機動戦士ガンダム 0079 彼女の瞳に映るもの   作:セキエイ

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ISに飽きた、というわけでは御座いませんが、気分転換に書いたので投稿します。
一応三話分の書き溜めが有りますが、かなりの確率で超不定期投稿になりそうな予感。
一年戦争はかなり設定が複雑な事になっているので、ちょくちょく間違いがあるかと思いますがご容赦下さい。

第一部の一年戦争編と第二部の戦後編を構想しています、頑張って書き上げよう…


第一話 オデッサの地にて

私が地球に降りた事が有るのは二回。

産まれは地球だけどこれはカウントしなくても良いよね?

一回目は五年前、父の実家がある日本という国に行くのが目的だった。

父と母と今は行方不明の妹と歩いた砂利道の空気が、コロニーに比べて湿っぽかったような事しか覚えていない。

そして二回目は、今だ。

軍人として戦う為に降りるのだ。

 

分厚いノーマルスーツの越しの手をコムサイの内殻に着いて、窓の代わりに外部映像を映した小さな液晶パネルに頭を押し付ける。

液晶に映る高空は澄んだ蒼空で、ちょっと下はコーティングしたように広がる雲があった。

「うおっ、とと」

ガアッという轟音、機体が乱気流に煽られたのか激しく揺れた。

ワイヤーで固定された補給物資が軋みを上げる。

背を預けて座る仮設シートが置かれたコムサイのコンテナ部は、寂しく暗い。

 

私たちが補給物資と一緒に宇宙から降りる先は、あの雲の更に下。

ヨーロッパというエリアのオデッサという地域だ。

そこに我がジオン公国軍が鉱物資源確保の為に展開する、またヨーロッパ方面総司令部を置く大規模基地がある。

資源産出地、方面総司令部と言う事もあり警備警戒は厳重で戦力もかなり割かれている。

噂ではかなり待遇が厚いらしく、少なくともオデッサ行きが決まった時に同期に羨ましがられる位には人気の任務地だった。

けれど半年の新兵育成教育と後方任務、申し訳程度の重力下戦闘訓練しか受けていない身では不安しかなかった。

重力は身体を鉛のように重くして、焦りと緊張は心拍と手の震えを助長させる。

地球産まれの宇宙育ち、実質スペースノイドの私。

様々な不安要素を抱えて見る水平線は緩やかに弧を描いていてコロニーのそれと違い、生理的に不気味だった。

不穏、それが二度目の地球降下の感想だ。

 

~~~

 

このオデッサ鉱山基地の総司令官は、キシリア・ザビ少将の指揮する公国軍突撃機動軍のマ・クベ中将であった。

コムサイから降り立ちまず目に入るのは剥き出し地層、人工的に切り開いた丘陵地帯の名残りだ。

そして次の瞬間、土臭い空気を胸いっぱいに吸い込んで私は盛大に噎せた。

土の匂い、いや草や木々の匂いから鉄やオイルに火薬のものまで様々だ、とにかく地上は匂いに溢れている。

ひとたび吸うと吐き出す時に咳き込む。

汚れている、空気が貴重なコロニーじゃあり得ない。

「中将も…初めてここに来た時はこうだったのかな?げほっ」

ノーマルスーツから着替えた制服の襟が風に煽られてばたばたと振れる。

「さあな~、知らんよ」

隣を歩く男性兵士が答えた。

独り言を聞かれていたのだ、恥ずかしい。

 

、、、

 

時折未舗装の濡れた地面に脚を取られながら、殆ど衣類しか入ってない簡素なカバン二つを重りのように感じながら歩く。

この辺はある程度背の高い木々がそびえる所謂森という奴だろう、葉っぱが風にさざめいてザワザワと大きな音をたてた。

さて、この一本道から外れた森の地面をよく見ると掩体壕が所々に掘られている。

そこにはちらほらと兵士が小銃を構えて身を隠しており、私にとってそれが凄く異質に見えた。

もちろん掩体壕は知識として知ってはいるが、空間戦闘を経験していると足元に蹲って隠れたとしても、裏側から足場ごと吹き飛ばされるのでは無いか?という疑念に駆られるのだ。

余りにも宇宙と違った戦場の光景に目を引かれつつ歩く。

そうして進む内に低草や木々の合間から、土手やコンクリート壁で囲われた陣地が僅かに見え、高木の中から上半身を出した森林迷彩のザクがマシンガンを構えて警戒に当たっていた。

見る限りここは極々小規模な前線陣地で、本陣と思われる採掘現場は更にはるか奥なのだろう。

専用の大型重機と思わしき機械群がビー玉サイズに見える事から、かなり遠くだと推察出来る。

「コムサイ02に乗って来た奴は俺に着いて来い!」

先頭を歩く案内役の一人の士官が声を張り上げた。

つられてコムサイ02に乗っていた兵が六人くらいぞろぞろと続いて行った。

彼らはここの陣地の配属になるのだろうか、私はコムサイ03に乗っていたから別だった。

「じゃあな、風邪引きさん」

さっきの男が素っ気なく言う。

「む、噎せただけよ、風邪じゃないわ!」

聞こえてるか否か、手をひらひら振って彼は陣地へ歩いて行っ…、泥に脚を取られて盛大に転んだ。

 

、、、

 

コムサイ03の搭乗員が配属されるのは、さっきの陣地から更に四キロ程奥に進んだ中規模の陣地だった。

その入口前で、歩き続けた兵士達は誰も彼も膝を着く。

「新米共ォ、いくら宇宙下りとは言えこの様はなんだっ!」

と士官は叫ぶが確かに軍人としてこれはあんまりだ、人の事は言えないが。

私以外全員男なのだが、それでも倒れこんでいる奴さえ居た。

なんとか泥を拭って立ち上がる、木々を抜ける風が涼しい。

「五分後に陣地本部営舎前に集合!」

士官が叫んだ。

 

きっちり五分後、陣地の最奥に置かれた本部営舎前に私たちは集合していた。

人数は7人、休めの姿勢で待つ。

前の営舎は二階建てで低く、屋上の櫓だけが高い。

宇宙では見ない建物の形だった。

程なくして、煌びやかな軍装に身を包んだ割合小柄な男性士官が現れた。

ここの陣地の司令だろう。

「敬礼!」

七人の内一番右端に居た男が号令を掛けると、もはや条件反射のように右手を額の高さに持って行って敬礼する。

小柄な男性士官は少し崩した返礼をしすぐに下ろす、倣って私たちも敬礼を解く。

「全員休め。あ~、宇宙からオデッサまでご苦労さん、私はここの陣地司令を任されている ケイン・クライライン大尉だ、よろしく頼む。

さて君達は、本日宇宙世紀0079 11月3日付けでこのオデッサ鉱山基地南西第6哨戒陣地に配属となる。君達の配属は、近頃不穏な動きを見せている連邦が攻め入った事を考えてのものだ。

正直状況は余りよろしく無い、その上で諸君らの働きに期待する。ジークジオン!」

「「ジークジオン!!!」」

「じ、ジークジオン!」

彼らの唱和に合わせ私も叫び拳を挙げる。

 

「えっと、ジオン公国軍突撃機動軍機動兵科所属ユリ・レムトナリティ伍長です…」

顔合わせが終わると今度は所属兵科と階級に照らし合わせた配置の確認だった。

七人の内最後に残った私は、クライライン大尉とその副官と対峙する。

「ほう、女性にして志願兵かつMSパイロットとはね。ウチの第二小隊の為にあつらえたかのような人材だ、いやはや」

にへっ、と疲れ切った笑みを浮かべて後頭部掻く。

「伍長、そういえば歳は?」

「じ、十六です」

志願兵とはいえこんな歳の娘を死地に駆り出すとは、ね…。

大尉の目には深い虚無と罪悪感が漂って透けて見えて、私は二周りも歳上の呟きに何も返せなかった。

当然だと言えた。

全く戦争は嫌なものさ、人殺しはどうやっても慣れるものじゃあない

「…慣れたらそこでお終いさ」

私は、何も返せなかった。

 

、、、

 

結果私が言い渡された配置は、この陣地を構成する機械化混成中隊の第二MS小隊、そのパイロット。

ここに来た新隊員七人の内、機動兵科所属で任務経験があるのは私だけだから当然か。

使う機体やら何やらは陣地内の小隊野営地にて受領するらしいので、軽い荷物だけを手に、取り敢えず第二小隊の展開する営地に向かう。

度々陣地の兵士から場所を聞きつつ本部営舎から歩く、均されていない履帯跡を避けながら。

弾除けなのか、存外高い人工の土手に登ると、その先には柵で囲われただだっ広い空間があった。

傍には、02MSと大きく殴り書かれた端材が看板代わりに柵に掛けられている。

その柵は一片が200m程あり、この広い空間の枠と言えた。

隅には営舎と整備施設と思わしき建物、そしてVTOL輸送機ファットアンクル三機が隔壁を解放して駐機され、脇でザクが一機直立している。

ビンゴだ。

「第二小隊野営地、ここかぁ」

 

「そうだ、ここが南西第六陣地第二MS小隊の営地だ」

 

背後から突然声がした、低めなハスキーボイスだが男性のようなそれでは無い。

慌てて振り返ると、そこにはランニングシャツと短パンに身を包んだ一人の女性が立っていた。

痩身麗躯、でも出るところしっかりでている。

頭半分程高い身長がそれを強調する。

すこし彫りの深い整った顔立ちと白磁の如き真白い肌に、そよ風に靡くプラチナブロンドのロングヘア。

 

そして冷たく鋭い、碧い瞳。

 

泥濘滾る戦さ場に似合わない美人がそこに居た。

どくんどくん、鼓動が速度を上げて血流を促進させる。

頬がかあっと熱くなる、なんだこれ?

「貴女…名前は?」

「あああ、えっと。本日付けでこの陣地の第二MS小隊に配属になりました突撃機動軍機動兵科所属、ユリ・レムトナリティ伍長です!」

少しぼやっとしてしまい返事が遅れ、敬礼をした指先がちょっと震えた。

目の前の美人さんは、クライライン大尉とは打って変わり丁寧な敬礼を返す。

「今日配属って事はさっきのコムサイに乗って来たのね、宇宙からはるばるご苦労様」

「い、いえ」

彼女はにこりと優しく目もとを細めた。

「私はアネモーネ・アルブレヒツベルガー中尉よ、よろしくね」

中尉だったのか、今更ながら畏れ多く感じながら差し出された手を握った、暖かい。

その手はたった二秒程の繋がりだったが、何故かえらく長く感じられた。

そしてその手はするりと私のなだらかな胸元へ伸び、さも当然の様に制服のホックを外す。

「えっ、?」

簡素なシャツが開いた襟元から覗き始めて、更にパチン、パチンとボタンをも外し下って行く。

汗に混じった香水の良い匂いが、ふわりと鼻をくすぐる。

 

(このまま彼女は私をどうするつもりなんだろう。いや、でもここ土手の上だからせめて茂み入って…)

 

四つ目のボタンに手を掛けた所で、私は中尉の指を柔らかく掴んで止めた。

暖かい。

「あ、あの…アルブレヒちゅ、っ」

舌を噛んだ。

「ここ、今日は少し厚いから上着は脱ぎなさい、それと私の事はアネモネで良いから」

そう言うと中尉はあっさり手を離した、何故かそれが名残り惜しかった。

何故だ?

「伍長、貴女は第二小隊に配属でしょう?この下に小隊の隊舎が有るのだけれど、そこの前で待っていて」

アルブレ、じゃなくてアネモネ中尉はそう言うと、プラチナブロンドの長髪を靡かせて目の前の階段を足速に駆け降りて行った。

残ったのは私の中で燻る無視できない微熱だけ。

 




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