機動戦士ガンダム 0079 彼女の瞳に映るもの   作:セキエイ

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新年度が始まり執筆出来ない日々が続いていましたが、なんとか投稿できました。
今回は予告の通り戦闘回になります。


第四話 渇野

午前9時57分

 

私は大慌てでノーマルスーツに着替えて、例の試作機のコックピットに収まる、昨日言い渡された偵察任務に出発するのだ。

ハッチが閉じて微かなエアロックの音がする、暗闇に落ちたコックピットは多分ザクよりも広い。

赤くランプの点いた手元のメインスターターで機体の融合炉に灯を入れ、メインカメラが外部映像をスクリーンに映し出す。

全高約18mの視線は前方に僚機を認めて管制システムがフレームで囲んだ。

「「伍長、少し遅いわ!」」

「ごめんなさいっ!」

通信機が起動するや否や、耳に飛び込んで来たのは中尉の声。

小隊の他の四機は既に武器の受け取りまでを終えていて何時でも発進できる、背中で融合炉の鼓動と焦りを感じながら、私はモニターに立ち上がった制御画面を見る。

「なんじゃこりゃ!?」

モニターには大量に表示される試作機故の手動チェック項目、ザクとは悪い意味で大違いだ。

辟易しながらもYESの高速連打が炸裂させると、最後にスペックがグラフ化されて表示された。

「凄い、エネルギーゲインがザクⅡの二倍、推力は三倍もある」

じゃじゃ馬な匂いしかしない。

モード設定のトグルスイッチをパチパチ替えた後、次は機体の挙動確認に入る。

モノアイをまず左右に振り、頭部を回す。

続けて肘を曲げて伸ばすと同時に手首を回す。

動きは滑らかで引っ掛かりなど無い、行ける。

弾倉が保管された弾薬箱を確認しておく。

「ユリ・レムトナリティ伍長、YMS-08A試作機で行きます」

 

、、、

 

「あの、本当に今更なんですけど、私が受領する機体って普通のザクとかじゃ駄目だったんですかね」

私は何と無く思っていた疑問を隊共通の短距離回線に乗せた。

「「そうだよね、そっちの方が良いよね」」

アリエ、マリア曹長の声だ。

「「良いかい?ユリちゃん伍長。これには深〜い訳が有るんだよ」」

ふふん、と得意げに鼻を鳴らすのはオルシア准尉。

「「……、ウチの司令がくじ運無いだけでしょ…」」

「「まぁ〜、結局そういう事なんだけどねぇ。んくっ、美味しぃ」」

エルデリー軍曹の呟きに続いて、微かに喉が鳴るのを聞く。

「「ちょっとオルシア、何普通に酒飲んでるのさ。飲酒操縦だぞ!」」

任務中に飲む所は突っ込まないんですね曹長。

「「まったく、哨戒が終わったらお説教だからね」」

ひぇ〜勘弁してよぉ、情けない声が響く。

マリア曹長よりオルシア准尉のほうが階級がどうして上なのか謎だ。

「「オルシア、程々しなさい。任務中なのよ」」

「「は〜い」」

聞きかねて窘める中尉、親子の会話を見ている気分になった。

「「ところで伍長、その機体が渡った経緯について私が説明するわ」」

ここで中尉が名乗りを上げた、是非ともお願いします。

 

「「昨日も話した通り、連邦の戦力集中これが発端。これに対応する為に先日陣地戦力増強が計画され、各陣地にMSの追加配備が決定されたの」」

「はい」

「「けれども急な追加配備で、基地中央整備科が用意出来た機体数はノルマに対して不足した。

結果、不足分を満たす為にテスト済みの試作機を投入し、運悪くクライライン陣地司令は試作機のそれを引き当ててしまった」」

言ってしまえばそれだけね、中尉はそこで口を噤んだ。

うわぁ…、それだけなんだ。

 

、、、

 

今朝の塔での会話の通り、南西陣地群周辺をぬけると後は渇いた荒野の地だけだった。

時折MSサイズの深い溝やら塹壕

があるけども、逆にいえばそれしか無い。

「「これより哨戒任務に入る、各員弾込め!」」

弾込め、とは火器をいつでも発砲出来るような状態にしろ、という意味だ。

周りの機体はもう、手持ち火器の銃口を水平に向かせ射撃位置に構えさせていた。

倣って、私の試作機にもそうさせる。

「「オルシアとマリアは定期哨戒ルートCを担当。残り二人は私と来て」」

 

「「じゃ〜ね〜」」

「「そっちは頼むよ」」

オルシア准尉のグフ重装備型とマリア曹長のザクⅡがこちらに手を振りつつ遠ざかる。

モノアイを点滅させて見送ると、中尉のザクⅡが私の試験機とエルデリー軍曹のザクキャノンを向いた。

「「私たちはここから10km程進んだ、オデッサ基地支配域の境界に沿って哨戒活動を行う。その間に伍長、貴女の重力下戦闘訓練を行います」」

「…っはい」

冷たいその声、私はどきどきが収まらない。

 

、、、

 

「「良い、ここは地球よ。大地と機体の脚を信じなさい!」」

そうは言ってもさっ

宇宙での経験がここに来て障害になる、脚元というものが殆ど無かった宇宙では地面沿って進む基本機動に違和感を覚えるのだ。

また、ザクのそれとは全く次元の違う推進力に、バランスを保ちながら前進するのが精一杯。

脇に控えた中尉が脚元ギリギリに銃撃した。

土塊が弾ける、破壊目標のバルーンはすぐそこなのに!

「くっ!」

銃撃が当たる事は無いが勿論回避の為のサイドステップは忘れない。

その流れのままスライディング、膝が地面を抉る不協和音、片膝の体勢のままザクマシンガンを標的のバルーンに向けて放つ。

銃声が弾ける、三点射した内の一発が命中した。

バルーンの中に極々ささやかに内臓された炸薬が破裂して、爆発した。

やった!

「「ここは荒原よ、MSがそんな低い体勢のままでいてどうするの!?」」

火線が目の前を掠めてさらに脚元にも、土埃が舞う。

バルーンは残り一つ、52m右前方だ。

即座に機体を起こしバルーンに向かってブーストする、そこにロックオン警報、背後からだ。

背後に向き直してバックブーストしながら大きく右にバンク、バルーンの位置を気にしながら今度は左に。

視界の中央でマズルフラッシュを伴い、エルデリー軍曹が駆るザクキャノンの大砲が吼えた。

遅れて腹に響く衝撃、そして炸裂する砲弾。

「ぐわっ!」

左へのバンク、数瞬後に通過するであろう進路が大きくクレーターを穿った。

「「予測射撃も考慮しなさい、重力下では二次元機動がメインなんだから」」

「はいっ!」

間髪入れずに迸るマシンガンの火線に、機体をジャンプさせて後方に跳ねる、更に空中でスラストして高度を稼ぐ。

ザクの数倍の跳躍力は伊達じゃない、バルーンはもうすぐそこだ!

「やぁぁあああっ!!!」

追い越し際に空中で回し蹴り、急機動に頬が引き攣る。

哀れ、標的風船は上下に引き裂かれて破裂したのだった。

 

、、、

 

同時刻、オルシア&マリア

数分前から二人はルートCにて戦闘状況に入っていた。

荒涼とした大地を5台のバイクと1輌のホバートラックが疾走する、それを追う二人という構図だ。

バイクとトラックは無論連邦のものであり、大型車輌を従えていないところを見るに偵察部隊だろう。

「「くそ、チョロチョロ動きまわる!」」

憎々しげに声を荒げるマリア、そのザクが120mm弾をばら撒く。

しかし連邦のバイクとトラックはそれぞれ分散し、かつMSよりも速い足を活かして的確に攻撃を避けていた。

外れた弾が硬い地表をかち割った。

「「少し落ち着ついてマリア。的を一つに絞って、冷静に」」

伸び切った語尾が消えたオルシアの重装備型グフの左手が吼えて一台のバイクを仕留めた。

戦闘時の二人は平時とは対局の関係になる。

やや突出しがちのマリア、冷静に状況を鑑みて行動する戦闘巧者のオルシア、という風に。

「「よっしゃ!」」

立て続けにマリアが二台目のバイクを撃破する。

「「マリア、指揮車のホバートラックを狙うよ。アレが逃げられたら厄介だ」」

「「了解!」」

ディスプレイ中のホバートラックを追う視線は、普段のそれと異なり極めて鋭利なものになる。

ホバートラックが方向転換の為に若干速度を緩めたところで、オルシアはGO!と指示を出した。

マリアは右からオルシアは後方からの接近を試みる。

スラストとダッシュに銃撃を織り交ぜながら繰り返すザクを留意しつつ、ぐっと腰を落として、グフのスラスターを全開に。

MSならではのジャンプ移動だ。

噴煙とGと共に飛び上がる、激しく振動する灰色の機体。

その中でトラックを冷静に捉える、震える中で当てるのは到底難しいが牽制としてなら上々だ。

フィンガーバルカンの牽制射、さらに右側から距離を詰めたマリア機が前方に弾幕を張ると、トラックは慌てて進路を左に逸らした。

弾幕と巻き上がる砂塵に、晴天に照らされた荒野が嵐と化する。

「「やった!」」

左に逸れたトラックはこれまでの加速の勢いでふらつき、マリアの火線を掠める。

当たり所が悪かったらしく、バランス崩した偏平な車体は立て直す事なく激しくスピン。

引き摺り痕を引きながら100m程進んで停止した。

どうもホバー噴出部分を損傷したらしい、チロチロと炎の舌が見え隠れしていた。

着地したオルシアが距離を詰めた、距離は大体50mくらいだろうか。

「「オルシア、お願い」」

「「ええ」」

立ち止まったグフは右腕のヒートロッドを振りかぶる。

本来重装型には無いヒートロッド、これはオルシアの希望でわざわざ重装型の腕からノーマル仕様の腕ごと換装させたものである。

鞭が地面に打ち付けられ、発せられる電撃が地面から停止したトラックに伝わると無事だったエンジン部からも黒煙が上がる。

中の人間と電子機器は死なない程度の電撃、恐らく無力化できた筈。

すかさずマリアのザクが近づくと、脅威になりそうな車体上部の機銃を指先でつまみ潰した。

「「現在貴様らは包囲されている、投降しろ。抵抗するのなら電撃の使用も辞さない」」

赤一発と白二発の信号弾を打ち上げると、オルシアは国際共通回線と外部スピーカーで呼び掛けた。

 

程なくして連邦兵が三人、どうやら負傷しているらしきもう一人を抱えて出てきた。




相変わらず長文ですが、お読み頂きありがとうございます。
ご意見ご感想をお待ちしております。

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