魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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ENBOLIUM(幕間) -A anno-

時空管理局、ミッドチルダ地上本部。

 

 地上、即ち各次元世界その最高権力者たるレジアス・ゲイズ中将は、一人執務部屋で目の前のモニタに展開したファイルの内容、その映し出された文字と映像を見て驚き、そして眉間に皺を寄せ嫌悪感をあらわにした。薄暗く、荘厳な雰囲気のする部屋に、レジアスは机に肘をつき、口元を隠すように両手を組む。

 オールバックにまとめた髪、整えられた髭、肉食獣のようなギラついた目、鍛えた肉体は歳によって衰えたが、それでも強者たるオーラは衰えない。そんな威厳ある姿はまるで映画のワンシーンのようである。ふむ、と一呼吸置きレジアスは手元のボタンを押した。

 

「オーリス、入って来い」

 

 短く用件だけを言いボタンを離す。するとすぐにプシュッと空気の抜けるような音と共に大きな扉が開き、一人の女性が執務室へ入ってきた。

 ブラウンの髪を短くショートボブにし、猫の目のように吊り上がった目とかけられたメガネによって些かその女性をきつく見せるが、大概の異性は彼女を美女と呼ぶであろう美貌を持つ。背筋をピシッと伸ばし、出るとこは出て引っ込むところは引っ込む女性らしい、均整の取れたスタイル、スラリと伸びた細く長い足、主に現場に出動しない、主に提督や隊長、内勤、事務等が着る青い制服を纏う女性。彼女がオーリス・ゲイズ三佐である。

オーリス・ゲイズ、名前でわかるとおり、レジアス・ゲイズの娘である。

 父であるレジアスが岩のような厳つい顔に対し、オーリスは色白のほっそりとした美女。とても親子に見えないが、オーリスは母親似のようだ。

 

「お呼びでしょうか、中将」

 

 感情を出さず、クイッとメガネを指で上げる仕草がとても様になっている。メガネを上げたことにより、光の反射でメガネの奥の瞳が見えなくなり、彼女をミステリアスに演出する。

 

「これを見ろ」

 

 レジアスは短く言い、先程まで自分が見ていたファイルをオーリスの目の前でモニタ展開させた。しばらくその文章と映像を見ていたオーリスは、段々とその能面のような顔を驚愕に変えていく。

 

「・・・これは」

 

 本当の事ですか?とレジアスに問おうとしたが、レジアスの顔を見て言葉を飲み込んだ。レジアスが見て本物だと判断したからこそ自分に見せたのだろう。

 つまり―――

 

「7年前のエースオブエース墜落事件は本局の『捏造』だと?」

 

 オーリスの表情が驚愕から怒りに変わる。

 まさか地上の局員である当事者『ダイスケ・コンドウ准尉(当時は陸曹長だったが、降格し軍曹へ)』の正当性を捩曲げ、さらに罪を負わせるとは。

 オーリスはそう思った瞬間にレジアスに怒りの眼差しを向けた。

 

 エースオブエース、本局所属の高町なのはの経歴を守るために、地上本部に所属する部下をスケープゴートに使ったのかと。

 

 レジアス・ゲイズは確かに強引なやり口が多く、本局の反発も強い。だが、それは全て地上平和を守るためであり、ひいては地上、各次元世界で働く局員のためなのだ。

 それを、エースオブエースと下位の局員を天秤にかけ、真実を捩曲げ利益を優先したのか。オーリスは握り締める手に力を込め怒りを抑えながらも、レジアスに向ける眼光を更に鋭くする。

 そんな怒りをあらわにしたオーリスを久々に見てレジアスは驚くが、まあ落ち着けと促した。

 

「儂はコレについて一切関与しとらん。今日初めて、このファイルを見て知ったのだ」

 

 レジアスは苦笑を交えて、自分が意外にも下の局員の事を気にかけていなかったことに、少しながらショックを受けていた。

 

「どうやら7年前のこの事件の事後処理はヤン・パオ一佐と本局だけで行われたようなのだ」

 

「ヤン・パオ一佐?」

 

 その名前を聞いてオーリスは露骨に嫌な顔をした。

 権力のある人間、力ある人間に擦り寄り、あたかも自分の功績であったかのように振る舞う小物。腰ぎんちゃく、コバンザメと揶揄される程の小物だ。現在の地位もヤン自身たいした功績は残していないが、擦り寄った者達の功績に便乗し、現在の地位に上りつめた小悪党。それがヤン・パオ一佐だ。

 そもそも7年前の事件の内容を掘り下げてみると、その発端からしておかしいのだ。

 『別次元世界の任務に、地上本部の部隊を借り出す』これがおかしい。

 

 本局(そら)と地上(りく)は犬猿の仲であるとは以前記したが、それは元を辿れば本局に非がある。なぜなら、才能ある有能な高ランク魔導士をゴッソリ本局が引き抜いていくのだから。そもそも本局の直属部隊である次元航行部隊などの扱う事件は、地上で扱う「単体世界でも事件」とは違い「複数世界を巻き込む事件」を扱うことが多く、つまり事件の規模が大きいのだが、それはイコール多大な危険を伴うということである。それに比例して本局の方が福利厚生などの職場待遇は地上より良いし、給料も高い。そしてなにより管理局としての華がある。

 世間一般の見解では時空管理局の仕事=本局の仕事と言っても過言ではない。逆に地上はどちらかというと、こじんまりとしたイメージを持たれがちであるし、実際担当地区、もしくは世界の治安維持なのだから次元世界を又に掛ける本局に比べるとそれほど目立つ事はない。給料の歩合も本局とは見劣りしてしまう。基本給は変わらないが、特別手当に差がでてしまうのだ。これは、本局と地上の予算振り分けや歩合見直し等の話し合いなどで本局が言いたい放題言い、地上の扱いをわざと悪くしている節があるのである。地上で有能に働く才能ある魔導士が、自分の才能に見合う今以上の給料と地位、そして仕事を与えてくれるのだから、飛びつかない手はない。そうやって本局は常に有能な高ランク魔導士を獲得し、地上は疲弊していく。こんな構図が黎明紀からあった。

 だが、これに待ったをかけたのがレジアスだ。

 

 まだレジアスが少将だった時代、予算編成の場で本局の言い分を突っぱねたのだ。

 

『次元航行には、大変なリスクがある。高ランク魔導士が本局に異動するのは当然であり、予算も地上より多く配分されるのも必然である』という意見に対し、『その発言は地上を軽視したと判断する』とレジアスが反論した。

『別に地上を軽視しているわけではない。だが、次元航行部隊は高ランクの次元犯罪者や集団を相手したり、各次元世界を巻き込んだ巨大事件を担当しなければならない。よって危険度は地上を上回り、それによる人材、予算の配備は当然である』

『地上は本局による、高ランク魔導士を金にモノを言わせる姑息な手段で引き抜かれてしまい人手不足である。それに年々地上での犯罪率も上がってきている。我々地上部隊は凡庸なる局員達でギリギリ現状精一杯の平和を守っている。それに局員の死傷者の比率は地上が圧倒的に多いのに、それに対し相応の予算は反映されないと?』

『そうは言っていない。実際高ランク次元犯罪者との遭遇率はこちらが高い。だからこその人事と予算だ』

『それはそちらが勝手に首を突っ込んでいるだけでは?各次元世界に安定した高ランク魔導士や武装局員を配備すれば次元航行部隊が次元犯罪者を相手しなくても良いだろう?』

『それは極論だ。それに、それでは有事の際に纏まった戦力が必要となった場合はどうするのか?本局が一定の戦力を保有していないと対応できない』

『今まで有事に纏まった戦力を送ったという実績の過去10年分を提出してみろ』

『・・・』

『本局でも次元航行艦は全てフル稼働、武装局員、果ては本局所属の執務官や捜査官ですらほとんど出ずっぱりで、貴様らの言う『纏まった戦力保有による介入』なんぞこの10年一度も実行した試しがないではないか。それで本当に有事の際に対応できるのか』

『・・・それほど本局も人手が足りていないのだ。だからこそ有能な人材と潤沢な予算を・・・』

『本音が出たな。建前がすり替わっているぞ。そんなに足りない程の任務とはなんだ?提示してみせろ』

『・・・機密なので見せられない』

『機密か。ならば言ってやろう。貴様等は『複数世界を巻き込む事件』を担当するのが基本だろうが、何故か『単体世界の凶悪事件』である地上での凶悪犯罪に対し、自分達の功績足りえるものだけを選りすぐり協力要請をしていないにもかかわらず地上に強制介入している。そして成功、完了すれば自身の手柄として事後報告。失敗すれば地上へ責任をなすりつける。違うか?』

『そんな利益優先などという事実はない。こちらとて担当局員の報告と事実確認のため時間がかかるのは仕方がない。それにたとえ事後報告だとしても、それは捜査優先で・・・』

『結果、器物破損は当然、地上の局員を危険に晒し、あまつさえ本来守るべき対象である民間人にさえ重傷を負わせた・・・という報告が儂の所にゴロゴロ舞い込んでくるのだが?これが事実ではないと?』

『・・・そうだ。地上の局員が本局のエリートを妬んだ捏造報告だ』

『そうか。ならば監視カメラに映っている証拠も捏造、民間人の証言も嘘、器物破損の現場に残る残留魔力の検査結果もでっちあげだと言うのだな?つまり、我々の言葉は全て貴様等にとって嘘だと言うのだな?』

『・・・』

『よろしい。ならば今後一切本局の人間は地上で発生する事件に口を挟むな。地を踏むことも許さん。介入するな。信頼関係が築けないのだから仕方あるまい。貴様等は次元宇宙にただ漂っていればよろしい。もし無理矢理にでも地上の事件に介入すれば、その本局の人間は私の権限で逮捕、もしくは強制追放する』

『そんな横暴がまかり通るなど・・・』

『横暴?その言葉、そっくり返そうか。今まで貴様等本局が言ってきた言葉だぞ?”地上の人間が本局の仕事に口出しするな。もし邪魔するならそれ相応の処分があると思え”とな。実際儂も若いときに本局の人間に耳にタコが出来るほど言われたよ。儂はそれと同じ言葉を口にしたにすぎん』

『・・・』

『さて、話を戻そうか?予算配分と人事の再考だが・・・』

 

 

 ―――言葉のみ、しかも大雑把な抜粋ではあるが、概ねこんな感じでレジアスは言葉巧みに本局の人間を言い負かせた。結果、今まで本局には弱い立場を取らざるをえなかった地上が対等以上の立場を築き、大幅な予算アップを勝ち取り、さらに局員の待遇改善にも取り組んだ。これにより各次元世界、地上本部での犯罪率と局員の死傷率も減り、レジアスは地上での発言力を絶対のものとしたのだ。

 それまでの時空管理局というのは管理世界を拡げる事に躍起になり、いざ新たに管理世界を登録するとその世界は時空管理局の基礎となる正義理論を押し付け、保安という名目で管理局の支部を建設し局員は現地調達、そして基本放置。ただ有能な人材獲得と、利益になる資源のみを吸い取る、いわばイナゴの大群のような存在だったのである。

 まあ、このレジアスの一悶着がきっかけで元々仲が良くなかった本局と地上の関係がさらに悪化したとも言えるのだが。

 そんな犬猿の仲であるハズの本局が、地上側に部隊の要請を出す。普通ならばそういった他部所への援助要請などは、まずレジアスの耳に入るハズなのだが、今回のこの7年前の事件はレジアスを介さず行われたのだ。

 当時レジアスが聞いていた報告によれば、記憶が確かならば『ダイスケ・コンドウ曹長は自分から本局の任務同行を志願した』とあったはずである。だからこそ当時のレジアスは近藤を愚かな男で使えない馬鹿な局員だと判断を下し、処分については一切口出ししなかったのだ。

 考えられる可能性としては、ヤンが本局にゴマを擦り、貸しを作ることによって自身の昇進に繋げようとしたというところのだろう。そして不測の事態が発生した場合は地上部隊が全責任を負うとかなんとか言い、その見返りに更に自分への保障を手厚くしろとかなんとか言ったに違いない。

 

「どうも巧妙に隠蔽していたようだな。実際このファイル自体本局では機密扱いだったようだ」

 

「そんな機密扱いのファイルをどうやって手に入れたのですか?」

 

 オーリスの疑問ももっともで、本局の機密ファイルなど、地上の最高権力者たるレジアスとてそう易々と閲覧できるものではない。特にコレは本局の汚点であるし、そもそも何故こんな汚点が未だにデータとして残っているのかが疑問である。それが何故レジアスの元に?

 

「匿名投書だ。」

 

 オーリスは驚く。まさか内部告発とは。しかも巧妙にデータ送付の足跡を消しているため、贈り主の特定は不可能だという。

 

「・・・信用できるのですか?」

 

 改めて問うオーリス。当然だろう、差出人不明の内部告発で、確証がないのだから。

 

「それを儂自ら確かめるために呼び出す」

 

 レジアスは獲物を狙うかのように目を細め言う。呼び出す?誰を?

 

「ダイスケ・コンドウという男、今は第93観測指定世界で単独駐在をしている。オーリス、儂の権限でそいつを地上本部へ強制異動させろ」

 

 

 

 ―――近藤が機動六課へ異動する一年前の話である。

 

 


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