兵装」プログラミング担当責任者である。長身で金髪の蒼目、無精髭を生やしており、あまり格好は良くないが、怒った姿が想像できない優しい顔つきであった。
「あ、ありがとうございます」
「いやあ、君が翔の彼女になってくれて正直嬉しいよ。お陰で翔は無闇に暴れなくなったし、周辺の苦情は減ったし、いいことづくめで助かってるよ」
「おい、親父。まるで俺が厄介者みたいな扱いじゃねえか」
「ご近所からは、実際そういう扱いを受けてたが・・・」
「まじかよ!?」
「あそこまでやって、褒められる方が・・・難しい」
「簪、最近俺の扱いが酷くなってねえか?」
「気のせい・・・多分」
「多分って、何だよ」
大作と簪のダブルパンチに少し落ち込んだ翔だが、そんな事を気にする様子も無く大作は話を続けた。
「二人の専用機だが、まずは簪ちゃんの専用機から紹介しよう」
そう言い、ポケットからリモコンを取り出し、リモコンの電源スイッチを押した瞬間、一つのガレージに明かり灯された。そこには、倉持技研が完成すべきだったIS「打鉄弍式」があった。完成された姿を見て、簪は素直に喜んでいた。
「あ、ありがとうございます!」
「ISと武器のプログラムは直ぐに終わったから、簪ちゃんが乗ってフォーマットとかをすれば、専用機の完成って言いたい所だけど、簪ちゃん」
「はい」
「今、君がいるのは、なんて言う会社でしょう?」
突然のクイズに簪は戸惑いながらも答えた。
「ぶ、ブレイブカンパニー」
「キャッチコピーは?」
「夢とロマンに・・・正義と勇気を乗せて・・・」
「我が社の代表製品は?」
「勇者・・・エルドラ
「そう。簪ちゃんの専用機をエルドラ
「合体・・・勇者・・・」
簪の顔は自分の夢が叶うかもしれない、希望に満ちた顔になっていた。
「ISを作る気あんのか、親父は?」
翔もツッコミをいれたくなる話であったが、そんな事は御構い無しと、話は続けられた。
「ISの合体なんて前代未聞だから、どういう合体機構だったら良いかなって、簪ちゃんの意見を聞いてみようと、思って」
「合体機構が再現できない理由は?」
「そのまま合体したら、操縦スペースが無くなってしまうのと、操縦者の負担が想像以上に大きいのと、エネルギー消費が激しいとこかな」
「今まで、どういう合体機構を考えてるんですか?」
「ああ、こういうものだが」
大作は興奮している簪に、様々な合体機構プランが書かれた企画書を見せた。巨大マシンにISを収納する合体や、ISに強化パーツを取り付けるタイプ、ロボットと背中合わせの合体など様々な案があったが、どれも没案になっている。
「結局、ISの戦闘データを取って、それに合った合体機構にしようか考えてるけど・・・簪ちゃん、聞いてる?」
大作の話を無視するほど、簪は考え込んでいた。そして、簪はそこらへんにあったコピー用紙を取って、何かを書きはじめた。
「ISをコアにし・・・・・・操縦スペースの確保・・・・・・エネルギー消費・・・・・・操縦者の負担・・・・・・合体機構・・・・・・フォルム・・・・・・外装の影響・・・・・・・・・」
ぶつぶつと呟きながら、コピー用紙に書き込んでいる簪。その姿に翔は随分ストレスが溜まってたのかと勘違いしていた。
数分後、彼女は大作に書き終わったコピー用紙を渡した。
「これを・・・どうぞ」
「どれどれ・・・・・・」
「あ、あの・・・」
「・・・」
「親父?」
無言になり体が震え始めた大作に二人は心配になったが、
「ぶるるうらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「!?」」
突然叫びあげた姿を見て、心配する必要を感じなくなった。
「素晴らしい!素晴らしいではないか!ISと五機のエルドラマシンとの合体が可能だ!しかも、今までの欠点を解消し、且つ高性能!できる、これならできる!ああ、なんて素晴らしいんだ!やっぱり簪ちゃんには、勇者の素質がある!絶対にある!うおぉぉぉぉぉぉ!」
大作の叫びの理由が分かったとしても、どういう合体機構なのか分からない翔は、コピー用紙を勝手に奪い取って読んだ。
「なあ、簪」
「何?」
「お前が考えた合体だけどさぁ」
「うん」
「どう見ても、勇者王の合体をぱく「リスペクト・・・」いや、ぱ「リスペクト・・・」どうみ「リスペクト」・・・分かった」
数少ない翔の心が折れた瞬間であった。
「よし、これから簪のISの制作に取り掛かるか。後、三か月ぐらい待ってくれ」
「分かった。翔・・・い「ちょっと待て!」どうしたの?」
若干、怒りが混じった声で翔は大作に問いかけた。
「親父、俺の専用機は?」
「ああ、そうだった。わるいわるい」
大作はリモコンを取り出し、No.1と書かれたスイッチを押した。打鉄弐式の隣のガレージに明かりが灯されたが、そこにあったのはISではなく、
「親父、これは何だ?」
「IS・・・でもない・・・これは?」
「ああ、これはな・・・」
大作の顔つきが突然暗くなり、その「何か」を見つめながら二人に問いかけた。
「二人とも、三十年前に世界が滅亡しそうになった事件を知ってるか?」
「ああ、七つの衛星兵器で世界を滅ぼそうとした事件だろ」
「その事件は、エルドラ
「じゃあ、その衛星兵器はどうなった?」
「エルドラがぶっ壊したんだろ?」
「六つはね・・・」
「じゃあ・・・あれは・・・」
簪は何か感づいたのか、「何か」を恐る恐る見つめ返した。
「簪ちゃんの考えてる通り、あれは三十年前に世界を滅ぼそうとした、衛星兵器の最後の一つだ。作ったのは、俺の・・・父さんだ」
翔と簪は驚いた。かつて世界を滅ぼそうとした兵器が今、目の前にあることを。大作がそれを知っているということを。そして、大作は重い過去を語り始めた。
「三十年前、俺の父さんはその時の世界に不満を持ってたんだ。争いばかり続けて、領土を奪い合ったり、権利を主張しあったり、誰とも共有したりしない世界に絶望してたんだ。そしてある人物と出会い、父さんはその人物の夢を叶えるために、組織に入って、すべてを捧ぐ決心をしたんだ。俺と母さんを捨てて。結局、その夢はエルドラ
「翔・・・知ってた?」
「刑務所にいるってのは、知ってたが。その原因がコイツだったとは・・・でも親父。なんでこいつを使って俺の専用機なんか作ってるんだ」
「ああ、その理由を話すよ。こいつは幹部以上の連中にしか反応しないセンサーがあるんだ。場所とかは示せない欠点はあるけど、いる場合はセンサーが反応するんだ。三十年前、こいつを何とか捕獲して解析を進めた結果それが分かったんだ。あとはそれを利用して、本部の場所を突き止めて潰しに行ったんだ。だけど・・・」
「そのセンサーが一か月前に起動したんだ。誤作動でもなく、正常に・・・」
「・・・それって、まだ生き残りが・・・いる?」
「幹部以上のメンバーは、全員この世にはいないはずなんだ」
「だとすると・・・身を潜めて・・・待ってた?」
「その可能性はある。だから、こいつが使われる前にISに改造して、衛星兵器として使えないようとしてるんだ。専用機にすれば、他人が使う心配はとりあえず無いからね」
衝撃の事実の連続に簪は驚きを隠せなかったが、翔は特に顔色一つ変えずに大作に問いかけた。
「なあ、親父」
「なんだ、翔」
「腹減った」
世界の危機が迫っても彼はバカだった。
時間をさかのぼり、織斑
「一夏、大丈夫か?」
「いや、大丈夫だが千冬姉は?」
「大丈夫だが、妙な胸騒ぎがする」
「お二人とも大丈夫か?嫌なら帰ってもいいんだぜ」
「成美、お前は何のために私達を呼んだ?」
「冗談だよ。冗談」
冗談をかます成美と若干不機嫌な千冬の間にいる一夏は成美にある問いかけをした。
「成美さん。俺達に会いたがってる人って、どういう人なんですか?」
「会えばわかるが、注意事項がある」
「注意事項?」
「過去の事については、一切聞くな」
「え・・・どういう意味ですか?」
一夏の質問に成美はやる気のない口調で淡々と答えた。
「あいつは、一か月半前に本社近くの駐車場で、倒れている所を大作が見つけて保護したんだ。その時の健康状態と精神状態は酷く、まともに会話ができない状態だった。なんとか回復したはいいが、最初は自分の名前以外明かそうとする気はなく、過去についての詮索を始めたらテロまがいの事を起こしかけ、『織斑千冬に会わせろ!』と大声で叫んでたな。まっ、今はそんなことも無く、周りの連中と生活は出来てる感じだけどな」
「は、はあ」
一夏は呆然としつつ、三人を乗せたエレベータは止まった。
「ほら、二人とも面会の時間だ」
エレベーターのドアが開くとそこには、真っ白の部屋で、テーブルとベット、テレビなどの必要最低限の生活環境は整っているが、ベット以外は使われている様子が無い。シャワールームと思しき場所には、明かりついており、誰かがシャワーを浴びていた。
「ちょっと待ってろ」
成美はそう言うと、シャワールームに近づき、その中にいる人物に来客が来たことを知らせた。その中の人物はシャワーを止め、急いで体を拭き、着替え始めた。シャワールームから離れた成美の顔は、なぜかにやけていた。
「いやあ、あの行動っぷりには惚れ惚れしちゃうなあ。写真撮ればよかった」
変態だった。
一夏は成美の顔に引き、千冬はシャワールームを凝視していた。
そして、シャワールームから二人に会いたがっていた人が出てきた。
「うそだろ・・・」
「・・・」
千冬は表情を一つも変えなかったが、一夏は驚愕した。無地のシャツに黒のスカートの小柄な体の少女であったが、姿は千冬と瓜二つであった。髪も目つきも顔のパーツは一寸の狂いも無く、千冬と同じであった。
「な、成美さん・・・これは「成美、なぜ兄さんがいる?私は姉さんだけとの面会を希望したぞ」ね、姉さん!?に、兄さん!?」
一夏の言葉を遮った少女は千冬を姉さんと呼び、一夏を兄さんと呼んだ。
「それは無理な話だ。どちれにせよ、一夏とは面会しちゃうんだから」
「だとしても「気持ちは分かるが、新しい家族をすぐに失いたくないだろ?」・・・分かった。」
一夏は何がどうなってるのか分からない状態の中、千冬は少女に問いかけた。
「お前は誰だ?」
「私は織斑マドカ。」
「ではマドカ、なぜ私と一夏の事を知っている?」
「いろいろと調べて知った」
「私には妹などいない。なのに、なぜ私を姉と呼んだ?なぜ一夏を兄と呼んだ?」
「それは・・・」
千冬の問いかけに、マドカは真剣な顔で二人に衝撃の回答をした。
「私は、姉さんと兄さんの細胞を基に作られた・・・クローンだから」
次回は、中国の方が登場します。
後、番外編も近々投稿する予定なのでご期待ください。
ご感想、お待ちしております。
次回の話の構想より、山田先生のSSの構想が出来上がってしまう・・・
ここで、人物紹介
佐山大作
佐山翔の父親で、株式会社ブレイブカンパニーのIS「武装・兵装」プログラミング担当責任者。ISのプログラミングや武装等のプログラムを務めてるロボットヲタク。ISを合体ロボットにできないかと、日夜試行錯誤を繰り返してる。生活力は高く、いつも成美の代わりに家事全般をやっている。そのため、料理スキルは高い。趣味はロボットアニメ鑑賞と猫の飼育。