魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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この物語は、以前"にじふぁん"にて投稿していた”魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法”の改訂版、いわゆる第2版です。
以前の規制に引っ掛かったところや、おかしなところなどは変更していきますが、大筋の物語は変わらない予定です。
以前見たしもういいや、とか、原作を改悪するな!等、不快で見苦しいところがあると思いますが、温かい目で見てやってください。


第1話

 ―――その日の空は現在の状況を表しているかのように重く、そして暗かった。

 今にも落ちてきそうな、黒く垂れ下がる曇り空から白い雪がはらはらと儚く落ちてくる。その雪は地面に落ち、かなり気温が下がっているせいか溶けることなく地面を白く染めていく。かなり前から降っていたのだろう、もう地面はかなり白の割合が多くなっている。

 それは、冷たく穢れの知らぬ、純白の世界。生物の体温を奪う、生きることを許さないような、白の世界。

 

 そんな白い地面の上にひとりの少女が倒れていた。降り積もる雪と同じ、白い服を着た少女が。

 その少女は、年の頃は10歳前後であろう。未だ幼さの残る小さな体躯、艶のある栗色の髪は両サイドでまとめ、少女らしくかわいらしい雰囲気は伝わるのだが、今の少女の姿はそれすら吹き飛ばし痛々しい。

 何故ならその少女から、赤いものがとめどなく流れ出ていたから。

 

 鉄の臭いを放つ、人間の体に脈々と流れる命の液体。

 

 血だ。

 

 

 その血が地面を覆った白い雪をも侵食し、少女の周りの白い雪はじわりと赤に染め上げられる。冷たい地面、降り積もる雪、流れる血液、少女の体温はみるみる失われていく。

 

「―――・・・ぁ・・・」

 

 全身に走る痛みに声を上げるが、奪われていく体温に体の感覚が失われていき、大きな声すらあげられない。

 体が動かない。

 手が、足が、指が。

 そして目の前に広がる赤黒い世界。眼球に血液が付着し、まともに見ることができない。

 

「―――・・・はぁっ・・・」

 

 息を吐く度に、肋骨が軋む。肺が、何かを突き刺したようにズキズキと痛む。背中が、火に炙られたかのようにジクジクと痛む。

 

「―――っ・・・・・・はぁ・・・」

 

 胃から逆流し、口から吐き出そうになる不快なものを耐え、その不快感の波が収まるのを待ち、しばらくしてまた小さく息を吐いた。 

 

 そこへ、赤く可愛らしい服、フリルをふんだんにあしらった西洋の人形のような服を着た少女が、倒れている白い服の少女に駆け寄る。

 オレンジ色の長い髪を後ろに二つ、三つ編みで編み上げている髪が少女をより幼く見せる。三つ編みは少女が走るたびにその振動により上下に揺れ、また敷き詰められた雪にすべりながらもこけないように体制を保ちつつ、白い服の少女との距離を縮めようと必死に走る。

 そしてようやく白い服の少女のもとへたどり着くと、三つ編みの少女は必死の形相で白い服の少女を抱き上げた。三つ編みの少女は、手や服に白い服の少女の血が付着するのを気にもとめず、大きく声を張り上げる。

 

「なのは!なのは!おい、しっかりしろ!」

 

 なのはと呼ばれた白い服の少女からは血が流れ続けている。元々色白な少女であったが、血を流しすぎたのか、すでに肌の色は青白く、唇も色を失い始めていた。なのはは小さい声で、必死に振り絞るように、囁くように発した。

 

「ヴィータちゃん・・・だいじょうぶ・・・だから・・・」

 

 そう言い微笑むなのは。だが、口を開いた端から、血が流れ、顎に伝う。それを見た三つ編みの少女――ヴィータ――の瞳から涙があふれ、一緒に任務に来ていた他の部隊員に怒鳴る。

 

「医療班なにやってんだよ!早くしてくれよ!こいつ死んじまうよ!!」

 

 そう叫ぶ間にも、少女たちの周りの赤い世界の侵食は広がり続ける。

 ヴィータは医療班を叱責しつつも、心の中で自分を叱責する。自分は何をやっているのか、と。仲間を守れず、助けられず、傷ついた仲間をただ抱き上げることしかできないのか!?自分の力は、ヴォルケンリッターの騎士の力は親友の少女ひとり守れないのか、と。

 そう思うと、悔しさのあまり、とめどなく涙があふれてきた。気丈に笑顔を浮かべるなのはの顔が、涙で歪んでいく。だんだん涙で視界がぼやけ、世界が見えなくなっていく様に、ああ、これが夢であれば・・・と逃避してしまいそうになる。

 そして、「本局」へ事態の報告と救援要請の連絡を取っていた部隊員がヴィータに駆け寄り、混乱しまともな思考を成していないヴィータに冷静になるよう促す。

 

「今本局へ救援要請をしました!医療班はあと5分でこちらに到着の予定です!それまでに応急処置を!」

 

 ヴィータは隊員の指示に、ハッとした。

 

「―――!?あ、ああ。ああ!そうだな!」

 

 ヴィータは相当混乱していたが、隊員の言葉で、頭が冷えたのだろう、気合を入れるためにパンッと自身の頬を叩き思考をクリアにさせ、いま自分の成すべきことを考え、確認する。

 まず、本局への救援要請は先ほどの隊員がしてくれた。ならば、自分のするべきことは、現状把握と、記録、そして負傷者の処置だ。そう考えて、状況確認のためヴィータは部隊員に「一番聴かなくてはならない」情報を聞く。

 

「おい、なのはを庇ったあの隊員はどうしたんだ?」

 

 なのはの止血作業をしていた隊員がピクッと震え、一瞬手を止めた。だがすぐに作業を再開し、悔しそうな、泣きそうな顔をして言う。

 

「コンドウ曹長は・・・」

 

 隊員は言葉をつまらせ、それ以上口にしなかった。

 ヴィータは、隊員の顔色と、その言葉を詰まらせた「その先」を予想してギクリとした。そして、戦闘の記憶を思い返しす―――

 

 

 

 無事任務を終え、帰路に立っていたいたその時、突然の襲撃。

 多少の混乱はしたが、皆すぐに対処する。自分となのはもそうだ。それがアンノウン――未確認体――だとしても自分が出来ることをする、ただそれだけだ。

 だが、今日のなのははおかしかった。体調が優れないのか、集中力も散漫で、どこか精細を欠く行動。そして、普段からの過密スケジュールによる疲労の蓄積が、積りに積もった疲労が一気に吹き出てしまった。

 

 なのはがアンノウンの砲撃による攻撃を避けることができず、撃墜されたのだ。

 それを見たヴィータは、急いでなのはを助けに飛んだ。だがしかし、距離がありすぎた。必死に駆けつけようとするヴィータを嘲笑うかのように、アンノウンはなのはに止めを刺しに行くために、なのはに近づく。アンノウンとなのはの距離はわずか。それでもヴィータは全力でなのはを助けに全力で飛ぶ。

 

 ―――とどけ

 

 とどけ

 

 とどけ!

 

 とどけ!!

 

 とどけとヴィータは心の中で叫ぶ。

 しかし、無常にもその思いは届かず、アンノウンの体から出ている刃が怪しく光り、なのはにとどめをさそうと刃を突き出した。

 

 やめろおおおおぉぉぉぉーーー!!

 

 ヴィータが届かない手を必死に伸ばし、声にならない声、叫びなのか悲鳴なのかわからない絶叫の言葉を口からだす。

 

 そして―――

 

 目の前で親友が殺されるかと思った瞬間、その刃は『ズブリ』という音と共にヴィータの目の前で肉を切りつけた。

 しかし、ヴィータはそこで信じられないものを見た。

 

 それは―――

 

 墜落しているなのはを抱きかかえ、庇うように、守るように、背中からアンノウンの刃に突き刺された一人の男性部隊員の姿だった。

 

 男性隊員は腹から生えた刃を見るや、反射的に背後にいるアンノウン向けて蹴りを繰り出した。当然アンノウンは避けようとするが、その際、アンノウンはカッターの替刃のように刃を切り離し、男性隊員と距離をとる。

 

 そしてわずかの時間の後、ヴィータはなのはとその隊員にようやくたどり着く。

 

「おい!おまえ、大丈夫なのか!?」

 

 ヴィータはなのはをかばった隊員に近づき聞く。もちろん大丈夫ではない。自分の腕ほどもある大きな刃が背中から腹に向けて体を貫いているのだ。はっきり言って即死でもおかしくない。

 しかし、その隊員はすぐになのはをヴィータに引渡し、こう言った。

 

「・・・大丈夫です。だから、はやくここから離れてください」

 

 なんとも場違いな、とても落ち着いた口調。しかし、口を開いた際に隊員の口から赤い血がゴポリと流れ出る。ボタボタと零れ落ちる血は、男性隊員のバリアジャケットを容赦なく赤黒く汚していく。当然それを見たヴィータは焦る。

 

「なっ!おまえ、大丈夫じゃないじゃねーか!!血が・・・」

 

 ヴィータは混乱して状況把握ができないでいた。男性隊員はそんなヴィータを一瞥すると、ゆっくりと周囲を見渡し警戒を緩めずアンノウンを見据える。現状、こんなに悠長に話している場合ではないのだ。

 なぜなら、アンノウンはまだ健在なのだから。仕方ないといった風に小さく息を鼻から吐くと、男性隊員は自分のストレージデバイスをヴィータ達に向けた。

 

「すいません」

 

 そう短く言い放つと、いきなりヴィータに向けて砲撃を繰り出した。その際に落下ポイントを確認し、しっかりとクッションとなる場所を把握して攻撃したのだからどこまで冷静だったのだろうか。

 

「うわあああっ!!」

 

ドンッという衝撃と共に、ヴィータとなのははその砲撃により吹き飛ばされ、それぞれ別の場所に落ちた―――

 

 

 

 ―――そうだ、あの隊員――コンドウ曹長――があたしとなのはを吹き飛ばして・・・

 ・・・そうだ!あいつ、刺されてた!口から血が出てた!!どうなったんだ!?ヴィータの顔から血の気が引いた。

 

「おい・・・まさか・・・」

 

 そう言い、なのはに応急処置をしている隊員を見る。

 

「アンノウンは撃墜しました。しかし、コンドウ曹長はそのときに発生した爆発を直接受け・・・」

 

 隊員はそこで言葉を切ると、ちらりと横へ顔を向けた。ヴィータもつられてそちらの方へ顔を向ける。

 そこには2人の隊員が倒れている隊員に対し処置をしている姿があった。ヴィータはなのはの治療をその隊員に任せ、力なくゆっくりと、ふらりと立ち上がり、その倒れて処置をうけている隊員のところへ向かった。

 

 足が重い。

 行きたくない。

 踏み出す一歩が躊躇される。

 距離にして約10メートル。

 遠い。

 

 周りの視界が狭くなってくる。

 行くな。

 そう頭の中から警鐘が鳴り響く。

 行けば、良くない光景を見てしまう。

 だから行くな、と。

 しかし、行かなければならない。

 見なければならない。

 あいつはなのはを助けてくれた。

 親友を助けてくれた恩人だ。

 最後にあたしとなのはを吹き飛ばしたのはどうかと思うが、あれはあの場で戦線を離脱させるには最善の策だったのだろう。

 だからこそ、見なければならない。それがあたしの責務だと、義務だと、自分にそう言い聞かせ、歩みを進めていく。

 

 パシャ

 

 パシャ

 

 足元から水溜りを歩いたような音がする。なんだ?と思い、ヴィータは足元を見た。見た色は赤。白く敷き詰められた雪に似つかわしくない色。鉄の匂いのする色。ヴィータはその赤い色の続く道を目で追っていく。

 

 血。

 血、血。

 血、血、血。

 ―――大量の血。

 

 なのはのものではない。その血は倒れているコンドウ曹長に続いていた。明らかに人ひとりが流せる血液量ではない。

 おそらく体外に流れた血の温度により雪が溶け、さらに血が周囲の雪を侵食しているのだろう。だが、今のヴィータにそんな冷静に分析できるはずもなく、みるみる顔を青くする。

 

 そして―――

 ヴィータはたどり着いた。2人の隊員は怒声をあげそれぞれが忙しく動いている。

 

「コンドウ!コンドウ!まだだ!まだ逝くな!!」

 

「曹長!あと少しです!頑張ってください!!」

 

 そんな声が聞こえる中、ヴィータは見た。

 

 右腕が二の腕から下が無くなり

 

 右目が潰れ

 

 腹から刃を突き刺したままの、コンドウ曹長を。

 

 ヴィータはただ、見ているしかなかった。

 

 


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