魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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第12話

 

 

 リンディは三人に真実を語った。

 それは、管理局が正式発表したものとは全く異なるものだった。

 

―――――――――― 

 

 なのはは日頃の激務により体調を崩していたのだが、それを隠し任務に就いていた。

 任務自体は無事終えたが、帰投の際アンノウンに遭遇。なのはは応戦するが、ここで日頃の激務が祟りついに意識が飛びまともに空を飛ぶことさえできない状態になる。そこを狙われアンノウンに撃墜された。そしてとどめを刺されそうになったところを近藤が助けた。結果、その時の救助で近藤も負傷、さらにアンノウン撃墜の際にさらに重傷を負った。

 その後、上層部は体調管理の不徹底という原因により高町なのはという『エリート』の経歴に泥を塗る事を恐れ、事件の内容を改竄することを決定。

 近藤大輔という『そこらにいる凡人』を人身御供とし、高町なのはのミスをすべて押し付ける。結果近藤は厳罰・左遷、なのははお咎めなし。

 これは本局の上層と近藤の上司、地上本部の部隊長によってまとめられ、記録として残っている映像、音声、画像など事件の内容自体を改竄しさらに当事者たちには箝口令を布き、管理局が新たな『真実』を用意し、発表した。 

 

――――――――――

 

 真実を聞いた三人はそれぞれ怒り、悔しさ、悲しみに顔を歪めた。

 

「腐っている!」

 

 シグナムは肩を震わせ怒りに髪が逆立たんばかりに目を吊り上げ、歯を食いしばり吐き捨てる。

 

「隊員はゲームのコマやない!生きてる人間や!やのに・・・なんで・・・なんでや!!」

 

 はやては俯き地面を睨み、悔しさに拳を握り叫ぶ。

 

「近藤さんはなのはの為に・・・あんなケガを・・・」

 

 フェイトも苦しそうに顔を歪め俯く。

 リンディの語る真実によると、近藤の右目を隠している大きな眼帯は、なのはを助けた後アンノウンとの戦闘で右目を負傷したため、それを隠しているのだというのである。さらに右腕も二の腕から先を喪失し、今の右腕は義手を付けているという。

 よくよく思い出してみれば、近藤は敬礼の時以外はあまり右腕を使っていなかったような気がする。

 なのはは重傷を負ったとはいえ、五体満足であるに対し、近藤はなのはよりも酷い傷を負い、しかも冤罪と左遷という仕打ち。こんなこと納得できるはずがないし、自分なら到底納得などできないだろう。近藤の怒りはどれ程のものか想像できない。

 フェイトは近藤の顔を見て怖がった事を悔やむ。あの眼帯はなのはの為に負った傷であり名誉の負傷だ。感謝こそすれ、恐怖するなど絶対してはならないことだったのだ。

 

「この事実は極一部の人間しか知らないのだけど、およそ1年前にレジアス・ゲイズ中将がこの情報を入手して、他次元世界で駐在任務をしていた大輔君を地上本部に呼び戻したの」

 

 なるほど、とはやては頷く。中将という立場であればいろいろな情報、管理局の裏の情報ですら容易に入手できるだろう。

 

「それで、レジアス・ゲイズ中将は大輔君がなのはさんに恨みを持っていると思い、機動六課へ異動させスパイ活動をさせるように指示したのよ」

 

 後は嫌がらせも含まれるかしらね、とリンディは呟いた。レジアスが思っている通り近藤がなのはに恨みを持っていれば、復讐とばかりに躍起になってアラを捜すだろうが、実際の近藤はそれをしないと言いきった。

 

「大輔君はね、あの時のことはもう何とも思っていないのよ」

 

 三人は驚いた。冤罪、左遷、さらに体の一部を負傷させたのに近藤はなのはを恨んでいないというのだから、当然だろう。

 

「なんでですか?なんで近藤さんはそんな簡単に許すことができたんですか?」

 

 はやては当然の疑問をリンディにぶつけたが、リンディは苦笑しながら、コメディのように肩をすくめた。

 

「確かに、最初の頃は納得はしていなかったわよ。腐ってた時期もあったし。でもね、なのはさんが戦技教導隊で隊員に自分と同じ過ちを犯さないように、しっかりと訓練していると知ると『それでこそエースオブエースだ!』とか言って笑ってたわねぇ」

 

「・・・」

 

 三人はポカーンと口を開けている。

 

「大輔君昔からそういうところがあったから。何て言うのかな、大物?天然?」

 

 昔の近藤を思い出しているのかしみじみ言い、リンディはクスクスと笑う。

 

「だからね、こんな話をしておいてなんだけど、皆あまり深く考えないでいいのよ?ただ真実を知って欲しかったの。大輔君という人間を誤解なく見てもらって、これまで通り普通に接してくれれば」

 

「・・・はい」

 

 三人は思うところもあったが、近藤という人間の一端を知ることができ気持ちを改めるためにしっかりとリンディを見て返事をする。

 

「ま、そういう事で仲良くしてあげてね!あ、そうそう、一応大輔君まだ私の部下扱いだから、ちょくちょく借りる事もあるから。そこのところヨロシクね!」

 

 リンディはウインクしながら言うが、先程までの真面目な雰囲気と真逆のリアクションに「はぁ」と曖昧な返事をしてしまう三人だった。

 

 

 

 

「フェイト隊長」

 

「ひゃいっ!?」

 

 近藤の急な呼び掛けにビックリして思わず大声をあげるフェイト。どうやら考え込んでいたようだ。

 しかし、近藤はそんなことを気にする風も無く淡々とキーボードを叩き言う。

 

「担当の書類ですが、全て終わりましたので確認をお願いします」

 

「あ、はい、了解です。ご苦労様です」

 

「なに?」

 

 フェイトはただ言われたことに反応しそう言っただけだったが、シグナムは少し大きい声で反応した。

 

「ちょっと待て。あの量をこの短時間でか?」

 

 シグナムは信じられないという顔をして近藤を見る。

 

「はい、シグナム副隊長も確認されますか?」

 

 そう言い、近藤は書類データをフェイトとシグナムのデスクに転送する。そしてフェイトとシグナムは転送されたデータに目を通した。

 データに目を通していくにつれ、次第に二人の表情が変わってくる。胡乱げな表情から、驚愕の表情へと。

 

「・・・信じられん・・・」

 

「え、こんなに量あったんですか!?だってまだ一時間も経ってないですよ!?」

 

 フェイトは壁に掛けられている時計を見て驚き、シグナムは驚きながらもじっとモニタを睨んでいる。

 そして驚く二人を余所に、画面には処理された書類が次々と表示されていく。

 

「しかも、ザッと見たところ特にミスのようなものも無いな」

 

「スゴイですね、近藤さん・・・」

 

 二人は画面に表示され続ける書類に目を通しながら近藤を褒めるが、近藤にとってはできて当然のものなので特に反応もなく席を立った。

 

「本日のデスクワークはこれで終わりですか?」

 

「あ、は、はい」

 

 フェイトは人形のようにコクコクと首を頷かせる。

 

「それじゃあ、新人フォワード達のデスクワークを見てきていいですか?」

 

「ど、どうぞ・・・」

 

 そういうと近藤はフェイトとシグナムに敬礼し、フォワード四人の所へ向かった。

 

「あいつ・・・一体何者だ?」

 

「・・・さぁ?」

 

 二人は近藤の背中を見ながらそう呟くしかできなかった。

 

 

 

 

 近藤が自身の仕事を終わらせフォワード達のところへ向かうと、ヴィータがフォワード達の報告書の進行具合を見ながら自分の仕事をしていた。

 ティアナはデスクワークが優秀なため特に問題はなかったのだが、残りの二人が問題外の出来の悪さで、ヴィータは悪戦苦闘している三人を見て小さくため息をついた。

 

「ヴィータ副隊長」

 

 ヴィータは声をかけられたので、画面から目を離し声のした方へ向く。

 

「・・・なんだ、近藤か。どうした?」

 

 いきなり目の前にゴリラのような眼帯男がいたことに少し驚き悲鳴を上げそうになったのは内緒だ。

 近藤はそんなヴィータを気にすることなく、自分が来た理由を話す。

 

「いえ、俺は自分の仕事が終わったんで、よろしければ四人は俺が見ておきますが?」

 

「そうか!そりゃ助かる!なのはの奴はちょっと出かけててな、あたし一人じゃ少しきつかったんだよ。ひよっこ四人は、ティアナはデスクワーク優秀なんだが、あとの三人がな・・・」

 

 ヴィータはそう言うと頭をクシャクシャと掻きため息をつく。

 

「わかりました。見ておきますのでご自身の仕事に集中してください」

 

 では、とヴィータに敬礼し近藤は四人のいるデスクへと向かった。

 四人が固まって座っているデスクに近付くと、慣れないデスクワークのせいか、スバル、エリオ、キャロは画面を見て首を捻っている。作業の遅いスバルは、首を捻り唸りながらも少しずつ進めている。まあ、間違いだらけだが。

 

「?」

 

 だが、エリオ、キャロなどはもうお手上げ状態だ。二人して頭の上に?マークが見えている。機動六課に来て多少覚えたデスクワークだが、エリオは短期予科訓練校で知っているはずだが根本的にこういった作業が苦手なようで、キャロに至っては以前いた自然保護隊ではアシスタント扱いだったためこういったデスクワークはほとんどしていなかった。つまり、未だによくわかっていないということである。

 

「??」

 

 ティアナは既に自分の報告書を書き終え、見るに見かねてスバルを手伝っている。

 

「ちょっと待っててね、アンタ達のも見に行ってあげるから」

 

 そう言いながらティアナはスバルを怒りながら報告書を書き上げさせていく。

 エリオとキャロは恐縮しながら椅子に座り、ティアナを待ちつつ自分でできる範囲はやろうと恐る恐るキーボードを叩く。ふがいない、早く自分一人でできるようにならなければと思う。

 

「エリオ、キャロ」

 

 デスクワークにウンウン唸りながら悪戦苦闘していたエリオとキャロは、つい最近聞いた機動六課では珍しい大人の男性の声がし、驚き見上げた。

 

「近藤副隊長!?どうしてここに?」

 

 エリオの声にティアナとスバルは顔を上げ、近藤がいることに驚く。

 

「ん?なに、ティアナを除くフォワード陣が報告書にてこずっていると聞いてね。手伝いにきた」

 

「いえ、そんな、悪いですよ!」

 

「自分達の仕事は、自分達でやりますから!」

 

 二人は両手を前で交差させ、近藤の手伝いを拒否する。

 だが、近藤は恐縮する二人を見てフッと小さく笑った。

 

「エリオ、キャロ。何事も最初からできる人はいないんだ。わからないからって怒りはしないさ。むしろ、わからないまま放っておく事のほうが怒られるんだ。だから、困ったことやわからないことがあれば俺や他の隊長達に遠慮なく聞いてほしい。俺達はそのために居るんだからな」

 

 そう言いながら近藤は、エリオとキャロの頭を軽く撫でる。

 

「はい・・・わかりました・・・」

 

 二人は大きくごつごつとした手のひらで撫でられていることに驚きながらも、初めて感じる湧きあがるふわふわとした感情に戸惑いつつ、しかし気持ち良さそうに目を細め、少し顔を赤くさせた。

 

「よし、じゃあ一緒に報告書を完成させようか」

 

「は、はい!」

 

 元気のいい返事に近藤はニカリと笑い、そんな近藤とエリオ、キャロのちびっ子二人を見て、スバルとティアナは顔を見合わせてクスッと笑っていた。

 そしてフォワード四人は無事報告書を提出し、その後も特に変わりなく近藤の転属初日は無事終了したのだった。


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